Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

鵺と幻想郷縁起

2011/01/05 12:53:49
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「ねぇ、早苗」


ぬえが仰向けで本を読みながら私を呼んだ。

この前渡したとあるラノベの二巻ではないらしい。
大きさ的に。


「どうしました?」

「この本ってさー。いわゆる妖怪図鑑よねー」


そう言ってぬえは持っていた本をこちらにパスした。

受け取ってみると……


「……幻想郷縁起、ですか」

「そーよ」


幻想郷縁起。

幻想郷の著名な妖怪や危険なスポットを紹介していて、幻想郷の人間が安全に過ごすためには必須とも言える本。


「……妖怪図鑑と言うと少し語弊がありますね。安全を守る人や神も載っていますから」

「でも基本は妖怪図鑑でしょ?」

「……まぁ、基本は」

「でしょ!?なんで私が載ってないのよー!」

「あら、まだ載ってなかったんですか?」

「そーなのよ」


それは不思議な話だ。

鵺と言えば平安時代の有名な書物にも書かれていた妖怪だ。

早苗が幻想郷でぬえに会う前から存在を知っていた、という程度には外でも著名な妖怪である。

確認されたのが最近とはいえ、1年以上経っているのにまだ載っていないとは。


「……正体不明とか言い続けてるから、載せようにも情報がないんじゃないですか?」

「あー……」

「そろそろ正体の2割くらい明かしちゃえばどうです?」

「いや、それはダメ!正体不明は私のアイデンティティーなんだから!」

「アイデンティティー……ついこの前まで封印されてたのに、よくそんな言葉知ってましたね」

「えへへー、ほめてほめてー」

「だが断る」

「えっ」

「……さて、正体不明を貫きつつ幻想郷縁起に載るには……うーん」

「……ぐす」


涙目でこちらを見てくるぬえを無視して考える。

飴をやるのは三日にいっぺんで十分なのだ。

ここ数ヶ月鞭しかやってない気もするけど。


「……うーん、やっぱり少しは情報ないと載らないでしょうね……」

「うう……じゃあどうすりゃいいのよ……」

「…………そうだ!」

「お?どうするの?」

「うんうん。まずはとりあえず人里に行きましょう!」

「え、ちょ、早苗ー?」


ぬえを引っ張って人里に向かう。

目指すはもちろん、稗田家だ。






人里の入り口に降り立ち、そこからは歩く。


「ね、早苗ー。結局どうするの?」

「そうですね、とりあえずぬえは鵺とばれないような格好をしていてください」

「へ?……人里の人間には私はただの人間に見えるけど……」

「あ、そうなんですか。じゃあそのままでも結構です」

「……ねぇ」

「大丈夫ですって。ぬえの悪いようにはなりません。たぶん」

「たぶん!?」

「ほら、稗田家が見えてきましたよ!」

「え、ちょ、早苗、たぶんって」

「さぁ、これから幻想郷縁起著者に直談判します!」

「ええー!?」

「ごめんくださーい!」

「うわ、うわ、早苗の行動力、時々怖いよ……」

「任せておきなさいって!」

「でもたぶんなんでしょ!?ねぇ!?」






……というわけで、ただいま私、封獣ぬえは、幻想郷縁起著者である稗田阿求氏と向き合っております……


「珍しい……と言うより初めてですね、あなたがここに来るのは」

「はい!今日はよろしくお願いします!」


早苗は何に対してか知らないけどすっごくやる気になってます。


「ふふ、よろしくお願いします。えーと、用とはどういったものでしょう?」

「実はですね、幻想郷縁起未収録の妖怪、封獣ぬえについて耳よりな情報がございまして」

「……それは興味深いですね。詳しくお聞かせ願えますか?」


なんか早速いろいろばらされそうな雰囲気がする。

……でも、悪いようにはしないって言ってくれたし……。


「ええ、もちろん。こちらもそのつもりで来ましたから」

「よいしょ……と。では、お願いします」


阿求さんは筆と紙を用意して、メモをとる気まんまんのようです。

……下手なこと言わないでよ、早苗……




「実はですね……封獣ぬえは、宇宙人です」

「……は?」


……は?


「封獣ぬえの正体は、2009年に接近したルーリン彗星に乗ってやって来た、グリーゼ581星系の第4惑星出身の」

「ちょ、ちょっといいですか?」

「……はい?どうしました?」

「それは……確かな筋の情報、なんでしょうね?」

「ええ、もちろん。私という確かな筋からの情報です」

「…………ひやかしなら帰ってもらえます?」


……そりゃそうなるよ……


「いやいや、ひやかしなんかじゃありません。自信をもって提供できる情報です!」

「その自信はどこから来るんですか……」

「確信は自信に変換可能なのです!えーと、で、そのグリーゼ581第4惑星の」

「ちょちょ、早苗!」


もう我慢できない。止める。


「……どうしました?」

「いや、どうしました?じゃなくてさ……」

「……あの、こちらのかたは……?」


あ、まずい。

空気になってたのにつっこんだから、阿求さんが私に気づいた。


「あ、彼女は……えーと、この前外の世界から来た、鵺研究の第一人者です!」

「え?」


え?


「そんなに私の情報が信頼できないなら、彼女に聞けばどうです?」


ええー!?


「……ふむ、鵺研究の第一人者さんですか……。……すみません、色々教えていただいてもよろしいでしょうか?」


えええー!?

ちょ、早苗!


「(がんばっ☆)」


うわ、完全に外野決め込んでる。

親指とか立ててる。


「さぁ、鵺の情報、教えてください!」

「え、う、あ」

「さぁさぁ!」


うわーんどうすればいいのー!?







ぬえは完全に困惑している様子。

そりゃそうだ。

私だってこうなるとは思わなかった。

情報がないなら無茶苦茶な情報を与えておけば、正体不明も深まるし、その情報で幻想郷縁起にも載るし、一石二鳥だと思ったのだけど。

うーん、やっぱりちょっと無理があったかな……

……ま、あたふたしてるぬえが可愛いし、もうちょっと放置しておこう。

ごめんね☆









……ただいま私、封獣ぬえは、幻想郷縁起著者、稗田阿求氏に追い詰められております……

どうしてこうなったの……


「……どうしました?」

「あ、いえ、えーと、何から話そうか迷ってるとこです……」

「そうですか、決まり次第早速お願いしますね!」


早苗はずっとニコニコこっちをみてるだけ。

助けに入る気は全くないみたい。

自分で何とかするしかないのだけど……

正体不明は貫きたいし、でも幻想郷縁起には載りたいし……

……仕方ない。とりあえず、『正体不明』って載せてもらう方針で……


「えーとですね、鵺という妖怪は、そもそも正体不明が前提となった妖怪なんですよ」

「ええ、それは知っています」


じゃあそう書いてくださいよ!


「……ええと、ですからして、正体不明の正体について議論しても仕方がないのです」

「……はぁ」


む、なんか目に少し失望の色が見える。

だめだ、このままでは載せてくれないかもしれない。


「えーと、しかし、存在しているのは確かなので……」


あぁ、もういいや!

ストレートに言う!


「正体不明の妖怪で、猿の頭、虎の手足、狸の胴体、蛇の尾を持つと言われている。とか書けばいいと思います!」







「……え?」

「え?」

「……私の聞いた話では、背が虎で足が狸、尾は狐、頭がネコで胴は鶏とのことでしたが……」

「…………。……まぁ、そこは諸説ありますし……」

「いえ、幻想郷縁起に嘘をのせるわけには参りません。……あなたの方が、正しいのですか?」

「え、いや、まぁ、そこは、人によって……」

「人によって?」


あっとまずい!


「え、えーと、私の知る鵺研究者の方々の間でも諸説ある、ということです、はい!」

「うーん、そうですか……」


ふう、なんとか乗りきった。


「……結局、確定情報はないんですか?」


うーん、あんまり情報は与えたくないんだけど。


「そうですね……」

「ありますよ!」


え、早苗?


「はい?……まさかまた……」

「いえいえ、まぁあれも真実ですが、もっと別のことです!」

「はぁ。まあとりあえずお願いします」

「前回ぬえが出現したときは、私が退治しました!」

「……は?」


……えーと、早苗?


「ですからですね、今後鵺が現れたとしても、私であれば退治することが可能です!」

「……それは、本当なのですね?」

「ええ、本当に本当です!」

「では、鵺はどんな格好を

「重要なのはそこではないです!」

して……は?」

「重要なのはただひとつ!守矢神社を信仰しましょう!そうすればあなたは鵺から救われます!そう書いておいてください!じゃあ行くよ!ぬえ!」

「あ、ちょ、待ってよ早苗ー!」

「……なんだったんでしょう、一体……ってぬえ!?ぬえって言いました!?今!!」

「気のせいですよー!!」

「え、ちょっと!早苗さん!!」

「おじゃましましたー!!(ガラガラ)」

「あ、待っ……(ドテッ)」

「またいつかー!!(ガタン)」

「…………うう、体の弱さがこれほどまでに恨めしいのはいつぶりでしょう……」








人里からの帰り道。

「よかったですねー!これでぬえも幻想郷縁起に載りますよ!」

「えー……あんなんで載るのかなぁ……」

「載ります載ります!」

「結局早苗が信仰集めしただけな気がするんだけど……」

「ま、そこはそこです。……それにしても、正体不明は必死で堅持しましたね」

「まぁね!ひとっつもばらしたくないもの!」

「私には?」

「……うーん、どうしよっかなー」

「教えてくれないと文さんあたりにいろいろぶちまけちゃいますよー」

「えっ……な、なにを?」

「そうですね……例えばこの前寝るときに」

「わー!わかったわかった!言う!ばらす!みんなばらすから!」

「うふふ、ぬえはいい子ですねー」

「うう……絶対いつか立場逆転してやる……」

「ぬえにはきっと無理ですよー」

「はぁ……早苗の部屋の本棚の裏の」

「ん?」


笑顔でお札を突きつけてくる早苗。


「これだもんなぁ……」

「ふふ、修行が足りませんよ?」

「どんな修行よ……」

「さ、ぬえ!帰ったらご飯にしますよ!」

「はぁ……はいはい」


いろんな意味で、早苗には勝てそうにないな……














数日後


「ぬえ……ぬえ!!」

「……何?」


朝から早苗に叩き起こされた。

……なんだろ、すっごく嬉しそうだ。


「載りましたよ!幻想郷縁起!」

「載った?ふーん。幻想郷縁起に……ってええ!?載ったの!?」

「そうなんですよ!」

「よくあんなんで載せたね阿求さんも!見せて見せてー!」

「もちろん!ほら!」


といって渡された最新版の幻想郷縁起。

開かれた真新しいページは寝起きには少しまぶしくて。

その文字が見えるまで、すこし時間がかかった……











東風谷 早苗
妖怪の山山頂にある、守矢神社の風祝。人間でありながら、神でもあるという。最近は妖怪退治にも精を出し始めたようで、長らく地底に封印されていた鵺を退治したという話もあり、人里での人気も高まっている……







「……ってこれ早苗じゃん!!」

「え?ええ、私ですよ」

「私は!?」

「ぬえは……まだですね」

「直談判の意味無いじゃん!」

「まぁ、ぬえもいつか載りますよ、いつか、ね?」

「うう……」


やっぱり、まだ勝てそうにないよ、早苗……
ぬえが寝るときに??
早苗の部屋の本棚の裏??
知りたい人は「ワッフルワッフル」と(ry

幻想郷縁起2はまだですか
ケトゥアン
http://twitter.com/Ketoxuan
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
鵺のような人という表現は、この早苗さんにこそ合うと思うんだ
2.名前が無い程度の能力削除
俺の聞いた話では鷹の頭、虎の胴体、飛蝗の脚を持つ正体不明の妖怪、とのことだったんだが……