リリーホワイト、春を告げる妖精。彼女は春の気配を感じるとどこからともなく現れ、その内消える。
レティ・ホワイトロック、寒気を操る妖怪。冬に現れ、春になるとまたどこかに消える。
秋穣子、秋静葉。紅葉や豊穣を司る秋の神で、冬になると暗くなる。
別に季節シリーズだからって消えなきゃいけない決まりは無いだろ!
そう声高に主張しても幻想郷の住人は我々に冷たい。
春や冬に対しては「季節の風物詩ね」「儚いなぁ」なんて風情を感じておきながら、秋に対しての感謝が、そう感謝が足りぬのだ。
緑っぽい方の神社のクリスマスパーティーに出向いてやった我々に向ける奴らの目は一生涯忘れるまい。
『え、なんで来てんの』
『というか、まだ居たんですか?』
『季節感失せるすわぁ』
神社が神を歓迎しないとかどういう事だよ!
季節感気にする前に宗教感気にしろよ神道信者!
姉さんは「あらお呼びでない。これまった」なんてギャグを飛ばしてたけどマジ切れしていた。
周りの枯れ木が芽吹いて一気に紅葉して一瞬で枯れ朽ちるぐらいプッツンしていたのだ。
そんな愚痴を里の男衆に吐き散らしていたら芋煮会に誘われた。私もプッツンした。
芋煮会! いや芋煮会が悪いとは言わぬ。芋煮会最高だよ。おいしいよ。
しかし、が、しかしだ。クリスマスパーティーと芋煮会をランク付けするとしたら諸君はどうする。ただし12月25日にだ!
プライドを傷付けられた私は復讐に燃え、自宅で布団を被って号泣している。姉さんは延々と壁を殴っていた。
「クソッ……クソッ……」
「穴空くからやめなよ……」
「ソッ……ソッ……!」
『おこんばんわー』
来客は悪しき冬妖怪だった。
襲い掛かる私一蹴される私一歩も動かない冬妖怪遂に壁に穴を空ける姉さん。
「触れる事すらっ! アウェー季節とはいえ仮にも神がっ触れる事すらっ……!」
「あぁビックリした。別に喧嘩売りに来た訳じゃないわよ」
何されるかわからないからお茶を出してやると、熱くて飲めないと吐かす。室温が下がってきたからすぐ冷めるだろう。
「季節感溢るる人気者が何の用だ」
「聞けば貴女達、酷い扱いされてるらしいじゃない」
「笑うのか! こんな私を笑うのか!」
パーティーのお誕生席を独占した揚げ句敗北者を笑いに来たのか。悪魔め。
体温が低い人は心が暖かいというが大法螺に違いあるまい。
全く私の子供にはこんな妖怪にだけはなってほしくない、反面教師にするにも存在するだけで教育に悪過ぎる邪悪の権化だ。
冬は一刻も早く四季に名を連ねる事を辞退し、地べたに頭を擦り付けるべきだというのは全人類の総意であろう。
「酷い話もあるものよねぇ。私も説得してあげるから、もう一度行きましょ、ね?」
「レティ・ホワイトロックさん!!」
レティさんの優しさに全人類が失禁し地の文まで柔らかくなります。以前から私はレティさんが心優しい妖怪だと信じていたものです。
雪山で遭難した男が間違いなく惚れるその美貌、冬の妖怪でありながら秋の神である我々に見せるこの抱擁力。
まさに地上に降りた天使と言うに相応しいのではないでしょうか!
「お姉様!」
「そんなにはしゃいで、はしたないわ穣子」
静葉お姉様もバックに煌めく紅葉を散らし、心なしか伸びた髪をかき上げます。テニスが上手そうです。
「悪いわね、レテイさん。とても、」
シュバッ。
「助かるわ」
キラピカァ!
「お姉様の頭の葉っぱが発光するのは絶好調の証! 数百年振りに見ましたわ!」
全盛期の姿を取り戻したお姉様とレティさんの三人で山の上の神社に向かいます。
境内には机が沢山並び、山の妖怪や神が会食を楽しんでいます。
楽しんで……そう楽しんで……ギギギッ。
「あ、レティさんだ! 私たちのパーティーにレティさんがきてくれたぞ!」
「やったー! これで来年は幸福が訪れますよ!」
「株価も上がるすわぁ!」
「あとは……あぁ……秋の人……」
「すまないがこのパーティーは50人用なのです」
「待ちなさい!」
涙目の我々を庇うようにレティさんが仁王立ちします。
口々に私達を追い出そうとしていた連中も静まりレティさんに注目しました。
さすがレティさん、カリスマ性を感じられます。こんな人と友達で良かった!
「冬の前には秋がある……。秋にもたらされた穣りで私達は寒く厳しい冬を越すのよ!
貴方達は少々四季の恵みを軽んじすぎている! 秋の優しさを、暖かさを忘れている!」
「レティさん……!」
「レティ・ホワイトロックさん……!」
「穣子! 静葉!」
レティさんに呼ばれ私達はおずおずと皆の前に出ました。先ほどまでの無機物を見るような目はもう感じられません。
私達の居場所はここにある、今ならそう信じられる。
「秋穣子です! おいもとか出せます!」
「秋静葉よ! 葉っぱとか出せるわ!」
「「「「「「あーき! あーき! あーき!」」」」」」
今や会場は秋コールの嵐。秋にもこんなに注目されたことは無い気がします。
レティさんが再びマイクを受け取り、高らかに宣言しました。
「秋穣子をパーティーに招き入れてよろしいかーッ!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
「おいもが食べたいかあああッ!」
「「「「「「イェアアアアアアアアアアア!!!!」」」」」」
「静葉さんは別に必要ないよね」
「「「「「「そうですね」」」」」」
「!?」
胴上げされて宴の席の中心に運ばれる私。
目が合ったレティさんは私にウインク一つして、どこかへと消えました。
きっとまたクリスマスの日に燻っている私達のような人を探し、救いにいくのでしょう。
この日の事を私は一生涯忘れるまい。冬の忘れ物から秋の忘れ物への、この優しさを……。
「えっと、えっと!? ほ、ほら! おいも焼くのに枯れ葉が要るんじゃあない!?」
「あ、私焼いたおいもも出せますよ」
「穣子!?」
>「穴空くからやめなよ……」
>「ソッ……ソッ……!」
で吹いた
スネオっぽい山の妖怪に吹いたww