・この作品は他の『ゆかてん幻想郷』(ジェネ)タグの作品と繋がっております。
・同タグの作品と一緒にお読みになられればよりお楽しみいただけると思います。
ある晴れた昼下がり。太陽の光が心地よく降り注ぎ、気温は丁度良いくらいに保たれている。
こんな気持ちのいい日には。
「のんびりするとしましょうか」
家でだらだらと過ごすに限る。
「いやいや、天気がいいんですからたまには散歩でもしたらどうですか」
結局いつもと変わりない事を言い出した紫に、藍が意見してきた。
「やだわ藍ったら、散歩なんて明日でもできるじゃないの」
「それこそ、のんびりするなんていつでも出来るじゃないですか」
「そんなことよりも」
藍の話を遮って、紫は隙間から一つの箱を取り出した。
蓋を開けてみれば、中には丸い物がぎっしりと詰まっている。
「お饅頭ですか」
「えぇそうよ、人里で今一番人気のお饅頭。こんな日にこそぴったりじゃないかしら?」
「はぁ……わかりましたよ、お茶を淹れてきますね」
どう言っても聞き入れられないと判断したか、藍は溜息をつくと台所へと向かっていった。
紫も箱を持って、縁側へと続く障子を開けて。
「やっほう紫!」
見知った顔を見て、すぐ閉めた。
「ちょっ、紫なんで閉めるのよー!?」
向こう側の人物は、必死に障子を開けようとしていたが、紫が結界で扉を固定したせいでガタガタと音を立てるだけであった。
いい加減、障子をぶち破って強行突破されそうな辺りで結界を解除すると、「きゃっ!?」と小さな悲鳴を上げて向こう側の人物が部屋の中に倒れてきた。
「いたた……もう、紫なにするのよ!」
今しがたしたたかに鼻を打ち付けたのは、最近よく家にやってくる天子である。
すぐさま起き上がると、鼻を押さえて紫に詰め寄ってきた。
「あんまりにもいいタイミングで来るものだからつい」
「ついじゃないわよ。もー、鼻が痛い……お詫びにお饅頭食べさせなさいよね」
「はいはい……って、何で饅頭の事を知っているのかしら」
「紫が美味しいお饅頭食べてそうだな~、って気がして盗み聞きしてた」
「何なのその無駄に発達した第六感」
あまりの的中率に博麗の巫女も真っ青な勘である。次の巫女に天人を候補にしても良いかもしれない、とちょっと考える。
「何も勘だけじゃないわよ。最近人里で饅頭が人気だって聞いたし、ここのところの紫を見てて、今日くらいに食べてそうだなって思ったのよ」
「天人なのだから、そんな卑しい真似はよしたらどうなの」
「仕方ないじゃない。天界にはお金が流れてこないから、こうやってたかるしかないんだから」
「堂々とたかるとか言うのもどうかと思うわ」
さながらハイエナの仕留めた獲物を、我が物顔で横取りする獅子のようである。実はハイエナが食べてる肉は、横取りされた獲物の食べ残しだったりするのだ、ゆかりん豆知識。
ちなみに、いつも胡散臭い紫の動きに気付いて予測を立てるのは、実は結構凄い事であったりする。閑話休題。
そこに天子がきていると知らず、お盆に急須と二人分の湯呑みを乗せて藍が戻ってきた。
「お茶をお持ちしましたよ……っと、天子いつのまに来たんだ」
「お邪魔してるわよ」
「お饅頭の匂いを嗅ぎ付けて来たのよ、卑しいわね。ついでにいやらしい」
「卑しいはともかくとして、いやらしいってどこがよ」
「帽子の桃がお尻に見えていやらしい……」
「なっ!? 何言ってるのよ馬鹿!!」
紫にからかわれて、天子は帽子に付いた桃を抑えて赤面する。
それを見ていた藍は「寧ろ体型的に紫様の方が……」と二人に聞こえないよう呟いた。
「それはともかく、天子の分の湯呑みは紫様が出してくださいよ」
「何でそこで私なのかしら」
「何でって、天子は紫様の管轄じゃないですか。ズズズ……」
「へぇ、そうだったんだ。ズズ、あちっ……それじゃ紫お願いね。」
「そこ、頼む前から飲まない」
「いたっ」
いつのまにか湯呑みを手に持っていた天子を、扇子で軽く小突く。
その後は薬にも毒にもならない話をしながら饅頭を食べたのだが、実は饅頭は二箱も用意されており、そのせいで少しだけ余ってしまった。
そして夜、それも宵もそこそこに更けてきた頃。
本来なら妖怪が活発になる時間帯だが、この頃天子に朝早く起こされる紫にはそろそろ寝る時間だ。
しかしながら困ったことが一つ。
「小腹が空いたわね……」
これは大変困ったことだ、腹が減っては戦どころか満足に寝れもしない。
かと言って藍に何か作らせると時間が掛かる。ここは今すぐ食べれて、尚且つお腹が膨れたら食べるのを止めれる物が欲しい。
何かないかと考えたところ、饅頭が少しばかり残っていたのを思い出した。
すぐに残った饅頭を取り出すと食べ始める。眠気でボーっとしているせいで味が良くわからないのは残念である。
腹の減りも収まったところで隙間に残った饅頭を仕舞いこみ、寝室へと向かった。
その途中で藍と出くわすと、何やら訝しげな顔をされてしまった。
「紫様、口の端に餡子が付いてますよ」
「えっ? あらいけない」
言われて手を這わせてみれば、指先へと付着していた餡子が移った。そのまま口に含んで飲み込む。
「また寝る前に甘味ですか、身体に悪いですよ。それに歯磨きはしたのですか?」
「こう眠くっちゃまともに出来ないわ、と言う訳でおやすみなさい」
「また面倒くさがって、虫歯になっても知りませんよ? おやすみなさい」
などと藍は小言を言ってきたが、この八雲紫こそは名高い大妖怪、そう簡単に虫歯などになるものか。
確証はないけれども、実際虫歯になった覚えなどない。昨日は磨いたし、うん大丈夫。
眠くて面倒と言う理由に理論武装を完了すると、紫はすぐさま床に付いた。明日にまた起こしに来るだろう、天子の笑顔を思い浮かべながら三秒で寝る。
そして今度は翌朝。
「ほら、紫起きろ、朝よー」
天子が紫を包む布団を、ゆさゆさ揺らして起こしに掛かる。
目覚めた紫は起き上がると伸びをする。
うむ、今日はいつより良い目覚めだ。今日は良い事でもあるかもしれない。
「おはよう天子」
「クチクサッ」
それは反射的、故に思ったままに天子から放たれた一言であった。
その一言が紫のハートを貫き、天子は「あっ」と自らが放った言葉に気付いて、気まずそうに自分の口を押さえる。
「え、えぇーと、今のはその……何というかつい」
「つ……い……?」
「あっ! 待った、い、今のなし!」
時既に遅し。慣れないフォローをしようとした天子は、逆に紫のハートは粉々に砕いてしまった。
「あー、そのー……ら、藍がご飯作ったから早く来なさいよ!」
これ以上何を言っても傷つけるだとけと思ったか、それともいたたまれなくなったか、天子は逃げ出すようにその場から去っていってしまった。
残されたのは、石のように固まっている紫のみであった。
「紫様、何で泣きながら歯磨きしているのですか」
「うぅ、何も言わないで頂戴……」
その後、泣きながら歯を磨く紫の姿があったとか。
こちらは原因が口内では無いので、幾ら口内環境に手を加えたところで改善はしないとか
歯磨きしてるのに口臭が消えない時はお医者さんの世話になる事も考えやう
しかし迂闊なゆかりんかわかわ
朝からキスだのなんだのってのは二次元内で美化されすぎてるきらいが……