*注意書き*
・最初レイアリですが後マリアリです。
・霊夢が良い人。
・魔理沙が絶好調。
・紫が悪役みたいになってるのは気のせい。
・キス表現あります。
以上が大丈夫そうでしたらお進みください。
今この手に3億円あったらどう使おう。
空っぽのお賽銭箱を他人事のように見つめながら霊夢は首を捻った。
きっと一生食って暮らせる。
ふふとにやける口元。
のんびりと特に何ごとにも使わず少し高価なお茶と少し高価なお茶菓子があれば幸せかもしれない。
「―はっ」
なんて狭い思考なのかしら。
3億円もあるのだからバーンと大きな買い物をしてみる根気くらいないの?
捻っていた首をふるふると横に振った。
そうしてありもしない3億円について思想に耽るのだった。
境内の掃除のときも縁側で寛いでいるときも萃香と飲んでるときも魔理沙と話してるときも考えていた。
「悩み事?」
あれ、魔理沙ってこんな声だったかしら。
違和感を感じて隣に目を向けると背の高い金髪の少女がこちらを伺うよう見ていた。
目が合うと彼女は「こんにちは」と言ってにこっと笑った。
いつの間に来ていたのだろう。
そしていつの間に魔理沙は帰ったのだろう。
どうやら随分と上の空だったみたい。
幸いアリスは今来たみたいで隣に座ると毎度お馴染みの手作りお菓子をくれた。
「ねぇアリス」
「何かしら?」
「もし今3億円あったら何に使う?」
人の意見を参考にしてみようと思う。
アリスは何に使うのだろうか。
あまり私欲が強いようには見えない。
あ、でも蒐集家だから欲しいものはたくさんあるのかも。
「え、3億円?そうねぇ取りあえずあの子達の洋服を新しく作って、調理具もそろそろかえ時だったかしら…それから」
色々あるみたいだった。
主に家庭的な物ばかりだったけれど。
永遠に続きそうだったので途中で止めさせると最後に「あとは寺子屋に寄付するわ」と言った。
うん、アリスらしい。
きっとアリスがいれば食って暮らしていける。
ん?…3億なくてもアリスがいれば楽して暮らせるじゃない。
いいえ、寧ろ3億より魅力的!
料理は美味しいし、掃除・洗濯そそなくこなすし、よく気が効くからお茶とか言わずとも出してくれそう。
何この子、すごく嫁にしたい。
「アリス」
「今度はなぁに?」
「結婚しましょ」
「そうね、霊夢………って!な、なな何言ってるのよっ!」
「だって貴女がいれば3億円なんて要らないもの」
「れ、霊夢」
3億円、たかが3億円、されど3億円。
300000000円。
いくら0の数が増えたってアリスには勝てないわ。
アリスがいれば私は一生楽してのんびりと暮していけるんだから!
「そういうのは好き合ってる同士がすることであって…私と霊夢は別にそんなんじゃ…」
「それなら問題ないわ。アリス、私のこと好きでしょ?」
「?!」
分かりやすい子。
真っ赤になって慌ててるアリスの頬を撫でてあげると更に耳まで赤く染まった。
アリスが私に想いを寄せていることには気付いていた。
今の今まで気付いていない振りをしていたけど可愛いからもう苛めるは止してあげよう。
わざと素っ気ない態度を取ったり、何とも思ってないように振る舞ったり、魔理沙のことが好きみたいな態度をするのも面白かったけど私もアリスのことが好きだからもう終わり。
「ちゃんと答えてアリス、私のこと好きなの?」
「……好き」
「ん、可愛い」
居心地悪そうに目を逸らす行為さえ可愛い。
睨みつけるように見ているような気がする上海の顔を手で覆って、静かにアリスの頬に唇を寄せた。
そのまま耳元まで移動し、人形だから別に訊かれても構わないけれど念の為上海が聞き取れないくらいの声量で囁く。
「私も好きよ」
* * * * *
さてさて目出度くアリスと両想い。
さあ結婚!
…と上手く行くはずもなく。
アリス曰く、結婚前提のお付き合いを始めるわけだけど。
「自覚を持ちなさい霊夢」
「持ってるわよ!」
「いいえ、全然分かってない。貴女は博麗の巫女なのに妖怪と付き合ってどうするのよ」
「別に関係ないでしょ」
紫にすごい剣幕で説教されている。
言いたいことは分かるし、きっと私が間違っている。
でも私は博麗の巫女である以前に1人の女の子。
少しくらい普通の幸せを願ってもいいじゃない。
「別れなさい。言うこときけないのなら武力行使にでることになるわ」
「…っ」
アリスを殺すってこと?
ぶわっと紫の辺りに不穏な殺気が漂う。
目が本気で霊夢の言葉を飲み込んでしまう。
無言の押収のあと紫はもう1度霊夢にアリスと別れるよう釘をさして消えた。
張りつめていた息を吐き出し霊夢は静かに行き場のない苛立ちの対処について考え始めた。
* * * * *
最近、霊夢の様子がおかしい。
妙に苛々している気がする。
何かあったのかしら?
人里に出かけている霊夢の帰りを神社で待ちながらアリスは自分に思い当たる節がないか思い出してみるが特に浮かばない。
あの霊夢が怒ることならすぐに出てくるはず。
原因は間違いなく自分だということは明確なのに思い当たらない。
無意識で私は霊夢を怒らせるようなことをしてしまっているのだろうか。
霊夢が不機嫌なのはアリスと一緒にいるときだけ。
他の妖怪の前ではいつも通りの面倒くさがりだけど優しい霊夢。
魔理沙の前でもレミリアの前でも誰の前でも変わらない。
変わるのはアリスと一緒にいるときだけ。
アリスが原因とみて間違いないはず。
何だろう。
「まだいたの?」
冷たい声に反応して顔を上げると眉を顰めた霊夢の姿。
「あ、うん…おかえりなさい霊夢」
今日もご機嫌斜めだった。
アリスを気に掛けることもなく素通りしようとする霊夢の腕を掴むとすごい勢いで払われる。
「れい、む?」
「…しつこいのよ、あんた」
震えた声でそう呟く霊夢は下を向いていて表情は伺えない。
震わせてしまうほど霊夢を怒らせてしまっているのに理由が分からない自分が憎くて仕方なかった。
でもそれより霊夢に触れることを拒絶されたほうがショックで茫然と立ち尽くすしかないアリス。
そんなアリスに霊夢は顔を向けると息を吸い込み
「少し遊んでやったからって調子に乗らないでもらえる?はっきり言ってうざいの!あんたが私のことバカみたいに好きだったから一時的な夢を与えてあげたっていうのにどれだけ傲慢なの。霊夢霊夢って尻尾振って毎日楽しかったでしょ?でももう終わり。アリス、貴女にはもう飽きたわ」
一気に言い放つ。
アリスは一瞬自分が何を言われているのか理解できなかった。
脳内で繰り返される霊夢の言葉がじわじわと感情を蝕んでいく。
そして涙が零れかけたその時、視界が急に真っ黒になった。
目を開けているのに黒しか見えないし息苦しかった。
けれど…とても温かかった。
それと同時に部屋に乾いた音が響く。
何の音かは大体予想がつく。
「見損なったぜ、霊夢」
聞き覚えのある声がした。
姿は見えない。
きっと抱きしめられてるんだ。
心音が聞こえる。
怒りで興奮してるのか抑えた声に反して激しい心音だった。
それでいて力強い。
これは――。
「魔理沙、来てたの」
そう、魔理沙だ。
アリスを抱きしめたまま霊夢を睨む魔理沙。
頬を叩かれたのに特に動じた様子のない霊夢に魔理沙の怒りは更に募る。
「あぁ時間通りに来てやったのに気分悪いものみせられたぜ」
「悪かったわね、もう少し遅れてくると思ったから…奥にあるわよ頼まれてたもの」
「ふざけんな!今そんなことどうでもいいだろ、お前自分がアリスに何て言ったか分かってるのか?」
「何怒ってるのよ、あんたアリスのことが好きなんでしょ?魔理沙には好都合じゃない」
「…もういい、黙ってくれ」
アリスを片手で抱いたままミニ八卦炉を構える。
魔力の流れを肌で感じ魔理沙の腕の中でアリスの体がびりっと痺れる。
事態の悪さに気付いたアリスは魔理沙を押し返した。
「やめて、魔理沙!」
「退けよアリス」
「私を庇うの?そんなことしなくても魔理沙如きにやられないわ。どうせなら貴女も一緒に片づけてあげるけど」
余裕そうに笑みを浮かべる霊夢を見ていられなくて魔理沙に視線を戻す。
目で早く退けと訴えている魔理沙に首を振った。
「…魔理沙」
「何だよ」
「………帰りたい」
霊夢とアリスを交互に見た後魔理沙は渋々ミニ八卦炉を下ろした。
下を向き自分のスカートを握りしめているアリスに黙って手を差し伸べると大人しく魔理沙の手を握り2人で神社を後にした。
誰も居なくなった部屋で霊夢は未だに震える身体を必死に抑え魔理沙とアリスが見えなくなるまで見続けていた。
* * * * *
七色の人形遣いが人形のようになった。
そう口ぐちにみんな言う。
「おかえりなさい、魔理沙!」
「ただいま、アリス」
これの何処が人形なんだ。
心底安心した様子で魔理沙に駆け寄ってくるアリス。
瞳はちゃんと輝いているし、体温もちゃんとある、表情だってある。
アリスはアリスだ。
ただし、私の前だけ。
あれからアリスは泣き続けて食事も睡眠もとらず悲しみに暮れていた。
妖怪だから死にはしないものの見ていて悲痛だった。
それでも魔理沙はアリスの元を離れなかった。
この状態ではアリスを1人にできないのと、アリスのことを愛してるから。
話しかけても反応のないアリスに毎日話しかけて、食べてくれないご飯も作った。
夜は泣き続けるアリスを腕に抱いて背中を擦り続けた。
そんな生活が何月か数年か分からないが続き、アリスもいつものアリスに戻りつつある。
それでも人妖不信気味なのが未だ抜けきらない。
魔理沙以外の人間、妖怪を前にすると人形のように表情をなくす。
表情どころか感情自体を殺しているようにも見えた。
それだけアリスが霊夢に対する愛情が深かったんだろう。
私にだけでも笑ってくれるようになっただけ進歩したと思う。
魔理沙はアリスの家で一緒に暮らし始めた。
家事全般はアリスに任せている。
最近は和食も作れるようになったらしく魔理沙の好きなものを作ってくれる。
幸せだった。
こんなこと感じたら駄目だって分かっていても毎日が楽しかった。
結ばれないはずだった親友の恋人と一緒に暮らしているんだ嬉しくないはずがない。
これは私の我がままだ。
アリスと恋人同士になりたいなんて。
傷ついた心につけ込むみたいで汚いやり方だとかなんと思われてもいい。
誰かを愛してもいいことを、愛されることを教えてやりたい。
アリスはずっと自分が悪いと思っている。
霊夢を苦しませたのは私だから、霊夢の気持ちに気付いてあげられなかったから。
そう言って自分を責める。
でもそんなことないんだアリス。
お前は悪くない、誰かを愛したっていいんだぜ?
「ほら、早く来いよ」
いつもみたいに布団を捲りアリスを呼ぶ。
自分の居場所は当然ここだと言わんばかりに魔理沙の腕の中に飛び込むと安心した表情で一息ついた。
綺麗な顔にかかっている前髪を払ってやるとアリスは手を伸ばし魔理沙の左手に頬ずりを繰りかえす。
愛しい。
人形のように整った顔も宝石みたいに綺麗な瞳も金色に輝く髪の毛も雪のように白い肌もアリスを構成する全てが愛しすぎた。
眠いのかとろんとしている瞳で魔理沙を見上げるアリスにゆっくり顔を近づける。
額と額がこつんとぶつかった。
頼む、怖がらないでくれ。
懇願するように見つめるとアリスは優しく微笑んだ。
逆に魔理沙を安心させるように腕を背中にまわして抱きついてくる。
「怯えないで?…いいよ、魔理沙なら」
「本当か?」
「うん、してほしい」
目を瞑るのを見届けると魔理沙も瞼を閉ざした。
ずっとずっと触れたかった唇にそっと自分の唇をくっつける。
…怖がっていたのは私か。
アリスの心の中に霊夢がいるのは分かっていた。
だから拒絶されるのが怖くて仕方がなかったんだ。
でもアリスは私を受け入れてくれた。
嬉しくてつい鼻で笑ってしまうとアリスが不思議そうに覗きこんでくる。
「ごめん、幸せすぎて」
「ならもっとしよ?」
言葉じゃなくて行動で応えてやる。
先程よりも長く、唇同士をくっつけ啄み合う。
甘い紅茶の味があまりにもアリスらしくてもっと味わいたくなった。
舌で唇を舐めるとびくっと体が震えたのも束の間小さく口を開いてくれる。
腕を腰にまわしてぎゅっと抱き寄せるとアリスの口内へと舌を伸ばした。
おずおずと向かい入れてくれるアリス。
舌先が触れ合っただけで背筋にじんとした感覚が流れる。
ファーストキスはさっきアリスとしたのが初めてで比べるものがないから分からないけど気持ち良過ぎる。
じんとした感覚は舌を絡ませ合うごとにぞくっとした感覚へ変わり思わず息が漏れる。
「ふぁ…っ、ん…」
「…はぁ、んん…っ」
静寂した夜の寝室はくぐもった声と僅かな水温が響いている。
恥ずかしいな、これ。
音に耳を傾けつつも気持ち良くて余計にぴちゃぴちゃと音を大きくさせてしまう。
やっと唇を離した頃にはお互いの唾液で口元がべたべたになっていた。
手の甲で拭おうとしたら上海がタオルを持って来てくれた。
人形だって分かっていてもなんだか気恥ずくて俯いてしまう。
アリスの口元も拭いてやりタオルを上海に返すとまた何処かへ飛んで行った。
あれもう自立してないか?
「人形って便利だな」
「魔理沙の言うことなら訊くから可愛がってあげて?」
「アリスが妬かない程度にか?」
「えぇ、私が妬かない程度に」
くすくすとお互い笑い合って再び重ねるだけのキスをする。
「好きだぜ」
「…うん」
隙間ないくらい抱きしめ合って静かな夜を過ごした。
静かに寝息をたてて眠るアリスを見つめ魔理沙は決心したように窓の外へ目を向ける。
月はここからはみえないが綺麗な夜空に星が散りばめてあった。
* * * * *
魔理沙はあの時振りに神社に訪れていた。
何も変わっていなかった。
この間まるで何もなかったかのように。
魔理沙とアリスだけで違う世界にいたみたいに何も変わっていない。
ここで暮らしている博麗の巫女も。
霊夢は久しぶりに姿を見せた魔理沙に驚きを隠せずにいたが直ぐに平常を装った。
「よぉ霊夢久しぶりだな」
「もうここには来ないのかと思っていたわ」
「親友の神社でお茶を集るのは習慣だぜ?そう簡単に止められるかよ」
親友という言葉に霊夢は息を飲む。
魔理沙はまだ私のことを親友だと思ってくれているのか。
そして更に驚いたのが魔理沙の後ろで隠れるようにこちらを伺っている人物。
「アリス?!」
思わず声を張り上げてしまった。
霊夢の声にびくっ、と肩を大きく揺らすアリスに霊夢は胸を引き裂かれる思いだった。
皺ができるくらい力強く魔理沙の白いエプロンを握りしめている。
「あ、あの…霊夢…私ずっと霊夢に言いたいことがあって」
「…何かしら」
ほらアリス、ちゃんと向き合うって約束したろ?と魔理沙が囁くとアリスは握っていた魔理沙のエプロンを離した。
案の序そこは皺くちゃになっていた。
何か決意した瞳でアリスは霊夢の正面に立つ。
心がざわつく。
言いたいことなんて予想できる。
何を言われても受け止めるつもりだった、あの時からずっと。
「ごめんなさい」
「え?」
「私ずっと気がつかないで霊夢に甘えてたわ。霊夢が気を遣って付き合ってくれたのにも分からないで調子に乗ってた。貴女は優しいからずっと態度で示してくれていたのに最後まで気付かなくて…霊夢に辛い思いをさせたわ」
違う。
違う、違う、違う。
何を言っているの、アリス。
どうして貴女が謝るのよ。
貴女が言うことはそうじゃないでしょ?
責めなさいよ。
暴言を言って「霊夢なんか大嫌い」だってそう言いなさいよ。
「霊夢?」
あぁ、もう嫌。
アリスのせいでまた泣いちゃうじゃない。
私は泣くほど弱くないのに。
強がりのくせに本当は臆病なアリスとは違うのに。
どこまでもアリスの声音は優しくて泣いてる私を抱き寄せてくれる腕は心地よくて。
あの日の延長のように私はまた泣き続けた。
「許してくれるの?」
「バカ…許すもなにも怒ってないわよ」
もう友達にも戻れないと思っていた。
良かった。
アリスと魔理沙が私の友達で良かった。
暫く抱き合っていると魔理沙も飛び込んでくる。
「これで仲直りだな!」
3人で意味もなく笑い合って、今度は嬉しくて一筋の涙が頬を伝った。
あれからというものの2人は一緒によく神社に来るようになった。
またいつもと変わらない日常が始まる。
もし3億円がこの手にあったら何に使おうかしら。
3人で1億円ずつ山分けして好き勝手に使うっていうのはどう?
END
もう少し各キャラの心理描写(今回の話だと特にアリスと霊夢)を地の文で書き込んでいくともっと良くなると思います。
ちょっとわからないです。
傷つくアリスを支えることができるのは親友の魔理沙だけという事ですか。霊夢さんまじ男前!