Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

今日も花のゆめをみる

2011/01/17 18:15:28
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立春
寒空
遠くから聞こえる
耳を澄ませばあの子の悲鳴――

客間に埃はないでしょうけど、これじゃお茶も出せないわ。

「御免下さい」
がらりと音をたてて戸が開いた。
黄金色の尾っぽを揺らして狐がひとり。
「あら今日は狐さん。」
「これは、お久しぶりです幽々子様、わざわざ玄関先までの出迎え恐縮です」
白々しい狐。
友人の使用人。
「うふふ、ここには化かす相手はいなくってよ」
うちには声を持たないものばっかりだから。
服はほつれ、少し汚れている。
きっと門の辺りで遊んだのね。
「ええ、丁度先ほど化かしましたから此処には居ないはずです」
ほら。
「玄関先で悪いのだけど」
お茶も出せないのよ。
「ご用は?」
「紫様から文を預って参りました」
「あら、ご足労様。」
飛んできたのでしょうけれど。
「ついでに結界の点検もしたいのですが、庭を廻らせてもらっても?」
「そうねえ私はいいけれど……一応庭師が居るので確認しておいてくれるかしら」
「わかりました。庭師の方はどちらに?」
狐の背後に緑色のぼろ布がふわりと躍り出た。
「ここに……用があるなら最初からそう言ってくださいよ」
「あら……問答無用って意味知ってる? 言ったわよね貴方」
ちらちらと光を放ち始める二人を置いて部屋へ向かった。
どうせ点検は当分始まらない。
はしたないとは思いつつも歩きながら文を開ける。
簡単な挨拶から始まり本題、結び。
単なる寒中見舞い。
庭でばちんと何かが弾け、
耳を澄ませばやっぱりあの子の悲鳴――


「……今日も元気に死人日和ね」
戸棚に串団子みっけ。










「生まれたら死ぬ約束です」
「そう。そして死んだら生まれる約束だわ」
「同じ事ね」
「ええ、同じ事。私とあなたくらい変わりがないわ」
「いいえ、過程と意思の介入は重要です」
「そうれもそうね。ああ、こんなことばかり考えていたら莫迦になっちゃう」
「死ねない姫と生きられない姫ね」
「不死の姫と可死の姫、の方が格好いいかしら」
「甘いものは好物だわ」
「悟ったと思い込んだ人間は勝手に命を絶つのよね」
「毒は甘いものですから」

お話は好き。
考えた事を言葉に変えて発する。
伝わるかどうかは相手次第。
永遠亭の姫は伝わったところで顔色ひとつ変えず。

「ところで何かご用?」
「花を見に」
「花見には少しばかり早いんじゃないかしら」
「うちのペットがここの桜はいっとう綺麗だって噂していたものだから」
「あら、光栄ね。でもお呼びでないわ」
「呼んでくださる? 来たかいが欲しいわ」
「里にお寺さんが来たそうで」
「ああ、花見への道は遠いのね」


姫は噂に聞く妖怪桜を一目見たいと言った。
冥途の土産、なんちゃって。
「想像以上に大きいのね。こんな素敵なものを一人占めだなんて狡いわ」
「……一人占めじゃないわ」
口をついて出た言葉に一人はっとする。
私は誰と桜を見上げていたかしら。
「……1.5人、かしら?」
姫がくすくすと笑うと考えていた事に霞がかかってしまったので――



「――まあ」
ではそういうことで。










誰か、大切なひとがいたのだけれど










「春は桜を見ながら一杯。夏は裏の池に蛍が沢山出るの」
「いいわねえ」
「秋は味覚ね、栗と、サツマイモと、松茸に……秋刀魚は持参ね」
「とんだ清少納言ね」
「……春が一番好きよ」

落ち葉がかさかさと音を立てて、足元を躍って行く。
あなたは苦笑したけれど、
微笑むのは難しかった。
凍える季節、自分の手だけでは心許ない。

「寝坊はいけないわ。間に合わないなんて厭」
「毎年の事じゃない、どうしたの?」
「いいえ、なにも」

この感覚に胸騒ぎという言葉は大げさすぎる。
心の膜が少しだけ薄くなったようで少しだけ寒くて、
聞こえてくるのはぼんやりとした心音。

(心音?)

「次の桜は今年のより綺麗よ」
「それ毎年言ってるわよ」
「記憶ははどんどん薄れていくでしょう? 目の前のものに勝るものなんてないわ」
「らしくないわねえ、幽々子」
「そうかしら」

私らしいって、どんなだったかしら。

「ああ待ち遠しい」

春、春。

今年も妖怪西行妖が、咲く。










「幽々子様、まだ寒いのにそんなところで寝られては風邪を引きますよ」
「あら 風邪なんて引きやしないわ」
「そういう問題じゃありません」
「そういう問題よ」

「今ここにはあなたしかいないし……」

待つことにしよう。

「少し、眠るわ。時間はまだあるし――」
「えっと、今日は何かご予定が?」
「何もない予定です」










生まれたら死ぬ約束です

死んだら生まれる約束です

そうしてすべてが廻っていることを

わたしは知つてゐるのだけれど


つぼんださくらが震えます

去つてゆく冬と

近づいてくる春と

わたしは誰かを待つて、そうつと瞼を閉じました











あなたを待つて

今日(けふ)(さくら)のゆめをみる


黒のあ
http://
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
きれい
2.名前が無い程度の能力削除
雰囲気を出したいのはわかるけどその文字色は見にくい。
3.奇声を発する程度の能力削除
綺麗な雰囲気で好き
4.名前が無い程度の能力削除
きれいで静かで・・・素晴らしい。
5.名前が無い程度の能力削除
良きかな