Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

それは終わりではなく閉幕~Episode keep immortal~

2006/08/01 01:31:53
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注意点

*これは絵板[6331] 5面ボス(中略)夏休み~帰宅~ をSSに仕立て上げたものです。セットでお楽しみください。
*これは第六話です。序章と第一~五話を先に読んで貰えると嬉しいです。
*素晴らしい絵の数々を世に送り出してくれたEKIさんに、再々度感謝します。










 珍しく、と言うかこの旅行が始まってから初めて一番に起床した鈴仙は、目の前の光景に軽い混乱を覚えていた。

「え~っと?」

 その光景とは、妖夢に圧し掛かっている咲夜。いや、妖夢を組み敷こうとしている咲夜と言うべきかもしれない。何故なら、咲夜の手は妖夢の浴衣のいろいろな部分に侵入しているのだから。

「・・・これは夢だよね。うん」

 ぱたり、と倒れ二度寝を始める鈴仙。こうして3人とも旅館の女性が来るまで起きる事はなかった。その時、飲みすぎで記憶が飛んでいたせいもあって、ひと悶着あったのだが、ここでは割愛させて頂く。
 そして昨日と同じように食事を終え、3人は帰り支度を始めていた。

「・・・ねぇ、妖夢。1つ聞いていい?」
「な、なんでしょうか?」

 記憶はなくとも本能で理解しているのか、もしくは唯一直接飲酒をしてない――というか出来ない――半霊から何かが伝わっているのか。咲夜の言葉に妖夢は少し警戒気味だった。
 咲夜にそれを気にする様子はない。というか、あえて無視しているようだ。

「それ、何人分?」
「それって、これですか?」

 妖夢の荷物は来る時に比べて、優に二倍以上になっていた。
 その原因はもちろん、

「全部、幽々子様へのお土産ですけど?」

 なのである。

「えーっと。それ全部幽々子の分?」
「はい。そうですけど?」

 咲夜が驚くのも無理はない。何せ、その数個の袋には温泉饅頭が2桁近く入っているのだ。当然、単位は箱である。

ぽんぽん

 肩を叩かれた咲夜が振り返る。そこには『気にしたら負けだよ』と言う表情の鈴仙がいた。咲夜は溜息を1つ吐いた後『幽々子だし』という鈴仙と似たような納得をしたのだった。

「準備できた?」
「うん」「はい」

 忘れ物が無いかを再度チェックし、3人は旅館の廊下を歩き出す。そのペースは酷くゆっくりで、玄関に到着するまでに数分を要したのだが、誰も足を速めることはなかった。

「お帰りですか?」
「えぇ」
「ありがとうございました」
「また来ますね~」
「はい。ぜひ」

 旅館の女性に見送られ、3人は3日前と同じ道のりを、今度は逆方向へと歩き始めた。まだ手を振ってくれている女性。鈴仙と、それに促された妖夢も同じように手を振り返す。唯一前方を見続けていた咲夜も、見えなくなる前に一度だけ振り返り、手を振った。
 道中、途切れることなく旅行の思い出を語り合う3人は、疲れも忘れて歩き、話し続けていた。

「さて、そろそろお別れかしら?」

 そんな咲夜の言葉に、3人は各々に地から足を離す。
 あえて『歩く』という行為を続けていた彼女達。故に、その行為は楽しい時間の終幕を告げる合図。

「楽しかったですね」
「うん。楽しかったね」
「そうね。楽しかったわ」

 高度が数メートルに達した頃、3人は上昇を止めていた。そして零れた水を手で掬うかの様に、彼女達は再度語り始める。

「それにしても、今朝はびっくりしたよ」
「ははは・・・。ウドンゲ。それは即刻忘れなさい」
「・・・」
「って、妖夢も赤くならない! って、目を逸らさないの!」

 如何に上手く掬っても、過ぎた時間はただ零れ落ちるのみ。
 でも、それは無駄な事なんかじゃなく、前へ進む為に、『いつも』に戻るために必要な儀式なのかもしれない。いや、もしかするとそれ以上の意味を見出す事が出来るのかもしれない。

「でも、もうお二人とこうして遊ぶ機会もそうはないんですよね」
「・・・そうかもしれないわね」
「・・・」

 途切れる会話、訪れる沈黙。それはあたかも、この物語の閉幕を促しているかの様だった。

「ちっち。甘いよ2人とも」

 その沈黙を破ったのは、鈴仙。
 彼女は不敵な笑みを浮かべながら、左手を腰に当て、唇の前で右手の人差し指を揺らす。咲夜が「なんだか魔理沙みたいだわ」と言う感想を言う間もなく、鈴仙は次の句を繋いだ。

「今度、お泊り会を実施します!」
「「へ?」」

 間の抜けた声を出す、間抜けな表情の2人。それが面白かったのか、はたまた不敵な笑みの延長線か。鈴仙は楽しそうに笑うと、半霊の尻尾をひっつかんで、自分の口元にあてた。

「私は紅魔館に泊まってみたいです。はい、妖夢は?」

 鈴仙はひょいと半霊を突き出し、次は妖夢の口元にあてる。あたかも半霊がマイク代わりであるかのように。

「え、はい? えっと、私はウドンゲの所の方が・・・」
「うーん。じゃあ、咲夜は?」

 当然、次は咲夜に向けられる。咲夜は一瞬面食らうも、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべ、鈴仙の手から半霊をひったくった。

「私も永遠亭に一票入れておくわ」
「ぇ~」

 不満げな声出す鈴仙は、されど笑顔だった。もちろん、他の2人も。

「じゃあ、全員の都合のいい時にお泊り会実施するって事でおっけーね?」
「OKよ」「おっけ~ね」

 妖夢のヘンテコな返答を鈴仙と咲夜がひとしきりからかった後、3人は別れ別れに空へと消えていった。先程とは違う、後ろではなく、前にある楽しみを見つめる笑顔で。









 十六夜咲夜が紅魔館に到着した。

 門番である美鈴の「荷物、持ちますよ」という言葉に甘え、私は荷物を預けた。そして彼女が開けてくれた扉をくぐると、そこにはお嬢様のお姿があった。

「お嬢様、ただ今戻りました」

 一礼。
 そして頭を上げる。この瞬間から、私はただの十六夜咲夜ではない。彼女のモノであり、完全で瀟洒な従者。

「あら、お帰り。どうやら楽しめたようね。ところで、美味しい紅茶がほしいのだけれど…メイド長?」

 素っ気無いお言葉。態度もそれに相応しい素っ気無さで、既にお嬢様は館の奥へと歩き出していた。

「はい、お嬢様。ただ今お持ちいたします」

 私は、すぐさま時を止め、何時ものメイド服へと着替える。そして何時もの場所――お嬢様の隣へとついた。

「お部屋の方でよろしかったでしょうか?」
「そうね・・・図書館に準備して頂戴」
「畏まりました」
「お茶請けをリクエストしても構わないかしら?」
「もちろんです」

 お嬢様のお言葉1つ1つが、旅行の間ずっと感じていた違和感を拭い去ってくれる。
 あぁ、やっぱり私の居場所はここだけ。ここにしかないのだ。

「貴方のお土産を出して頂戴」
「畏まりました。温泉饅頭ですが、よろしかったでしょうか?」
「えぇ、それと――」

 その瞬間、初めてお嬢様の歩みが止まる。もちろん私も立ち止まり、お嬢様から目を離さぬよう、その横顔をしっかりと見据えている。

「――お土産話もね」
「ご命令とあらば」

 お嬢様は「じゃあよろしくね」とだけ答えてて、図書館の方へと歩き始める。
 何から話そうか。そんな事を考えていた私は、一瞬出足が遅れてしまった。

「お嬢様、ご機嫌ですね」
「そうね」

 足が止まっていた私に、後ろを歩いていた美鈴が追いついてくる。
 ・・・そういえばこの子も居たんだっけ。

「さて、私は紅茶を淹れて来るわ」
「あ、はい。荷物は部屋へ置いておきますので」

 既に彼女の分のお土産は渡してある。自分のいない自室に他人が入るのに抵抗がない訳ではないが、彼女ならまぁいいだろう。
 私はそう思考してから「えぇ、お願いね」とだけ声をかけ、今度は時を止めずに歩き出した。

「お出迎えまでして頂いたんだし、うんと美味しい紅茶を淹れないとね」
「違いますよ、咲夜さん。お嬢様も先ほ――」

ドガーン

「咲夜、早く紅茶を淹れてらっしゃい」
「はい。畏まりました」

 紅い閃光――多分お嬢様の槍だろう――に貫かれた美鈴を見ない様にしながら、私は再度時を止めて動き出した。ちなみに、お土産は着弾寸前に回収したので無事だ。袋のとって以外。

「・・・お気に入りの服、無事だといいけど」

 美鈴が肩からかけていたせいで回収し損ねたバッグに思いをはせながら、私は紅茶を淹れるべく、厨房へと向った。

 こうして十六夜咲夜は、いつもの紅魔館で、いつもの様に仕事を再開したのだった。










 魂魄妖夢は勢い良く扉を開けた。

 早く幽々子様にお土産を渡したくて仕方が無かった私は、大きく息を吸い、大きな声で家の中へと声をかけます。

「幽々子様、ただ今帰りました!」
「お帰りなさい、妖夢。……お土産は?」

 両手を差し出しながらと言う、そんな幽々子様らしいお出迎えに苦笑しつつも、私は両手一杯の袋を差し出します。

「あ、はい。たくさん買ってきましたよ」
「流石妖夢だわ~。やっぱり温泉饅頭は薄皮よね~」

 幽々子様は受け取ったお土産の袋覗き込みながらそう言い、居間の方へと歩き出しました。私もまたそれに続いて歩き出しました。待ちきれないのか、少し早歩きの幽々子様を追いかける私は、自然と笑みが零れてしまいます。
 居間に着くなり包みを破る幽々子様を見て、荷物を一先ず部屋の隅に置いた私は、2人分のお茶を淹れる為に厨(くりや)へと向いました。

「…幽々子様…そんなに一気に食べなくても…」

 お茶を淹れた私を待っていたのは、積み上げられた空箱と、その中に無造作に捨てられている包み。更に両手にお饅頭を持って頬張っている幽々子様のお姿でした。
 5分足らずで既に3箱目って・・・。

「だって妖夢のお土産よ? これを食べなきゃ何を食べろって言うの?」

 いや、それじゃあ説明になってないですって。それ以前に私、口に出して言いましたっけ?
 そんな思考とは関係なく、私の頬はまた緩んでしまいます。

「あ、他のお土産もありますから」
「あら~、楽しみだわ。どんな味がするのかしら?」

 そんな彼女の言葉に、私の笑顔はいつの間にか苦笑になっていました。
 よかった、先に出さなくて。

「いえ、置物ですから食べられませんよ」
「そうなの? 残念だわ」

 置物は失敗だったかな、と少し後悔した私ですが、美味しそうにお饅頭を食べる幽々子様を見ていると、そんな事はどうでもいい様な気がしてくるから不思議です。

「これです。どうぞ」
「ありがと。後で開けるからそこにおいておいて」

 4つ重ねられた温泉饅頭の箱にそれを置いてから、私も幽々子様と同じようにお饅頭を1つ手に取り、包みを開けました。取り出したお饅頭を半分に千切り、片方をお皿に載せ、更に手の中にあるお饅頭を半分に千切り、口の中へと入れます。

「んー、おいしいですね」
「妖夢が買ってきてくれた物だもの。当然よ」

 残ったお饅頭も口の中に入れ、私はもぐもぐと租借し、先程淹れた熱いお茶を啜ります。
 う~ん、至福。

「妖夢」
「はい?」
「楽しかった?」
「はい!」

 それだけ聞くと、幽々子様はまた両手に持っていたお饅頭を頬張り始めました。そんな幽々子様を見ていると、なんだか自分の家に帰って来たんだなと言う実感が改めて沸いて来ました。
 休みはないし、幽々子様のいう事はよく解らないけど、やっぱりここは落ち着きます。ここが私の帰る場所なんだと思うと、なんだか無性に嬉しくなってしまう私なのでした。

 こうして魂魄妖夢は、彼女の居るべき場所、仕えるべき主の元へと戻ったのだった。










 鈴仙・U・イナバは空想していた。

 うちでやる事になったお泊り会。その為にはいろいろな人の許可を取り、かつ、いろいろと歓迎の準備もしなければならない。修行や仕事の合間にそれをこなす事は大変だろうけど、私は絶対にやり遂げるつもりだった。

「鈴仙ちゃんお帰り~」
「あ、てゐ。ただいま」

 出迎えてくれたてゐに挨拶しながらも、私は空想、もとい計画を練り続けていた。とりあえず問題は、休みをどうやって合わせるかだよねぇ。
 私がそんな事を考えていると、いつの間にか師匠の姿があった。どうやらてゐの声を聞きつけて来てくれたらしい。

「師匠、ただいまあぁあ!?」
「わーい、お土産もらった~♪」

 思考が逸れていたのと、注意が師匠に行っていたせいで、私の両手にあった皆へのお土産は、あっさりとてゐに奪われてしまう。
 うぅ、十分に予想できた事態だと言うのに、なんたる失態!

「コラっ、てゐ! 返しなさい!!」
「あらあら」

 鞄を放り出して追いかける私を、師匠は困ったような、それでいて楽しんでいるかのような様子で見ていた。
 見てないで助けてくださいよぅ。

「鬼さんこちらっ」
「こらっ、てゐ!」

 永遠亭の広い廊下を走って行くてゐ。その姿はたった4日前には見たはずなのに、なんだか酷く懐かしいような気がして、追いかける私は少しだけ顔がにやけてしまう。

「こら待て~、それは皆の分なんだから~」
「や~だよ。これは全部私が貰ったもんね~だ」

 廊下を右に折れたてゐは、すぐさまどこかの部屋に飛び込んだらしく、私が曲がり角に差し掛かった時点でその姿を見つけることは出来なかった。
 はぁ、と私が肩を落としながら後ろを振り向くと、すぐ近くに師匠の姿があった。
 ・・・何時の間に?

「あらあらウドンゲ、楽しそうね?」
「楽しくないですよ~」
「そう? そうは見えないんだけどなぁ」

 にこにこと笑う師匠は、とても意地悪く私の頬を突いた。
 ぅ~、師匠には叶わないなぁ。

「師匠へのお土産も持ってかれちゃいましたよ?」
「大丈夫よ。あの子もはしゃいでるだけだから」

 せめてもの反撃は、されど効果はまったくなく。私は仕方なく投げ捨てた荷物を拾い、自分の部屋へと向って歩き始めた。

「そうそう、ウドンゲ」
「なんですか?」
「後で宴会場へいらっしゃい」
「あ、はい。わかりました」

 師匠のそんな言葉に、私は特に疑問も持たずに自室へと戻り、ゆっくりといつもの服に着替えた。宴会場で姫や師匠、更にはてゐや他の兔達まで待ってくれているとは知らずに。

 こうして鈴仙・U・イナバは、たくさんの仲間達と、尊敬する師の元へと帰って行ったのだった。



 ん、誰か忘れてるような?










 ここは森の近くにある古道具屋。そこには珍しくお客の姿があった。

「遅かったね」
「はい。予定よりも1日増えてしまいまして」

 お客、と言うのは和装の女性。しかも黒髪に和服という、まさに大和撫子と言った様相の女性だった。

「ところで、いつまでその格好でいるんだい?」
「実は着替える場所がなくて困ってたんですよ」
「はぁ。奥の部屋を使うといいよ」
「・・・覗きませんか?」
「覗かないよ」

 呆れたような店主に、女性はくすくすと上品に笑いながら奥の部屋と消えていった。
 手持ち無沙汰になった店主は、先程まで読んでいた本に目を落とした。そうして少しだけ、静かな時間が流れる。

「お待たせしました」
「・・・つくづく女性というのは恐ろしいものだね」
「? 突然なんですか?」

 化け、粧う(よそおう)と書いて化粧。
 店主はその言葉通り、彼女がまったくの別人に見える程に変わっていた事を指してそう言ったのだが、どうやら女性――いや、少女にそれを説明する気はないようだ。

「それよりも、これが頼まれていた品だよ」
「あ、はい。ありがとうございます、って、本ですか?」
「いや、アルバムと言って、写真を飾るものらしい」

 そう言って差し出された分厚い本の表紙には、店主の言葉通り『思い出のアルバム』と書かれており、中をめくると写真を収めるらしい白い空白がたくさんあった。いや、空白しかなかったと言うべきか。

「あ、これ剥がれるんですね。しかも透けてます」
「あぁ。どうやらそこに写真を挟むらしい」
「へぇ。試してみていいですか?」
「もちろん」

 料金は前払いで、しかも多過ぎるほど貰っている。故に、いつも店主が相手をしている払う気のないツケで買い物をする少女達とは違い、目の前の少女は正真正銘、大事なお客様なのだ。
 アルバムの隣に写真を広げた少女は、ポケットに手を入れると渋い顔をした。

「あちゃ~。すいません、何か書く物を貸してもらえませんか? 出来れば太いのを」
「これでいいかい?」
「えぇ。ありがとうございます」

 少女はペンを受け取ると、透明な紙を剥がした場所に文字を書き連ねて行く。
 店主は盗み見るつもりなどないが、されど少女も隠す気はない。だから店主の目には自然と『水遊び』や『夕食』等の文字が飛び込んで来る。故に、それを見てしまったのも不可抗力である。

「って」
「・・・なんですか?」

 店主は少女が手に持っている写真を指差し、口をぱくぱくとさせている。
 ちなみに少女がアルバムに書いた文字は『入浴』である。

「あ、これは見ちゃダメですよ」
「あぁ、すまない。って、そういう問題じゃないだろ」

 少女は小首を傾げて「なんでですか?」と態度で訴えかけてくる。そこまで堂々と、しかも悪気が欠片もない様子に、店主はまるで自分がおかしな事を言っているような錯覚に陥っていた。

「いや、女性のそういう姿を写真に収めるのは問題があるだろう?」
「外の世界ではそうでもないらしいですよ? それに何より、同じ女性である私は一緒にお風呂に入れば普通に見ても問題ないモノですし」
「いや、そういう問題・・・なのか?」

 1人苦悩する店主を余所に、少女は次々とアルバムへ写真を貼り付けていく。『玉突』『脱衣2日目』『寝床』『帰宅』etc。
 やがて手は止まり、アルバムが閉じられる。しかし少女の手にはまだ数枚の写真が残されていた。

「それは貼り付けないのかい?」
「あ、はい。これは協力者の方への報酬なんです」

 少女の手元に残った数枚の写真。3人で写っている物もあれば、2人、もしくは1人がアップで写っている物もある。ただ、その中には必ずある人物の姿があった。

「ふむ。もう1人の協力者は彼女の主だったのか」
「はい」

 寿命、と言うのは種族によって違う。だからこそ、残される者は形に残る思い出が欲しいと考える。それはとても自然な事なのだが、誇りや立場のせいでそれを表に出せない者もいる。
 少女はそれを利用して彼女を懐柔し、この計画に加担させたのだ。

「ありがとうございました。おかげさまでいい記事が書けそうです」
「あぁ。って、まさか君はその写真を新聞に載せるつもりかい!?」
「そうですけど?」

 頭を抱えている店主を、少女は不思議そうな目で見つめている。少女にとっては、取材で取った写真を記事に使う事はいつもの事で、それに問題がある等とは考えた事がないのだ。

「あ、今度また同じような企画をやるかもしれませんので、その時もご協力お願いしますね」
「・・・わかった。その代わり僕の話を聞いてもらえないかな?」
「いいですよ?」

 そして店主は頭を悩ませながら、1つ1つ丁寧に言葉を紡ぎ始めた。

「仮に、だ。君のそういう姿が写真に取られて、記事にされたらどう思う?」
「う~ん。ちょっと嫌かもですね」
「そうだろう? 恥ずかしいだろう?」
「えぇ、最近ちょっとお腹が出て来たような気がしまして。って、もう何言わせるんですか。恥ずかしいから今の言葉は忘れてくださいね?」

 えへへ、と照れる少女に、店主はまた頭を抱えてしまう。もしかして人間と妖怪ではそういった感覚が違うのかもしれないと考え、ここに来る人形遣いは普通に恥らっていたいた事を思い出し、更には先程のやりとりを思い出してまた悩む。
 結局店主は、年頃(?)の少女の羞恥心など、自分には理解できるものではないと言う結論に至り、違う方向からの説得へと切り替える事にした。

「え~っと。つまり、だ」
「はい?」
「その、温泉とか脱衣所とか。あぁ、玉突のもかな? 服が乱れていたり、服を着ていない写真は記事に使わない方がいいと思うんだよ。僕は」
「はぁ。そうなんですか?」
「あぁ。少なくとも彼女達は嫌がるだろう」

 しぶる少女に、店主は次回の契約まで持ち出して説得した。少女は「弾幕を取る時も服が乱れてたり、下着が見えてるような時もあるんだけどなぁ」等と不穏な事を呟きながらも、しぶしぶとそれを承諾する。

「そういえば、このアルバムには題名はないのかい?」
「題名、ですか?」
「うん。表紙に題名を入れる部分があるだろう?」

 いろいろと問題がある為に閉じられていたアルバムの表紙に書かれている『思い出のアルバム』という文字。そしてその下には、四角い、白い空白があった。
 少女は少しだけ考えた後、そこにペンを走らせた。



 <5面ボスの、5面ボスによる、5面ボスの為の夏休み>



 こうして物語は幕を閉じ、その後、記事になり損ねた写真達はいつしか忘れ去られていった。
 偶然に幻想へと手を伸ばした、ある人間の手に渡るまで。
 『5面ボスの、5面ボスによる、5面ボスの為の夏休み』、SSヴァージョンはいかがでしたでしょうか?
 この物語は、ある人物が偶然に手を伸ばし、そして掴んだ幻想の写真(絵)の物語です。そしてそれには世に出た数枚の他に、まだその人物しか知りえない何枚かが存在するはずです。それを見つけられるかどうかは貴方次第。
 もちろん、貴方も幻想に手を伸ばせばきっとそれを手に入る事が出来るでしょう。ただし、同じ物は2つとして存在しません。



 なんてちょっと変な前振りを交えましたが、兎にも角にも最後まで読んでくださった皆さんに感謝です。
 そして素晴らしい絵を、世界を提供してくださったEKIさんには、何度もしつこいようですが最上級の感謝の言葉を捧げたいと思います。
 あぁ、次は何書こうかな? 誰かSS化してもいいよって言う心優しい絵師さんいないかな、等と他力本願な事を考えつつ、今回はこの辺りで。
 では、また会いましょう。
あさ
コメント



1.名無し妖怪削除
従者達の会話もいいですが、やはり自分はまじめな店主が好きなようで
すばらしいSSでした
2.名無し妖怪削除
連作完結お疲れ様です。
毎回楽しみに読ませていただいておりました。
次回作にも期待させていただきます。
3.EKI削除
うは~。毎度の事ながら、私が幻視していた以上に素敵な物語に!
素晴しいSSをありがとうございました…もう感激モノです。

更なる幻想の一幕を手にできるよう、精進したいと思います!!
4.名無し妖怪削除
完結お疲れ様でした。
EKI氏とあさ氏のコラボをリアルタイムで見られたことに感謝。
5.名無し妖怪削除
素晴らしい作品、コラボでした
そして女将!その正体は意外でしたw
最後まで楽しませていただきました
6.名無し妖怪削除
良いコラボでした。