「おーい、霊夢! “人狼”やろうぜ!」
ああ、また魔理沙が誘いに来たみたい。
なんといったっけ、いま流行っているらしいゲーム……。
「えっと。“アンタが大将”だっけ?」
「“汝は人狼なりや?”だよ! 一文字も合ってないじゃないか!」
ああ、そうそう。紫が張り切って流行らそうとしてるみたいだけど、あいにくと興味がわかないのよね、それ。
だけど幻想郷では今ちょっとしたブームになってて、この魔理沙もハマってるみたい。それで毎日私を誘いに来てるんだけど……。
「試しにやってみなよ。最初は難しいけど、慣れれば楽しいんだぜ」
「私はいーわよ。全く、人間も妖怪も一緒に夢中になっちゃって。仲がよろしい事ね」
私は一言でいえば「面倒くさい」という理由で、結局は魔理沙の誘いにのらなかった。
でも、今にして思えば……。
なんで、あの時、誘いに乗らなかったのだろう。
魔理沙と一緒に“人狼”で遊んでいれば、あんな目に遭わなかったというのに……。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、見知らぬ部屋にいた。
5畳半ほどの小さな部屋に、古びた机が一つ。
私はすぐにこの部屋の“異常”に気付いた。――出口がないのだ。
四方を壁に囲まれている。四方が古びた木の板で塞がれている。
唯一、左手の壁際には押入れがあった。だが開けてみても、2組の布団しか入っていない。
やはり、ここは隔離された空間だ。
なるほど。分かりました。
「ゆかりー。早くここから出さないと、ゲンコツ一発じゃ済まないわよー」
私は犯人へと向けて即時解放を求める。
だが、これで「はい、分かりました」というような奴でないことだけは知っている。
さて、どうしたもんか。
「あ、あの。霊夢さん」
「えっ!?」
私は思わず驚きの声を上げてしまった。
振り向けばそこにいつの間にか、赤い髪の妖怪が立っていたのだ。
私に気配すら気付かせないとは……。こいつ、できる!
「あ、あんた。確か紅魔館の……」
「はい、小悪魔と呼んでください。どうやら私たちは“共有”みたいですね」
「は、はぁ…‥? ねぇ、あんた。ここがどういう所か分かってる? あんたも紫の奴に……」
私は小悪魔に話しかけ、しかし、途中で言葉を途切れさせた。
目の前に立つ小悪魔の表情を見ると、どうも腑に落ちないのだ。彼女は、落ち着きすぎている。
もしや、これは……。
「あの、霊夢さん? もしかして……」
「……悪いけど、一から説明してくれない? どうやら、あなたの方が事情を掴めているようだから」
この一連の流れ。今までの紫によるイタズラとは、ちょっと規模が違う。
こんな風変わりな建物まで用意して、私が寝ている間に移動させるとは、気合の入り方がワンランク上だ。
だというのに、この小悪魔はそんな壮大なイタズラに巻き込まれたとは思えないほど、落ち着いている。だから私は推測した。小悪魔は“巻き込まれたワケではなさそうだ”と。
「もしかして、ですけど。霊夢さんは、参加したくてここに来たんじゃないんですか?」
「参加って……何よ」
「え? それは、その……。“汝は人狼なりや?”ですよ?」
「あー、流行ってるアレね。あいにくだけど、私は一回もやったことないわ。だから自分から好きこのんで参加するワケないじゃない」
がたん。
私の言葉に、小悪魔が明らかに動揺した。
思わずよろめいて、背中を壁にぶつけてしまったようだ。
この反応で……なんとなく察しはついたけど。でも、私は悪くないわよ。私だって巻き込まれた被害者なんだから。
「えぇぇ!? これから、豪華賞品をかけた“人狼”が始まるんですよ!? なんで、そこに未経験者がいるんですかぁ!?」
「わ、私だって知らないわよ! 私は寝てる間にここに連れてこられたの!」
「し、し、しかも。“共有”ですよ! “相方”が初心者なんて聞いてません!」
「だから! 私にはその“共有”だの“相方”だのすら分からないし!」
ついには涙目になる小悪魔。そんなに初心者と組むのが嫌なゲームなのだろうか?
いや、というよりは……。そうか『豪華賞品をかけた』って言ってたな、こいつ。
獲得の不利を悟って、泣くほどに欲しがる賞品……?
「ちょっと。このゲームに勝つともらえる賞品って、何なの?」
「え? えーっと、ですね。この秋にとれる味覚一年分だそうです。松茸とか……いろいろ」
「え、本当に!?」
「そうですよ。ゲームマスター……つまり主催者の紫さんが、プレイヤーを募集する時に言ってましたから。勝利チームのプレイヤーに秋の味覚一年分、その中で生き残ったプレイヤーには紅葉狩りツアーもつけるって。……その時は何故か足元に、猿轡をハメられた秋さんたちが転がってましたけど」
小悪魔の話によると、数日前に紫が“人狼”プレイヤーに向けて大会の開催を宣言したらしい。
豪華賞品に釣られたり、または単純にゲームを楽しみたい面々が応募し、小悪魔もパチュリーと一緒に応募したんだとか。
……すると、やっぱり紫の奴が面白半分に私を巻き込んだってワケね……。
でも褒めてあげたいのは、ちゃんとした対価を用意しているってこと。
あの神様たちに何があったのかは知らないけど、おおかた紫にいちゃもんを付けられて大会賞品を用意させられたんでしょうが、私のやる気を引き出すのには一役買ってくれそうだわ。
「ねぇ、小悪魔。ちょっと私、やる気が出てきたわ。このゲームのルールを教えなさいよ!」
「……! そうですね。完全シロウトの霊夢さんが“共有者”を引いたのは、まだ救いがあるかも……。それじゃあ今から基本的なルールを……」
小悪魔が気を取り直し、私に向かって講釈を垂れかけた時、“不吉な声”が部屋に響き渡った。
『まもなく夜明けです。2分後に昼がきます』
なんだか水の中でしゃべっているようにくぐもった、でも明らかに紫の声。
そういえばさっき、小悪魔が『主催者は紫』って言ってたわね。すると今も、私たちを陰から覗いているのかしら。
紫めぇ……。初心者の私を強制的に参加させて、いったい何が楽しいのよ……。
と、思っていると。小悪魔がまたまた背中を壁にぶつけて、あたふたと焦り始めた。
「いっけない! もう夜が終わっちゃった!」
「は? どういうこと……」
「つまり、霊夢さんとは、もう喋れなくなっちゃうんです!」
「え、何なに? ルールを教えてもらう時間がないってこと?」
それは困るわよ。一体何をするゲームなのかも知らないんだから。
「こ、これ! 私がパチュリー様に書いてもらった初心者ガイドです!」
古びた、分厚い本を渡された。
「“昼”になったら、プレイヤー全員で一箇所に集まります! それまでに、その本でルールを覚えて……」
「む、無茶言わないでよ! さっき紫が2分後とか言ってたじゃない! こんな分厚い本、全部読めるわけ……」
「あと、えっと、初心者ってバレるのはマズいです。初心者っては言わないでください。あと、私とは他人のフリをしてくださいね、共有者ってバレると……。えーっと、あと、その本を読むなら見つからないように、こっそりと……。あ、あと!」
「ちょ、えあ!?」
突然、私の足元に“すきま”が開いた。
なるほど、この部屋は出入口がないから、こうやって移動させられるワケか。
そして最後、小悪魔の声がなんとか届いた。
「霊夢さん! 初日に『共有カミングアウト相方生存中』って言ってくださ……やぁぁぁぁ!?」
あー、すきまに落とされるのは始めてなのかしら? すごい悲鳴……。
……駄目ね、こりゃ。ルールも知らないのに勝てるワケがないわ。……やっぱり賞品は諦めて、適当に遊ぼうかな。うん、そうしよう。
そう思いながら、私はすきまの中を自由落下していった。
◇ ◇ ◇
ポケットの中に、いつの間にか封筒が入っていた。そこには「参加者各位へ」と紫の筆跡。中を開けると紙が二枚。
一方は参加者17人の名簿。もう一方は『役職内訳』とやらが書いてあった。
この村の『内訳』は
【村人陣営:村人7人・占い師1人・霊能者1人・狩人1人・共有者2人 / 人狼陣営:人狼3人・狂人1人 / 妖狐1人】
らしい。
なるほど。私は村人チーム。そして村人側には、私の他にも色々な『能力者』がいるようだ。
私は慌ててルールブックをめくる。これが、それぞれの『役職』の能力をまとめたモノらしい。
【村人】は何の能力も持たない一般人。推理し、発言して、投票することが唯一の武器。
【占い師】は夜の内に村人を1人選んで「占う」事ができる。占い結果によって、対象が“村人”であるか“人狼”であるかを知る事が出来る。(狂人は村人判定になる。また、狐を占っても村人判定になるが、翌朝に狐は死体となる)
【霊能者】は夜になると前日に処刑されたものが“村人”であるか“人狼”であるかを知る事が出来る。(狂人・狐は村人判定)
【狩人】は夜の内に村人を1人選んで「護衛」する事が出来る。「護衛」されている村人は、その夜に狼から「噛まれ」ても死なない。(狩人は自分自身を「護衛」する事は出来ない)
【共有者】村の中で唯一、夜の内に2人で会話が出来る。“相方”は確実に仲間であると分かる上、仲間と相談出来るのは心強いだろう。
……なるほど。これが村人の役職か。
私は【共有者】だったから、もう一人の【共有者】である小悪魔と一緒の部屋に送られて、昨晩は会話が出来たという事ね。もし私が、その他の【村人】や【占い師】とかだったら、一人であの部屋に送り込まれていたワケか……。小悪魔が『【共有者】だったのがまだ幸いだった』って言った意味が分かったわ。おかげさまで、少なくとも基本ルールくらいは身につけられそうだし。
えーっと。次は人狼チームの役職……といっても、こっちは二つしかないみたい。
【人狼】は夜に仲間同士で会話が出来る。また夜の内に村人を一人選択し「噛み」殺すことが出来る。
【狂人】は誰が“人狼”で誰が“村人”なのか分からない。能力も特にないが、人狼が勝利すると狂人も勝利になる。人狼の味方をする【村人】だと思えば良い。
……何これ? 狂人? 何の意味があるのよ、この役職。
それで、最後が……
【妖狐】人狼に「噛まれても」死なない。ただし「占われる」と死ぬ。村人でも人狼でもない、独立した勢力。最後まで生き残っていれば勝利となる。
ふぅん。どうせなら、妖狐が良かったわ。
誰にも迷惑かけなさそうだし……。
さて、とりあえず、ここまで分かったことを整理しましょう。
“汝は人狼なりや?”とは。
村の中に潜む“人狼”を見つけ出す、騙し合いと推理のゲーム。
今回、私が参加させられる村は『17人』。そして、この中に“村人”の敵である“人狼”が『3人』潜んでいる。
村人たち(村人のフリをした人狼含む)は毎日、それぞれが怪しいと思う人物に一票を投じ、最多得票者を『処刑』する。こうして人狼を全て退治すれば村人チームの勝ちである。
人狼は夜の内に、仲間同士で会話が可能(村人は会話が出来ず、誰が村人か人狼か分からない)。そして夜明けと共に、村人を一人選んで『噛み殺す』ことが出来る。こうして村人を噛み殺していき『自分たちの人数以下』にすれば人狼チームの勝ちである。
ただし、1人だけいる妖狐が「処刑」もされず「占い」もされずに生き残っていると、妖狐の一人勝ちになる。
……と。
ゲームのおおまかな流れを把握しておこう。
ゲームは1日目の夜から始まる(ここで会話が出来るのは【人狼】と【共有者】だけ)。そして2日目の朝に最初の犠牲者が死体となって、本格的に騙し合いが始まる。(ちなみに“初日犠牲者”という最初に噛み殺されるダミーが用意されているので、何もせずに噛まれてしまうプレイヤーは存在しない)
あとは
昼:村人同士で議論。時間が来たらみんなで投票、一人を吊る(処刑)。
↓
夜:人狼や共有が相談。
↓
夜明け:各能力者は能力を実行。
↓
昼:犠牲者が発見される。村人同士で議論。……繰り返し。
という風にゲームは進んでいくらしい。
……なんだ。案外と簡単そうなルールじゃない!
それに村人チームは私の他に、11人もいるんでしょ? 17人中12人なら最初っから有利ね!
これだったら初心者の私が混じっていても勝てそう。小悪魔は何だか慣れている風だったし。
私は村人チームを勝利に導けば、秋の味覚を頂ける……。さらに最後まで生き残っていれば、綺麗な紅葉も見れる、と……。ふふふ。
狙うわ。最近は異変が多くて、あまり遊べてなかったし、狙わせてもらうわ。
秋の味覚と紅葉狩り!
基本的なルールを把握した私は、少しだけ自信をつけ、やたらと長かった“すきま”旅行を終えた。
◇ ◇ ◇
ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。
紫。何で私をこんな目に合わせるのよ。あんまりじゃないの。私が何をしたっていうのよ。ちくしょう。
ヤバい。ヤバい。……
――いや、落ち着こう。
ひとまず、私がこうやって、全身から冷や汗を垂れ流しにするハメになった原因を振り返ろう。
私はすきまから抜けだすと、何やら広い部屋に降り立った。
神社の境内くらいあるんじゃないの? ってくらい広い部屋。その真ん中に、会議をする為のような、これまた巨大な円卓が置いてあった。
そして、そこには既に“プレイヤー”たちが居並んでいたのだ。
「おーい。早く席に着いてくれよ! 時間がもったいないって」
妹紅の奴が、私の方を向いて大声を上げる。
私はハッとすると、平静を装いながらテーブルへと駆け寄った。
とにかく、言われた通りに動こう。
小悪魔は初心者とバレるとマズイって言ってた。勝手が分かっていないと悟られるのはいけない。
「いや、ごめん! おまたせ」
唯一、空いていた椅子に腰かけると、天井からアナウンスが流れてきた。
がたん。
という音と共に、天井に大きな穴があいた。人がひとり通れるくらいの、死刑台の床を逆から覗いたみたいな、そんな穴。
そこからテーブルの真ん中に“死体”が落ちてきた。
「うっ、うわ!?」
私は思わず仰け反ってしまう。それは……紫の死体だった。全身にべったりと血糊のついた紫の死体……。
だが、そんな異常事態にも、テーブルを囲んだ私以外の15人は至って冷静だった。
「ふーん。八雲紫が初日犠牲者役なのね。まぁダミーがGM(ゲームマスター)っていうのは合理的ね」
「さっ、早く始めましょう。時間が勿体無いです。昼は30分しかないんだから」
咲夜の声と、場を取り仕切るような藍の声。
主人の死体を前にして冷静な藍。その姿を見たおかげで、私は逆に落ち着きを取り戻した。
流石に紫が死んでいたら藍だって、もっと大騒ぎするだろうから。
あぁ、そうか。初日に狼に噛まれる役は決まっているんだっけ。初日犠牲者とかいうダミー役。
それを紫が請け負ったってワケね……。うん、よく見りゃ紫の死体だと思ったのは“よく出来た”人形だわ。全く、余計な緊張をさせないでよ。
っという具合で、ここまでは私も冷静さを保てていた。
だが。
次の瞬間からである。私が冒頭の状態に陥ったのは。
「それじゃ、占いCO寅丸◯(村人)よ」
「占い結果、星さんは村人でした」
パチュリーと早苗が、ほぼ同時に声を上げた。それを聞いて、村がどよめく。
「占い2? で、いきなり両方から◯をもらうとは。……早々に噛まれてしまいそうですね」
「確定◯がいきなり出来ちゃったわね」
「偽がわざわざ◯を被せてくるかね? 初日占いも考えておくぜ」
「初日に役職とは、心配性ですね。どちらかは真だと思いますよ」
「◯進行ねぇ。霊能は出てきた方がいいんじゃないかしら」
ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。
あんたたち、なにいってんの? ここは幻想郷よ、日本語を話しなさい。
しかも、普段は阿呆みたいな顔した奴らまで、とにかく早口でまくし立てる。
中には私と同じく、ほとんど喋ってないのもいるけど……。
もう、会話の内容にも早さにも全くついていけてない。それが自分でもよく分かる。
「◯進行か。霊能カミングアウトする」
「へぇ、慧音が霊能ね。……対抗はいないの?」
「ふーむ。2-1ライン……ですか? 本当に役欠けかもしれませんねぇ」
「私の視点では、占いは真狂。狼は全潜伏のようだな。……思い切った事をする」
ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。
私一人で、どうしろってのよ。私は1分前にルールを知ったばかりの初心者なのよ?
こんなの分かりっこないじゃない。ついていけるわけ……。
あ。
そうだ、私には……仲間がいたんだ。
ちょうど、テーブルの向かい。そこに座っている小悪魔へと目線を送る。
だけど私だって馬鹿じゃない。何となくだけど、ここで小悪魔に「おつかれ相方。私はどうしたらいいの?」と声を掛けるのがマズいことくらい分かっている。
それは小悪魔の様子を見ても察しがついた。彼女は私から視線を外して議論に参加し、しかしチラチラと私へ視線を送ってくれている。
そして、彼女がこっそりと、手元を指さした。まるで私に「下を見ろ」とでも言うように……。
私は小悪魔に指図されたように、自分の手元を見てみる。するとそこには、テーブルに埋め込まれたガラスのような綺麗な板があった。
そして、そこに書かれている文字を見て、すぐに私はそれが何なのかを理解した。
これは、メモ帳だ。
しかも、自動で誰かが書き込んでくれる、魔法のメモ帳!
そこには、このような表示がなされていた。
咲夜 :「ふーん。八雲紫が初日犠牲者役なのね。まぁダミーがGMっていうのは合理的ね」
藍 :「さっ、早く始めましょう。時間が勿体無いです。昼は30分しかないんだから」
パチュリー:「それじゃ、占いCO寅丸◯(村人)よ」
早苗 :「占い結果、星さんは村人でした」
星 :「占い2? で、いきなり両方から◯をもらうとは。……早々に噛まれてしまいそうですね」
アリス :「確定◯がいきなり出来ちゃったわね」
魔理沙 :「偽がわざわざ◯を被せてくるかね? 初日占いも考えておくぜ」
妖夢 :「初日に役職とは、心配性ですね。どちらかは真だと思いますよ」
アリス :「◯進行ねぇ。霊能は出てきた方がいいんじゃないかしら」
慧音 :「◯進行か。霊能カミングアウトする」
妹紅 :「へぇ、慧音が霊能ね。……対抗はいないの?」
お燐 :「んー。霊能の対抗はいないみたいだねぇ」
射命丸 :「ふーむ。2-1ライン……ですか? 本当に役欠けかもしれませんねぇ」
慧音 :「私の視点では、占いは真狂が濃厚。狼は全潜伏のようだな。……思い切った事をする」
ゲームが始まってからみんなの喋った事が、発言者の名前つきで表示されている。
しかも大声での発言は太字にされていたりと、なかなか親切なメモだ。
なるほど、これなら慣れていない私でも、内容を振り返りながら話に参加できる……
……ワケないでしょーが!
まず「シーオー」とか「カミングアウト」とか「ライン」とか、専門用語が分からなくてチンプンカンプンなのよっ!!
くっ……、小悪魔と自由に会話が出来るのは、この昼が終わっての夜。それまで、自分は何とかして会話を理解しなければ。
私が“会話”の推理をしている間も、村人たちの“本当”の推理はメモ帳にドンドンと書きこまれていく。
お燐 :「狼の全潜伏? そうは思えないけどねぇ。初日霊能者ってことも考えられるよ。真霊能潜伏とか」
妹紅 :「霊能潜伏はやめて欲しいなぁ」
妖夢 :「とりあえず、他にCOはありませんか? 共有は潜伏ですかね」
藍 :「霊能が出てきているんだ。狩人の護衛先負担を減らす為にも、共有潜伏でもいいでしょう」
魔理沙 :「狩人の負担なんて、狩人に全部押し付けてしまえばいいじゃないか」
パチュリー:「対抗が◯に被せてきたのは、私からしても不可解ね。ほぼ同時だったけど、偶然だったのかしら?」
早苗 :「少し後追いCOになってしまいましたが、星さん◯は変えられませんでした。だって私が真占いですから」
星 :「僅かにパチュリーさんの方が早かったとはいえ……。ほとんど同じタイミングでしたからね。COの早さから真偽をつけるのは難しいです」
鈴仙 :「うーん、ふたりとも怪しいわね。私は両方騙りに感じるわ。初日占いかも」
射命丸 :「少なくとも真狼はないと思います。もし占いが真狼のパターンがあるとしたら、初日狂人ですかね」
咲夜 :「真狼-狂の初日霊能だってあるでしょ? この場合は狼視点からも、霊能の真偽が分からない事になるけど」
慧音 :「やれやれ、みんな役欠けを気にしすぎだ。私は対抗が出てこない以上、全潜伏を主張するよ」
く。あんたら、少し会話を止めてよ! まだ私は最初の段階でつまずいてんだから!
とりあえず、私が理解できるのは。ここね。
「かみんぐあうと」と「しーおー」はおそらく同じ意味。そして意味することは『皆に結果を打ち明ける』って事でしょう。
でも、そうなると分からないのが……。
パチュリーと早苗が「占い結果」を発表したって事。これがオカシイじゃない。だって、占い師は1人しかいないはずでしょ?
……あぁ。ということは、この内のどちらかが「偽物」という事か……。
占い師は毎晩、一人ずつ村人を占って“村人”か“人狼”かを調べることが出来る。そして昼になったら村人たちにそれを教えてあげられる。【人狼】からすれば、この占い師に調べられていく事が厄介。
そこで【人狼】は偽物の占い師を名乗りでるって事ね。村人からすれば、どちらの占い師が本物で、どちらの発表した占い結果が本物か分からなくなる……と。
でも、どちらかは本物だから、どっちからも「村人です」と言われた星は“村人”である事が確定……。それが皆の言ってた「確定◯」って事ね。◯は村人って意味か。じゃあ人狼はきっと●なのかしら。
あ、だけど……魔理沙は、初日犠牲者が【占い師】かも知れないって言ってるわね。初日犠牲者が「役職」という可能性があるってこと?
えっと。こっそりとルールブックを読みましょう……。
……なるほど。初日犠牲者はランダムで「村人・占い・霊能・狩人・共有・狂人」のいずれかの役職になるんだ。
つまり、占い師がいきなり噛まれた状態からスタートしていて、パチュリーも早苗も「偽物」って事が考えられる、と……。
でもそれは「霊能CO」した慧音にも言えること。1人しか名乗りでなかった霊能者でも、それが偽物の可能性はあるんだ……。
あっ! そっか! 【狂人】は、こうやって村の能力者の「偽物」として出てくるって役目があるのね?
慧音の言ってた「占いは真狂」っていうのは、出てきた占い師が「本物の【占い師】と【狂人】による偽物」ではないか、って推理したって意味か。
うーん、流石ね。初プレイでここまで理解できるなんて、私は天才なのかしら。
咲夜 :「そうなると、グレランかしらねぇ」
藍 :「まぁ、◯進行である以上はグレランだろう」
鈴仙 :「まぁ、当然よね。でもグレランするなら共有COして欲しい」
パチュリー:「占いとしても無駄占いしたくない。片方くらいは共有、出てきて欲しいわね」
小悪魔 :「そうですねぇ。狼が全員グレーにいるとしても、グレー12人中の人狼3人で【人狼】が吊れる確率は4分の1です。一方で【共有者】か【狩人】が吊れる確率も4分の1ですからね。運が悪いと共有や狩人が吊られてしまうかも」
射命丸 :「うーん。まぁ、COは共有者さんにお任せでしょう? グレラン回避に自信があるんじゃないですか」
また分からない単語が出てきたわね。
「グレラン」って何かな? 明日の夜になったら小悪魔に聞いてみよっと。
妹紅 :「グレラン、というよりはステ吊りしたいわね」
アリス :「確かに、完ステなんか残しておいてもねぇ」
あー、もう。新しい用語を生み出しまくってんじゃないわよ! こっちは何とかついて行ってるってレベルなのに……。
と……あれ?
なんだか、村全体から視線を感じる……。
小悪魔の顔がこわばっているようにも見えるし……。
早苗 :「完ステが人外って滅多にないと思いますけどね。まぁ、逆に共有や狩人でもなさそうですし。ステ吊りでいいかもしれません」
鈴仙 :「そうかしら? やっぱり狼臭いところを吊っていきたいけど。霊能は1人だし、霊能結果が決まりきってる所を吊ってもねぇ」
お燐 :「おや、兎さん。霊能が真なんて確定してないんだよ?」
射命丸 :「真狂-真、真狂-狼。どちらかだと思います。後者だとしたら、尚更グレランは不利ですね」
魔理沙 :「狂狼-真。これも十分に考えられるじゃないか」
パチュリー:「魔理沙は随分と【占い初日】であって欲しいみたいね?」
魔理沙 :「おいおい、私を狐だと疑ってるのか? 私が狐だったら、そんな露骨な発言はしないがね」
妖夢 :「まぁ、今日のところはグレランでいいんじゃないですかねー」
お燐 :「役職が完ステだったら、あたいは知らないよ、もう」
うーん。すごい視線を感じる。みんなが言ってる「完ステ」って……もしかして……。
私のことなの?
ってことは、みんなは私を吊る。……つまりは「処刑」しようとしてるって事??
それって、マズくない? だって私は【共有者】なんだから。私が吊られたら、マズくない?
こ、こういう時は小悪魔に助けを……
と、視線を彼女に向けた。
小悪魔は、何とか無表情の中にも、私へのメッセージを伝えようと、眼球や鼻先をピクピクと動かしている。
でも、何を伝えたいのかは分からない。
そりゃそうだ。小悪魔は自分が【共有者】であるとバレたくないって言っていた。
私に伝わりやすいように伝えたら、周りのみんなにも私と小悪魔が【共有者】だってバレちゃうもの。
く……。ちょっと待って。ヤバい。
みんなの会話の流れを見ると、このままだと私に投票されてしまう。
そうなると……「処刑」されるのよね……。今日の紫みたいに、ダミー人形がゴトンと落ちて……。
それで、私の紅葉を見ながら秋の味覚を楽しむ計画も、潰えるってこと?
ゆ、許されない。
それだけは絶対に阻止しなければ。「完ステ」から脱しなければ。
なんで私は「完ステ」になってしまってるの? 何がみんなと違うっていうのよ?
……分かりきってる。
だって、私はゲームが始まってから、ひとっことも喋ってない。それが「完ステ」。
そして目の前のメモ帳と、ずーっと、にらめっこしてる。
そうか。「完全なステルス」。発言をせずに隠れようとしているって意味か。
……怪しい。確かに怪しい。傍から見たら怪しすぎる。
でも、でも私は【狼】じゃないのよ。村の役職である【共有者】なの。
あんたたちも言ってたじゃない。【共有】や【狩人】が吊れちゃうかも、って。
このままじゃ、その【共有】が吊られちゃうのよ? なんとか、なんとかしないと……。
小悪魔 :「そろそろ時間ですねぇ。共有のカミングアウトもないようなので、不本意ですが、グレランといきますか?」
咲夜 :「……実質、選択肢は2つだけどねぇ」
星 :「まぁ、誰かは最初に吊られるワケですから、しょうがありませんよ」
妹紅 :「一言も喋ってない人は、やる気ないと見られてもしょうがないわ」
妖夢 :「そうですね。そういう人に最終日まで残られても、村としては困るっていうか……」
射命丸 :「あ、これ。ディスプレイに残り時間が表示されてるんですね。気付きませんでした」
小悪魔 :「ひ、昼の、残り時間は……1分ですね」
咲夜の発言、「選択肢は二つ」
そう、私の他にもう一人。完ステがいる。
テーブルの前で唸っているばかりで、会話に全く参加していないのがいる。
チルノだ。
妖精にはこのゲーム。荷が重すぎるようね。
考えるので精一杯で、会話に参加できていない。
……私も、その妖精と同レベルの状況なんだけどさ。
小悪魔 :「本当に、共有はCO無しですね?」
早苗 :「ちょっと、ちょっと。もう、共有はいいでしょう?」
妹紅 :「ふふ。何か焦っているように見えるわね」
わぁ、妹紅が思いっきり小悪魔の方を見てるぅ。怪しまれちゃってるのかな。
それにしても小悪魔ったら、怪しまれちゃうような発言を、何でそんな必死に……
って
私が吊られそうだからに決まってるじゃない!!
あー、はいはい。ようやく、思い出したわ。
小悪魔がきっと、何度も危険を犯して「カミングアウト」って言ってくれたおかげで! 1日目の夜の、最後の言葉を思い出した!
霊夢 :「共有CO(カミングアウト)相方は生存中よ!」
手元のメモ帳に、ようやく私の名前が書きこまれた。
そうだ。小悪魔は完全初心者の私が「こうなる」事を予想して、初日から共有である事をカミングアウトするように言ってくれたのだ。パニックになって忘れてしまうなんて、小悪魔に迷惑を掛けたわ。
でも大丈夫。これで私が吊られる心配はない。
魔理沙 :「あ、本当か!? 対抗は、いないよな?」
藍 :「共有把握だ」
妖夢 :「共有把握ですー」
妹紅 :「危ないわねぇ。共有把握」
星 :「共有把握しました」
咲夜 :「やれやれ。随分と粘ったわね。COしてなきゃ、確実に吊られていたわよ?」
お燐 :「それで有力な吊り先が消えちゃったけど、結局はどうするんだい?」
射命丸 :「それは、まぁ。グレランでしょう? ね、共有さん」
あ、え? なんか文が私に聞いてきたけど……。
私はそもそも、その「グレラン」が何なのかさえ分かってないんだっての。
ど、どう答えればいいのよ。
これじゃ初心者ってカミングアウトしなくても、バレバレじゃないの……。
小悪魔 :「共有さんに聞くまでもないでしょう? 今日はグレランです」
霊夢 :「まぁ、そうね。グレランでいきましょう」
た、助かったわ……。ありがとう小悪魔。
もう。私は早く吊られて、小悪魔に全てを託した方が楽な気がしてきた……。
別に生き残らなくても、村人チームが勝てば秋の味覚はゲットできるんだし……。
まぁ紅葉狩りも行きたいけどなぁ。最近は山の天狗がうるさくて、紅葉を見に行けないし……。
アリス :「それにしても、ねぇ。いつもはあんなに騒いでいるのに。チルノって人狼プレイ中は、随分と静かなのねぇ」
チルノ :「うー。うるさいなぁ。あたいは今、頑張って考えているんだ」
鈴仙 :「霊夢さんが本当の共有なのですかね。さっきまでの態度を見ていると疑わしいわ」
お燐 :「おいおい。対抗COがないんだから、真共有に決まってるじゃないのさ」
『昼の時間が終わりました。投票の時間です。各自投票してください』
アナウンスが流れると同時に、円卓を囲っていた私たちを仕切るように、結界が張られた。
それは結界というより「真っ白な壁」に近い。それぞれは他のプレイヤーと仕切られ、みんなの姿は見えなくなってしまった。
「……あっ。メモが」
目の前にあるガラス板のメモ。その僅か下にある細い隙間から、紙が出てきた。そこには、さきほどまでガラスに表示されていた、今日の会話の全てが書き写されている。
そして、ガラスにあったメモが消えて、代わりに“あるもの”が現れた。
それは、投票画面だ。
みんなの名前と顔写真がずらっと並んでいる。「写真協力:文々。新聞」と添え書き付きで。
その添え書きの下には投票に関する説明文があり、顔写真を指で触って投票先を選ぶように書かれていた。
……すっかり忘れていたけど、渡された封筒に参加者一覧も入っていたっけ。目の前のガラスにも記されているけど、改めて参加者を確認してみよう。
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◇博麗神社村 参加者一覧(17名)◇
霊夢 | 魔理沙 | アリス | 咲夜 |
チルノ | パチュリー | 小悪魔 | 藍 |
慧音 | 妹紅 | 射命丸 | 早苗 |
お燐 | 妖夢 | 鈴仙 | 星 |
紫(初日犠牲者) |
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うーん。この中に【人狼】が3人、人狼の味方の【狂人】が1人いるのか。……それに【狐】1人も見つけなきゃいけないんだっけ。
そして、これから。この中の一人が選ばれて「処刑」されてしまうんだ。
とりあえず、私は吊られる心配をしなくてよい。だって村人チームって事が確定している【共有者】だから票をもらわないはず。人狼だって私に投票したら「私が人狼です」って言っているようなものだから、一票だってもらわないで済む……はず。
……でも私に分かっているのは、小悪魔が共有者って事だけなのよねぇ。人狼を見つけるにしても、どうしたらいいのかしら?
“早苗”も“パチュリー”も“慧音”も、役職をCOしたけど本物って保証はないし……。二人から◯をもらった“星”にしたって占いが両方偽物だったら、村人って保証はないのよね……。
……あっ!
そうか! 「グレラン」の意味が、ようやく分かったわ!
ようするに、何のCOもしていない、占いに◯と判定されてもいない、そういう「グレー」な人の中から「ランダム」で投票先を選ぶってことね! グレーランダムでグレランか!
そうすると村人16名から【共有】である私と小悪魔、【占い】の早苗にパチュリー、【霊能】の慧音、占われた星を抜いた10人から選ぶことになる。
あ、でも……。小悪魔が【共有】っていうのは、私以外は知らないんだ。
だから、もしかしたら小悪魔が吊られちゃうかもしれない……。そうだとしたら、なんで小悪魔は共有COをしなかったのかしら……。
うーん、私には分からないけど、共有であることを伏せることに何らかのメリットがあるようね。
それから私はしばらく、今日の会話メモを眺めていた。だけど初心者である私には、どの発言が狼っぽいとか、村っぽいかなど、分かるワケがない。
だから今日のところは、自分のカンに任せて投票することにした。
それに投票が終われば、夜になる。夜になったら、また小悪魔と会話が出来るのだ。そこで色々と質問して、明日から私はどうすればいいかを教えてもらう事にした。
……やっぱり。紅葉狩りと秋の味覚は、譲れないわね。
私は決意した。――小悪魔と一緒に、力を合わせて勝ちにいく!
人狼どもめ、私が初プレイだからってナメないでよ!
それと紫! 私のあたふたする様子を観察しようと思ってるんでしょうが、そうはいかないっての! 首を洗って待ってなさい!
◇ ◇ ◇
博麗神社村 2日目投票結果
霊夢 (0票)→アリス | 魔理沙 (1票)→お燐 | アリス(2票)→チルノ | 咲夜(1票)→アリス |
チルノ(6票)→小悪魔 | パチュリー(0票)→チルノ | 小悪魔(3票)→射命丸 | 藍 (0票)→チルノ |
慧音 (0票)→小悪魔 | 妹紅 (0票)→チルノ | 射命丸(1票)→魔理沙 | 早苗(0票)→小悪魔 |
お燐 (1票)→チルノ | 妖夢 (0票)→チルノ | 鈴仙 (1票)→咲夜 | 星 (0票)→鈴仙 |
――残り15人となった村は、2日目の夜を迎える。
続きまってます
続き期待してます
それにしても霊夢さんの把握能力は末恐ろしいNE
続きに期待。
まるでプルプル震える羊さんのようだ。
用語解説も分かり易いですし、巻き込まれ初心者視点なのでハラハラ感が凄いです。
楽しませて頂きました。
人狼は慣れゲーですからね。魔理沙も言ってますが、最初は難しいけど慣れると楽しくなってくると思います。
>>8さん
一応書きためてはいるのですが、日にちごとに分けた方がいいかなと思いまして。
近々続きを投稿します。
続き読んできます