※これは作者からの注意だよ。警告、と言った方が分かりやすいかな。
この作品は一応鈴→霖を前提としているんだが……作者が鈴仙のキャラをはっきりと掴めていない所為か、この作品は鈴霖要素が限りなく薄い。
更に深夜脳が影響してgdgdと来ている。
この作品を見るなら、上記を理解したうえで中傷等は止めてほしい。早苗君の様な、常識に囚われない心で見てやってくれ。
……ん、それが無理な人かい? 戻るは左上だよ。
◆
幻想郷が雪に白く染まる睦月の初め、僕は何時もの様に昼時になっても相変わらず客が来ない店内で店番という名の読書に耽っていた。
客が来ないのはいつもの事だが、ここ最近は常連の人妖までやって来ない。こうも来客が無いと、雪景色の静けさと相まって、まるで此処だけが空間ごと切り取られたかのような錯覚に陥ってしまう。静かなのは良い事だが、あの喧騒に慣れてしまった所為かどうも物足りなく感じてしまう。
――尤も、この時期に客が来ないのは何処も同じなのだろうが。
そう思い、壁に掛けたカレンダーを見る。
先程も述べた様に、今は睦月の初め。所謂『正月』だ。
子供はお年玉に独楽や羽子板など楽しみが多い時期だが、商店においてこれ程稼ぎが無い時期もそう無いだろう。
正月とは大抵の場合、初詣以外を家の中で過ごす。その為、この時期の人里には人の子一人見当たらない。何時もの騒がしさからすれば真逆と言ってもいいだろう。
故に、店を出しても無駄なのだ。食料なら何十にも積んだ御節があるし、着る物は部屋着で十分間に合う。正月で稼ぐ方法といえば、初詣で出す出店くらいのものだ。その出店でさえ場代で大方を持っていかれる。つまり実質的な儲けは雀の涙という訳だ。
この時期は儲からない。商店にとってそれは暗黙の了解の様な物でもある。そう、親父さんに教わった。
……まぁ、だからといって香霖堂もこの時期は儲からないのかと問われれば、何時もだと渋々答えざるを得ないのだが。
――カランカラン。
そんな事を考えていると、この時期には珍しく僕以外で扉を潜る影があった。
「いらっしゃい」
何とも珍しいものだ。そんな事を考えながら本から顔を上げると、そこには見知った顔があった。
「こんにちは、香霖堂さん。明けましておめでとう御座います」
「あぁ、おめでとう。鈴仙君」
そこにいたのは永遠亭の玉兎、鈴仙君だった。
何か持ってきたのだろうか。その手には籠がぶら下がっていた。
「今日はどういった用事かな?」
「えっと、今日は新年の挨拶に来ました」
「あぁ、今年は卯年だしね」
「えぇ……まぁ、毎年やってるんですけどね。でも自分が干支の年だと張り切っちゃいます」
「無理をして身体を壊さないようにね」
「分かってますよ」
そんな事を話していると、鈴仙君は思い出した様に籠を差し出した。
「そうだこれ。家で搗いた御餅です」
「ほぅ、餅か。君が搗いたのかい?」
「はい! 頑張っちゃいました」
そう言って、目の前の鈴仙君は恥ずかしそうに笑う。
餅を搗く、というのは見た目に反して中々に難しい。金槌で釘を打つ感覚に似ているだろうか。力を入れる場所を間違えると、臼の中で杵が妙な方向に曲がる事も珍しくない。何故こんな事を知っているかというと、昔親父さんの所でやった事があるからだ。
それを簡単にこなしている辺り、流石は月の兎といった所か。
「フム、新年早々月の兎が搗いた餅が食べれるとはね」
「そんな大層な物じゃないですけどね……」
そう返すと、鈴仙君はストーブの方へ歩み寄った。
「ん……暖かい~。ちょっと温まらせて下さいね」
「あぁ、構わないよ」
僕がそう言うと鈴仙君は小さく礼を言い、ストーブが作り出す暖かな世界に浸ってしまった。
……あの様子だと暫く動きそうにないな。そんな事を思いながら茶を啜った。
「……ん」
しかし、自分の喉が潤う気配は無い。本を読みつつ飲んでいる内に無くなっていたらしい。
動くのは面倒だが仕方ない。思い、二人分の茶を淹れに席を立った。
***
「ほら」
「あ、有難う御座います」
勘定台の傍へと移動していた鈴仙君に茶を手渡し、先程まで座っていた椅子へと戻る。茶請けの器には、鈴仙君から貰ったばかりの餅が鎮座していた。
一つ手に取り、口へと運ぶ。
「……うん、美味しい。中々良く出来ているね」
「ホントですか? 良かったぁ……」
僕がそう言うと、鈴仙君は安心した様に表情を綻ばせる。
「お口に合わなかったらどうしようかと……」
「そう自分を過小評価しなくてもいいと思うよ。十分美味しいさ、流石は月兎といった所だね」
「そ、そんなに言われると照れちゃいます……」
「照れる事は無いと思うけどね。もっと自分に自信を持ってもいいんじゃないかい?」
「……自信、ですか」
「ん?」
僕のその言葉を聞き、鈴仙君は俯いてしまった。その顔には少し陰りが見える、何か悩み事でもあるのだろうか。
「何かあったのかい? 僕でよければ相談に乗るよ」
「へっ? あ、いや、でも……」
鈴仙君は少し話そうかどうかと狼狽えていたが、やがて少しづつ語りだした。
「……去年の終わり頃、風邪が流行ったんです」
「あぁ、そんな事もあったか」
去年の終わり……といっても、ほんの数十日前の事だ。
人里で風邪が流行り、魔理沙や霊夢も少し辛そうにしていた記憶がある。
「で、新年になっても治らない人が結構いて……年末年始薬作りで忙しかったんです」
だから挨拶も遅れちゃったんですけど、そう付け加えて鈴仙君は茶で口を潤す。
「師匠と二人で頑張ってたんですけど……私、調合を間違えちゃったんです」
「フム……」
「師匠にも凄く怒られて……」
「………………」
「簡単な調合だったのに失敗しちゃって、自分薬師に向いてないのかなって……」
「……成程」
話を聞いた辺り、どうやら新年早々ヘマをして落ち込んでいるらしい。それだけ聞けば何とも子供の様な悩みだ。
鈴仙君曰く『簡単な調合』らしいが、薬の調合というものは結構大変なのだ。失敗くらい誰にでもあるし、別段気にする程の事でもないと思うのだが……
……いや。鈴仙君の師匠は永琳、月の頭脳とまで呼ばれる程の天才だ。それを師と仰ぐなら、少しの失敗も人より数倍響くのかもしれない。師事する者が大きいと目指す所も自然と大きくなる、それは自分も経験済みだ。
「あ……すいません。香霖堂さんは関係無いのに、こんな暗い話聞かせちゃって……」
「……いや、僕から聞いた事だからね。君が謝る事は無い。……で、だ」
「……?」
「そういう事があったから、君はこの先どうしたいんだい?」
「え? え、ええっと……師匠に怒られない様注意する……とか」
「……フム」
――そこまで分かっていれば、後は自分で気付きそうなものだが……
そんな事を思ったが、目の前で頭上に疑問符を浮べている鈴仙君にそこまで求めるのも無理かと思いなおし。
この話を聞いたのも何かの縁だろう。そんな考えの元自身の考えを聞かせる事にした。
「……鈴仙君」
「……はい?」
「君は人間と妖怪の違いについてどう思う?」
「……へっ?」
「人間は弱い。少し自然が猛威を振るえばたちまち滅んでしまうほどにね」
「はぁ……?」
「対して妖怪は強い。自然が自分に牙を向こうともその力で押し返す事だって出来る」
「……?」
「その力関係は明らかだ。なのに何故脆弱な人が強靭な妖怪に立ち向かえるのだと思う?」
「? えっと……妖怪退治の方法があるから?」
「そう。そしてそれら退魔の法を生み出してきたのは人の向上心だ」
「向上心……ですか?」
「あぁ。さっきも言った様に人は弱い。だからすぐ壁にぶつかってしまう」
「………………」
「その壁を克服しようと、弱い現状をどうにかしようと努力する。結果それが高みへ昇ろうとする向上心へと繋がる訳だ」
「……成程」
「これに対して、妖怪は総合的に見て向上心が余り無い」
「無いんですか?」
「あぁ。悠久の時を生き、かつ元が強靭な彼等にとって自分を高める必要がほぼ皆無だからね」
尤も彼女の師匠である永琳、それと輝夜は悠久を越しているのだが。今は気にしなくて構わない。
「はぁ…………」
「……さて、この話をした上で君の話に戻ろうか」
「へ?」
「君は永琳に叱られ、その現状をどうにかしたいと考えているんだったね?」
「は、はい……?」
「つまり……それは妖怪でありながら向上心を持つという事なんじゃないのかい?」
「……!」
「それに、さっき言ってたじゃないか。『師匠に怒られない様注意する』と」
「あ…………」
「……これはさっきも言ったがね。君はもう少し自分に自信を持ってもいいんじゃないかい?」
「自信……ですか」
「あぁ。自分に自信を持たない事には全力を発揮できないだろうからね。自信を持って向上心の元に努力すれば、成果は必ず現れるさ」
それは魔理沙が常日頃実証している事だ。
「それに今は正月、新しい事を始めるには丁度良い時期だ。自分を磨くのも悪くは無いと思うがね」
「……そう、ですね。頑張ってみます」
そう言い、鈴仙君は微笑む。
「自信を持って、頑張る……それなら出来そうですし!」
「あぁ、頑張ってくれ」
「ハイ!」
笑顔で鈴仙君はそう答える。こう悩みが吹き飛んだ様な顔を向けられると、此方も相談に乗ってよかったと思えるから不思議なものだ。
そんな事を考えていると、壁に掛けている時計が申の刻(約4時)を告げた。
「あ、もうこんな時間……もう行かなくちゃ」
「そうかい。まぁ挨拶回りはまだあるだろうからね。引き止めてすまなかった」
「いえ、こちらこそ相談に乗ってもらって有難う御座いました! あ、それとお茶ご馳走様でした」
そう言って、鈴仙君は丁寧に頭を下げる。
「じゃあ、また」
「あぁ。また来るといい。歓迎するよ」
「ふふ、有難う御座います」
そう言って、鈴仙君は扉を開け店から姿を消す。
扉の鈴が鳴るのを最後に、香霖堂から音が消える。
「………………」
――向上心、か。
最後に自分から高みへ昇ろうと思ったのは、何時だったかな……。
そんな事を考えながら、僕は再び本を開いた。
***
「えへへ」
香霖堂からの帰り道、私は少し笑っていた。
行きの時にあった心配は消え、心には幸せが残っていた。
「頑張ってくれ……か」
彼に言われた事を思い出す。
何事も自分を信じて頑張れば、必ず結果は出る……
「……じゃあ、私頑張りますね」
仕事も……貴方への恋も。
風邪ッスね
消したらマスタースパーク
消したら不夜城レッド
面白かったです
自分も向上心を持って頑張らなければ
後、絶対に消さないでください
とても面白かったです
ただ個人的に言わせて貰えば消して欲しく無い。
それくらい面白い話でした。
しっとりとした作風で、読後感もとても良かったです。
時期を逸していても機にしなくていいですよ!
あと、これを消すなんて勿体無い!(これが言いたかった
あと、消さないで欲しいです。
コメント返信です。
>>1 様
誤字修正しました。報告感謝です。
マスパ……だと……
>>2 様
不夜城レッド……だと……
>>ぽn 様
向上心をもって頑張って下さい!w
>>奇声を発する程度の能力 様
有難う御座います!
>>5 様
とんでもないんですか……
>>6 様
面白いと思っていただけて嬉しいです!
>>投げ槍 様
そんな風に思って頂けるとは……有難う御座います!
>>タナバン=ダルサラーム 様
しっとりとした作風だなんて、嬉しいですっ
>>淡色 様
時期外れでも構わないんですか!?
勿体無いなんて、気に入っていただけて嬉しいです!
>>10 様
努力は自分に必ずいい結果となって返ってきます。だから頑張って下さい!
読んでくれた全ての方に感謝!