注:
※キャラに関しては個人的解釈が多かったりします。ご注意を。
「あっ」
一冊の本が手から滑り落ち、床へと落下していく。
手を伸ばすも後ちょっとの距離で届かず、本はそのまま毛足の長い紅いカーペットの敷かれた床に音も立てず着地した。
昇っていた梯子を降り、落ちてしまった本を拾おうと手を伸ばす。が落ちた拍子に開いてしまったページに惹かれるように目が移った。
開かれたページには真っ青な海の写真が載せられ、それに関するちょっとした説明が付け加えられていた。
何だか興味が引かれ、その場にしゃがみ込んで本に見入る。ぱらぱらと他のページ捲るとそこにも写真が載せられていてそのどれもが必ずどこかに海を写している物であった。
不意に、ページを捲る手が止まる。
そこには一枚の夏の海が写しだされていた。
四角い枠の中には夏の透き通るような海と入道雲の浮かぶ蒼穹、そして白い砂浜。どこか南の島なのだろうか、写真の中に見慣れない背の高い植物が何本か並んで写っていた。
写真をじっと見詰めるその目にはどこか羨望、或いは憧れの色が浮かんでいる様に見えた。
それからどの程度の時間が経過したのか。写真の中の海に意識が移っていた為、小悪魔は背後に佇む気配に気付いていなかった。
「何を、しているのかしら?」
「ひゃう」
急に声を掛けられ驚きのあまり二対の羽が飛び上がる。
「あっ パチュリー様」
振り向くとそこには薄紫の服装に身を包んだ少女がむっつりとした表情で自分を見詰めていた。
本を拾い上げ軽く埃を払い立ち上がる。さっきまではしゃがんでいた為少女は自分を見下ろしていたのだが、立ち上がると少女の背丈が自分より頭一つ分程低いことがわかる。
「まったく、お茶の時間だというのにどこに行ったのかと思ったら」
「えっ もうそんな時間ですか!?」
時計を見ると三時を少し過ぎた辺りを二つの針が指し示していた。
どうやら写真に魅入っている間に大分時間が経過してしまっていたようだ。
「すっ すいません。すぐにお茶の準備をしますのでちょっと待ってて下さい」
持っていた本を適当な所に置き、急いでお茶の準備をしようと駆け出そうとすると、
「いいわ」
「へっ?」
足を止め、振り返る。そこにはさっきから相変わらず全く表情を変えずに佇む少女がこちらを見詰めていた。
少女の言った事の意味が分からず、素っ頓狂な声を思わず上げてしまった。
「今日は私が準備したから。さっ、早くお茶にしましょ」
「えっ? はっ、はい」
小悪魔をその場に残し、一人歩いていってしまう少女の後を駆け足で追いかけていった。
静謐な図書館の奥へと二人は進んでいく。
濃厚な夏の気配漂う窓の外とは打って変わり、図書館の中はひんやりとして外では耳を塞ぐ程の蝉時雨も全く聞こえてこない。
「はい、パチュリー様」
白いカップに紅い液体を注いで少女に渡す。
「ありがと」
自分のカップにも紅茶を注ぎ、少女と向かい合う形で席に着く。
少女が用意した紅茶はいつもとちょっとだけ違う味がした気がした。テーブルの上にはこちらも少女の用意したクッキーがいくつか皿に盛られていた。
いつもとほんのちょっと違った午後のティータイムが始まった。
「ねぇ、結局さっきは何をしていたの?」
カップから小さな唇が離れる。
「えっと、ちょっと気になる本がありまして」
「気になる本?」
小悪魔はさっきまで自分が見ていた本について掻い摘んで説明を始めた。
「ふ~ん」
話を聞き終えた少女の表情が少し変化したのだが、小悪魔はそれに気付かなかった。
少女は苔桃のジャムが乗ったクッキーに手を伸ばす。ジャムの甘酸っぱさとクッキーの甘みが紅茶の渋みとよく合う。
ルージュの塗られていない少女のピンクの唇が白いカップに軽い口付けをする。熱く紅い液体が少女の喉を下っていく。
「海、行きたいの?」
「えっ?」
いきなりの質問に言葉が詰まってしまった。
「どうしてそのような質問を?」
「だってあなたとても行きたそうだったから。話し振りとか顔の表情を見れば誰だってすぐわかるわ」
「えっ、そんな顔してました」
少女の手が今度はチェックのクッキーへ伸びる。
「そうですね、わたし今までこのお屋敷から出たことが殆ど無いので少し憬れたというか何ていうか」
少し照れながら答える小悪魔。
そんな彼女を見て少女は、ほんの少し悩むような表情をしたが、すぐにまたいつものむっつりとした表情に戻り、
「そうね、折角の夏なんだし、たまには出かけるもいいかもしれないわね」
と、ぼそりと呟いた。
「えっ?」
少女が何か言ったのはわかったが声が小さすぎて聞き取ることが出来なかった。
「じゃあ、後の準備はまかせたわよ」
「えっ、準備? 一体何の準備ですか?」
意味が分からず困惑する。
「決まってるじゃないの、海へ行く準備よ」
少女はさらっとそう答えて椅子から立ち上がりスタスタと何処かへ歩いていってしまった。
一人取り残されてしまった小悪魔はしばし呆然としたのち、はっと我に返って少女の後を追うように駆けて行ってしまった。
episode:00
二人の少女が道を歩く。
夏の暑い陽射しが少女達の白い肌に照りつけ、風は潮の香りを乗せて鼻先を擽る。
遠くに見える逃げ水と立ち上る陽炎。
蝉時雨が降り注ぐ森を抜け、少女達は道を進んでいく…。
※キャラに関しては個人的解釈が多かったりします。ご注意を。
「あっ」
一冊の本が手から滑り落ち、床へと落下していく。
手を伸ばすも後ちょっとの距離で届かず、本はそのまま毛足の長い紅いカーペットの敷かれた床に音も立てず着地した。
昇っていた梯子を降り、落ちてしまった本を拾おうと手を伸ばす。が落ちた拍子に開いてしまったページに惹かれるように目が移った。
開かれたページには真っ青な海の写真が載せられ、それに関するちょっとした説明が付け加えられていた。
何だか興味が引かれ、その場にしゃがみ込んで本に見入る。ぱらぱらと他のページ捲るとそこにも写真が載せられていてそのどれもが必ずどこかに海を写している物であった。
不意に、ページを捲る手が止まる。
そこには一枚の夏の海が写しだされていた。
四角い枠の中には夏の透き通るような海と入道雲の浮かぶ蒼穹、そして白い砂浜。どこか南の島なのだろうか、写真の中に見慣れない背の高い植物が何本か並んで写っていた。
写真をじっと見詰めるその目にはどこか羨望、或いは憧れの色が浮かんでいる様に見えた。
それからどの程度の時間が経過したのか。写真の中の海に意識が移っていた為、小悪魔は背後に佇む気配に気付いていなかった。
「何を、しているのかしら?」
「ひゃう」
急に声を掛けられ驚きのあまり二対の羽が飛び上がる。
「あっ パチュリー様」
振り向くとそこには薄紫の服装に身を包んだ少女がむっつりとした表情で自分を見詰めていた。
本を拾い上げ軽く埃を払い立ち上がる。さっきまではしゃがんでいた為少女は自分を見下ろしていたのだが、立ち上がると少女の背丈が自分より頭一つ分程低いことがわかる。
「まったく、お茶の時間だというのにどこに行ったのかと思ったら」
「えっ もうそんな時間ですか!?」
時計を見ると三時を少し過ぎた辺りを二つの針が指し示していた。
どうやら写真に魅入っている間に大分時間が経過してしまっていたようだ。
「すっ すいません。すぐにお茶の準備をしますのでちょっと待ってて下さい」
持っていた本を適当な所に置き、急いでお茶の準備をしようと駆け出そうとすると、
「いいわ」
「へっ?」
足を止め、振り返る。そこにはさっきから相変わらず全く表情を変えずに佇む少女がこちらを見詰めていた。
少女の言った事の意味が分からず、素っ頓狂な声を思わず上げてしまった。
「今日は私が準備したから。さっ、早くお茶にしましょ」
「えっ? はっ、はい」
小悪魔をその場に残し、一人歩いていってしまう少女の後を駆け足で追いかけていった。
静謐な図書館の奥へと二人は進んでいく。
濃厚な夏の気配漂う窓の外とは打って変わり、図書館の中はひんやりとして外では耳を塞ぐ程の蝉時雨も全く聞こえてこない。
「はい、パチュリー様」
白いカップに紅い液体を注いで少女に渡す。
「ありがと」
自分のカップにも紅茶を注ぎ、少女と向かい合う形で席に着く。
少女が用意した紅茶はいつもとちょっとだけ違う味がした気がした。テーブルの上にはこちらも少女の用意したクッキーがいくつか皿に盛られていた。
いつもとほんのちょっと違った午後のティータイムが始まった。
「ねぇ、結局さっきは何をしていたの?」
カップから小さな唇が離れる。
「えっと、ちょっと気になる本がありまして」
「気になる本?」
小悪魔はさっきまで自分が見ていた本について掻い摘んで説明を始めた。
「ふ~ん」
話を聞き終えた少女の表情が少し変化したのだが、小悪魔はそれに気付かなかった。
少女は苔桃のジャムが乗ったクッキーに手を伸ばす。ジャムの甘酸っぱさとクッキーの甘みが紅茶の渋みとよく合う。
ルージュの塗られていない少女のピンクの唇が白いカップに軽い口付けをする。熱く紅い液体が少女の喉を下っていく。
「海、行きたいの?」
「えっ?」
いきなりの質問に言葉が詰まってしまった。
「どうしてそのような質問を?」
「だってあなたとても行きたそうだったから。話し振りとか顔の表情を見れば誰だってすぐわかるわ」
「えっ、そんな顔してました」
少女の手が今度はチェックのクッキーへ伸びる。
「そうですね、わたし今までこのお屋敷から出たことが殆ど無いので少し憬れたというか何ていうか」
少し照れながら答える小悪魔。
そんな彼女を見て少女は、ほんの少し悩むような表情をしたが、すぐにまたいつものむっつりとした表情に戻り、
「そうね、折角の夏なんだし、たまには出かけるもいいかもしれないわね」
と、ぼそりと呟いた。
「えっ?」
少女が何か言ったのはわかったが声が小さすぎて聞き取ることが出来なかった。
「じゃあ、後の準備はまかせたわよ」
「えっ、準備? 一体何の準備ですか?」
意味が分からず困惑する。
「決まってるじゃないの、海へ行く準備よ」
少女はさらっとそう答えて椅子から立ち上がりスタスタと何処かへ歩いていってしまった。
一人取り残されてしまった小悪魔はしばし呆然としたのち、はっと我に返って少女の後を追うように駆けて行ってしまった。
episode:00
二人の少女が道を歩く。
夏の暑い陽射しが少女達の白い肌に照りつけ、風は潮の香りを乗せて鼻先を擽る。
遠くに見える逃げ水と立ち上る陽炎。
蝉時雨が降り注ぐ森を抜け、少女達は道を進んでいく…。