Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

原点回帰してみるか

2010/12/30 13:49:53
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「あー、マジ暇なんだけど」
外の世界の『携帯電話』みたいに耳に付けて喋ってみても、返してくれる人など居るはずもない。
何故ならこれは『携帯電話』では無いし、そも、それは『電波』という目に見えないものがないと使えないらしいから。
それでも誰かが返してくれるかも、と小さく期待してしまう辺り、本当に自分は暇なのかもしれない。
空を漂いながら、何気なしに一回転。
勿論右手は『携帯電話』っぽいカメラを当てたまま、左手は紫と黒の市松模様のミニスカートを押さえて。
上手く旋回出来た気は全くしなかった。
昔ならもっと美しく弧を描くように回れた筈。
嗚呼、天狗も所詮は人間と同じ。努力を怠れば身体は直ぐに忘れてしまうのだ。
「ありえない」
ぽつりと呟き、ため息。
だらんとツインテールの髪をゆらゆら揺らして、
「わよっと」
姫海棠はたては頭から自由落下した。
風を切る音が聞こえる。聞き慣れた音だ。
眼下には鬱蒼と生い茂る森が広がっている。どうやら魔法の森の上空まで自分は漂っていたらしい。
左手はスカートを押さえたまま、もう一度カメラの液晶を耳に当てた。
「あーあー、只今落下中でーす」
外の世界では本当にこんな小さな箱のような機械から遠くにいる相手の声がするのだろうか。
そんな夢物語は信じがたいけど、でももし本当ならそれはとても素敵な事である。
部屋の中にいながら幻想郷中の誰かと話せるなら、もう部屋から出る必要はないじゃないか。
一人で居たら気が狂うわよ、と無理に外に連れ出そうとするライバルが来る事も無くなるだろう。
もしもその条件にプラスして、新聞を家から全世帯に送るような技術があれば、一生はたては部屋から出られそうもない。
「あ、食事、どうしよう」
カメラは答えない。
代わりに、視界に大きな緑が飛び込んでくる。
ぐっと全身に力を入れると、まるで急ブレーキを掛けたかのように、はたての身体は地面と接するすれすれで静止した。
端から見れば、腕を使っていない逆立ちをした少女に見える。
いや、その長いツインテールは地面に触れているので、まるでツインテールで身体を支えているよう。
「よいっ」
身体を180度回転させる。一瞬頭がぼうっとした。
一本歯下駄で地面に着地すると、少しだけ土が抉れた。
押さえていた左手を離し、少しだけよれてしまったネクタイを申し訳ない程度に整える。
皆大好き急降下も、はたての暇をもてあました感を解消するには弱かった。
「あー、本気と書いてマジで暇。散歩でもしようかな」
じめじめしていて気味が悪い森だが、家で何もなくぐだぐだとしているよりはいいかもしれない。
胸ポケットにカメラをしまって、適当な方向を決めてはたてはゆっくり歩き始める。
と、その背後から、
「あやややや、じゃあ私もお付き合いしてもよろしいかしら?」
聞き慣れた声。
「・・・えー、後付けてくるとか引くわー」
振り返るとそこには、落下中に一瞬だけ浮かんできた同族。
赤い烏帽子に白いブラウスと黒いスカート。同じく赤い一本歯下駄。
はたてが紫なら奴は赤。
太陽を背に、万年新聞大会ランク外、文々。新聞記者の射命丸文が立っていた。
ちなみにはたてが記者を務める花果子念報も万年ランク外である。
「お前が自殺でもしやしないかと心配でついてきたのよ」
「は、自殺。なんでそうなった訳」
「他者とのコミュニケーション能力が著しく弱いはたてだから、
 久々に外に出たのに誰かに虐められて鬱になったのではと思ってね」
完全なる余計なお世話である。
それに、彼女のニマニマした顔を見るにそんな事一欠片も思っていないに違いない。
踵を返し、はたてはまた歩き出した。
どこに行く当ても無い。確か森の中には二人ほど魔法使いが住んでいるらしいが面識もない。
面識もないのに会いに行くのも若干気が引ける。
キノコでも採って帰ろうかな、おおよそ天狗がするように思えない事を考えながらふらふらと歩く。
「にしても、はたて」
また彼女の声がする。
彼女の場合、来るなと言っても来るから諦めてはいたが。
「何さ」
「飛ぶの下手になったわね」
それまで規則正しく前に後ろに動いていた足が止まった。
文も同じく足を止めたらしい。さくさくと聞こえていた足音が止まった。
「何百年も引きこもってたらそうなるわよ」
若干の嫌味も隠っているような言い方で文は続ける。
何せその何百年、家に顔を出してははたてを外に出そうと躍起になっていた彼女だから、
込めたくなるのも仕方がないのかもしれない。
「あんたがそう思うなら、本当にそうなのかもしれないわね」
くるりと彼女に向き合い、はたては苦笑いした。
思い出すのは先ほどの一回転。
第三者の、それでいて観察力の高い文が言うのだから紛いもない真実だろう。
「『飛べない烏、姫海棠はたて』か。ありえねー」
自分で口にしてみるとまるで他人事のように感じられて、今度の一面記事にしてもいいかな、なんて思う。それは自作自演だろうか。
文を見ると、何故か憮然とした顔をしていた。
「どうしたの」
眉を顰めてはたてが問う。
今の会話の流れのどこに彼女が不機嫌になる要素があっただろうか。
むしろ彼女なら喜び勇んで「いいネタが見つかったわ!」なんて言いそうなものなのに。
「練習」
「は?」
その5文字の意味を、一瞬理解し損ねた。
さらに首を傾げるはたてに、小さく呟く。
「付き合ってあげてもいいけど」
「何のよ」
「だから、飛ぶ練習」
あんたは何を言っているんだ。はたては思わず口に出そうとして思いとどまった。
「物言わぬカメラに話しかけて暇を解消するより幾分かはマシよ」
「畜生最初から見てたのかあんた!!
 ・・・ていうか、練習とか別にいいんだけど。飛べないって言ったのは過剰表現であって普通には飛べ」
「昔のお前は私と張り合う位早かったじゃない」
はたての言葉は文に遮られる。
風がびゅうと二人の間を吹いた。生足である二人には若干寒い。
髪もゆらゆらと揺れる。片方のテールが目の前に靡いて鬱陶しいしくすぐったい。
視界が茶色の髪で広がって目の前の同僚は見えないが、隙間から伺えたのは相変わらず憮然とした表情。
「そう、だっけ」
真っ白でしかない毎日という写真をずっと掘り下げていくと、やがて色つきの写真が現れる。
埋もれに埋もれた遠い昔の記憶だ。

─────あんたが風神なら、私は雷神よ!!!

今より少しだけ舌足らずな自分の声が脳内に響く。
まだ、天狗として独り立ちしていない頃の、子供の頃の声。
当時から風神少女として周りの大人達から一目置かれていた文に叫んだ言葉だ。
そんな、大天狗ですら舌を巻く彼女に極々平凡な天狗であるはたてが勝てるはずも無いのに、毎日毎日勝負を挑んで飛び回っていた。
ただの一度として彼女に勝てることは無かったが、彼女の背に手が届くくらいには追いついた覚えがある。
「今じゃ影も形も残っちゃいないけどね」
はたては、文が怒っている理由を何となく理解した気がした。
彼女は不満なのだ。嘗て自分と共に飛んだ好敵手が地面に燻っている事に。
唯一、風である彼女を捕らえようと追いかけてきたはたてが、今では飛ぶことすらままならずただ怠惰に日々を過ごしている事に。
「だから、飛びましょうはたて。お前は空に居るべきなのよ」
「・・・そんなお誘いの為にずっと着いてきてたの、あんた」
「これ以上腑抜けたはたてなんて、見たくないもの」
何だかんだで、この友人はお節介焼きで尚かつ友人想いなのだ。

ふわりと浮いた文を追うように、はたても足を踏み込んで地面を蹴る。
この浮遊感は外に出るようになった今も未だに懐かしい違和感として身体に広がっている。
感覚としてはもう掴んでいる筈なのに、まだ身体は追いつかない。
やがて、薄暗い森から重力に逆らって、青空へと二人の天狗は大きく飛び出した。
「練習って言ってもさ、一体何をするわけー?」
「飛ぶしかないでしょう。さ、全力でお山まで飛ぶわよ」
「げえ、マジで?」
「マジよ。じゃあ、私に追いつけたらとっときのネタを教えてあげるわ」
「言ったな」
二人で横並びになって肩を並べた。
そういえば昔もこうやって一列になってから飛び出していたな、とはたては思い出す。
びゅうびゅうと風がはたての身体をすり抜けていった。
身体に力を入れて、目指す先を見据える。
「端からこの射命丸文に勝てると思わない事ね」
「へん、甘く見てると泣かされるわよ。なんせあんたが風神なら私は雷神だもの」
文がちらりとはたてを見た気がした。
彼女は覚えていたのだろうか、くすりと笑い声がする。
「おお怖い怖い。それじゃあ行きましょうか」
「よし」
大気を踏んで、風のうごめきを感じて。


「「三、二、一、零!!」」


その日、幻想郷の空を二匹の烏が舞った。
某スレ&元ネタwikiで風神雷神ネタを見て、いてもたってもいられず書きました。ごめんなさい。
原作だと先輩後輩っぽいけど、幼なじみっぽい二人もいいと思う。
後はたてSSはもっと増えていい。
ugg
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
あやはた良いなぁ…目覚めたかもw
2.名前が無い程度の能力削除
良いですね
3.名前が無い程度の能力削除
あやはた良いですよね!

確かにはたてssはもっと増えるべき