桜が咲くころ、今頃博麗神社では花見が行われるのだろう。
綺麗に抜けた青空に淡い桜の花が良く映える。
「やはり、花見は中からに限る」
遅めの昼食を終えた僕はそんな事を呟き本に目をやる。
大体、桜が咲き晴れたとしてもまだ肌寒いし、花粉なんかも飛んでいる、それに日光は好きじゃない。
本当の花見ってのはこうやって家の窓から眺め酒でも何でも持ってきて本とともに楽しむのが一番なんだ。
「あー、一人って良いなー」
と呟いた瞬間である、扉が勢いよく開け放たれたのは。
「霖之助!花見しよう!」
「んぁ?」
其処にはリュックサックを背負った天人の少女、比名那居天子がいた。
「おや天子、いらっしゃい」
僕は天子に軽く挨拶をすると本に目をやる、続きが気になってしまって。
だがしかし、続きが気になっていたその本は回り込んだ天子によって取られてしまう。
「何するんだ!」
「花見しようよ、天気も良いし満開だし!ねぇ良いでしょ、暇なんでしょ?」
こうなった時の天子はしつこいんだよなぁ、やるとしてもやらないとしても結局本は読めないからなぁ。
「分かったよ、やろう、お花見」
「やった!霖之助大好き!」
了解の意を示すや否や、天子は僕の手を掴んで外に引っ張り出した。
「ちょっと!外でやるとは聞いてないぞ?」
「何言ってるの!花見は外でしょ」
天子に引っ張られ走る事数分、僕は森の中ほどの開けた場所に着いた。
「…こんな場所があったのか」
「この前飛んでいたら見つけたの、綺麗でしょ?」
其処は、何本もの桜に囲まれ無数の花びらが舞う、まさに桜のカーテンに覆われた場所だった。
僕は静かに腰を下ろすと数あるうちの一際大きな桜の木に目を向ける。
晴天の気持ちの良い青にぼんやりと浮かぶ桜色、そのコントラストに僕は釘付けとなった。
「この世の景色じゃ無いな…ん?」
その時だった、何処からか微かに桃の香りが漂ってきたのは。
甘く、そして懐かしい香りに僕は周りを見渡すと、桃色のそれを持った天子を見つけた。
「その香りか、天子」
「うん、食べようよ」
「じゃあナイフかなんか…」
桃を受け取りながらその言葉を言いきる前に、その桃が何処かおかしいことに僕は気づいた。
「…何だ、これは」
「ふふふ、何でしょう」
天子は笑いながらその素手で二つに割ると、先ほどの僕の疑問はすぐに解決した。
「成る程、桃饅頭か」
「そう、美味しいのよ」
「じゃあ頂こうかな」
饅頭を口に入れた瞬間、桃の甘い香りが口に広がる。
春の心地よい陽気と想像以上に暖かい風に体を任せながら食べる。
「…ごちそうさまでした」
自分でも予想以上に早く食べ切ってしまった。
でもそれほどまでにあの饅頭は美味しかったのだ。
「美味しかった?」
茶を差し出しながら質問する天子に僕は笑顔で応えつつ茶を受け取った。
「美味しかったよ、ありがとう」
口内に微かに残る桃餡の甘さを温かい茶が洗い流す。
飲みきった後、思わず溜息が出てしまう。
「…外で花見って言うのも、中々捨てたものじゃないね」
「そうでしょ?」
「うん」
陽は高く昇り、気温が上がるにつれて段々と睡魔が忍び寄る。
先ほどの桃饅頭とお茶のお陰でまたもや欠伸が出る。
「霖之助、眠いの?」
「ん?まぁちょっとね」
僕がそう答えると、天子は自分の膝を指さした。
当然、意味は分かる。
「…恥ずかしいよ、天子」
「誰も見てないから良いじゃない」
「じゃあ、甘えちゃおうかな」
「良いよ良いよ」
僕は天子の膝に自分の頭を預け、眼鏡をはずした。
「良い天気だな、天子」
「そうだね、霖之助」
彼女の微笑みと、優しく吹き抜ける風の音を聞きながら、僕は夢の世界へ旅立つことにした。
目を覚ました時、其処はいつも通りの天井で、いつも通りの自宅だった。
「…夢、か」
閉ざされた窓を開けると雪とともに冷たい風が吹き抜け、僕はすぐさま窓を閉める。
「しかし、良い夢だった」
そう呟き僕は一人呟いた。
今年の春は外で花見をしてみよう。
きっと、悪いことは起こらなさそうだ。
我侭で好意を薄くコーティングしたみたいな天子が可愛くて寝れないじゃないか!
>>唯様
何というか、その、女の子は少しくらい我侭の方が可愛いじゃないすか。
>>奇声を発する程度の能力様
そうなるんですね、このまま調子よく行くとですね。