我が主、西行寺幽々子お嬢様にはひみつがある。
それは決して誰にも言えない類いのひみつだ。
けれど、私はそれを知っている。
他の人は知らないことを、私は知っているのだ。
だからこそ、私は全力を尽くしてそのひみつを守るのだ。
顔には表さないが、幽々子様もいつも警戒している。
たとえいまのように、人里の甘味屋で和菓子をパクついているときでさえも、警戒を怠らないのだ。
頬が緩んで、美味しそうに団子を食べていたって、警戒を怠らないに決まっているのだ。
全然緊張感がなさそうに見えても、幽々子様は気配を敏感に察知している。
誰かが近付いてきて、そのひみつに触れようものならば、きっと幽々子様は能力を使ってでも相手を止めるだろう。
それほどまでに、そのひみつは恐ろしいものなのである。
知られてはいけないものなのだ。
それを私はよく知っている。
ずず、と温くなってしまったお茶を啜った。
ともあれ、いまはこうして甘味なんぞを食べられる。
それが出来るくらいには回復した、と言うことだろう。
その辺は紫様に感謝しなくてはならない。
食べ終わり、私たちはなるべく人通りの少ない、けれどそれなりに人気のある道を歩いていた。
本当は人気のない場所を歩いていればいいんだろうが、それは幽々子様が許さなかった。
けれど気分良さげに身体を揺らしている幽々子様を見ると、それでも良かったのだ、と思えるのだ。
たとえ危険に晒されようとも、少しでも楽しんでくれたほうがありがたい。
ふいに、幽々子様が一つの甘味屋を指差した。
「ねぇねぇ妖夢、ちょっとこれ食べない?」
「ええ~? まだ食べるんですか?」
「だって、人里に来るのって久しぶりなんだもの。甘味とかいっぱい食べたいじゃない」
まぁそれも一理ある。
幽々子様は一ヶ月の引き篭もり生活の末、ようやく人里に出向いたのだ。
その一月の間、食べ物が咽喉を通らないような様子に、私はとても悲しんだ。
大好きだった和菓子でさえも、少しずつでしか食べられない。
だからこそ、今日、人里に来れてよかったと思う。
活気に当てられてか、いまの幽々子様からは悲壮な様子は見られない。
「まぁ、構いませんけれど、あんまりお金の心配をさせないで下さいね」
「はいはい」
和やかに話しながら暖簾をくぐろうとした瞬間、
どんっ!
男の人が幽々子様にぶつかった。
けれど私はそれを見逃さない。
するりと男の手が、幽々子様の懐から財布を抜き取ったのだ。スリだ。
抜かった。
たまには財布を持ちたいと言った彼女の言葉を信じたのが不味かったか(けれども落としていないのだから、それは別に関係ない)、いや、それよりも重大なことがある。
あの男は幽々子様にぶつかったのだ。
それがどれほどまずいことか、あいつにはわからないだろう。
けれど幽々子様の蒼白になった顔を見ればわかる。どこぞの吸血鬼のように帽子を押さえ、しゃがみ込んでしまった様子からよくわかる。
あいつは、幽々子様のひみつに迫るようなことをしたのだ。
ならば私はそれに制裁を加えなければならない。
幸い私には、スリと言う容疑よりも確実に相手を破滅させる方法を持ち合わせている。
それは紫様から聞いた必殺の呪文だった。
男が走り出すよりも速く、私の手は動いていた。
ひゅうと風を切って男の手首を握り締める。
ぐぅと男の咽喉から悔しげな声が漏れる。
そして私はその手を高く掲げる。
そうして男を破滅へと導く呪文を唱えるのだ。
すなわち。
「この人痴漢です!」
男は目を大きく見開いて驚愕の声を上げる。
そんなことしてない、と。
けれどもそんなことは関係ない。
この必殺の呪文には、全く意味がない。
やっていなくとも、やっていることにしてしまう呪文なのだ。
……ところで痴漢ってなんだろう?
紫様は意味を教えてくれなかった。
でも漢字からはなんとなくわかる。
「痴」は愚かとかそんな意味もあったはずだ。うん、痴れ者とか使うし間違ってない。
それに「漢」で男。
つまり愚かな男なのだ。
それがどうして相手を破滅に向かわせるのかはさっぱりわからない。
わからないけれど、きっとこれでいいはずだ。
まもなくやって来た、里の警備隊に男を差し出す。
容疑は痴漢。
手錠をかけられ、俺はやってない、と喚きながら歩いていく男の後姿を見ながら、幽々子様を見やる。
震えていた。
甘味屋の前で、帽子を押さえて震えていたのだ。
それが恐怖によるものだと、私はすぐにわかった。
手を差し伸べて、その身体を引っ張り起こす。
もう危機は去りました。
そう、にこやかに笑いかけた。
幽々子様はようやく安心したのか、腰が抜けたように私にもたれ掛かった。
恥ずかしそうに、曖昧に笑いながら、
「腰が抜けちゃった」
と言うものだから、私は幽々子様をおぶって白玉楼まで帰ることにした。
幽々子様は照れたよう微笑んだ。
その笑顔が浮かべられるのなら、きっと人里に来ても大丈夫だろう。
油断さえしなければ、幽々子様の秘密を見破る者なんてきっといないのだ。
返りの道中、幽々子様はずっと帽子を押さえたままだった。
風に飛ばされないように。
白玉楼に戻り幽々子様は警戒を解き、ようやくリラックスしたように畳に寝そべった。
「やっぱり家は落ち着くわぁ……」
「でも、人里では楽しそうだったじゃありませんか」
「まあ、そりゃ久しぶりに外に出たんだもの。楽しくないわけがないわ」
「それもそうですね」
実際幽々子様が引き篭もっていた一月は酷かった。
食べないし、寝ないし、ずっとショックを受けたようにぶつぶつと独り言を呟いたりしていたものだ。
髪はぼさぼさで、目に生気(もう死んでるけれど)がなくて。
だからこそ、ここまで復活したことに、私は喜びを隠しきれなかった。
先日、急に復活して、人里に行きましょうとか言い始めたときはどうなることやらと思ったが、杞憂だったようだ。
紫様には感謝しなくてはならない。
だって幽々子様を、ここまで元気に立ち直らせてくれたのだから。
「アクシデントもあったしね」
「ああ、痴漢さんのことですか」
「ええ、でも、あそこまでしなくても良かったんじゃない?」
「どう言うことです?」
あれって愚かな男じゃないの?
「どうって……」
「幽々子様を窮地に追い込んだのですから、ああするより他はありませんでした」
「まぁ斬って騒動起こすよりはマシだけど」
「でしょう?」
「でも……」
「ところで幽々子様」
「なに?」
寝そべったままで私を見上げるようにして、幽々子様は小首を傾げた。
「それ」
私は幽々子様を方を向いて、何の気なしに、言った。
「脱がないんですか?」
「ああ」
幽々子様はこくりと頷いて、自身の守るものに手を掛けた。
しゅる、と衣擦れのような音が白玉楼に響き渡る。
ん、と小さな吐息。
髪が首筋を擦って、くすぐったそうに息を漏らした。
ぱさ、とまるで、衣服が落ちるような音と共に、それは畳みに落ちた。
そうしてゆるゆると息を吐いた。
身を縛るものから、ようやく解放された。そんな吐息。
座り込んで、肩を解すように身体を捻る。
開けっ放しの障子から、夕焼け見える。
次の瞬間、
幽々子様の頭から後光が差していた。
幽々子様はハゲていらっしゃった。
それは決して誰にも言えない類いのひみつだ。
けれど、私はそれを知っている。
他の人は知らないことを、私は知っているのだ。
だからこそ、私は全力を尽くしてそのひみつを守るのだ。
顔には表さないが、幽々子様もいつも警戒している。
たとえいまのように、人里の甘味屋で和菓子をパクついているときでさえも、警戒を怠らないのだ。
頬が緩んで、美味しそうに団子を食べていたって、警戒を怠らないに決まっているのだ。
全然緊張感がなさそうに見えても、幽々子様は気配を敏感に察知している。
誰かが近付いてきて、そのひみつに触れようものならば、きっと幽々子様は能力を使ってでも相手を止めるだろう。
それほどまでに、そのひみつは恐ろしいものなのである。
知られてはいけないものなのだ。
それを私はよく知っている。
ずず、と温くなってしまったお茶を啜った。
ともあれ、いまはこうして甘味なんぞを食べられる。
それが出来るくらいには回復した、と言うことだろう。
その辺は紫様に感謝しなくてはならない。
食べ終わり、私たちはなるべく人通りの少ない、けれどそれなりに人気のある道を歩いていた。
本当は人気のない場所を歩いていればいいんだろうが、それは幽々子様が許さなかった。
けれど気分良さげに身体を揺らしている幽々子様を見ると、それでも良かったのだ、と思えるのだ。
たとえ危険に晒されようとも、少しでも楽しんでくれたほうがありがたい。
ふいに、幽々子様が一つの甘味屋を指差した。
「ねぇねぇ妖夢、ちょっとこれ食べない?」
「ええ~? まだ食べるんですか?」
「だって、人里に来るのって久しぶりなんだもの。甘味とかいっぱい食べたいじゃない」
まぁそれも一理ある。
幽々子様は一ヶ月の引き篭もり生活の末、ようやく人里に出向いたのだ。
その一月の間、食べ物が咽喉を通らないような様子に、私はとても悲しんだ。
大好きだった和菓子でさえも、少しずつでしか食べられない。
だからこそ、今日、人里に来れてよかったと思う。
活気に当てられてか、いまの幽々子様からは悲壮な様子は見られない。
「まぁ、構いませんけれど、あんまりお金の心配をさせないで下さいね」
「はいはい」
和やかに話しながら暖簾をくぐろうとした瞬間、
どんっ!
男の人が幽々子様にぶつかった。
けれど私はそれを見逃さない。
するりと男の手が、幽々子様の懐から財布を抜き取ったのだ。スリだ。
抜かった。
たまには財布を持ちたいと言った彼女の言葉を信じたのが不味かったか(けれども落としていないのだから、それは別に関係ない)、いや、それよりも重大なことがある。
あの男は幽々子様にぶつかったのだ。
それがどれほどまずいことか、あいつにはわからないだろう。
けれど幽々子様の蒼白になった顔を見ればわかる。どこぞの吸血鬼のように帽子を押さえ、しゃがみ込んでしまった様子からよくわかる。
あいつは、幽々子様のひみつに迫るようなことをしたのだ。
ならば私はそれに制裁を加えなければならない。
幸い私には、スリと言う容疑よりも確実に相手を破滅させる方法を持ち合わせている。
それは紫様から聞いた必殺の呪文だった。
男が走り出すよりも速く、私の手は動いていた。
ひゅうと風を切って男の手首を握り締める。
ぐぅと男の咽喉から悔しげな声が漏れる。
そして私はその手を高く掲げる。
そうして男を破滅へと導く呪文を唱えるのだ。
すなわち。
「この人痴漢です!」
男は目を大きく見開いて驚愕の声を上げる。
そんなことしてない、と。
けれどもそんなことは関係ない。
この必殺の呪文には、全く意味がない。
やっていなくとも、やっていることにしてしまう呪文なのだ。
……ところで痴漢ってなんだろう?
紫様は意味を教えてくれなかった。
でも漢字からはなんとなくわかる。
「痴」は愚かとかそんな意味もあったはずだ。うん、痴れ者とか使うし間違ってない。
それに「漢」で男。
つまり愚かな男なのだ。
それがどうして相手を破滅に向かわせるのかはさっぱりわからない。
わからないけれど、きっとこれでいいはずだ。
まもなくやって来た、里の警備隊に男を差し出す。
容疑は痴漢。
手錠をかけられ、俺はやってない、と喚きながら歩いていく男の後姿を見ながら、幽々子様を見やる。
震えていた。
甘味屋の前で、帽子を押さえて震えていたのだ。
それが恐怖によるものだと、私はすぐにわかった。
手を差し伸べて、その身体を引っ張り起こす。
もう危機は去りました。
そう、にこやかに笑いかけた。
幽々子様はようやく安心したのか、腰が抜けたように私にもたれ掛かった。
恥ずかしそうに、曖昧に笑いながら、
「腰が抜けちゃった」
と言うものだから、私は幽々子様をおぶって白玉楼まで帰ることにした。
幽々子様は照れたよう微笑んだ。
その笑顔が浮かべられるのなら、きっと人里に来ても大丈夫だろう。
油断さえしなければ、幽々子様の秘密を見破る者なんてきっといないのだ。
返りの道中、幽々子様はずっと帽子を押さえたままだった。
風に飛ばされないように。
白玉楼に戻り幽々子様は警戒を解き、ようやくリラックスしたように畳に寝そべった。
「やっぱり家は落ち着くわぁ……」
「でも、人里では楽しそうだったじゃありませんか」
「まあ、そりゃ久しぶりに外に出たんだもの。楽しくないわけがないわ」
「それもそうですね」
実際幽々子様が引き篭もっていた一月は酷かった。
食べないし、寝ないし、ずっとショックを受けたようにぶつぶつと独り言を呟いたりしていたものだ。
髪はぼさぼさで、目に生気(もう死んでるけれど)がなくて。
だからこそ、ここまで復活したことに、私は喜びを隠しきれなかった。
先日、急に復活して、人里に行きましょうとか言い始めたときはどうなることやらと思ったが、杞憂だったようだ。
紫様には感謝しなくてはならない。
だって幽々子様を、ここまで元気に立ち直らせてくれたのだから。
「アクシデントもあったしね」
「ああ、痴漢さんのことですか」
「ええ、でも、あそこまでしなくても良かったんじゃない?」
「どう言うことです?」
あれって愚かな男じゃないの?
「どうって……」
「幽々子様を窮地に追い込んだのですから、ああするより他はありませんでした」
「まぁ斬って騒動起こすよりはマシだけど」
「でしょう?」
「でも……」
「ところで幽々子様」
「なに?」
寝そべったままで私を見上げるようにして、幽々子様は小首を傾げた。
「それ」
私は幽々子様を方を向いて、何の気なしに、言った。
「脱がないんですか?」
「ああ」
幽々子様はこくりと頷いて、自身の守るものに手を掛けた。
しゅる、と衣擦れのような音が白玉楼に響き渡る。
ん、と小さな吐息。
髪が首筋を擦って、くすぐったそうに息を漏らした。
ぱさ、とまるで、衣服が落ちるような音と共に、それは畳みに落ちた。
そうしてゆるゆると息を吐いた。
身を縛るものから、ようやく解放された。そんな吐息。
座り込んで、肩を解すように身体を捻る。
開けっ放しの障子から、夕焼け見える。
次の瞬間、
幽々子様の頭から後光が差していた。
幽々子様はハゲていらっしゃった。
と言って起き上がったゆゆこさまがハゲてるのなら見たことあるぞw
ついにあのピンクの悪魔、カービー化し始めたのか!?(妄想)
コレは・・・ww
庭掃除で巻き込むってどうやればそうなるんだwww