風に薄められ儚くて 希薄と散らされ抗えなくて 幽々子の残り花 香り消えゆく
――花の季節に。
妖夢は 今は虚ろうその手のひらで 残滓をかき集めようとして能わず 散りぬ。
想いまで 無情にも霧散して 無常なこと無上なく
幽々子は 妖夢の夢上の行為と終わった。
以後、存在は無く。啼く。霊は無くなった。
以後、花のみが降り積もる、二百由旬は閉ざされた。
誘うという事は 与えるという事だった。
己が心を彼魂に侍らせ 惹き魅せる。 だから、与えなければ誘えない。
己が気持ちを寄り添わせ 彼魂の戸惑いを安寧へ導いて
細く伸ばされた躊躇いの幼手に そっと手を乗せて 包み込む。
心を引き誘う返しに 己が魂をそっと分け与える。
同化する どうかしている 狂おしい程に それ程に。
幽々子は 御身の魅力を花と喩えて 実に繚乱なる世界へと 皆を誘った。
冥界へと。 幼き庭師の死の庭より 花と絶えない二百由旬へと。
以って 理の由の前後など意味を成さぬ事なれど
咲き乱れたから誘わしめたのではなく 誘い続けて 花散るを忘れたのだと
更に言えば 殊更に 幽々子は 妖夢の寂しさを愁いていたのだった。
けれどその事は、それは、完全なるしかし薄れた妖夢は 幽々子の寂しさだと憂いた。
妖夢には幽々子を止める事など出来なかった。
終わりの結末を理解して 主を想い涙を流し 流れたそれは揮発して薄まり
意味も 心も 存在も次第に薄まり
嘆く幽々子は 更に花と庭を染め
やがて 幻想郷を片端から誘い続けた幽々子は 与え続け
ただひたすらに あらゆる妖夢を泣き止ませる心たちを誘い続け 与え続け
遂には底を尽き その全ての幽々たる花を 世界へと散らす結果となったのだった。
冥界は 賑やかにして静まりかえる。
あらゆる命がそこに居て 互いの繋がりを強めようとして
肉親は抱き合い 従者は傅き 友は互いに手を取り合って
不運にも引き裂かれた獣は ただ師の名を心で叫び続けた。
想いに溢れた 優しい 優しい悲劇の園は 賑やかにして 静寂を深めていた。
全てを覆い尽くす花の中で冥界は 冥界の姫の存在の希薄とともに 薄れていったのだ。
風が吹く。
積もる花は舞い散る。
意識はもうほとんど散ってしまった。
幽々子は
見渡す限りを埋め尽くす すでに消えかけて何か分からない霊だった者たちの中から妖夢を探していた。
初めに誘ったあの日から 泣き止まなかった妖夢。
帰え逝く定めを惹き止めて そばに置くと決めたあの日からずっと幽々子を見つめて泣き止まなかった妖夢の霊。
彼女を泣き止ませたくて あらゆる手を尽くした幽々子は擦り切れて
今はもう、妖夢を探す事しか出来なかった。
あぁ、見失ってしまった――何もかも――
風が吹き、花と紛えて空に霊魂が溶けてゆく。
その中で、唯一まだ形を保っていた一人の少女。
一番多く幽々子を与えられて、一番近くにいつも居て、そして、見失われてしまった少女。
妖夢は、もはや香りを残すのみとなった幽々子の残滓を、今にも消えそうな自分の腕で包み込んだ。
風に薄められ儚くて 希薄と散らされ抗えなくて 幽々子の残り花 香り消えゆく
そして、一つ時を遅れて 妖夢もまた 風に散ったのだった。
残された 今も 閉ざされている 二百由旬はいつまでも 花の季節と続いている。
マイルドな言い方をすると、妖艶でありながら可憐な文章でした。要するにエロい。
エロイですか。込めた情を感じ取ってくださったのだともいました。
大変うれしいです。もっとがんばります。