Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ヘルムスリー一族の野望

2006/07/28 08:52:44
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注)
どこかで見たような言い回しが多数出てきます。
そういうものだと割り切っていただければ幸いです。










「咲夜ぁ・・・私、濃いのが欲しいの・・・・・」
「ぶほゥ!!?」

ある晴れた夜。
月の輝きを浴びるティールームの一角で、レミリアの甘ったるい声と咲夜の吐息噴出音が重なり合う。

「うおおおおおお嬢様さまさま、いいいいいいいいい一体今何とぉ!?」
「もう一度言わせる気?咲夜ったら意地悪ぅ・・・・・あのね、私・・・・・・・・・」

硬直の解けない咲夜の耳元にそっと唇を近づけて、繰り返す前に息をふっと吹きかけてみた。
咲夜のリアクションなどだいたい予想がつく。硬直して、声が裏返り、そして何かを噴き出すという程度。だがそんなありきたりな反応でも幼いレミリアには面白おかしく映るようで、精一杯の余韻を込めて耳元で言葉を再び紡ぐ。

「私ね・・・・もっと濃いのが飲みたいの・・・・・ねぇ咲夜、いいでしょう?濃いのちょうだぁい・・・」
「・・・・・・・・・・・・おッ!お、おおお雄雄雄雄雄雄ッッッ!」
「?」

「お嬢様からのお誘いキタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!」
「ッ!?」


咲夜のスイッチが入ってしまった。いや、レミリアがスイッチを入れてしまったと言うべきか。
普段の瀟洒な振る舞いはどこへやら、ぐるぐるまなこの下から吹き出る鼻息は荒く、レミリアの腕を掴みつつ空いている手で既にメイド服のボタンを外しにかかっていたりもしている。

「ああもうお嬢様まだ夜は始まったばかりだというのに大胆にも程がありますわでもお嬢様がお望みとあらば私も精一杯お応えさせていただきます濃いのがお望みなんですね?とても濃いのがお望みなんですね!?さあさあお部屋にお戻りになる時間も勿体ないですわ今ならここには私達以外誰もおりませんし誰か来てもすぐに追い払ってみせますからどこと言わず今すぐこの場で ぽ ゥ ッ !」
「咲夜、うるさい」

咲夜の眉間を直撃したナイフがレミリアの大切な何かを守ってくれた。
刃止めの付いたナイフはすぐにポロリと落ち、まるでツボでも突いたかのように狂犬・咲夜が大人しくなっていく。
もっとも、下手をすれば永遠に大人しくなってしまう所だったのだがレミリアはその程度の事は別段気にしない。

「・・・・・何想像してたのか知らないけど、私は『もっと濃い血が飲みたい』と言ったのよ?」
「うへ・・・・・・い、いや、たった今初めて聞きましたが・・・」
「そうね、今言ったんだもの。早とちりしすぎるあなたが悪い」
「さいですか・・・・・しかし、何でまた急に?」
「それはね」


「スッポンの血が健康に効く」
「どぅえわぁ!?」

誰もいないはずのティールームに第三者の声が響き渡った。
しかし周りを見渡しても誰もいない。外から声が聞こえたようにも思えない。
どこぞの鬼の悪戯か、またはスキマ妖怪の襲撃か。間抜けな声を上げながらもナイフを抜く咲夜。
抜かりはない。何か不自然な物を見つけ次第、須く短冊切りにしてみせる。未だ呑気に構えているレミリアを尻目に周囲の索敵を進める咲夜・・・とその足元に、不意に白くて柔らかそうな物体が湧き上がったように見えた。

「くっ、新手の弾幕使いかッ!?足元から出るとはなるほどこのド畜生がッ!」
『違うわ咲夜、あなたは葡萄でも食べてなさい』
「ちぃぃっ、新手の弾幕使いのくせに動くな、喋るな、何故私の名を・・・・・って、あれ?パチュリー様?」

咲夜の足元でもぞもぞ動き出した白い塊は、誰もが知ってる不可解少女・パチュリーだった。
勿論『不可解である事を誰もが知ってる』という解釈だ。
かくして不可解少女はむっくりと起き上がり、ふぅとため息を一つ。その片手にはハードカバーの本を忘れない。

「滅多な事で動かないのはそれが私のアイデンティティ。喋らないのは読書には不要だから。そしてあなたの名前を忘れるほどボケちゃあいないわ」
「・・・・あれ?ていうか私の足元・・・え、あれ、え~っ?」
「空間転移の術よ。モノでは実験が成功してたから私自身で実験してみたんだけど、座標が少し狂っちゃったみたいね」
「狂いすぎだと思いますが」
「この程度の精度では弾幕ごっこへの応用はまだ無理ね、他愛もないゲームに使うのが関の山ってとこかしら・・・ところで、クマちゃんだなんて案外かわいいじゃない、咲夜」
「・・・・・・一遍と言わず百万遍くらい斬っていいですかパチュリー様」
「遠慮しておくわ」


怒 怒 怒 怒 怒 、などと殺気をばら撒いていたかどうかは定かではないが、ナイフを持って立ち尽くす咲夜に構わずレミリアが話に割って入る。

「まあそういう事。スッポンだかスポーンだか知らないけど、とにかくソレの血が健康にいいってパチェが教えてくれたのよ」
「元々、生き物の血を飲むと体の中から健康になるらしいんだけど、スッポンの血は特にその効果が強いらしいの。レミィがこれ以上健康を求めてどうするの、とは思ったけど、健康にいいのなら私も興味があるしね」
「・・・・・・それで、そのスッポンを手に入れろと?」
「話が早いわ。咲夜ならきっとやってくれるって信じてる・・・ていうか、 や れ ♪ 」

「ッッッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・お、押忍ッ!」
(うあああああ私の血がぁぁぁぁぁっ!お嬢様の為に捧げる血ィィッ、一滴も無駄にできないのにぃぃぃぃッ!!)

ビッと親指を立てるレミリアの笑顔の何と眩しい事か。
鼻の奥がムズムズしてきて何やら赤いものが垂れ落ちたようだ。コンマ一秒でも早く処置を施したい所だが、
咲夜はほとんど脊椎反射でニッコリ笑顔を返し、その手で完全な敬礼を立てていた。



*  *  *  *  *



「お嬢様、これがスッポンでございます」
「うはぁ」

それからほんの少しの間を置いて。浅く水を張った水槽に、レミリアはたちまち虜になった。
ガラス一枚挟んだ向こうにいるのは見た事もない、有機的フォルムの平べったい円盤が一枚。
それがモゾモゾ動いたかと思ったら首や手足を出したり引っ込めたりするのだから面白い。
何を考えて動いているのか全く読めない所も、レミリアの関心を引くには十分すぎた。

「幻想郷にはこんな面白い生き物がいるのねー・・・咲夜、どこで見つけたの?」
「ええ、どこぞの健康兎の所へ行ってきまして」
「ああ! ころしてでも うばいとる わけね?」
「まさか。首筋にナイフ当てて ゆずってくれ たのむ! くらいでは兎一匹殺せませんわ」

咲夜の顔に不自然なほど明るい笑みが浮かんできた。
きっと、笑顔の裏側では半分以上殺る気だったのだろうと容易に思わせてくれる。
そもそも咲夜は『殺していない』とは一言も言ってないわけで、もしかしたらナイフの刃には赤・・・

(・・・・・・考えすぎよね)

パチュリーの妄想をよそに、主人と従者は笑顔で言葉を交し合っている。
だが、もし咲夜が兎に対して色々アレな事をしてしまっては尋常ならざる問題になってしまう。
紅魔館vs永遠亭など、妄想するだけなら楽しそうだが当事者になるのは真っ平御免、そうしたら全ての元凶はパチュリーという事にもなりかねない。考えすぎと胸を撫で下ろすのではなく、その最悪のケースは考えてはいけないし決して起こってもいけないのだ。
咲夜のナイフにルミノール反応の検査などアテにならないから、とりあえずは彼女の言葉を信じておこう・・・実物のスッポンを目の当たりにして、パチュリーの視線はどうにも落ち着かずにいた。


「じゃあ咲夜、早速ソレの血を搾っちゃって!」
「畏まりました・・・ですがお嬢様、血だけ抜いて残りを捨てるのは勿体ないですわ」
「私は肉の方には興味ないの。食べたいなら料理でも何でも好きになさい」
「ええ、ですのでパチュリー様の所で本をお借りしたく・・・・・」

咲夜とパチュリーの目が合った。

「・・・探すなら手早くね。私が本を読めないから」
「はい。ありがとうございます、パチュリー様」

どうせ断った所でレミィが無理を通してしまうのだろう、とパチュリーは大人しいものだった。
図書館は半ばパチュリーの私有地だから彼女が無理を通そうとしてもいいのだが、そうしたら館を巻き込んでの争いにもなりかねない。無用なトラブルや面倒事を引っ張り込まない為のパチュリー流の処世術、それこそが『動かない』事なのだ。

「パチェは手伝ってくれないの?」
「私はこの子を観察してるわ。本当に文献の記述通りなのか気になるし」

もう、パチュリーの目はレミリア達には向いていない。引っ張っても動こうとはしないだろう。
咲夜もレミリアもパチュリーの出不精ぶりは知っている。空間転移とやらでティールームに姿を現してはみたが、今度は自分の興味事――スッポンの観察が終わりでもしない限り図書館にすら戻ろうとはしないだろう・・・それはそれで余計な気を回さずに済むので二人にとっては都合がいいと言えばいいのだが。

「そう。じゃあパチェ、お留守番お願いねー」

咲夜の腕を引っ張って、レミリアはとっとと駆けていってしまった。二人分の足音はあっという間に遠ざかり、飲みかけの紅茶とガラスの水槽、そしてパチュリーがティールームに残される。
だがやっと煩いのがいなくなった、という顔でパチュリーはふぅとため息を一つ吐いた。
誰もいないという事は誰も見聞きしていないという事、ならばよほど派手な事や後に残る事をしない限り、自分の行動が即座に咎められるという事はないというわけだ。


「・・・さて、と・・・・・・・・・・・・」

淀みない動きで水槽の隣に動き、迷う事なく腕を差し入れる。
普通の人にとっては何気ない動きも、パチュリーがやると実にスピーディに見えてしまうのは果たして気のせいか。

「へぇ、亀の甲羅ってやっぱり硬いのね・・・集めて張り合わせれば物理障壁くらいにはなるのかしら」
「・・・・・・・・・」

当然だがスッポンは喋れない。
だが喋れない代わりに、己の意思表示として体を動かす程度の事はできる。
そしてこのスッポンもまた、パチュリーの前で立派な意思表示をしてみせた。
手足と首を引っ込め、その場から頑として動かない。しかしたまにパチュリーの手が甲羅に触れれば、もぞもぞ己の体を甲羅ごと揺すってその場から1mmでも離れようとする。元々が臆病な性格のスッポンの事、『これ以上その生暖かい手で触んなや』という静かな静かなメッセージなのだ。

「なに恥ずかしがってるの、ここにはあなたと私しかいないのよ?・・・って言っても分からないでしょうけど」
「・・・・・・」
「・・・ああ、もうすぐ血を抜かれるのが怖いのね。でも逆に考えるのよ。あなたは私たちの血肉となって永遠にも近い時を生き続けられると考えるの」
「・・・・・・・・・」
「ね?そう考えれば、ここに連れて来られたのはむしろとても幸せな・・・」



ガ リ ン



「こどぅぁっ!?」
「・・・・・・・・・!」

そして、無言の意思表示はパチュリーに直接向けられた。
今までずっと引っ込め続けていた首を弾幕よりも速く伸ばし、パチュリーの白い指に食らいつく。

「いっ!いぃっ!イタタタタタタタッ!ちょっ・・・・・こら、放し・・・って、ててててッ!」

刺すような激しい痛みを感じた頃には3秒ほど遅い。
鳥の嘴を思わせる硬い口先はパチュリーの指にしっかり食い込み、指をバタつかせても引っ張っても抜ける気配は一向になし。そしてこの状況と痛みがパチュリーの冷静な思考をあっという間に乱し、彼女は痛みの中でただただ慌てふためくのみ。

「いっ、痛いっ!痛いってば!そんなに強く・・しないでぇ・・・・うぐっ・・・え、えーと・・・亀を消極的に引き離す方法ッ・・・・・・!」

しかし、どんなに混乱してもパチュリーはパチュリー。空いた片方の手だけで本のページをパラパラとめくる。
スッポンの『す』の項目を勘で探り、滑らかな指の動きと共に紙が流れていく。

(あった・・・スッポン・・・・スッポン・・・・え、えぇっ・・・・・・!?)





   亀目の生物には一般的には歯が生えておらず、鳥のような鋭い嘴を持っているのが特徴である。
   スッポンは亀目の中では珍しく唇を持ち、その内側に鋭い歯のような物が生えているが、
   これもまた亀目特有の嘴なので歯と混同しないよう注意する必要がある。
   なお、余談であるが『スッポン』の語源は朱塗りの丸い盆「朱盆(しゅぼん)」という説が一般的であるが、
   滋養強壮に良いとされる血を得る為に首をスッポンと引き抜くから、という説もまことしやかに囁かれている。

   幻想郷書房刊『獅彙惇動物記』より





スッポンの性格、噛まれた時の対処法などもその本には書いてあったかも知れない。
『スッポン』の項になくとも『亀』の項になら載っていたかも知れない。
だが、それらを全て差し置いてパチュリーの目にはその記述だけが焼きついていた。

(何てこと・・・!『歯が生えてない』って・・・・・・唇じゃないにしても・・・歯じゃないって言うのなら・・それにこの肉感・・・・・・・・・そうよ、つまりこれはこの子なりの愛情表現なんだわ!ものすごく痛いけど、これも愛情表現の裏返しだとすれば・・・う、受け止めてみせる!この子の想い、こんな小さな体の私だけど全て受け止めてみせるわ!!)


そろそろパチュリーは止まらない。思い込みと妄想は間違った解釈を青天井的に加速させ、噛まれ続けている指は痛すぎて逆に痛くない・・・というより、痛みを偉大なる妄想の力で和らげているようにすら受け取れる。
しかし、彼女の固い決意も空しく痛みは容赦なく激しさを増し、それに耐えるパチュリーの精神力はじわりじわりと削られていく。

(・・・・・・で、でも・・・私も永くはないか・・・・・ふふっ、レミィ、咲夜・・・あとは頼んだわ・・・・・)

震える空いた手を虚空にかざし、その指を壁に向ける。口の中でブツブツと詠唱を呟き、魔力を指先の一点に収斂させていく。細い指が伸びていった先は、紅魔館の中によく映える白亜の壁。そこに、パチュリーが収斂させた光が向かっていった。

(最後の・・・ノエキアン・・デリュージュ・・・・・・これが私の精一杯・・・・・受け取って、レミィ、咲夜・・・・・・・・・)


矢継ぎ早に蒼い弾が撃ち込まれ、パチュリーの想いを形に遺していく。
レミィも咲夜もこのメッセージの意図には気付いてくれるだろう。
穴だらけになったこの壁だが、きっと咲夜が直してくれるだろう。

しかしその代償は?やっぱり自分?かなり高くつきそうだけど、どうやって?
図書館の本を売り払って?それとも金が払えないなら体でゴニョゴニョ・・・!?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゆっくりと薄らぐ意識の中でこの後の事を思い描き、未だ指に喰らい付いているスッポンに目をやった。
この生き物は、これから無慈悲にも捌かれてしまうという事を果たして分かっているのだろうか?分かった上でのこの愛情表現なのだろうか?
・・・それとも、命乞い?または最後の抵抗?はたまた痛みを伴う恫喝?
残念な事に、パチュリーに爬虫類の思考は分からない。分からないから全力で推測する。
だが、仮説がまとまるよりも先に彼女の意識の方が細くなってきてしまったようだ。
目を開け続ける事すら億劫になり、強張っていた手からも力が抜けていく。


(・・・・・・く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!)



ぷ つ ん



「はうっ」

ついに指の皮膚が負け、赤い滴りが水槽に混ざる。それが彼女への最後の一打となった。
テーブルに突っ伏し、水槽に手を突っ込んだまま、パチュリーの意識はそこで途絶えてしまった―――


   パチュリー・ノーレッジ 再起不能(ドッギャアアアアアアアアアアン



*  *  *  *  *



「パチュリー様、お待たせしまし・・・・・・・た、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
「!!・・・・・・パチェ・・・・!?」
「パッ、パチュリー様っ・・・!」

本を抱えて図書館から戻った二人の口から漏れたのは、素っ頓狂な叫びと絶句の一言だった。
無理もない。留守を預かったパチュリーの指は半ばスッポンの餌となり、当の本人は血を流してピクリともせず。
そして壁には無数の弾痕で文字が刻まれているという状況なのだから。

現場が荒れるのも構わずパチュリーに駆け寄り、パチュリーの安否を確かめる咲夜。
外傷も出血も大した事はなく、呼吸と心音も正常である事を確認し、その場でほっと胸を撫で下ろす。
しかし安心するのも束の間、この状況に至るまでの経緯という大きな疑問が二人の中でむくむくと頭をもたげる。


「自殺・・・?・・・・まあ死んでませんから、だとしたら自殺未遂・・・・・・?」
「自殺に見せかけた他殺・・・あぁ、死んでないなら殺人未遂ね。それか単なる事故という可能性もあるけど・・・なら、この壁はパチェが遺したメッセージという所かしら」
「きっと暗号ですよね・・・どういう意味なのでしょうか」
「『シン デレ』って読めるわね。『このスッポンを食べて健康を手に入れた私はシンデレラガァァァル!!』?」
「うーん・・・・・・あ、お嬢様、これを!」
「ん?」
「パチュリー様の本にこんな記述が・・・」





   亀類の肉は鶏肉に似て美味とされ、主に雑炊や鍋物の材料として使われる。
   また、卵も味がよく豊富なタンパク源であるが、こうした食用の亀の中には
   乱獲がたたり既に稀少となっている品種もある。
   なお、食用として最も一般的なスッポンはsoft-shelled turtleとも書くが、
   これはスッポンの甲羅が亀類の中では異常なほど柔らかいという事に由来しており、
   古代中国においては外部からの衝撃を柔らかく吸収する素材として注目されていた。
   柔軟性に富むので逆に砕けにくく、甲羅を張り合わせて盾や甲冑として愛用した兵士もいたという。
   つまりスッポンを漢字で『鼈』と書くのは、『衝撃を遮蔽する亀』という事に由来するのである。

   幻想郷書房刊『獅彙惇動物記』より





「パチュリー様は、この亀の肉をどのようにして食べようか調べていたに違いありませんわ」
「ふーん・・・で、この壁の文字はどう結びつけるの?」
「『シン デレ』ではなく、恐らく『シソ デレ』ではないかと・・・」
「『シソ』?薬味に使うアレ?」
「はい。ひいては梅肉なども表わす為に『シソ』という表記を用いたのではないかと」

咲夜の熱弁をレミリアはじっと見つめていた。
自分がはじき出した仮説よりも彼女の説の方がもしかしたら信憑性が高い、またはズバリ的を得ているのではないかという期待を込めて。
そんな熱い視線を独り占めする咲夜の頬はだんだん朱に染まっていくが、暴走したい衝動を必死に抑えつつ
コホンと一つ咳払いをして淡々と話を続けようとする。
・・・・・・手先がガクガク震えてはいるが。

「恐らく『シソ デレ』に続く文字があったはずなのですが、それを書く前にパチュリー様は力尽きてしまったようですね・・・・・・ともかく、私の推察ではこのメッセージの真なる姿は『シソデ レア』になると思うのですよ」
「『レア』?この亀は稀少って事?」
「いえ、本には『食用として最も一般的』とありますので、ここでは『生』という意味で解釈するべきしょう。つまり『スッポンはレア程度に軽く火を通して梅肉ソースをつけて食べると美味しいに違いないわ!』というパチュリー様からのメッセージなのではないかと・・・」

「パチェは・・・命をかけてそれを私たちに伝えようと・・・・・?」
「・・・パチュリー様の犠牲を無駄にしてはなりませんわ」



二人の目からは目の幅に等しい涙が溢れていた。
下手をすれば鼻から青いナニかが垂れてくるかも知れない、しかしそんな事になれば瀟洒とかカリスマとかそんな言葉は微塵に吹き飛んでしまう。
必死で鼻をすすり、咲夜はまだパチュリーに喰らいついているスッポンの甲羅に指をかける・・・・・・咲夜かレミリアの力を本能で感じ取ったか、
驚くほど簡単にスッポンの口はパチュリーからスッポンと離れていった。

そしてすっかり大人しくなったスッポンを抱き、咲夜はレミリアを連れて厨房へ向かう・・・



(To be Continued...)
幻想郷書房の本って、とても不思議なんですよね。
いつの間にか図書館の本棚に紛れ込んでるし、パチュリー様もその事に気付かないくらいだし。
それに著者名も出版社の正体も不明だし、書いてある事は正しいんだか出鱈目なんだか・・・

でも、パチュリー様はその出版社の本がお気に入りらしいんですよ。
『私の知らない知識で満ち溢れているわ』って、最近読む本はいつもそれなんです。
・・・私は胡散臭い本だと思ってるんですけどね・・・・・・
あ、今のパチュリー様には内緒ですよ!?

(談:小悪魔)



タイトルはこれ以外にいいのが思いつきませんでした。
まあ、レミリアとの『貴族つながり』という事で一つ(ぉ
0005
コメント



1.名無し妖怪削除
パチュリー…報われねえ…
2.名無し妖怪削除
スッポンから萌えを汲み出した不可解少女に最敬礼
3.名無し人妖削除
パチェのオチがわかっていたとはいえここまで笑わせられるとは…GJ!
4.名無し妖怪削除
ぱちゅりー・・・・