この作品は、案の定前作(拙作)の続きのお話ですが、このお話だけでも良い夢が見られるようにしてあります。
致死量の百合成分を含む上、良い子にはかなり刺激が強い内容になっています。(全年齢向きの内容ですが念のために。)
服用中に、このお話読んだら魔理沙(アリス)と添い遂げるんだ・・・と思ってしまった方は、素早くブラウザバックをお願いします。
「アリス、今日は私が上だ。」
「いいえ、魔理沙。今日こそ私が上よ。」
鮭とばが空前のブームを巻き起こして、おつまみ革命とも呼べるムーブメントを起こしている真っ最中の冬の夜の幻想郷。霧雨邸の床下温泉を利用したお風呂に、魔法使いが二人。
一人は、職業魔法使い、霧雨魔理沙。もう一人は、種族魔法使いのアリス=マーガトロイド。幻想郷でも有名な魔法使いコンビであるこの二人が、それなりの大きさの湯船で向かい合いながら、話をしている。
新しい魔法の研究だか何かで、遅くなってしまったのであろうか、ほんの少しだけ疲労の色が見える表情をお互いに悟られないように隠しながら、温かい湯船の心地よさに身を預けており、完全に寛いだ様子の中で、議論を展開していた。
「アリス・・・ここは私の家だぜ、家主の意見に従うのが客人ってもんだろー」
「その意見には一理あるけど、これだけは譲る訳にはいかないわ。」
「何だ?私の下が嫌だとでも?」
「別に・・・嫌じゃないけど。魔理沙にイニシャチブ取られるのは、どうも性に合わないわ。」
「私に任せておけば、安眠間違いなしだぜ。」
脇に置いてあったタオルをお湯につけて、膨らませて「ぶしゅー」とか言いながら潰して遊ぶ魔理沙。いつまでたっても子供のような仕草が抜けきらない魔理沙にアリスは苦笑した。
―そんな子供のような魔法使いに自分が手玉に取られている。そう、魔法をかけられたかのように。
若くして種族魔法使いになったとは言えど、精神面においては魔理沙よりは成長の度合いが高いアリスは、この精神的に幼い魔理沙に翻弄される事だけがちょっと悔しかった。そこで、ささやかな抵抗をすることにした。
「だいたいアンタが上だと、色々と困るのよ。」
「ほほう、具体的に述べてみてくれ。」
「まず、いびきがうるさい。深酒した後なんか最悪よ。」
「生理現象なんだ、仕方無いんだぜ。そんな事言うなら、アリスも深酒したら少しは出るじゃないか。」
「残念、私が深酒したケースはアンタのそれに比べて2割8分6厘どころか、1厘にも満たないと思うわ。少なくとも、私は深酒なんてしないように心がけてるし。」
「それもそうだな。しかし、酔ったアリスは可愛いから、深酒大歓迎なんだけどな。まりしゃー、おんぶして・・・とか言ってくれたら嬉しいんだがな。」
「な、何言ってるのよ、アンタは!!」
似ていない声まで魔理沙にされて、顔を真っ赤にしたアリスは、浴槽から出るとちょいちょいっと指を招く仕草を取る。魔理沙は、近くにあったシャンプーを泡立ててアリスの髪を洗い始めた。
「・・・とにかく、いびきはうるさいだけだからまだ良いわ、それよりも何よりも魔理沙は寝像が悪いからね。私の上に落ちてこないか心配だわ。」
「何だよー。落ちても、お前が受け止めてくれるんじゃないのか?私の胸に飛び込んでおいでとか言ってさ。」
「反射的に避けちゃう可能性も無くはないわよ?弾幕使いは回避が命だしね。」
「避けて、もしもの事があったら、お前の胸の中で最期を看取ってくれるんだろ?最高じゃないか。」
「馬鹿、そんな事冗談でもあって欲しくないわ。キャッチするにも寝ている時の不意打ちだと、ダメージも大きくなるわ、お互いに。」
「でも、私はアリスの胸の中で目覚められるんだ、幸せだぜ。」
「私の痛みも計算に入れて欲しい所だわ・・・」
「善処するぜ。ほい、完了だ。次、私の番な。」
魔理沙がアリスの頭を流すと、アリスは両手で髪を後ろに送る。そして、おいでおいでの仕草。魔理沙は嬉しそうな顔をして、アリスの前に座った。アリスは、シャンプーを手にとって、馴染ませてから、魔理沙の長い髪を丁寧に洗い始める。
「アンタ、髪とルックスは綺麗なのに・・・お腹の中が真っ黒だから困るわ。」
「そ、そんな事は無いんだぜ。お腹の中真っ黒なのはわ、分からなくも・・・ないが。」
「お肌が白い分、お腹の中真っ黒で白黒、やってるのだとしたら、器用だわアンタ。」
「ありがとなー」
褒めてないのに。アリスはこの話を聞かない魔理沙の癖を熟知しているので、敢えて何も言わずにわしゃわしゃと髪を手入れしていく。飛んでいる時に、あれだけ綺麗になびく金髪を持っているのは、幻想郷でも魔理沙位のものである。自分も魔理沙位に伸ばせば張り合えるかも知れないが、色々他の人に突っ込まれる可能性を想定したアリスはすぐに首を振って忘れた。
「そうだ、話を戻すがアリスだって、上にいたら灯り中々消さないじゃないか。それって、どういう事だよ?」
「うーん、そうねぇ、灯り消す前に上から覗き込む、魔理沙の無防備な顔がかわいいからかな。」
「なっ・・・・お前、そんな・・・」
返事代わりにお湯を頭にかけるアリス。魔理沙の長く見事な金色の髪を手で梳きながら、丁寧に職人技のように髪を整えて、仕上げる。
顔を真っ赤にした魔理沙はその羞恥に負けぬように自身を精一杯鼓舞しながらアリスを見やり。
「それもあるが、お前が上だと・・・その、だな。意識してしまうっていうか・・・」
「何をよ?」
「普段では見られないようなアングルから、お前の姿を見るという事が・・・だな。」
「あらやだ、魔理沙ってそんな趣味があったのね。」
「しゅ、趣味ってまた嫌な言われようだな。とにかく、お前が上にいるだけで、私の幸せは妨害されてしまうんだ。だから、お前は下の方がいいと思うんだ・・・」
「ふーん、意見はそれだけって、ちょっと、魔理沙、何赤くなってるのよ?」
「ぅ・・・察して欲しいんだぜ。」
会話が途切れたので、どちらからともなく湯船につかる魔理沙とアリス。先ほどから話題に上がっている「どちらが上か?」という問題に対して、論破する手段が無くて悩む魔理沙と、言っても聞かないだろうと思っているアリスの鍔迫り合いは無言のまま、静かな火花を散らしていた。
「なぁ・・・どうしても下は嫌なのか?」
「ええ。今日は、上がいいわ。」
両者再び沈黙。立ち込める湯気の向こう側に落ち着き払ったアリスの顔を見た魔理沙は、何とかこの状況を打破するアイデアを検討するものの、考えはまとまらず、顔を湯船に付けて、ぶくぶくと泡を立てる。
一歩も譲歩しませんよ、と言わんばかりのアリスの微笑みが目に映り、魔理沙はさらにどうしようかと思いながら、牽制の意を込めながら。
「やっぱり、上の方が、気持ちいいのか?」
「ええ、最高よ。」
ぶくぶくと泡を立てている内にお湯の熱さで頭に血が上って思考力が低下してきた魔理沙。暫くはお互いを見つめあっていたものの、やがてどちらからともなく立ち上がり、バスタオルを手に取る。髪止めを外しながら魔理沙は、身体を拭くアリスにそっと言った。
「・・・なぁ、今私が考えた折衷案があるんだけど。」
「ふぅん。それはどんなアイデアかしら?」
顔を近づけ、こっそり耳打ち。顔を近づけられた事で一瞬だけアリスは真っ赤になったが、話の内容を聞いている内に、納得の表情に変わっていく。顔を放すと、アリスはポンっと手を打って魔理沙に。
「へぇ、考えが一致する事もあるのね。いいわ、乗った。それでいきましょう。」
「ようし、そうと決まれば早速準備しないとな。」
「魔理沙の手を煩わせるまでもない、上海にやらせるから。」
「準備がいいな・・・アリス。」
「伊達に長年、コンビやってないわ。魔理沙。」
近くにあったパジャマやら諸々を身に纏い、八卦炉で髪を乾かしあう二人。そして、洗面所を後にして、寝室へと向かう。寝室に入った魔理沙が指を鳴らすと、魔法によって照明が灯り、しらじらと周囲が光に満ちて行く。アリスが寝室のドアを閉めると、魔理沙が不意に、その手を取った。
「・・・さぁ、アリス、良い夜にしようぜ」
「ええ、素敵な夜を楽しみましょうか。魔理沙」
ぎゅっと抱き合って、おでこをこつん。それを合図に宙を舞って二人はベッドにもそもそと入った。
・・・二段ベッドの上へと。
「やっぱり、二段ベッドの上は浪漫があっていいぜ。地面に背中が付いてないのが不思議な気分になるから好きなんだよなー。」
「それはわかるわ。上に行きたくなる最大の理由はそこよね。下で寝るのは、普通のと大差ないから、味気ない事この上ないわ。」
「流石はアリス、分かってるな。」
そう言って笑いあう。2人分の湯上りの温もりを持ってしても、少し冷たいベッドの中。魔理沙とアリスは身体を寄せ合って擦り寄って少しでも温度を上げようとする。少し寒さが取れてきた所で魔理沙が大きなため息をついた。
―あったかい。
囁く声に、擦り寄って返事して。衣摺れの音が、きゅっと遅れてなって。暫くその状態でいたが・・・
「ダブルベッドは、冬場一人で寝ると暖かくなるまでに時間がかかるから嫌なんだよ。アリスはよくあんなので眠れるな?」
魔理沙が言った。アリスはあっけらかんとした表情のまま、魔理沙に近づいて優しくこう答える。
「慣れよ、慣れ。それに、さっきみたいなめんどくさい問答を省く事だってできるわ。」
「そーいうもんか?」
「そーいうもんよ。」
お互いにぎゅーっとしあって、体温を分け合って。人が一人眠れたら良いような二段ベッドの狭さすら忘れて。ちょっと離れるとベッドの柵が手に当たるような距離感。魔理沙から放した手が柵に当たったアリスは、少しだけ不機嫌そうに。
「魔理沙みたいに一人暮らしなのに二段ベッド用意するほうもどうかと思うわよ。」
「たまにアリスが来てくれた時に、こうやって使うから別にいいんだぜ。普段は上、使ってりゃ寝床の役目は十二分に果たす。」
「ま、それもそうか。」
気が付くと、十分な温もりに満たされて、心地よくなってきた二人はやがて言葉を失い、少しの間お互いをじっと見つめる。不意に魔理沙は大きな欠伸をして、かぱーと大きな口を開けた。恥ずかしくなって慌てて口を押さえる魔理沙。眠気を覚えるのには十分な状況だ、本来睡眠を必要としないアリスも、人間だった時の記憶と感情が眠気を呼び覚まして行くこの状況は大好きだった。
―こうやって、心の安らぎを大切な人と得る事が出来る事が、大好きだから。
「灯り・・・消そうか?」
「そうだな。んじゃ、お休み、また明日なアリス。」
「うん。お休み、魔理沙・・・良い夢を。」
アリスが指をパチンと鳴らすと魔法の灯りが消え、暗闇の帳が寝室に降りる。
わずかな布摺れの音と、遅れて聞こえる二人の寝息。氷精や冬の妖怪が喜ぶ寒い世界の中、二人の眠るベッドは温かさに満ち溢れていて。心地よい温もりの中、二人は夢の世界へと落ちてゆく。
「バカジャネーノ」
二人の可愛い寝息に交じって上海人形の悪態が、冷たい夜風が揺らす魔法の森のざわめきに消えた、ある冬の夜のなんでもない二人の物語。
今日も幻想郷は平和である。
予想だけは。
とりあえず、上海に全力同意。
どっちが上で寝るかでよく姉と喧嘩してましたw
起床喇叭が鳴って慌てて起きるとたまに落ちる。
それはともかく、2人とも可愛くていいなあ。
と思ってたら最終的に結局一緒に寝てるw