満天の星空の下に私は寝ころぶ。
黒い天の中にうっすら見える雲を見つめ呟く。
「…広いなぁ」
全く、この夜空と言うのは吸い込まれそうなほど広く深い。
小さい頃はこの夜の空に恐怖を覚えた。
気を抜けば逆らい難い何かの手が私を包み夜の空へ連れ去ろうとしていると言う錯覚に陥っていた。
「…こんなところにいたんですか、探しましたよ」
その声が、私を想像の世界から連れ戻す。
「あら、見つかっちゃった」
紅く長い髪に大陸風の衣装に身を包んだ少女が、そこにいた。
「どうしたの?」
私は体を起こしながら彼女に聞く。
「私も星の鑑賞に来ました」
そう言って彼女は私の横に腰を降ろし空を見上げる。
「広いですね」
「広いわね」
私は彼女の感嘆に同意する。
何千、いや何万という星が輝く空の下は、まるで私と隣の彼女しか居ないような気さえ起る。
「ところで少し寒くないですか?」
「確かに少し寒いわね」
私の言葉に彼女は微笑むと腰に下げていた鞄からテルモスとカップ二つを取り出した。
「紅茶です、どうです?」
差し出されたカップを私は受け取る。
保温性の高い容器に詰められた紅茶は威勢良く湯気を立ち上らせカップに注がれる。
そして私はテルモスを持ち上げると彼女のカップに静かに注いだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
湯気が立つカップを持って私たちは静かに夜のお茶会を始めた。
「…綺麗ですね」
「えぇ、この世の景色じゃないみたい」
冬の澄んだ冷たい空気が肌を撫でカップから昇る暖かい空気と香気が鼻をくすぐる。
やがてカップの中身が無くなりテルモスからも紅茶が出なくなると、私たちは夜空の鑑賞を止めることにした。
「…帰りますか」
「えぇ」
先ほどまでは寒かった、だけども今は紅茶のお陰か少しばかり体が暖かい。
そんな時だった、彼女が手を差しのべながらある提案をしたのは。
「ねぇ、手繋ぎましょうよ」
別段拒否する理由なんてないので私は彼女の大きくて暖かい手を握る。
「暖かいのね、貴方の手は」
「はい、暖かいです」
昔はこの夜が怖かった、だけども今は隣にいてくれる彼女のお陰で、ちっとも怖くない。
と、その時不意に体全体が暖かくなる。
「…何をしているの、美鈴」
「抱きついています、咲夜さん」
あっけらかんと答える彼女に私は諦めるようにつぶやく。
「じゃあ、仕方ないわね」
「はい、仕方ないですね」
そして私も彼女を抱きしめる。
私よりも高い背丈の彼女に届くよう、背伸びをして。