紅美鈴は今にも処刑されかかっていた。
(なんでだよっ!?)
冒頭一行目からあまりの仕打ちに美鈴は心が折れそうだった。紅魔館メンバーで最も不遇な扱いを受ける自分は、こんな如何にも平和なタイトルでもひどい扱いを受けるのか。美鈴は神を呪った。
しかしここで折れては、紅魔の盾の名が廃る。美鈴は自分で考えた格好いい二つ名を支えに立ち上がった。大丈夫、私はまだやれるさ。
「ではこれより裁判を始める」
いつの間にか舞台は裁判所に移り、レミリア裁判長の声が響きわたった。美鈴は希望を見出した。裁判ならば、勝てば処刑を免れる。神が与えた唯一のチャンス。活かさぬ訳には行かない。
「ぶっちゃけ処刑は確定してるんだけど、まぁ読者に事情を伝えないといけないしね」
(説明乙、ということかっ!!)
この段階で、既に美鈴の心は完全に折れていた。紅魔の盾はもうどこにもいなかった。レミリア裁判長に公平なジャッジを期待したのが馬鹿だったのだ。誰か、ヤマザナドゥを呼んでくれ。
「異議ありっ!!」
すると、どこからともなく声が飛んできた。ヤマザナドゥではない。
弁護士だ!パチュリー弁護士がやって来たのだ!
「レミィ、不当判決はそこまでよっ、異議ありっ!!」
「パチェ、その台詞気に入ったんだね……」
むきゅ、と呟き頬を赤らめ、本で顔を隠すパチュリー弁護士に一抹の不安を抱いたものの、美鈴は彼女に縋るしかなかった。
「パチュリー様!どうか、どうか私を助けてください」
「異議ありっ!!任せなさい」
どっちだよ、というツッコミは心の中に留めて、私はついに舞い降りた女神に深々と頭を下げた。
「まずは、ごほっ、今回の、ごほっごほっ、不当な、ごほっ」
パチュリー弁護士が血を吐いて倒れた。たまらず秘書小悪魔が駆け寄ってくる。静かに首を振っている。その時、女神は死んだ。
(喘息持ちが調子に乗って叫ぶからっ!!)
しかも絶望する私に追撃がかかる。足音だ。足音が聞こえる。咲夜さんが来る。鬼検事咲夜のお出ましだ。
「どうも、処刑担当の咲夜です」
(この人もう殺る気満々だよ!!)
検事は既に勝ったつもりでいるのだ。パチュリー弁護士が倒れた今、彼女が恐れるものは何もない。美鈴は完全に諦めていた。だがせめて、最後に言いたいことがある。それでも私はやってない、と。
そこで彼女は自分がなんの罪に問われているのか知らされていないことに気がついた。
「被告人、紅美鈴には下着ドロの疑いがかかっている」
(下着ドロ……だと!?)
冤罪とかそんなことを考えるよりもまず、下着ドロで処刑はひどすぎると美鈴は思った。
「被告人はフランドール=スカーレットの下着を盗んだ疑いがかかっているのだよ、咲夜、詳しい説明よろしく」
「はい、先日、下着洗濯班から、妹様の下着がひとつなくなっていると報告がありました」
検事咲夜は分厚い資料のようなものを読み上げていた。 その資料の九割以上が、調査の名目で手に入れたお嬢様の下着の写真に違いないと、美鈴は直感していた。
「ま、待ってください。それで何故私が犯人だと?」
「隠しても無駄だ美鈴、お前がフランの非公認ファンクラブ会長であることは既に周知の事実なんだぞ」
それを聞いて美鈴はわずかにたじろいだ。
紅魔館にはいくつかの非公認ファンクラブが存在する。中でもレミリア様ファンクラブ、通称レミファンと、フラン様ファンクラブ、通称フラファンは二大勢力と言われ、現在も紛争が耐えない状態である。そして美鈴はフラファン会長だった。ちなみに咲夜はレミファン会長だった。
「なんでもファンクラブは下着を信仰の対象にしているそうじゃないか」
(そこまでばれているのかっ!?)
美鈴は自分が危うい立場にいることをようやく理解した。下着、つまりパンツ、フラン様のパンツ、略してフラパン。フラファンとフラパン。もうお分かり頂けただろう。この二つにはほんの僅かな発音の違いしかない。つまりフラパンを信仰の対象とすることで、それに似たフラファンへの信仰も自然と深まっていくのだ。ちなみにレミファンも全く同じことをしている。
(理屈なんてどうでもいい!実際こうすることでみんながまとまった!でも、だからと言って下着ドロなんて)
完全な冤罪である。信仰の対象でもある神聖なフラパンをどうして盗むことができようか。
「疑わしきは罰せよとも言うしな。それに仮にお前が犯人でなくとも、ファンクラブ会員の誰かが犯人であれば、会長のお前に責任をとらせる」
「そんなっ!理不尽すぎます!」
「それが上に立つ者の役割だ」
ここにきて、レミリア裁判長の重い一言が放たれた。そうだ、私はわかっていなかったのだ。上に立つことの重さを。がくっと美鈴の膝が折れる。既に心が折れていた彼女に、最早立ち上がる気力は残っていなかった。
「これにて閉廷とする。処刑は明日の朝だ」
レミリア裁判長はそれだけ言い残してその場を去った。
検事咲夜は何故かにやりと笑い、やはりその場を去った。
後には紅美鈴ただ一人が残されていた。
その日の夜
「すーはー、すーはー、うぅんやっぱり妹様の下着最高!お嬢様の下着も良いけど、妹様のもグッド!!美鈴にうまく罪を擦り付けることができて本当に良かったわ!!」
検事咲夜の部屋から響くその声は、秘書小悪魔によって屋敷中へと知らされた。
次の日の朝
そこには処刑台に吊された検事咲夜に向かって元気にロイヤルフレアを放つパチュリー弁護士の姿があった。
これこそ、紅魔館の平和な日々である。
なるほどフランドールファンクラブの失態ならば、まとめ役であった美鈴の責任でしょう。
しかし、真の犯人はフラファンではなく咲夜だった。そして部下の責任は直属の上司が取ると。咲夜の上司は……。
>意義→異議
>>アジサイ
しかし、その発想だと美鈴が犯人になったとしても美鈴の上司も責任とらないといけないぞ