※いつも通りネタが旧い。いや、非道い。
※例によって公式設定の類は一昨日の方向へ踏み外します。
~某月某日 某所にて~
「あのー私、生まれも育ちも日本なんだけど」
「なるほど、生まれと育ちはにっぽn――えっ?」
「いや、だから普段名乗ってるのは弾幕家ネームなの」
「な、なななな、なぁ~んですってぇぇっ!?」
余裕ぶっこいて取材した結果がこれですよ。
行き当たりばったりの出たとこ勝負がここぞとばかりに裏目に出てしまいました。
だってリグルですよ、リグル・ナイトバグ。まぁ『蠢く夜の蟲』だなんて、言われてみると出来過ぎな気はしていましたが、
まさかの偽名だったなんて…。
予告は取材してからの方がいいよというミスチーの忠告が今更ながらに身にしみます。
「嘘だと言ってよ、リグるンッ!」
「えーっと、なんて言うかその方がなんとなーく格好いいかナーなんて思ったりしたわけでー」
「ずーっとみんなを欺していたんですか!?」
「べ、別にそういうつもりじゃ――あわわっ」
「酷いじゃないですか、訴えてやる、謝罪と賠償を要求します!」
凄い剣幕で詰め寄る私に観念したのか、彼女は消え入るように小さな声で呟きます。
「……と、土○ほ○る」
「へ? 今、なんとおっしゃいましたか?」
「○萌○た○。これが私の本当の名前……」
うわあ。
な、なんと言いますか、字が微妙に違うけど今更感とかその他諸々一切合切な意味を込めて――
うわぁ……。
「こんな恥ずかしい名前、表になんか出せるわけないじゃないか……うっ……ぐすっ」
「スイマセンワタクシノハイリョガイタリマセンデシタ。アナタハナンニモ悪クナイノデース、トニカクゴメンナサイゴ
メンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ(ry」
とんでもないことを知ってしまった……どうしよう?
~同日 八目鰻処みすち庵~
「いらっしゃいマセー♪ って、文屋さんにリグるんじゃん。今日は取材とか言ってなかったっけ?」
「それが貴方の忠告通りになっちゃいましてね。ま、そんなことより今日は私のおごりでほた――じゃない、リグルさん
にとことん飲ませてやってください」
「へぇ、文屋さんがおごるだなんて珍しい。ねぇリグるん、何かあったの?」
「何もないよ。でも、女には飲んで飲んで呑まれて飲んで、酔いつぶれて眠っちゃうまで飲んで忘れたいことやどうしよ
うもないことの1つや2つはあるんだよ……」
「ふ~ん。でもそれって確かおとk」
「黙レ鳥。営業停止ニサレタイカ?」
「――TIN!?」
あやややや、これは参りましたね-。どうやら地雷も地雷、核地雷を踏んづけてしまったようです。
あの後、リグるンを励まそうと山にある馴染みのお店に繰り出したんですよ。そしたらそこのマスターが、
「よぉ、あやちゃん。ツバメ狩りかぁ~い?」
「わ た し は お ん な だ ぁ ぁ ぁ ぁ っ !」
こんな具合に下世話なことをこきゃあがるもんですから、リグるン(とその下僕たち)が大暴れしちゃいましてね。
その結果、あそこら一帯の飲食店が保健所から営業停止処分を食らってしまったのです。
そこで場所を変えて飲み直そうとここに来たわけですが、ミスチーの不用意な一言で元の木阿弥っぽいですね。
「まったく、独り静かに飲んでるってのに賑やかな連中だこと。妬ましいわねぇ」
煩くしたのが気に障ったか、不意にカウンターの隅に陣取っていた先客から皮肉めいた声が飛んできます。
「おや、誰かと思えば地底の橋姫じゃないですか。飲むんでしたらあちらの方が本場なのでは?」
「本場は騒々しすぎるわ。その点ここは狭いけど不思議と周りが気にならないから結構気に入ってるの※」
(※ミスチーの歌唱サービスは聞き惚れると周りはおろか、手元すら見えなくなります。)
声の主は水橋パルスィ。地霊騒ぎが終わった頃から地上のそこかしこに顔を出す鬼神の1人です。
ブロンドの髪とエメラルドの瞳、そこそこキュートな顔立ちにエキゾチックな雰囲気も相まって、黙っていれば
かなりのべっぴんさんなのですが、そこのところは腐っても橋姫。
ひとたび口を開けば「妬ましい嫉ましい」って、あんたの方がよっぽど妬ましいわコンチクショーと女性なら誰でも
突っ込みたくなる手合いなので――って、『えきぞちっく』ですと!?
「そういえば水橋さんって『橋姫』ですよね?」
「もちろん。妬み嫉んで千数百年、祖母の代より由緒正しい橋姫ですわ。なにか問題でも?」
「問題というか疑問ですね。その由緒正しい橋姫が、なんでまたパルスィなんて名前なんですか?」
「なるほど。まぁ、話すのはやぶさかじゃないけど天狗相手だとねぇ――あら? お酒が切れちゃったワー」
そう言いながら彼女は空いたとっくりをわざとらしく覗き込む仕草を繰り返すのです。
むぅ、2ボスとはいえ欲望に正直なところは実に鬼っぽいですが、こちらの足下をみるとは本当にいい根性してやがります。
しかし、毎度のことですがここで引き下がると明日の記事がありませんし、リグるンのようなケアレスミスで
清く正しい射命丸の名に泥を塗るようなことはもってのほかです。
「ミ、ミスチー。水橋さんにこの屋台で一番良いお酒をお出ししてください」
「ふぇ? ホント珍しいねぇ。――んじゃ、ま。期待に応えてじゃじゃじゃじゃ~ん、『菊理媛』~♪」
ちょっw、おまwww 場末の屋台でなんてもの扱ってるんですカァーッ!?
「あらぁ? なんか催促しちゃったみたいで悪いわねぇ。そうね、この名前にはちょっと深い訳があって――」
ウギギギギ、対価に見合わない内容だったら有ること無いこと捏造してばらまいてやりますから……。
『幻想郷の東西交流⑥ ~世界をつなぐ愛の架け橋~』
お詫び:『幻想郷の東西交流⑤ ~ホタルのばか~』は都合により永久欠番となります(註1)。
皆様ごきげんよう。幻想郷の異文化を訪ねる旅は早くも6回目を迎えた。今回はここしばらく交流が途絶えていた地底
世界へと足を踏み入れる。
太古の強大な一族が跳梁跋扈する地底に己の危険を顧みず潜入取材を試みる当社特派員。果たしてどのような大発見
をしたのであろうか?
地底の都市(註2)を目指して下りてゆくと、最初にたどり着くのが『地獄の一丁目大橋』である。
橋と言はっても実態は連絡通路であるのだが、地上側と地底側を繋ぐ境界としての役割から『橋』と呼ばれているのだ。
特派員はさっそく興味深い光景を目にすることとなる。それはこの橋を管理する橋姫の存在だ。
橋姫は行路守護神としての性格もあるが、本来は嫉妬の鬼神である。
鬼神と言えば山の四天王に代表されるような鬼を思い浮かべるが、橋姫は隠(おぬ)に由来する目には見えないチカラ(この場合は激しい嫉妬心)
に囚われて転化した旧いタイプの鬼だ。
このように橋姫はそれなりの歴史がある伝統的な日本妖怪であるが、幻想郷においては少々事情が異なってくる。
それというのも現在の行路管理者、自称三代目橋姫の水橋パルスィ(???歳)氏が文字通りのプログレッシヴな名前に加えて、
金髪と翠玉の瞳に透き通るような白い肌と、およそ日本妖怪離れした容姿をしているからだ。
何故このような事になっているのか?
我らの特派員が今回も突撃インタビューを敢行したところ、水橋氏から忌憚のないお話を伺うことに成功した。
――えー、それではよろしくお願いします。
「ええ、よくってよ」
――まずはズバリ、核心に迫りたいと思います。何故『パルスィ』?
「そうね。まず最初に断っておくけど、私自身は日本生まのれ日本育ちよ。創始者の祖母が有名な宇治の橋姫で、
欄干分け(註3)した母がここに橋を構えたのよ」
――なるほど、だから三代目というわけなんですね。
「それで核心の部分なんだけど、二代目の橋姫――まぁ、先に述べた私の母よね。彼女が現役バリバリの頃だから、
かれこれ400年は遡るのかしら? ふとしたことで自分探しの旅に出かけたらしいのよ」
――自分探しの旅ですか?
「ええ。なんでも嫉妬し続けることに嫌気がさしたんですって」
――えーっと。失礼ですが嫉妬してこその橋姫ではないのでしょうか?
「その通りよ。でも嫉妬するばかりじゃなくて、嫉妬させることも橋姫の領分と思い至ったみたいなの」
――なるほど、一理ありますね。それで御母堂はどうなされたんです?
「全国各地を行脚したあげく、最終的には海を渡って印度(註4)にまで辿り着いたって話よ」
――なんと、印度ですかっ!?
「どうやら『自分探しは印度へGO』って格言があるらしくって、母も流行の先取りってことで意気揚々と乗り込んだみたいね」
――橋姫って意外とアクティブなんですね。
「そりゃそうでしょ。37日間も河に浸って祈祷するだけ行動力がなきゃ橋姫なんかになれっこないもの。それはともかく、
遙々印度までやってきた母はそこで人間の男と恋に落ちたのよ」
――ほほぅ、人間ですか。
「そ、ただの人間。まぁ、鬼には人間から転げたのが結構居るから人間に惹かれることは珍しくないわ。とにかく、
2人は幾度となく逢瀬を重ね、そうこうするうち母は私を身籠もったのよ。でも所詮は妖ならざるものとの関係。
程なくして男は流行病であっさり死んでしまい、失意の母は独り帰国して私を産み育てたの」
――妖怪と人間、避けられない運命ですよねぇ……って、それとお名前になんの関係が?
「話は最後まで聞きなさい。死んだ男、つまり私の父は亡命拝火教徒(註5)だったらしく、そして母もなんのかんの言っても
嫉妬する橋姫だったのよ。つまり、逝ってしまった愛しい人とその事実への未練やら嫉妬の炎にちなんで私にこの名前を付けたってわけ」
――なるほど、それで『パルスィ』ですか。
「そういうこと。……まぁ、これだけなら美談で済むんだろうけど、この話にはちょっとした続きがあってね」
――続きですか? 伺がいましょう。
「さっきもちらっと話したけど、嫉妬させることも橋姫の領分と旅先で確信した母は、これからの橋姫は人に嫉妬されて
ナンボと実際にそうであるよう私を教育したのよ」
――へぇー、そーですカー。
「何よ? 疑うんなら地底で聞いてみなさいよ。貴方が思っているイメージと異なる事実がそこにあるわよ」
――いやまぁ、少なからず心当たりはありますので。
「まぁ、イメージは大切よね。何度も言うけど橋姫の本質は嫉妬することにあるの。嫉妬されることの重要性を説いてきた母が
さりげなく実践し、且つ私に橋姫の本質を叩き込むために持ち出したのが例の話だったのよ」
――えーっと、それはつまりアレですか? 口から砂糖を吐くっていう……。
「そう、あれは母の一世一代の惚気話なのよ。色恋の沙汰を知ってからその事実に気づいた時は妬ましいやら
羨ましいやらで生涯にこれ以上ないってくらい嫉妬したわ。それなのに母と来たら『これで貴方も一人前の橋姫ね』なーんて宣って、
私に三代目を襲名させてさっさと隠居してしまったのよ。ああ、ほんっと妬ましいわ!!」
――ざまa……いや、それはまことにご愁傷様です。本日はありがとうございました。
「貴方、碌な目にあわないわよ?(註6)」
さて、今回の取材で今日のような幻想郷が成立する前は、妖怪個人レベルの東西交流がそれなりにあったことが判明した。
また、わざわざ遠方に足を運ばなくても、あちら側からやって来てくれている例もこれまでの取材で明らかになっている。
せっかくご近所に西洋妖怪が来ているのだから、もっと積極的に交流を深めるのもまた一興だ。
まだまだ長い妖怪ライフ。暇つぶしの種は多ければ多いに越したことはないのだから。
次回「幻想郷の東西交流⑦」は凄く身近な西洋さん。『妖精てんこ盛り』をお送りします。
註1:改めて特派員を土下座させに伺いますのでご容赦ください。
註2:通称旧都。元々は火焔地獄のベッドタウン。火焔地獄が閉鎖されてからは寂れる一方。
註3:一般に言う『暖簾分け』に相当。
註4:西蔵からヒマラヤを越えた先の大陸南部を席巻する国。我らが天魔様の祖国でもある。
註5:波斯から印度へと逃れてきた拝火教徒。パルシーと呼ばれる。
註6:まったくです。
註7:千里眼なめんな。落ちるわけねーだろ、この駄烏!
~文々。新聞より抜粋~
「いやあ、なかなか濃厚なお酒ですねぇ。思い切った甲斐があるってもんです」
仕事をきっちり済ませたら今度はきっちり楽しむ番です。出費のことは後で考えるとして、今はみすち庵一番のお酒を
じっくりと味わいましょう。
「どうせ経費で落とすつもりでしょうに? しらじらしいわねぇ」
「それは言いっこなしですよ――ささ、パルさんもう一献(註7)」
「うぅ、○ルサンはだめぇ、みんな死んじゃう……」
飲むだけ呑んで泣いて酔い潰れたリグるンが、まるで中性洗剤ぶっかけた某虫みたいにピクピクしています。
これだけ呑ませてあげたんですから、今日のことは水に流してくださいよ?
「そういえばパルさんの御母堂は今は何をなさっているんです?」
「隠居してしばらくはおとなしくしてたけど、地上との交流が再開したら『今度こそ本当の私に会いにゆく!』とか言って出てったわ。
どうも世界のあちらこちらをバックパッカーよろしく巡り歩いているみたいなの」
そう言いながら水橋さんは旅先から送られてきたという写真付き葉書を幾つか見せてくれた。
いずれも立派な橋を背景に翠髪の和美人がたおやかに微笑んでいる。どことなく面影のある彼女が水橋さんの母親なのだろう。
ちなみに橋の写真ばかりなのはその筋のマニアなんだそうで。
ただ、それぞれに『落ちろ! ロンドン橋より』だとか『それ不倫ですから、残念! ローズマン橋より』等と、
いちいち達筆な呪詛を書き添えてある辺りはさすが橋姫といったところでしょうか。
それにしても――
「なんのかんの言って愛されてるんですねぇ。――っていうか、自慢するために常に持ち歩いてるんですか?」
「そりゃあ私は地底の嫉妬心ですもの。当然の嗜みよ」
「うわぁ、迷惑な話ですねぇ……」
嫉妬心を操る妖怪は嫉妬心を煽るための準備にも余念がないようです。
※例によって公式設定の類は一昨日の方向へ踏み外します。
~某月某日 某所にて~
「あのー私、生まれも育ちも日本なんだけど」
「なるほど、生まれと育ちはにっぽn――えっ?」
「いや、だから普段名乗ってるのは弾幕家ネームなの」
「な、なななな、なぁ~んですってぇぇっ!?」
余裕ぶっこいて取材した結果がこれですよ。
行き当たりばったりの出たとこ勝負がここぞとばかりに裏目に出てしまいました。
だってリグルですよ、リグル・ナイトバグ。まぁ『蠢く夜の蟲』だなんて、言われてみると出来過ぎな気はしていましたが、
まさかの偽名だったなんて…。
予告は取材してからの方がいいよというミスチーの忠告が今更ながらに身にしみます。
「嘘だと言ってよ、リグるンッ!」
「えーっと、なんて言うかその方がなんとなーく格好いいかナーなんて思ったりしたわけでー」
「ずーっとみんなを欺していたんですか!?」
「べ、別にそういうつもりじゃ――あわわっ」
「酷いじゃないですか、訴えてやる、謝罪と賠償を要求します!」
凄い剣幕で詰め寄る私に観念したのか、彼女は消え入るように小さな声で呟きます。
「……と、土○ほ○る」
「へ? 今、なんとおっしゃいましたか?」
「○萌○た○。これが私の本当の名前……」
うわあ。
な、なんと言いますか、字が微妙に違うけど今更感とかその他諸々一切合切な意味を込めて――
うわぁ……。
「こんな恥ずかしい名前、表になんか出せるわけないじゃないか……うっ……ぐすっ」
「スイマセンワタクシノハイリョガイタリマセンデシタ。アナタハナンニモ悪クナイノデース、トニカクゴメンナサイゴ
メンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ(ry」
とんでもないことを知ってしまった……どうしよう?
~同日 八目鰻処みすち庵~
「いらっしゃいマセー♪ って、文屋さんにリグるんじゃん。今日は取材とか言ってなかったっけ?」
「それが貴方の忠告通りになっちゃいましてね。ま、そんなことより今日は私のおごりでほた――じゃない、リグルさん
にとことん飲ませてやってください」
「へぇ、文屋さんがおごるだなんて珍しい。ねぇリグるん、何かあったの?」
「何もないよ。でも、女には飲んで飲んで呑まれて飲んで、酔いつぶれて眠っちゃうまで飲んで忘れたいことやどうしよ
うもないことの1つや2つはあるんだよ……」
「ふ~ん。でもそれって確かおとk」
「黙レ鳥。営業停止ニサレタイカ?」
「――TIN!?」
あやややや、これは参りましたね-。どうやら地雷も地雷、核地雷を踏んづけてしまったようです。
あの後、リグるンを励まそうと山にある馴染みのお店に繰り出したんですよ。そしたらそこのマスターが、
「よぉ、あやちゃん。ツバメ狩りかぁ~い?」
「わ た し は お ん な だ ぁ ぁ ぁ ぁ っ !」
こんな具合に下世話なことをこきゃあがるもんですから、リグるン(とその下僕たち)が大暴れしちゃいましてね。
その結果、あそこら一帯の飲食店が保健所から営業停止処分を食らってしまったのです。
そこで場所を変えて飲み直そうとここに来たわけですが、ミスチーの不用意な一言で元の木阿弥っぽいですね。
「まったく、独り静かに飲んでるってのに賑やかな連中だこと。妬ましいわねぇ」
煩くしたのが気に障ったか、不意にカウンターの隅に陣取っていた先客から皮肉めいた声が飛んできます。
「おや、誰かと思えば地底の橋姫じゃないですか。飲むんでしたらあちらの方が本場なのでは?」
「本場は騒々しすぎるわ。その点ここは狭いけど不思議と周りが気にならないから結構気に入ってるの※」
(※ミスチーの歌唱サービスは聞き惚れると周りはおろか、手元すら見えなくなります。)
声の主は水橋パルスィ。地霊騒ぎが終わった頃から地上のそこかしこに顔を出す鬼神の1人です。
ブロンドの髪とエメラルドの瞳、そこそこキュートな顔立ちにエキゾチックな雰囲気も相まって、黙っていれば
かなりのべっぴんさんなのですが、そこのところは腐っても橋姫。
ひとたび口を開けば「妬ましい嫉ましい」って、あんたの方がよっぽど妬ましいわコンチクショーと女性なら誰でも
突っ込みたくなる手合いなので――って、『えきぞちっく』ですと!?
「そういえば水橋さんって『橋姫』ですよね?」
「もちろん。妬み嫉んで千数百年、祖母の代より由緒正しい橋姫ですわ。なにか問題でも?」
「問題というか疑問ですね。その由緒正しい橋姫が、なんでまたパルスィなんて名前なんですか?」
「なるほど。まぁ、話すのはやぶさかじゃないけど天狗相手だとねぇ――あら? お酒が切れちゃったワー」
そう言いながら彼女は空いたとっくりをわざとらしく覗き込む仕草を繰り返すのです。
むぅ、2ボスとはいえ欲望に正直なところは実に鬼っぽいですが、こちらの足下をみるとは本当にいい根性してやがります。
しかし、毎度のことですがここで引き下がると明日の記事がありませんし、リグるンのようなケアレスミスで
清く正しい射命丸の名に泥を塗るようなことはもってのほかです。
「ミ、ミスチー。水橋さんにこの屋台で一番良いお酒をお出ししてください」
「ふぇ? ホント珍しいねぇ。――んじゃ、ま。期待に応えてじゃじゃじゃじゃ~ん、『菊理媛』~♪」
ちょっw、おまwww 場末の屋台でなんてもの扱ってるんですカァーッ!?
「あらぁ? なんか催促しちゃったみたいで悪いわねぇ。そうね、この名前にはちょっと深い訳があって――」
ウギギギギ、対価に見合わない内容だったら有ること無いこと捏造してばらまいてやりますから……。
『幻想郷の東西交流⑥ ~世界をつなぐ愛の架け橋~』
お詫び:『幻想郷の東西交流⑤ ~ホタルのばか~』は都合により永久欠番となります(註1)。
皆様ごきげんよう。幻想郷の異文化を訪ねる旅は早くも6回目を迎えた。今回はここしばらく交流が途絶えていた地底
世界へと足を踏み入れる。
太古の強大な一族が跳梁跋扈する地底に己の危険を顧みず潜入取材を試みる当社特派員。果たしてどのような大発見
をしたのであろうか?
地底の都市(註2)を目指して下りてゆくと、最初にたどり着くのが『地獄の一丁目大橋』である。
橋と言はっても実態は連絡通路であるのだが、地上側と地底側を繋ぐ境界としての役割から『橋』と呼ばれているのだ。
特派員はさっそく興味深い光景を目にすることとなる。それはこの橋を管理する橋姫の存在だ。
橋姫は行路守護神としての性格もあるが、本来は嫉妬の鬼神である。
鬼神と言えば山の四天王に代表されるような鬼を思い浮かべるが、橋姫は隠(おぬ)に由来する目には見えないチカラ(この場合は激しい嫉妬心)
に囚われて転化した旧いタイプの鬼だ。
このように橋姫はそれなりの歴史がある伝統的な日本妖怪であるが、幻想郷においては少々事情が異なってくる。
それというのも現在の行路管理者、自称三代目橋姫の水橋パルスィ(???歳)氏が文字通りのプログレッシヴな名前に加えて、
金髪と翠玉の瞳に透き通るような白い肌と、およそ日本妖怪離れした容姿をしているからだ。
何故このような事になっているのか?
我らの特派員が今回も突撃インタビューを敢行したところ、水橋氏から忌憚のないお話を伺うことに成功した。
――えー、それではよろしくお願いします。
「ええ、よくってよ」
――まずはズバリ、核心に迫りたいと思います。何故『パルスィ』?
「そうね。まず最初に断っておくけど、私自身は日本生まのれ日本育ちよ。創始者の祖母が有名な宇治の橋姫で、
欄干分け(註3)した母がここに橋を構えたのよ」
――なるほど、だから三代目というわけなんですね。
「それで核心の部分なんだけど、二代目の橋姫――まぁ、先に述べた私の母よね。彼女が現役バリバリの頃だから、
かれこれ400年は遡るのかしら? ふとしたことで自分探しの旅に出かけたらしいのよ」
――自分探しの旅ですか?
「ええ。なんでも嫉妬し続けることに嫌気がさしたんですって」
――えーっと。失礼ですが嫉妬してこその橋姫ではないのでしょうか?
「その通りよ。でも嫉妬するばかりじゃなくて、嫉妬させることも橋姫の領分と思い至ったみたいなの」
――なるほど、一理ありますね。それで御母堂はどうなされたんです?
「全国各地を行脚したあげく、最終的には海を渡って印度(註4)にまで辿り着いたって話よ」
――なんと、印度ですかっ!?
「どうやら『自分探しは印度へGO』って格言があるらしくって、母も流行の先取りってことで意気揚々と乗り込んだみたいね」
――橋姫って意外とアクティブなんですね。
「そりゃそうでしょ。37日間も河に浸って祈祷するだけ行動力がなきゃ橋姫なんかになれっこないもの。それはともかく、
遙々印度までやってきた母はそこで人間の男と恋に落ちたのよ」
――ほほぅ、人間ですか。
「そ、ただの人間。まぁ、鬼には人間から転げたのが結構居るから人間に惹かれることは珍しくないわ。とにかく、
2人は幾度となく逢瀬を重ね、そうこうするうち母は私を身籠もったのよ。でも所詮は妖ならざるものとの関係。
程なくして男は流行病であっさり死んでしまい、失意の母は独り帰国して私を産み育てたの」
――妖怪と人間、避けられない運命ですよねぇ……って、それとお名前になんの関係が?
「話は最後まで聞きなさい。死んだ男、つまり私の父は亡命拝火教徒(註5)だったらしく、そして母もなんのかんの言っても
嫉妬する橋姫だったのよ。つまり、逝ってしまった愛しい人とその事実への未練やら嫉妬の炎にちなんで私にこの名前を付けたってわけ」
――なるほど、それで『パルスィ』ですか。
「そういうこと。……まぁ、これだけなら美談で済むんだろうけど、この話にはちょっとした続きがあってね」
――続きですか? 伺がいましょう。
「さっきもちらっと話したけど、嫉妬させることも橋姫の領分と旅先で確信した母は、これからの橋姫は人に嫉妬されて
ナンボと実際にそうであるよう私を教育したのよ」
――へぇー、そーですカー。
「何よ? 疑うんなら地底で聞いてみなさいよ。貴方が思っているイメージと異なる事実がそこにあるわよ」
――いやまぁ、少なからず心当たりはありますので。
「まぁ、イメージは大切よね。何度も言うけど橋姫の本質は嫉妬することにあるの。嫉妬されることの重要性を説いてきた母が
さりげなく実践し、且つ私に橋姫の本質を叩き込むために持ち出したのが例の話だったのよ」
――えーっと、それはつまりアレですか? 口から砂糖を吐くっていう……。
「そう、あれは母の一世一代の惚気話なのよ。色恋の沙汰を知ってからその事実に気づいた時は妬ましいやら
羨ましいやらで生涯にこれ以上ないってくらい嫉妬したわ。それなのに母と来たら『これで貴方も一人前の橋姫ね』なーんて宣って、
私に三代目を襲名させてさっさと隠居してしまったのよ。ああ、ほんっと妬ましいわ!!」
――ざまa……いや、それはまことにご愁傷様です。本日はありがとうございました。
「貴方、碌な目にあわないわよ?(註6)」
さて、今回の取材で今日のような幻想郷が成立する前は、妖怪個人レベルの東西交流がそれなりにあったことが判明した。
また、わざわざ遠方に足を運ばなくても、あちら側からやって来てくれている例もこれまでの取材で明らかになっている。
せっかくご近所に西洋妖怪が来ているのだから、もっと積極的に交流を深めるのもまた一興だ。
まだまだ長い妖怪ライフ。暇つぶしの種は多ければ多いに越したことはないのだから。
次回「幻想郷の東西交流⑦」は凄く身近な西洋さん。『妖精てんこ盛り』をお送りします。
註1:改めて特派員を土下座させに伺いますのでご容赦ください。
註2:通称旧都。元々は火焔地獄のベッドタウン。火焔地獄が閉鎖されてからは寂れる一方。
註3:一般に言う『暖簾分け』に相当。
註4:西蔵からヒマラヤを越えた先の大陸南部を席巻する国。我らが天魔様の祖国でもある。
註5:波斯から印度へと逃れてきた拝火教徒。パルシーと呼ばれる。
註6:まったくです。
註7:千里眼なめんな。落ちるわけねーだろ、この駄烏!
~文々。新聞より抜粋~
「いやあ、なかなか濃厚なお酒ですねぇ。思い切った甲斐があるってもんです」
仕事をきっちり済ませたら今度はきっちり楽しむ番です。出費のことは後で考えるとして、今はみすち庵一番のお酒を
じっくりと味わいましょう。
「どうせ経費で落とすつもりでしょうに? しらじらしいわねぇ」
「それは言いっこなしですよ――ささ、パルさんもう一献(註7)」
「うぅ、○ルサンはだめぇ、みんな死んじゃう……」
飲むだけ呑んで泣いて酔い潰れたリグるンが、まるで中性洗剤ぶっかけた某虫みたいにピクピクしています。
これだけ呑ませてあげたんですから、今日のことは水に流してくださいよ?
「そういえばパルさんの御母堂は今は何をなさっているんです?」
「隠居してしばらくはおとなしくしてたけど、地上との交流が再開したら『今度こそ本当の私に会いにゆく!』とか言って出てったわ。
どうも世界のあちらこちらをバックパッカーよろしく巡り歩いているみたいなの」
そう言いながら水橋さんは旅先から送られてきたという写真付き葉書を幾つか見せてくれた。
いずれも立派な橋を背景に翠髪の和美人がたおやかに微笑んでいる。どことなく面影のある彼女が水橋さんの母親なのだろう。
ちなみに橋の写真ばかりなのはその筋のマニアなんだそうで。
ただ、それぞれに『落ちろ! ロンドン橋より』だとか『それ不倫ですから、残念! ローズマン橋より』等と、
いちいち達筆な呪詛を書き添えてある辺りはさすが橋姫といったところでしょうか。
それにしても――
「なんのかんの言って愛されてるんですねぇ。――っていうか、自慢するために常に持ち歩いてるんですか?」
「そりゃあ私は地底の嫉妬心ですもの。当然の嗜みよ」
「うわぁ、迷惑な話ですねぇ……」
嫉妬心を操る妖怪は嫉妬心を煽るための準備にも余念がないようです。
土○ほ○るって、今の子わかんないんじゃあ……
註8:何行か下の事ですね。
○○ー侍など懐かしいネタがあったりパルスィが人気者だったりと楽しかったです。
パルスィが、鬼とか鬼神と描写される場面がありましたが、本当にそうなのですか?