作品集80「縁側の花」の続きというか、後日談です。
「♪♪~♪」
鼻唄を歌いながら山の上を飛ぶ。
ここ最近のお気に入りの場所へ。
九天の滝、滝壺から10mほど上のところの、その裏には、ぽっかりと小さな洞窟があった。
奥行きはほとんどないけれど、天井は高く、滝越しの日のきらきらとした光に、下の方から聞こえてくる滝壺の音。
一人でいたいとき、のんびりしたいとき、過ごすには最適の場所だ。
九天の滝には滝壺のすぐ裏に大きな洞窟があるので、こちらには気づかないのか、ほとんど誰も来ない。
「ま、私だけの秘密基地ってところかしらね」
誰に向かってなのか、文はそう言いながら洞窟に降り立つ。
今日もいい天気で、太陽光に裏から照らされた滝はとても輝いて見える。
「たとえ霊夢さんと言えどここは教えたくないですねー」
この輝きは自分だけのものにしたい。
ジャーナリストにだって、独占欲はあるのだ。
「ふう、やっぱりここは落ち着くわね……ん?」
ふと目をやると、洞窟の奥の行き止まりの壁に、一点、赤色が見える。
「あや?こんなのありましたっけ……」
近づいてよく見てみると……
「……あぁ」
文は納得がいった、という感じに笑顔を浮かべた。
「……そうですね」
壁の赤に語りかける。
「迷う必要なんて、ないはずなんですよ」
向こうもそれを望んでいるし、自分もそれを望んでいる。
なのに、なぜ逡巡してしまうのか。
「……どうしてでしょうね」
赤は何も答えない。
「……今度は、私を手伝ってくれるのですか?」
目の前の赤とは別に、目の端に赤が見えた。
そこを見ると、もう一つ赤。
答えの代わりだろうか。
「ふふ、了解、しました」
いつものように博麗神社に出向いた。
霊夢さんはいつものように縁側にいた。
いつもの会話。
「おはようございます、霊夢さん」
「あら。おはよう、文」
あの日からも全く変わらない会話。
彼女は、いらいらしているだろうか、諦めているだろうか。
表情からは読み取れない。
「霊夢さん、"リナリア"って知ってますか?」
「? 知らないわ」
「花の名前なんですよ。霊夢さんにあげようと思って。ほら、これです」
そう言って、2つの赤……リナリアを差し出す。
「……これは……」
霊夢が驚きの中、少し安堵も混ざったような顔で尋ねてくる。
「リナリア、別名……姫金魚草、ですよ。花言葉は……」
ぎゅっ……
文が言い終わらないうちに霊夢が抱きついた。
「……『私の恋を知ってください』、ね」
「……はい」
「……ばか。何が幻想郷最速よ……返事が、遅い」
「申し訳、ありません」
「そんな言葉は、いらない」
「……ええ」
「ちゃんと、返事、ちょうだい」
「……大好き、です」
「……うん、私も」
今日はいい天気。
太陽の下に、二人。
文が手に持ったリナリアは、満足そうに風に揺れた。
何かしらが必要な気がするのは同感です