Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

繋がり

2011/01/01 02:20:20
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「あーあー……聞こえますかー。聞こえてたら合図代わりに、文大好きって言ってくださいー」
「くたばれ鴉」
「聞こえてるようで何よりですね」
「今ので良いのね」

 地底での異変を解決した後も、会話手段に使っていた陰陽玉はまだ機能していた。いかに離れていても、相手と会話が出来る。その魅力に文が「是非このまま今後も使わせて欲しい」と紫に頼みこんだことで、今なおこの陰陽玉は存在する。
 しかし相手と話せると言っても、この陰陽玉を持っているのは文と霊夢のみ。そのため文は、手に入れたは良いが、話す相手が霊夢しかいなかった。

「あんたねぇ、今何時だと思ってんのよ」
「私の時計が間違っていなければ、夜の十一時くらいですね」
「人間の良い子は寝てる時間なのよ」
「起きてるってことは、巫女は悪い子なんですね」
「どっかの誰かのせいで起こされた、って場合もあるわよ」
「霊夢さん、こんな時間に寝ないでしょうに。だから話しかけてみたんですから」

 霊夢は別に寝てはいなかったが、布団を敷いてごろごろとしているところだった。服も既に寝巻だ。

「まぁ良いけど……。で? 何の用よ?」
「いやぁ、あと十数分もしないうちに年が変わるじゃないですか」
「そうね」
「最近忙しくて会って無かったじゃないですか、私たち」
「……そうね」

 師走になると、文は山の仕事やらで忙しかった。いろいろと書類が増え、いつもはふらりふらりとしている文でさえ、放り出すにはいかない用事ばかりだったのだ。
 文はここ最近、ずっと家から出れない状態だった。
 そして霊夢から、文へ会いに行くということはまずない。そのせいで、二人はずっと会っていなかった。

「で、今日も会えそうにないので、せめて声だけでも聞かせてあげようかと思いましてね」
「何その私がまるであんたを求めていたみたいな発言」
「そんな照れなくても良いんですよ」
「じゃ、おやすみー」
「すみません、ふざけすぎました。ごめんなさい、切らないでください」

 霊夢はなんとなく、陰陽玉の向こうに土下座している文が見えたような気がした。
 思わず、くすっと笑ってしまう。

「久し振りに話しても、相変わらずねぇあんた」
「まぁ実は私からすれば、久し振りって気はしないんですけどね。たかが一ヶ月くらい」
「あー……妖怪と人間の時間感覚の違いかしらね」
「寂しかったですか?」
「切るわねー」
「ごめんなさいすみません。まったくもう、冗談の通じない人ですねぇ」

 お前がくだらないことを言うからだ。霊夢は心の中で、そんなことを呟く。
 久し振りに会話を交わしているというのに、文は相変わらずだ。たった一ヶ月のことだと文は言うが、霊夢にとっては本当に久し振りだ。変わり無い様子、声に、どこか安心をする。

「しっかし、これも最初は画期的でしたけど、今じゃ声だけってのはやっぱり少し味気ないですねぇ。紫さんの力なら、姿も映すーなんてこと出来そうなのに。なんで声だけなんでしょう。もしかして出来ないんですかね」
「そんなこと言ったら、紫が怒るわよ」
「あはは、出来れば内密に」
「大体、味気ないと思うなら、会いに来れば良いじゃない」
「だから最初に言った通り、今日は会えないんですってば。霊夢さんが寂しがっているのは分かりますけど、こればっかりは仕方ないんですって」
「別に寂しいなんて言ってないでしょ」
「あやややや、私には拗ねているように聞こえましたけど」
「拗ねてないし寂しくも無い。何よ? もしかして、あんたの方が寂しかったんじゃないの?」
「そうですねー私は寂しかったですよ」
「……は?」

 霊夢からすれば軽い冗談のつもりだった。「私がそんなタマだと思いますか?」みたいな、そんな返答を予想していた。
 けれども、返ってきた言葉は肯定の言葉。
 思わず、ぽかんとしてしまう。

「寂しかったので、もう我慢出来ませんでした」
「えっと、文?」
「霊夢さん、今何時か分かります?」
「え? んーっと、今は……あれ? もう日付変わってる」
「はい、新しい一日になったということで――」

 次の瞬間、霊夢の寝室の障子が勢い良く開かれた。
 驚きにびくっと体を震わして、すぐさま音のした方へと振り向くと。

「来ちゃいました」

 文がとても良い笑顔で、立っていた。
 悪戯が成功したような子どもの笑顔。
 霊夢は脳内の処理が追い付かず、未だに固まったまま。

「新年明けましてメリークリスマスですね」
「それ間違ってるから」
「おぉ! 思考停止していたようなのに、ツッコミは出来るんですね」
「……え? というか、なんであんたここに? 今日は会えないってあんた言ってたはずじゃ……」
「はい。ですが霊夢さん、それは一つ間違ってますね。日付が変わった時点で、今日じゃなくてそれは昨日のお話です。つまり、一月一日の今日は会えないとは言ってないですよ?」

 笑顔でそう話す文を見て、霊夢はやっと気付く。騙された、と。
 最初から文は、サプライズをするつもりだったのだ。
 文はゆっくりと布団に入って寝転がったままの霊夢に近付き、その布団の上に腰を下ろした。

「ふぅ、寒かったです。けど、この布団は暖かそうで良いですねぇ」
「おいこら何当たり前のように私の布団に入って来てるのよ」
「おぉ、寒い寒い」
「完全無視ね」

 布団は決して大きいわけではない。完全に、文が無理矢理入って来ている。霊夢は布団の中で、げしげしと文を蹴る。しかし、文は霊夢の背に手を回して、無理矢理くっついて布団の中に入ってくる。
 ばたばたと腕をばたつかせて抵抗を試みるが、妖怪の力に生身で勝てるわけも無く、ぎゅうっと抱き寄せられてしまった。

「おー体が暖かい。そして心も温かい」
「馬鹿じゃないの」
「巫女の言葉はこんなにも冷たいのに、私はとっても満たされます」
「うざい寄るな」
「そんなこと言ってるくせに、しっかりと私の背中に手を回してくれているあたり、流石は霊夢さんですね」
「っ!? 出てけ! 本当出てけ!」

 げしげし。
 じたばた。
 ぎゅうぎゅう。
 むぎゅ~っ。
 ぱたり。
 一通り暴れてみたものの、抵抗はことごとく無駄だと分かった霊夢は、ため息を吐いた。そして、大人しくなる。

「あ~ぽかぽかします」
「頭ぽかぽかして欲しい?」
「いえ、それは遠慮しておきます。きっと痛いので」

 とくんとくん。
 鼓動が聞こえる。こんなにも密着したことは、今までになかった。

「霊夢さん」
「んー?」
「ちょっと目を瞑ってもらえます?」

 なんでよと訊くと、いいから早く、とだけ返ってきた。
 霊夢はため息混じりに、言われた通りにする。
 ――とくんっ。
 次の瞬間、感じていた文の鼓動が、大きく乱れた。
 そしてそれと同時に、唇にふにゅっと柔らかい感触。
 それは本当に一瞬の出来事で、霊夢がその感触に驚き目を開くと、目の前には少し照れくさそうに笑っている文がいた。

「あ、あ、あんた……な、何して?」
「何したと、思います?」

 分かりきった問い。
 かぁっと顔が熱くなるのを、霊夢は感じた。キッと睨んでも、文はにへへーと笑うだけ。頬が少し赤いのは、きっと文も恥ずかしさを感じているからだろう。

「言ったじゃないですか、私は寂しかったですよってね」
「っ……あんたは、本当に、もう」

 言葉を紡ぎたいのに、紡げない。
 上手く言葉を、探せない。

「うーん、今の巫女の姿を写真で是非撮りたいけども、あいにく両手が塞がっているので無理ですね。残念です」

 次第に余裕を取り戻してきている文を見て、少しムッとする霊夢。
 今日は文に翻弄されっぱなしだ。そう思うと、妙な対抗心のようなものが、霊夢の心に生まれ始める。
 なんとかして、文を自分と同じように驚かせたい。そう思った霊夢は、反撃に出ることにした。

「文、あんたも目を瞑りなさい」
「あやややや? まさか霊夢さんも私にちゅーしてくれる――」

 文の冗談めかした言葉は、そこで途切れた。
 霊夢の唇で、それ以上のお喋りを強制的に終了させられたのだ。
 文が霊夢にしたときと同じように、霊夢もすぐ離れた。少し、俯き気味だ。文は未だに固まったまま、動かない。完全に、予想外の出来事だったのだろう。
 それを見た霊夢は、少しだけ気分が良くなる。してやったり、といった表情だ。まだ頬は赤いが。

「……巫女」
「な、何よ?」
「あなた、ばかですか」
「はぁ!? 最初はあんたからしてきたんじゃない!」
「いや、そうですけど……。それでも、うん、あなたは馬鹿です」

 馬鹿だ、ばか、ばーか、と言い続ける。
 そして背中に回していた腕に、より一層力を込めた。少し、痛いくらいに、ぎゅうっと。

「ちょっと、痛い」
「そうですか」
「緩める気は無いのね……」
「生意気な人にはお仕置きです」

 元凶はお前だ。という言葉を、霊夢はなんとなく心に閉まっておいた。
 しばらく、静寂。けれども、不快感は感じない。心地の良い、静寂だった。
 このまま互いに眠ってしまうのではないかと思うくらいに、穏やかで温かい。実際、霊夢は少しうとうととし始めていた。

「あ、霊夢さん。一つ言い忘れてました」
「んー?」
「あけましておめでとうございます。そして今年もよろしくお願いしますね」

 そこで、そういえば年が明けていたんだっけと思い出す。
 笑顔の文に、霊夢も笑顔で一言。

「ん、あけましておめでと。そして今年で視界から消えろ」
「後半酷い!?」

 きっとまた、騒がしい一年を過ごすのだろう。馬鹿やったり、対峙したり、共同戦線を組んだり。根元では、嫌いじゃない。嫌いに、なれないのだ。
 なんだかんだで、長い付き合いになりそうだ。互いに、そんなことを密かに思った。
 
あけましておめでとうございます。
今回はちょっと甘さがあるお話を書きたかったので、ただひたすら欲望に従っちゃいました。なので、ちょっぴり甘いです。
いつもとは違う感じで、久し振りにただひたすら欲望のままに!って感じでした。
さて、去年いろいろな方々に支えられました。私は弱いので、きっと今年もいろんな方々に支えてもらってしまうかと思います。
そんなふらふらふらんと不安定な私ですが、どうか今年もよろしくお願いします。
えーと、ではでは!
みなさま、体調を崩さないよう、良いお正月を!
そして今回のお話、少しでも楽しんでもらえたなら、嬉しいです。
喉飴でしたー!

>>唯さん
誤字修正しました。ありがとうございます。
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
明けましてあやれいむ!
2.名前が無い程度の能力削除
明けましておめでとうございます。
新年早々いいあやれいむが読めて今年は幸先良さそうです。
3.こーろぎ削除
あけおめー
やはり、あやれいむいいねっ!照れてる二人が可愛すぎる!年始はあやれいむが多くていいなー
4.ksk削除
今年初めて見たそそわに喉飴さんのあやれいむが投下されている幸せ(*´ω`*)

今年もよろしくお願いします!
5.削除
>抵抗はことごとく無駄たと分かった霊夢は、
無駄だと、だと思います。間違っていたらすいません。

あけおめです、喉飴様。
それと、ちょっぴりどころの甘さじゃないです……
6.名無し削除
会長のあやれいむ・・・
これで今年も頑張れる
甘ーい
7.爆弾鴉削除
あけましてあやれいむ!

年の初めから喉飴さんのあんま~いお話が読めて最高です!
8.幻蒼削除
あけましてあやれいむ!
新年早々甘い!
9.奇声を発する程度の能力削除
あけましてあやれいむ!
10.オオガイ削除
これで「ちょっぴり甘い」ですか。
私には破壊力抜群です。
新年早々良きあやれいむをありがとうございます。
11.名前が無い程度の能力削除
霊夢の一割に満たないデレが発揮された…だと…
12.名前が無い程度の能力削除
確かに喉飴にしては甘さ控えめ、しかしよいあやれいむでした。

新年あやれいむおめでとうございます。
13.名前が無い程度の能力削除
明けましてあやれいむ!
14.名前が無い程度の能力削除
明けましてあやれいむ!

でもひとつ欲を言えば文の口調が公私の「私」の方が良かったかな
15.名前が無い程度の能力削除
明けましてあやれいむ!
デレた霊夢のかわいさは異常。
16.ケトゥアン削除
久々に確認したら来てました。
遅くなりましたが明けましてあやれいむ!
糖分……とはまた違った類いの甘さを感じました。
ありがとうございました!
17.名前が無い程度の能力削除
コメントが遅くなりましたが

明けましてあやれいむ!

です、喉飴さん