Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

七色の恵方・モノクロームの福

2011/02/01 12:21:24
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 この作品は、拙作である「上」を取りたいオトシゴロ・落ちて、受け止めて、魔法使いのココロの続きのお話になります。(過去のマリアリ系列のお話の設定を受け継いでおります、単品でも楽しめますが読んでおくとより一層美味しく食べられます。)

 
 この作品には、超高濃度の百合成分を含む上、キス表現があります。(勿論、全年齢対象ですが念のために。)服用の際は以上の点に注意して、百合が苦手だとか、この作品中の恵方巻きの食べ方に挑戦したい方は、いる方は彼女(又は彼氏)にお願いしてから、いない方は現実にむせび泣いてから、ブラウザバックをお願いします。










 

 これは、節分を控えた幻想郷のお話。



「マリサー」
「あら、今日もかかってきた。」

 魔理沙が二段ベッドの上から落ちて、回復した日から暫くたった日の事。何かあったら、人形による通信をお願いと言ったのに、私と会わなかった日の魔理沙は夜にこうやって通信をかけてくる。特に冬場は多い事も言っておく。ついでに言うと、私から用事があって通信するケースも少なくは無い。

 こうやってかかってくる事は・・・勿論、嫌では無い。寧ろ嬉しいくらい。

 でも、その嬉しさに身を任せていてはいけない事も知っている。彼女は人間。やがては私より先に老いて死んでいく運命なのだ。その時に今の嬉しさに任せていたら、必ず身と心を引き裂くような苦しみが待っている。

 これを避けるためには、魔理沙が捨食の法を習得し種族魔法使いになるか、私が捨食の法を解呪して人間に戻るかのいずれかしかない。そして、そのどちらの方法もどちらかに過酷な選択を迫る格好になる。前者は魔理沙に人間を止めてもらう格好になるし、後者は解呪の時の反動で、身体を維持する魔力への依存から解き放たれた私自身が身体の変化に耐えられずにショックを起こして死ぬ可能性が高い。
 成功しても、魔理沙と一緒の時間を歩く事は出来るが、やがては死に至ってしまう。だが、それはそれで魔理沙と一緒に生きて生き抜いて、良い人生だったと言い合いながら死ねるのならば本望である。
 それ以上に、ショックで死ぬ可能性は魔理沙にも分かるだろうから、解呪するなんて言ったら絶対に止めてくれと泣いて言うだろう。だからと言って、人間である魔理沙の意志を酌まずに人間を止めてとは絶対に言えないし、言うつもりもない。勿論、彼女が自分から「魔法使いになるぜ」と言えば協力は惜しまないつもりだけど。

 今の幸せの向こう側に、残酷な運命がある事を呪っている私が、魔理沙とつるむ今の日常にわずかな影を落としているのではないか。そんな事を考えながら、今日も私は通信のチャンネルを開ける。

「今晩は、魔理沙。今日はどうしたの?」
「や、明日は節分だからさぁ。私の家で豆まきでもしないかって。」
「いいけど・・・掃除が大変じゃない?」
「いやぁ、別にいいぜ。それより楽しまないとな。」

 私の気持ちを知ってか知らずか、魔理沙は今を楽しむような素振りを見せる。今と言う瞬間を悔い無く生きる。有限の時間の中、ベストを尽くす発想は私も人間だった頃は持っていた。だが、魔法使いになって天寿と言う楔から解き放たれて時間が無限になると、悠久の時の中の刹那の出来事として、人間の時ほど本気にならなくなった自分がいる。


 魔理沙には・・・そんな風になって欲しく無い私のワガママ。
 いつも元気で飛びまわって、少々傍若無人で、それでも誰よりも輝いていて欲しい。
 私のように無限の時の中に身を置いて、堕落していって欲しくは無い。


 そんな気持ちをぎゅっと噛みしめたまま、私は明るい声を出す。

「うん、じゃあ、明日そっちに行くよ?」
「そうこなくっちゃ!豆と恵方巻きは用意しとくから、そうだな・・・アリスは鬼の人形でも用意してくれたら嬉しいんだが。」
「一応、鬼さんルック・・・人形劇用の萃香と勇儀の衣装を来た人形でいい?」
「バッチリじゃないか。それじゃあ・・・また、明日な。」
「うん、分かった。魔理沙も良い夢見てね。」
「サンキュー、アリスも良い夢をな。」

「オワッター」

 ほうっと溜息、こうやって話しているだけでも、騒々しさはあるもののとっても幸せである。通話用の人形を握りしめたまま、明日の事を考える私。豆はいらない、人形の衣装も全然問題ない、となると最後に思いついたのが、恵方巻きである。魔理沙が用意してくれるとは言っても、流石に任せきりと言うのも良心が痛む。何より、私の料理を美味しそうに食べてくれるから、作っておけば喜んでくれるだろうと思ったので

「・・・恵方巻きは、自分でも作るかな。」

 自分に言い聞かせて、私はダブルのベッドに潜り込む。魔理沙は、独りだと温まるのに時間がかかると言っていたがまさにそうで、何度も何度も足をすり合わせないと寒くて仕方が無い。それに、睡眠というのが魔法使いである私にとっては、特に必要の無い行為のため、動かずに魔力と体力を温存してベストコンディションで行動するようにするための行為と睡眠を捕えている現実もある。
 ぶっちゃけた話、魔理沙がいないと、眠くならないのだ。
一緒にいて、気持ちとか感覚とかを共有できる事がとっても心地よくって。そこから人間だった頃に抱いていた、眠気を誘う優しさに抱かれた感覚を思い出すと、カラダの記憶が呼び覚まされて自然と眠気を覚えてくる。その感覚が大好きだった。

 

  人間ならば疲れた時には嫌でも眠れるが、私にはそれが無い。
   真っ暗な世界、穴に落ちて童話の世界に行ったような気分。
    そこに童話のような不思議なワンダーランドは無い。
     何処までも広がる無音の闇の世界に訪れる人は無い。
      登場人物が私だけの、音の無い真っ暗な童話を演じて
       
 
          
          独り、孤独に、朝を待っている。

 

 種族魔法使いになったばかりの昔はそれでも良かった、それが魔法使いの性であると自分に言い聞かせて生きて来たから。

 
 ・・・でも今はダメ。永夜異変の後、魔理沙とつるむようになってからは。

 
 最初はトラブルだらけで喧嘩もした。そんな調子で本当に大丈夫かなと思いもしたし、異変によってはなんとなくと言う理由から交戦した事もある。それでも、終われば一緒にお酒飲んだりして。気が付けば、しょっちゅうつるんでは何かをしている。魔法使いになって失った、刹那を楽しむ感覚が思い出されて、その時がとっても楽しくって、素敵な事の繰り返し。

 気が付くと、生活の中に魔理沙の事を求めるようになっていた。なんだかんだとは言うが、一緒にいないと寂しくて、ココロの中に空洞が空いたような気持ちになる。
私の暗い暗い童話の世界に光をくれたのは魔理沙なのだ。魔理沙と一緒に居れば毎日が幸せで、日々の何気ない事でも輝いて見える。

 
 ―これが、好きって気持ちなんだろうな。

 
 それでも、やがて訪れる別れの時に負ってしまう傷を恐れて私は、自分のココロの奥底まで出せないでいる。好きだからこそ失う辛さを体験したくは無いのだ、その思いが私を締めつける。

 操り人形のように繰られる私のココロ。そんなココロが繰る、私のカラダ。
 
 答えのある謎々に敢えて答えず、避け続けている私・・・ぐちゃぐちゃにほつれた感情の糸に絡め取られた、マリオネットのような私。

 ―この糸をほどいて欲しいよ、魔理沙・・・

「アリス‐アサダヨ!」

 上海人形の声。起きなくてはいけない時間に起こしてくれるように命令した彼女が、寝具を剥いだ。山間深くにある幻想郷の早朝の空気はとても寒く、冷たさが私を現実に呼び戻す。

「朝・・・か。」

 カーテンを開けた時に窓から差し込む太陽の輝きが答える。目の奥に飛び込む光が、私に活力を与えてくれるのがわかる。魔理沙が美味しそうに食べてくれる恵方巻きを作ろう、私は大きく伸びをして、身支度を始めた。
 パチュリーの所で借りた、巻き寿司の本を参考に、洋風のテイストを混ぜ込んだ巻き寿司を作ってみよう。魔理沙が作るのは干瓢とか厚焼き卵とか入った王道の恵方巻きだろうから。あれもあれで美味しいが、同じ味が続くのはもったいない。

「まずはツナマヨサラダで巻いてみましょ。」
「カンヌシノテンテキー」
「カツレツとソース、キャベツで、も一つ巻いて・・・」
「コッテリシテルナー」
「ウインナーと、チーズ巻きも作っちゃえ。」
「ホッドドックジャネーヨ!」

 こうして完成した数種の洋風恵方巻き・・・我ながら、見事な手際だと思う。手先の器用さには自信があるが、こうやって即興で出来ると嬉しくなってくる。後は、頃合いを見て魔理沙の所に遊びに行けばいい。

―そうすれば、その時だけでもこのもやもやしている気持ちが晴れるような気がしたから。





「おにはーそと」
「ふくはーうち」



 私が繰る萃香と勇儀の衣装を来た上海と蓬莱を相手に魔理沙と私で豆を投げる。魔理沙は極力豆に当たらないように操作する私の人形に必死に投げている。そんな魔理沙の目がきらきら輝いていて、まるで子供みたいで。お風呂の時とかでもタオル浮かべては「ぶしゅー」とかやってる子供のような魔理沙も、最初出会った時に比べるとホントに大きくなった。今では身長もそんなに変わらないし、スタイルとかも凄く良くなった。無邪気な子供のような大人と評するのが正しいところなのかな・・・。

「命中!!やりぃ」
「ヤラレチャッター」
「ハラヒリホロハレー」
 
 やられたフリをして寝転がっている上海と蓬莱をひょいっとつまんで、私の所にそっと返してくれた。屈託の無い笑みを浮かべて、本当に楽しかった事が一目で分かる。

「あぁ、楽しかったぜー。」
「随分乱投してたけど、アンタが食べる豆を残してある?」
「あぁ、40粒ほどあれば問題無いだろ?」
「え、魔理沙はそんなに老けてないでしょ?」
「半分以上はお前のだぜ。ほら。」

 人間であれば重ねていた年齢分の渡された豆を食べながら、私は恵方巻きを包みから取り出して開ける。すでに年齢の分だけ食べた魔理沙が、キッチンから恵方巻きを意気揚々と持ってきて、私の前に置いたのだが・・・

「凄く・・・大きいです。」
「おう、ちょっと頑張りすぎたかな。」
「上海か蓬莱くらいあるじゃないの、ちょっと長くない?」
「そうか?大は小を兼ねるんだぜ。」

 結構長かった、具体的に言うと上海並の長さがある。そして、それなりに太い。4本用意されたそれは、食の細い私達が全部平らげた場合、確実にお腹一杯になれる分量である。これは一本行っただけで満足どころか・・・飽きがくるだろう。

「せっかくだから、私も私なりの恵方巻き作ってきたんだ。」
「おお、それは是非見てみたいんだぜ。」

 包みから取り出した私の恵方巻きは、私の片手に収まるか収まらないかのサイズ。魔理沙が、本当に嬉しそうな顔をこちらに向けて喜んでいるのを見たら、頑張った甲斐があったなぁとつくづく思う。早く食べよう、早く食べようオーラが全開の魔理沙の前にすっと差し出すと、表情はもうクライマックス。私も、魔理沙に進められて大きな恵方巻きを手に取った。

「今年の恵方は何処だっけ?」
「今年は・・・確か、南南東だったな。」
「あれって、櫛稲田姫のいる方角なんでしょ?」
「んー確かそうだ、昔霊夢が櫛稲田姫、正しくは歳徳神がいる方向が恵方だって教えてくれた。」
「オフシーズンの秋姉妹もそっちに移動するのかな?」
「ありうるんじゃないかな、それ。冬場の秋姉妹の生態を知るための貴重な手掛かりになりそうだぜ。」

 魔理沙はコンパスを取り出して、テーブルの上に置いた。暫くの間、方位磁石が揺れて北がどちらかが分かる。そこからコンパスを見て、南南東を割り出していく。

「こっち、だな。」

 魔理沙が指さす向きに、並んで座って、揃って言うセリフはいただきます。

「アリスのツナマヨ巻きうまーい。」
「魔理沙のも美味しいわ。流石は正統派ね。」

 仲良く恵方を向いて、恵方巻きを食べる私と魔理沙。食が細い二人でこれだけ食べられるのかという一抹の心配はあったが、明日の朝もお味噌汁と恵方巻きで二人分食べられるなら、朝食の支度の手間が省けるだろう。そんな事を考えながら、大きな恵方巻きと格闘していると、既に一本平らげた魔理沙が意気揚々と宣言した。

「よーし、じゃあそろそろ。一気に行くかー」
「一気食いして、喉詰めて窒息しても知らないわよ。」
「そん時は・・・ちゃんと人工呼吸して蘇生させてくれると信じてるぜ?」
「人工呼吸無しでも、案外蘇生率は変わらないわよ?」
「私に対するお前のなら絶対大丈夫、ちゃんと私は生き返ってやる。」
「無茶よ、止めておきなさい。」
「それとも・・・反対側から食べて短くして窒息を阻止すると言う手も無くは無いぜ?」
「結構無茶苦茶な止め方ね。どっからそんな事覚えてくるのよ?」
「早苗んとこで見た漫画で、似たような事やっていたのを見た事ある。まぁ、心配ならそうでもして止・め・て・み・な。」

 そう言うや否や、ご機嫌の表情であぐあぐと私の作った、カツレツの恵方巻きを食べる魔理沙。そんなに大きくない身体の小さな口で、これだけの物が何処に収まるのか定かでは無いが、魔理沙はゆっくりと恵方巻きにかぶりついている。
 それよりも、さっきのセリフがココロに引っかかる。私のココロにチクリとくるような言い回し・・・私に対する挑発。悪戯をする時の魔理沙はだいたいそんな感じであるのだが、少しだけ私のプライドが傷ついた。

 なら止めてやろうじゃないの。

 私は・・・魔理沙の反対側に回り込んで、魔理沙が食べている恵方巻きを咥えた。

「ふぁ、ふぁりす!!(ア、アリス!!)」
「ふぁあ、やみぇるの?やめないの?(さぁ、止めるの?止めないの?)
「やむぇるとひわれて、やむぇるやつがひるか!(止めると言われて止める奴がいるか!)」

 私が恵方巻きを食べ始め、少し前に出た所で魔理沙が顔を真っ赤にしながら目を閉じた。それにつられて私も目を閉じる。口に咥えた恵方巻きが引っ張られる感覚、魔理沙は食べるのを止めようとしない、徐々に近くなる距離、かかる鼻息。心臓の鼓動が耳まで響く。張り裂けそうな心臓の高鳴り、口の中に収まる恵方巻きの味なんてとうにどっかに行ってしまった。心臓の鼓動が早鐘のようにスピードを増し、加速していく感情の流れが制御不能になっていく。
 そして、ここまで溜めこんでいた気持ちが一気にココロからあふれ出した。あふれ出した気持ちは、全身を巡り、思考を焼き切ってしまう。不思議な感覚に囚われたまま、私達の距離は無くなって・・・

 

 ・・・唇と唇が触れた。

 

 永遠のような瞬間、書物とかでは学んだ知識はあるが、本当にそんな事を感じてしまうとは・・・。ファーストキスは蜜の味とは良く言ったものだが、私達のファーストキスは、酢飯と気持ちの甘酸い味。

「ふはっ。」
「あ、アリス?お、お前・・・・」
「も、もしかして嫌だった・・・?」
 
 成り行きとは言え、感情に任せて自分の気持ちを押し付けてしまった事を悔いる私。確かに私は、この目の前で目の端に涙を溜めてもじもじしている魔理沙の事が好きである。  
だが、魔理沙が私に対して同じような感情を持っているとは限らない。友達としてじゃれてきているだけで、私が意に反した事をして魔理沙を傷つけたとすれば・・・・・赦される事ではない。NO!と言う拒絶の回答が怖いと言う考えよりも、魔理沙を傷つけたかもしれない考えが先に立った、私のココロ。

 ちゃんと謝らなくては、そう考えた私が口を開こうとした瞬間。

「・・・い、嫌なもんか。むしろ、嬉しいっていうかビックリしたって言うか、私が仕掛けようとチャンスを窺っていたっていうか・・・・・アリスが誘いに乗ってくれる事を期待していたっていうのか・・・・だな。」
 
 魔理沙が傍にかけてあった帽子を目深に被って後ろを向いた。多分、今の顔を見られたくなかったのだろう。私も心臓の鼓動を抑えるために、大きく深呼吸をした。いつもの思考が戻っていくのを感じる。魔理沙もスウー、ハァーと何度か大きな呼吸をしているのが見えていっぱいいっぱいさが伝わってくる。何度か深呼吸をした所で、帽子を更にぎゅっぎゅっと被って、魔理沙が私を覗きこんだ。

「そんな事より、アリスの方こそ嫌じゃなかった・・・?」

 普段傍若無人な魔理沙から出て来た、人を気遣うセリフ。両目に涙を溜めて、祈るような表情で。この時、私の心配が杞憂に終わった事がはっきりと分かった。この魔理沙もきっと、私と似たような事を考えていたのだろう。



 ―魔理沙に対する愛しさがココロの中に生まれ、広がって行くのを感じた。



「ううん、嫌じゃないわよ。嫌なら誘いに乗らないわ。」
「本当に?」
「ええ。」

 微笑んで、魔理沙の帽子を取る私。真っ赤になって照れくさそうに笑う魔理沙が可愛く見えて仕方が無くなった。再び気持ちが思考を焼き切りそうになるが、そこを何とか抑えて私は、ゆっくりゆっくり呼吸をしながらこの無言の静かな時間を楽しもうと思った。だが、魔理沙の方はというと目をきょろきょろさせたり、落ち着きがなかったりして、ちょっと大変そうだった。ココロが揺れ動いてるのは私だけではないんだな・・・

「・・・私にも心の準備ってものが、あるから・・・やっぱりいきなりはズルいっ!」
 
 突然、顔から湯気が噴出しそうな表情をした魔理沙はそう言って、恵方巻きを右手に取り左手で南南東を指しながら高らかに宣言した。

「ええい、アリス、今度はお前が恵方を向け、福を送り返してやるんだぜ。」
「もう一回やるの?」
「やったらやり返すのが礼儀だ!とにかく、向け!!向くんだ!!!」

 目を閉じて、必死になって言う魔理沙。こんな時まで負けず嫌いにならなくてもいいのに。負けるが勝ちな戦いもあるんだよ、と教えてあげたい所ではあるが、それを言うとまぁ間違いなく反論が待っているし、何より今のムードを壊したくなかった。ココロがそう告げている現実に、私は息を整えてから南南東を向く。

「じゃあ、優しくしてくれなきゃ嫌よ?」
「恵方巻きゲームもパワーだぜ、行くぞ、アリス!」

 何度か恵方を向くのを変わりながら、恵方巻きを食べる私達。
 魔理沙が顔を赤くしながら、こっちに向かってくるのは何とも愛らしくて可愛いのではあるが、私も間違いなくそうである自信がある。
 
 魔理沙が私をそう思っていてくれているのとしたら、凄く嬉しい。
 
 この瞬間だけでも、寿命とか、いつかやってくる別れの時とか小難しい事を全部吹き飛ばして、カラダとココロ全部が触れ合ったような気がして、すごく嬉しかった。
 美味しい酢飯と魔理沙の柔らかい唇の感触を味わいながら、恵方から来るモノクロの福を、私は思いっきり抱きしめた。お返しとばかりに魔理沙も手を後ろに回して、抱きついてきたので、暫くそのままの状態を維持してみたら、魔理沙は中々離れなかった。何度かぎゅっとしあいながらくるくる回って恵方を交代しながら、トントンと優しく背中を叩いた所で、ようやく離れる私達。

「すげードキドキする・・・アリス。」
「私もよ・・・魔理沙。」
「もう一度、ぎゅってしてもいい?」
「うん、ぎゅっとして?もっとくっついていたいわ。」

 お互いに抱き合ったまま体温を分け合う。温かい寝床で分け合うより、遥かに温かいような気がした。魔理沙の腕と胸にすっぽり包まれた私は、他に例えようの無い安らぎと幸せに満たされている。そして耳に息がかかって少しくすぐったいな、と思っていたら魔理沙が耳元で囁いた。

「アリス、そのまま聞いていてくれる・・・?」

 ふと頬に当たる冷たさに気が付いて少しだけ視線を魔理沙の方に向けると、魔理沙の頬には何本か涙が伝って落ちた跡が見える。普段の快活な喋り方は何処へ行ってしまったのか、しおらしく、普段人前で見せる事が無い姿である乙女の部分が前面に出ている。長い付き合いで知っている、魔理沙の本当の姿。私は、何も言わずに頷き、話をするように促した。

「私・・・アリスとこうやってると、寂しさとか冷たさとか、嫌な事とか全部吹き飛んで行くんだ。一緒に寝てる時もそうだったけど、今こうしていたほうが、ずっと暖かくて、幸せな気分なんだよ・・・」 

私の背中に回っていた魔理沙の腕に、ぐっと力が入った。私は背中に手を回して魔理沙の思いを、ココロを受けとめようと思って懸命に魔理沙を抱き寄せた。

「アリスと一緒だと、幸せで、楽しくって、心の中が暖かくなる。ドキドキして、今心臓も爆発しちゃうんじゃないかって思うんだ。」
「・・・それは私も同じ、私、魔理沙と一緒にいるととっても幸せよ。お喋りしてるときも、一緒にご飯食べてる時も、一緒に寝ている時も、全部。」

 全力でぶつけられた魔理沙のココロに私が答えると、魔理沙の目から涙が溢れ出した。
 
 ぽろぽろ、ぽろぽろと溢れ出す涙とすすり泣く声に、思いっきりココロを揺さぶられる。私の目元が熱くなるのを感じる。
 魔理沙は私の胸に顔をうずめて、何か言おうと必死に身体を震わせている。よしよしと優しく背中を撫でていると、か細い魔理沙の涙声が聞こえる。

「い、今は・・・幸せすぎて、これ以上何も言えない・・・んだぜ。幸せすぎて、涙が、止まらな、い・・・」

 後は嗚咽となって、良く聞き取れなかった。だが、彼女のココロは伝わった。そんな魔理沙のココロと溶け合うような錯覚を覚えた私のココロが、私の視界を滲ませる。

 自分も泣いている事に気が付くのは時間がかからなかった。

「もう・・・泣いてちゃ、美人が台無しよ?」
「・・・アリスだって、泣いてるじゃねーか。でも、かわいい・・・」
「・・・魔理沙だって。」
「なぁ、もう一度だけ・・・いい?」

 指で魔理沙の涙をすくった私は、魔理沙の求めに応じてキスをして、ココロとココロが触れ合って繋がって、唇に広がったのはお互いの涙の味。どれくらいの時間こうしていたか忘れそうになった頃、ようやく私達は離れて、お互いの席に着く。

「幸せだぜ、アリス。」
「私もよ、魔理沙。」

 肩を抱き合い気持ちを再確認して、真っ赤に染まった顔をくしゃくしゃにする魔理沙。いつもこうなら、もっと可愛いのに。でも、そんな魔理沙も元気で傍若無人な魔理沙も私にとっては好きな魔理沙には変わりはないんだけど。

「恵方巻き・・・まだある?」
「まだまだ、あるわよ。」
「もう一回・・・いいかな?アリス・・・」
「・・・何回でも付き合うわ。魔理沙」

 お腹一杯なのに恵方巻きを食べる私達、再び触れる唇と唇・・・甘い、夢のようなひと時。このまま時が止まってしまえば良いのに。真っ赤になっているであろう私は同じく真っ赤になった魔理沙と見つめ合いながら、このお互いのココロとココロが通じ合った現実がずっと続けばいいなって、心の底から思った・・・



 ―今日も幻想郷は平和である。
―寂しい気持ちは好きだからこそ強く感じるモノ、寒い冬のココロの物語は、もう少しだけ続きます。


2月3日に合わせて書いたけど、2日からの長期出張の影響で前倒ししちゃいました(泣)
前日が休みで良かったのですが、フライングと遅刻ならどっちがいいのかな・・・?

 どうも、数年前の節分において某ガチムチ兄貴と恵方巻きでポッキーゲームをする悪夢に苛まれてしまった、鬼の面が似合うカラダを持つくせにココロが鬼になれない男、タナバン=ダルサラームです。
恵方巻きポッキーゲームを自分の悪夢のまま終わらせてはいけないような気がしたので今回はマリアリに恵方巻きポッキーゲームをさせてみました。何か色々とトンデモない話になってしまいましたが・・・これも表現の修業だと思って(キリッ

なお、アリスが作った恵方巻きは、実際に作っても美味しいです。
紹介した物以外にも、サンドイッチに挟む物は基本的に巻き寿司にマッチするようです。

リアルな諸事情により節分をフライングしてしまいましたが、バレンタインのお話は、バレンタインに合わせてチョコレート同様、徹底的に魔理沙視点から甘くをコンセプトにする予定です。

もう少しだけ、この甘くベタベタなマリアリにお付き合い下さい。
タナバン=ダルサラーム
http://atelierdarussalam.blog24.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
このマリアリは歪みねぇな。
あと、表向きは平然としてるのに、裏では必死に誘い受けする魔理沙はだらしねぇ。可愛い。
2.奇声を発する程度の能力削除
>カンヌシノテンテキー
マジでwww
うわああ!甘すぎる!!!
3.名前が無い程度の能力削除
上海のツッコミ的確でかわいい。
そして甘リアリいいよ甘リアリ!
しかしこんなに甘いのに……バレンタインはもっと甘くなる……だと……?
全裸で待機させていただきます。
4.名前が無い程度の能力削除
GJだぜー!!
5.糸目削除
キスを人工呼吸ですると思っていたらまさかのポッキーゲームでくるとはアリスは結構デレるなぁ。 
6.名前が無い程度の能力削除
興奮した、許せ
7.名前が無い程度の能力削除
甘いしお腹空くしなんてSSだっ!GJ!
8.名無し削除
あばばばば
9.名前が無い程度の能力削除
ありがとうございました。
脳の糖分を補給しないとなやはり。
10.タナバン=ダルサラーム削除
・コメのお返事コメでーす。

1.の名無し様→仲良しマリアリは可愛い、仕方ないね。

奇声を発する程度の能力様→いつもありがとうございます。神主さんはツナマヨが苦手だそうです。

3.の名無し様→全裸待機はらめぇ、ここは全年齢向きKENZENなお話の場ですぜw

4.の名無し様→ありがとうございます、次回の完結編もお楽しみに。

糸目様→俺のアリスは108式までデレるよ!!ツンの時期のアリスも書いてみたくなりますねー

6.の名無し様→許せる。書いてた本人をして興奮を抑えるのが大変だったんだしねぇ・・・・w

7.の名無し様→ありがとうございます。次回作もチョコを食べたくなる甘い話にしたいと思います。

8.の名無し様→悶絶しちゃだめですよーw

⑨.の名無し様→こちらこそ読了ありがとうございました。次回作でも脳内糖分の補給をして言って下さいね。