Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

キスから始まるはじめまして

2011/02/02 02:02:39
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 彼女の名前は知らない。


 いつもベッドの端っこに座って、本を読んだり足をぶらぶらさせてみたり、ブロンドの絹みたいな髪をいじったりしている。
 時々鼻歌なんかも歌っている。なんの曲なのかは知らない。私の知らない言語の歌を歌っている時もある。東洋系の私と違って西洋系の顔立ちをしているから、元いた異国の地の歌なのかもしれないし、彼女が即興で適当に歌っているだけかもしれない。
 私はいつも黙って聞いている。


 彼女が本を読み出すと私は暇になってしまうので、いつも彼女の隣に座って彼女を観察している。
 読書中の彼女はとても真剣で、しかも読む速さが尋常じゃない。私が半分も読み終わらないうちに次のページに行ってしまうから、何を読んでいるのかは判らないのだった。
 だから、くりくりと丸くて大きいお人形のような彼女の瞳だとか、真っ白な雪みたいな血の気の無い(これは良い意味でも、悪い意味でも)手の甲だとか、今まで聞いた事も見た事もない虹色の羽根?だとか、彼女を形作る色々なパーツを眺めている事にしている。


 彼女の世界に私はいない。
 だから、私は好き放題できる。好き放題している。
 彼女の無意識を取り込むのはとても苦労した。取り込もうとするそばから、どんどんもぎ取られていくのだ。
 あとで判った事だけど、彼女の能力はどうやら破壊を司るものらしい。それも制御する気がそもそも無いのかして、自由奔放に放っておいてあるものだから、彼女の意識とは関係なく、デフォルトで結構色々なものが破壊されているらしい。その一端で彼女の無意識も破壊されていたのだ。だから私の能力もちょっと効きにくかった。
 こんな事は初めてだったので、とても苦労した。
 苦労するのは、きらいだけど。
 きらいな事をがんばってしたのは、彼女の世界にとても興味があったから。


 彼女はあたりまえのようにひとりだった。
 それは空間的な意味でも、身体的な意味でもなく、もっと根本の、哲学的で存在的な意味なのだ。私だけが理解できる。
 孤独ではない。そんな狭苦しい範囲の独りではなくって、もっと広範の、現存在におけるひとりだ。
 そう、彼女はまるで私だった。
 誰も必要としないで、超然とひとりでいる。それがあたりまえで、そうでないと呼吸ができない。そういう絶対の“どうしようもなさ”が、彼女にはあるように思う。
 この話をすると、お姉ちゃんは決まって首をかしげるのだけど。


「貴方と同じような生き物が成立するのなら、是非お会いしてその心を覗いてみたいものですよ」


 そんな風に、お姉ちゃんは嘯くけど。
 この子はまさしく私なのだと断言できる。
 鏡映しのようなお姉ちゃんでさえ、私と同一にはなれない。鏡は左右逆だから。
 私が私として生まれなかったなら、きっと彼女として生まれていたんだろう。


 でもまぁ、お話しするのはちょっとどきどきしちゃうから。
 しばらくはこのまま。一番近い特等席で、彼女を監視しようかと思いまして。


 私がふたりいるような、不思議な感覚。
 それは、とても美しい幻想だった。


 ある日、彼女にキスをした。
 触れるか触れないかの、風とするような弱々しく消極的なキスだった。
 自分にキスするみたいで、首が長くて頭がふたつ無いと決して誰にもできない、素晴らしい体験だった。


「――だれ?」


 彼女は大きい眼を更に大きく見開いて、ぱちぱち瞬きをしながら私を見た。
 無意識の幻想は終わったから、意識の現実で夢を見よう。


「もうひとりの貴方。うそ。古明地こいしって言うの。よろしくね」
「もうひとりのわたし?」
「こいしだってば」
「わたしはフランドール・スカーレット」
「お金みたい。あるいはお菓子みたい」
「フランだけのイメージ言ってるでしょ」
「うん。あとすごく紅そう」
「貴方はpebbleみたい」
「誰が石ころですって」
「そういう名前じゃないの?」
「いいえ、I die of love.って意味」
「素敵」
「でしょう?」


 女の子はいつでも恋に恋焦がれるし、愛を偏愛しているものなのよ。


「こういう名前だから、恋したいのよ」
「ころしたい?」
love or dead? それも悪くないわ」
「貴方はlove and deadでしょう」
「まぁ、そういう名前だけど」
「素敵な名前ね」
「そうよ。だから、素敵な私と、素敵な恋をしましょう?」


 私は私に、恋をする。









おわり
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
おおお…綺麗で美しい…
2.名前が無い程度の能力削除
これは氏の初こいフラではないのか?
こいつは先が楽しみだ
3.名前が無い程度の能力削除
素敵な雰囲気ですね
もちろん続きますよね?
4.名前が無い程度の能力削除
ナルキソス
5.名前が無い程度の能力削除
恋死ちゅっちゅ
6.名前が無い程度の能力削除
恋死いですね
7.名前が無い程度の能力削除
おおおジェネで2カ月ぶりに見られたこいしちゃんが貴方とは…こいフラいいですね~
8.名前が無い程度の能力削除
こいしが恋死い
9.名前が無い程度の能力削除
無意色の恋
10.名前が無い程度の能力削除
陰でお姉ちゃんたちがショック死してそう
11.名前が無い程度の能力削除
恋しかった!
ごちそうさまでした
12.名前が無い程度の能力削除
言葉遊びなかけあいがらしすぎる
いいなー
13.名前が無い程度の能力削除
破壊された無意識を操る程度の……
操れないし望まないから恋になったんか、と思ったりする不思議さ。
良いなぁ。
14.名前が無い程度の能力削除
面白かったです
15.名前が無い程度の能力削除
今度はこいフラかぁ
16.名前が無い程度の能力削除
かわいかった、そんだけ
17.サク_ウマ削除
素晴らしいですね。最高です