Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

冬の訪れ

2011/01/01 09:08:53
最終更新
サイズ
2.25KB
ページ数
1

分類タグ

 冬が来た。


 肌を射すような冷たい空気も、見渡した一面真っ白な雪で頷ける。

 空に薄く張った雲が朝日を遮り、ゆっくりとまばらに雪を降り注いでいく。

 そしてまだ誰も踏み入れてない新雪の上にだんだんと積み重なねていく。

 足跡の無い雪の海は、白く輝いて綺麗だけど。どこか、物足りない。

 まだ誰も、気付いていないのだろうか。

 冬はもう来ているのに。





 考えても見れば人間にとって、冬を歓迎する要素なんて一つも無いのかもしれない。

 寒さにその身を震わせるしかない季節なんて普通なら辛いだけなのだろう。

 それは何も人間に限ったことではない。動物も、妖怪も、自然でさえも。

 皆、どこかで身を潜めて冬が過ぎるのを待っているのかもしれない。

 だから誰もいないのだ。余りの静けさに、世界に一人だけ取り残されたかのような感覚に陥る。

 私は寂しさからつい悲観的な事ばかりをつらつらと思い浮かべてしまった。

 いけない。こんな事では、あの子に心配されてしまう。





 不意にザクザクという足音がした。

 振り向くとそこには人間の子供たちが数人、走り回っているところだった。

 私の存在にも気付かずに、雪だ、真っ白だと口々に笑う子供たちは実に楽しそうに雪の上を駆け回る。

 そんな元気な子供たちの姿に、思わず私の口元が綻ぶ。

 冬の厳しい寒さにも負けず戯れるその姿のなんと頼もしいことか。

 私の憂いなど、ただの杞憂だと笑い飛ばしてくれているようにすら感じられた。

 きっとそれは子供たちだけの特権なのだろう。どんな事からも楽しみを見出せる、そんな特権。

 だとすれば、あの子たちは春もああやって笑っていたのだろうか。

 夏も、秋も。変わらず何かを見て笑っていたのだろうか。

 私にはそれを確かめる術がない。冬にしか表に出られないから。


 だから私は切に願う。


 どうか笑っていて欲しいと。そうであって欲しいと思う大切な人が私にも、いる。

 あの子は今、どこに居るのだろう。きっと私を探しているのだろう。

 彼女はずっと変わらない。元気一杯で、無邪気で、素直で。誰よりも甘えん坊で、そして寂しがり屋。

 こうしてはいられないと、気付けば立ち止まっていた足を再び私は動かし始めた。

 この先に彼女が居るとは限らない。だとしたらこれは無駄な努力なのかもしれない。

 むしろどこに居ても直に彼女の方から見つけてくれる事だろう。

 それでも私は歩くのだった。彼女に会うために。彼女との約束を果たすために。





 さあ会いに行こう。

 大切な人の笑顔を見るために。

 そしてこう言うのだ。

 会いに来たよ。冬が会いに来たよ、と──
 新年、あけましておめでとうございます。
 新年早々、こんな駄文を読ませてしまい誠に申し訳ありません(^_^;)

 今回のテーマは冬。
 そして全く台詞を使わずにできるだけ静かな印象で仕上げたいと考えました。
 …………その結果がこの短文です。
 でもまぁ台詞ばかりだった頃の当初から振り返れば、まだ少しは成長したんじゃないかと。
 そんな風に前向き捉えてる事に致しました。

 それではまた。
 ヘルツでした。
ヘルツ
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
温かい気持ちになりました
2.ぺ・四潤削除
冬があるからこそほんの少しのぬくもりも愛おしく感じられるのです。
いい雰囲気でした。