日記より抜粋
某月某日
神社に行ったら巫女が倒れてた
「……助かったわ、紫」
「……何してたの」
あきれ顔で訊ねる彼女の前で、今し方、お椀に三杯のご飯を食べ終わった少女が「聞いてよ……それがね」と聞くも涙、語るも涙、涙涙の博麗人生でございます、とばかりに語り始める。半分以上は愚痴なのだが。
「お金がなくてお金がなくて……。いやぁ、世知辛いわよねぇ。人生って。
あんなちんまい金属の塊一つで左右されちゃうんだもの」
ず~、とお茶を一口。
ちなみに、ここは少女の家兼仕事場である神社ではなく、どこにあるともしれない、だが、確実にそれはそこにあるといわれる遠野の家屋、マヨヒガである。
彼女を連れてきた、この屋敷の主、八雲紫は肩をすくめると、
「あきれた。本当に」
「あきれてもらって結構。それでお金がもらえるのなら、いくらでもあきれてもらっていいわよ」
「口だけは減らないのね」
「そういうもんでしょ。人間」
口先だけで、世の中、結構渡っていけるものなのよ、と。
先ほどの愚痴とは正反対のことをいって、少女――霊夢は、ようやく空っぽになったお腹を満足させることが出来たのか、ぽん、と手でお腹を叩く。
「はしたない。年頃の女の子が、なんてことしてるの」
「なによー、うっさいなー。あんた私の母親かー」
「そうよ。あなたは、私がお腹を痛めて産んだ子なのよ。だから、もう少し、親に頼らずに生活してちょうだいな」
「へへー、母上様、どうか平にご容赦をー」
なんて、わけのわからないことをやっていられるうちは余裕たっぷりだ。
くすくす笑う紫に霊夢も満足したのか、「ありがと」と笑いかける。
「それにしても、何でうちの神社にはお金が入らないのかしら」
「知名度の問題はクリアしているとして……問題なのは、悪いことばかりが先行していることかしら」
「と言うと?」
「あなたの神社は妖怪の巣窟。近寄っただけで食われてしまう。
そんな噂が人里で広がっているらしいわよ」
「うわー、マジで?」
しかもあながち否定できないところがむなしかった。
第一、こうやって親しげに話している相手も、幻想郷で一、二を争う大妖怪だ。してみると、私も妖怪街道に片足突っ込んでるのか、と意味のわからないところで深く納得する霊夢。
「本当に情けない。今日だって、私が、たまたま遊び心を起こさなかったらどうするつもりだったの?」
「実は三日前から倒れてました」
「……ほんと?」
「う・そ」
「……ならよかったわ」
「記憶がないのは昨日から」
「をい。」
手にした扇子で、ぺちん、と霊夢の頭を叩く。
「いったぁ~……。何するのよ!」
「なら、こっちの傘の方がよかったかしら。最近、試し切りをしていないから切れ味がなまってないかどうか不安なのよ」
「くっ……さすがは八雲紫! だが、この博麗霊夢が量産の暁には……!」
「量産されてどうするの。物理的に増やすわよ」
意味もわからず、腰を上げた霊夢が「冗談よ」と、改めて畳の上に座り直す。
そうして、空っぽになっていた湯飲みの中に、紫がこぽこぽとお茶をついだ。美しく、金色に輝くお茶だ。飲んでみれば、普段の出がらしなどとは全く違った、深みのある、しかし、さっぱりとした味わいが口中に広がっていく。
「ねぇ、このマヨヒガのものを持ち帰るとさ、幸せになれるっていうけれど」
「迷信ね」
「迷信でも何でもいいからさ。何かくれない?」
「そうねぇ……。ああ、じゃあ、この前、使っていた箸が折れてしまったの。持って行く?」
「私はゴミの回収業者か」
べしっ、と手にした祓え串で、今度は紫へとツッコミを返す。
なかなかいいコンビである。ひょっとしたら、ペアでお笑いでもやったら受けるかもしれない――そんなことを思いながら、「冗談はさておいて」と霊夢。
「金策とかしてみるのがいいのかな?」
「そうね。いつもの生活をしていてどうにもならないのだから、ちょっぴり、普段とは違うことをしてみたらいいわ」
「裸の一枚でも放り出せばお金は集まる、って聞いたんだけど」
「やめておきなさい。娼婦にでもなるの?」
「それは嫌」
「そうね」
「んー……まぁ、色々考えてみる。
ともかく、ご飯、ありがと。助かった」
「今度は魔理沙にでも助けてもらうのね。私の気まぐれは、そうそう毎日続くものでもないから」
「うん」
またね、と。
立ち上がった霊夢を、紫は玄関まで送り出し、その後ろ姿を見送った。ちなみに、霊夢の片手には、一体いつの間にくすねたのか、先ほど飲んでいたお茶の湯飲みがあったりする。確かに、あれもマヨヒガのものだけど、幸運を招いてくれるかしら、と。
「本当に、紫様もお暇な方ですね」
「人が悪いと言ってちょうだい」
「退屈しのぎに出かけていったと思えば、とんだものを拾ってきてくださるもので」
ドアを閉めて振り返れば、何やら苦労を表情に浮かべた狐が立っていた。彼女のお説教――というか、お小言――に、はいはい、と笑いながら返す。
「いいじゃない。あの子の面倒を見るくらい」
「まぁ、確かに、私も紫様も、幼いものの面倒を見るのは得意かもしれませんが」
「かも、じゃなくて得意なのよ。藍。
あなたの面倒を見てきたのは私。そして、橙の面倒を見ているのはあなた。それなら、その経験を生かして、あの子にご飯の一つくらいも出してあげたくなるわ」
「お気に入り――というわけでもないのでしょう?」
「そうねぇ……。まぁ、気まぐれの一つと言うことで」
「やれやれ。あなたは、本当に変わったお方だ」
果たして、それはどういう感情の元での言葉だったのか。とりあえず、問い返すようなことをせずに、紫は踵を返す。
「……ついでに言えば、素直じゃないのも付け加えないといけませんかね」
その一言は、聞こえなかったふりをして。
日記より抜粋
某月某日、巫女が金策を始めた
「次の方ー」
その言葉にやってきたのは、紅白の衣装が目に痛い――もとい、鮮やかな少女だった。彼女の方を見て、その言葉を発した人物は、にっこりと笑う。
「どうなさいましたか?」
その相手は、ここ、永遠亭にて医療相談所などを開設している八意永琳である。メガネ、白衣、ミニスカ、黒ストとパーフェクトな格好の彼女に、端的に、霊夢は言った。
「お金が欲しいです」
「脱ぎなさい」
「やっぱり?」
あっさりと返されて、いやいや実は、と事の詳細を語り出す。
それを聞いて、永琳は、またもや一言。
「うちは人生相談所じゃありません。然るべき所に行くことをお勧めします」
「その然るべき所がないんです、先生」
「……それもそうね」
「まぁ……さっきの話はさておいてね。あなたに知恵を借りたいの。いいかな?」
「別に構いませんよ。
もっとも、今はお仕事が忙しいから、その話はまた後で。
ウドンゲー、霊夢さんに白衣を着せて、お手伝いやらせてちょうだーい」
「はい!?」
「相談料」
「……うぐ」
「……師匠の趣味ですから」
歩み寄ってきたうさみみナースの言葉に、霊夢は反論することも出来ず、押し黙った。目の前の相手はにこにこと笑っているだけだ。しかし、言い返せない。その笑顔は鉄壁の防壁であり、自分が展開する結界術など、彼女の笑顔の前では薄っぺらな紙にしか過ぎないと言うことを察してしまったのである。
――というわけで、みこみこなーすが誕生することになった。
「……いい趣味してるわね」
「お褒めにあずかり光栄です」
などという会話も交わしたりしたが、ともあれ。
「……あんた、料理上手ね」
「あらあら。ありがとう」
とんとんとん、とリズミカルに包丁がまな板を叩いている。
医療相談が終わってすぐに、永琳は白衣を脱いで台所に立っていた。それほど、彼女のやっている医療相談所が忙しいというわけでもないのだが、それでもずっと仕事をしていたのに、すぐに家事に入れる彼女を、素直にすごいと思いながら、永琳へと洗った食材を渡していく。
「長い間生きていれば、色んな事を覚えてしまうもの」
「ふぅん……」
「ししょー、これ、持って行きますねー」
「あらあら」
うさみみナース改め、鈴仙が入ってきて、完成済みの料理を持って去っていく。もうすぐ、永遠亭は晩ご飯の時刻。広いキッチンには、永琳の他、数名の兎たちが甲斐甲斐しく働いている姿があった。住んでいるものが多いだけに、これくらいの数の料理人達が必要とされるのだろう。
「それに、月にいた頃は、それはそれは恐れられたものなのよ?
天才料理人、って」
「……マジ?」
「あらあら」
笑顔で返され、言うことが見あたらず、霊夢は押し黙る。
「……この頃さ、思うことがあるの。何か、私の周りにいる奴らの中で、特に人間の連中って、変なの多いなぁ……って」
「類は友を呼ぶ」
「私が類かよ」
「もちろん」
「……ストレートに来たなこの野郎」
うめき、霊夢は手にした包丁で魚をさばいていく。永琳の手つきと比べればお粗末だが、それでもその技にそつはなかった。端的に言えば、そこそこの腕前、ということである。
「いつもこんなに料理を作ったりしてるのね」
「そうね」
「大変でしょ?」
「食べるものがなくて、料理をするにも出来ないあなたよりは大変ではないわね」
「……ほっとけちくしょう」
「同じ日常を送っていて満たされないのなら、そうではない日々を送るのも、時として必要よ」
「……金策ねぇ」
さりげないアドバイスだった。
それを聞いて、頭の中で色々なことを思い浮かべながら、さばき終わった魚を永琳へ。彼女はフライパンを片手で操り、その上で魚をムニエルに仕上げてしまう。見事な手つきに、思わず、おおー、と手を叩いてしまった。
「食事は、悪いのだけど、あなたは他のうさぎと摂ってね。お話は、お風呂でしましょう」
「……はーい、わかりましたー、えーりんおかーさーん」
「あらあら」
いいこいいこ、と頭をなでなでされて。
子ども扱いするな、と顔を赤くして、永琳の手を振り払うのだった。
「お金を手に入れる簡単な方法は、働くこと」
「……それはわかってるつもりだけど」
ちゃぷ、と水面に波紋が立つ。
「あなたが一生懸命、何かの対価を求めて働けば、ちゃんと返事はあるものよ。逆に、何もしなければ何もないのは当たり前」
「うーん……」
自分は何もしてないのだろうか。
日々、しっかりと神様への奉納をするのが巫女の仕事ではないのだろうか。そりゃ、確かに、その昔には色々なことが『巫女』という職業を取り巻いていたらしいが、それだってすでに今は昔の話だ。
「……労働の対価、かぁ」
「たとえば、私は今日、あなたに情報の見返りに労働を提供してもらったでしょう? それと同じ事よ」
「ん~……。たとえば、ここで私を雇ってくれたり、とか」
「うちには医療の知識が必要だもの。ごめんなさいね」
「言ってみただけよ」
熱くなってきたのか、一度、湯船から体を上げる。
永遠亭の中に作られた、立派な檜風呂。一度に十人は入れそうな広いそこには、今は二人だけ。もっとも――、
「ちょっと、イナバ。もう少し丁寧にしてよ」
「そうは言いますけど、姫様の髪って、すごく艶がありすぎて……。これをどうにかせずに手入れするのは難しいんですよー」
と、主君の世話をさせられている従者の姿もあったりはするのだが。
「うふふ。
ウドンゲ、そう言う時はね、そこにあるリンスを使うと楽よ」
「あ、はーい」
愛する師匠の言葉に、彼女を敬愛する弟子は素直に従った。その光景が、また何とも言えず、微笑ましい。
「そうなると……アルバイトみたいなことをやるというのが一つの手段かなぁ」
「それにしても珍しいのね」
「え?」
「あなたって、誰かに何かを言われたくらいで自分の生活を変えたりするような人ではないと思っていたけれど」
「まあ、人生に関わってるし。
それに、逆らうと、うちのお母さんはうるさいから」
「お母さん?」
「うん……変なお母さんよ」
苦笑して肩をすくめる霊夢に、さしもの天才も小首をかしげた。妙に子供っぽいその仕草に、思わず霊夢は吹きだしてしまう。
「そう。ほんと、変なお母さんなの……。変わった人」
「だから、変わった子が生まれたのかしら?」
「うっさいなぁ」
ざばっ、と永琳が湯船の中から立ち上がった。
まだまだ子供の気配を残す霊夢とは違った、美しく熟成された女の体をしている彼女に、霊夢の視線が完全に釘付けになる。
「あらあら、恥ずかしいわ」
大きく張り出した乳房を隠しながら、彼女は微笑んだ。
「いらっしゃい。ついでだから、お肌とか髪の毛のお手入れをしてあげる」
「い、いいわよ」
「あら。私だって永遠亭のお母さんよ。あなたのお母さんほどではないかもしれないけど、子供の扱い方には自信があるの」
いらっしゃい、と手を引かれてしまう。
結局、逆らえずに洗い場へと連れて行かれて、ぽつんとしょざいなげに、霊夢。
「子供はね、大人に守られて育つものなの」
「それはわかってるけど……」
「大人は、子供を慈しんで育てないといけないわ。私にとって、みんながかわいい子供」
「ひゃっ。くすぐったい」
「あらあら。ごめんなさいね」
優しくタオルを当てられて、それが肌の表面を柔らかくなでていく。自信がある、と言っていただけに、その手つきは、普段、霊夢が自分で体を洗ったりするのよりもずっと気持ちがよかった。思わず、顔もとろけていく。
「今夜は泊まって行きなさい。たっぷり、お金の稼ぎ方を講習してあげる」
「あはは……ありがと。優しいね」
「あらあら」
「……ししょー、私のこと、洗ってくれたことなんてないくせにー……」
「あらあら、やきもち?」
「ちっ、違いますよぅ……」
「甘いわね、イナバ。永琳を独り占めしたかったら、まずは突撃よ。控えめじゃ、永琳の気持ちをゲットする事なんて出来ないわ。それこそ、弾幕勝負を挑むくらいの勢いで」
「……ごめんなさい、それ死ねます」
そのうさぎはというと、ひょこんと立った耳をしなしなとしおれさせながら肩を落としていた。少しだけ、悪いかな、と思ってしまうのだが、今の自分の状況を彼女に譲ってやろうとは、霊夢は考えなかったらしい。
「……ママ、って呼んでみたいな」
「あら?」
「あんたのことじゃなくてね。……誰かを」
「甘えんぼ」
「うっさーい」
「う~……ししょ~……」
「あ~、よしよし。うさぎはかわいいわね~、寂しいと死んじゃうものね~」
「ふえ~ん……何か、極めて特殊な方法でいじめられてる~……」
みんなのいじられっこ、というあだ名は絶妙である、と霊夢は思った。
なるほど、確かに鈴仙という輩はからかうと楽しいかもしれない。あんな風に、こっちが思った通りの反応をしてくれると、それはもう、何というか色々と。
「髪の毛、荒れているわね。それにお肌も。
体の内側は外側に出るんだから。気をつけるのよ」
「はーい」
「あらあら。えらいえらい」
「やめーい」
とは言いつつも、頭をなでてもらうのが、実は少しだけ嬉しかった。
日記より抜粋
某月某日
どうやら、巫女がアルバイトを始めた模様
「というわけで、紅魔館で雇って欲しいんだけど。お試し期間で一日、二日」
「断る理由はないわ即採用」
「ち、ちょっと待ってくださいお嬢様。何でいきなり速攻ですか」
「何よ咲夜わたしの言うことに文句があるというのないわよねあるわけないわねそれじゃ採用」
「いやだから、息継ぎくらいはしてください、せめて」
「だから霊夢をメイドにするのなら文句はないわむしろそれが望む所よさあ霊夢わたしの身の回りの世話をしてちょうだいもちろんアレやこれやの色んな事までれっつかもん」
「……一応、採用試験するから。ちょっと待ってて」
もはや、色んな意味で正常ではあり得ないお嬢様が、ずるずると咲夜に引っ張って行かれる。紅魔館の応接室に通された霊夢は、ふむ、とうなずいてその後ろ姿を見送った。
彼女がここに来た理由は単純。自分の知り合いの中で、最も、『仕事』というものに関して貪欲に人材を求めているのはここだと理解していたからである。事実、その旨を伝えたら、門番が「ええっ!? 本気ですか!?」と死ぬほど驚いていたことだし。
――それは関係ないのかもしれないが、ともあれ。
「お待たせしたわね」
「レミリアは?」
「よく言って聞かせてきたわ」
「……あ、そ」
何してきたんだろうと思ったが、訊ねるようなことはしなかった。知ってしまえば不幸になりそうな予感がしたからである。
さて、とおもむろに咲夜が霊夢の対面に腰を下ろす。
「また、どんな風の吹き回し?」
「まぁ……別に理由はないんだけどね。強いて言えば、お金が欲しい」
「……ごめんなさい、霊夢。お茶とお菓子を追加するわ」
「何で謝りますかてめぇこのやろう」
「だって……だって……」
ううっ……、とハンカチで目元ぬぐってマジ泣きのメイド長に、色んな意味で怒りをもよおして夢想封印でもぶちまけてやろうかと思ったが、とりあえず、それをぐっとこらえる。一応、今後、自分の上司になるかもしれない相手だからである。
「……こほん。
紅魔館は、確かに人手に関して言えば、文句なく、常に募集しているわ。でも、あなたにここの仕事が務まるとは、とてもじゃないけど思えないの」
「そんなに厳しいの?」
「厳しい……って言うか……。まぁ、論より証拠、とは言うわね。
紅魔館の仕事を見せてあげる。それでも、まだここで働きたいと思ったら、改めて面接をしましょう」
「まぁ……それならそれでありがたいけどさ」
就職したと思ったら、あまりの現実と理想の乖離について行けず、結局、仕事を辞めてしまう人間が増えてきているのだという。慧音が里の方で頭を悩ましていた事実を思いだし、まずは実地訓練からよね、とつぶやく霊夢。
「メイドの仕事は、館の中のありとあらゆる雑多な家事及びお嬢様達のお世話よ」
「それはわかってるわ」
「そう。それなら……」
咲夜が足を止めた。
「まずはこれからね」
「え?」
まっすぐに伸びる、紅魔館名物大回廊。
そこで、じっと立って待っていると、何やら視界の向こうから声が聞こえてくる。
「どいてどいてどいてーっ!」
「お掃除お掃除お掃除よー!」
「はい、あなた達、周回ラップが遅れてるわよ。あと五秒早く」
『イエス・マム!』
とりゃーっ! と叫びながら突っ走っていくメイド達。
「……今の……何?」
「見ての通り、廊下のモップがけよ。あれを一日で終わらせるの」
「……………」
確かに、紅魔館は広い。と言うのも、どこぞの輩がこの空間をねじれさせ、外側と内部の釣り合いを取れなくさせているからなのだが……しかし、それにしたって、今のは……。
「鬼気迫る形相だったんだけど……」
「周回ラップを予定より遅れさせたものは、あとでお説教だから」
なるほど。もうこの段階で、仕事の厳しさには気づけたと言っていいが、まだこのくらいなら覚悟していたことである。次へ案内しなさい、との霊夢の言葉に、咲夜は無言で歩き始めた。
ふと、窓から外を見れば、中庭でメイド達が木々の剪定作業をやっている。見た限り、楽しそうであるが、時折上がる悲鳴と襲いかかってくる謎の植物には気を向けてはいけないのだろう。多分。
「ここが厨房」
大きな扉を開けば。
「五番の料理、出来上がりましたっ!」
「十三番、完成です!」
「八番の料理が遅れてるわ! 担当者、何やってるの!」
「あーっ! 誰よ、このお皿割ったの!? これで、今月に入って六枚目よ!?」
「ぎゃーっ! 買い置きの調味料がもうないーっ!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
これはどこの無間地獄ですか? という視線をメイド長に向ける。
「もうそろそろ、うちのレストランサービスの注文が増えてくる頃なの。あと三十分もしたら、私と美鈴もここに立たないといけないわ」
「……こんなに大変だったのね」
「一日の注文総数、どれくらいあるか、あなた知りたい?」
「……二百くらい?」
「倍以上」
「げっ」
さらりと言ってくれた咲夜に、さすがに驚愕の声を隠しきれない。
確かに、紅魔館の食事は美味しい。吸血鬼の館だというのに、その料理の味はきめ細やかでまろやかで、いつまででも口の中に幸せの残る――そんな味。それなのにお値段据え置きでお手軽と言うことで、霊夢もよく利用していたのだが、まさかその幸せの裏に、こんな地道すぎる努力が隠れていたとは……。
「うちに就職したら、ここでの皿洗いも仕事のうちよ」
あれ、と咲夜が指さしたのは、厨房の一角に積み上がったお皿の山。それを『メイド見習い』という名札をつけたメイド達が必死の形相できれいに磨き上げていく。
「お皿にちょっとでも曇りがあったらやり直し。それがうちの信条よ」
「……吸血鬼の館なのに?」
「聞かないで」
どうやら、色んな意味で痛い腹を探られてしまったらしい。涙を辛うじてこらえたメイド長が、次に行くわよ、と歩いていく。
そして、次に案内されたのは、これまで入ったことのない部屋だった。
ばたん、と開けられた扉の向こうを見て。
霊夢はめまいを覚えて倒れかけた。
「あら霊夢就職の意思は決まったありがとうよかったわそれじゃ一緒に頑張っていきましょうね」
「レミィ! 誰がステージを離れていいと言ったの!」
「あ、ああ、ごめんなさい。パチェ」
装飾たっぷり、フリルたっぷりの可愛らしい衣装に身を包んだレミリアが、喜色満面の笑顔でやってきて、パチュリーに怒鳴られてステージに戻る。そんな不思議な光景が刹那の間に展開した。
ステージの上では、同じような格好をしたフランドールが「まじかる☆ふらんどーるびーむ♪」などとやっている。
「……その……えっと……」
「メイド達の仕事の一つに、舞台の悪人役よ」
その言葉にあわせたかのように、ステージの上に現れるメイド達。何かみんな半裸に近い衣装で、「今日があなた達の年貢の納め時よ、魔法少女達!」なんてことをやってたりする。
「……」
「最初はエキストラから始まって、ちょい役、雑魚、中ボス、大ボス、魔法少女を助ける美人のお姉さんなどなど。階級によって、与えられる役所は違ってくるわ」
「えっと……ねぇ、何でそんなに大まじめに解説してくれるの……?」
「フラン! 何その大根は! 台本はきちんと覚えてきたの!? げほげほっ!」
「うー……だって、字が難しくて読めないんだもーん」
「そんなものは言い訳にはならないわ!
ええいっ、こんなんじゃ練習にならない! 解散よ、解散!」
「パチュリー様、お気を鎮めて。まだこれからですよ」
「黙りなさい、小悪魔! こんな無様なショーをやるために、私は心血を注いできたのではないわ!」
「でしたら、こちらの衣装はいかがでしょう。ゴスロリちっくの中にも妖艶な色気を混ぜてみました」
「……ふむ。これは……」
怒鳴り散らしていたパチュリーが、小悪魔から受け取った服を片手にためつすがめつを始めた。怒りの原因が解消されたというわけではなさそうだが、してみると、彼女、もしかしたら演出家としての才能があるのかもしれない。
「レミィ、こっちの衣装に着替えてみて。あと、フラン。猶予をあげる。三十分だけ、台本の読み合わせをしてきなさい」
「はーい……」
「パチェ、その服、少しフリルが足りないのでない?
この部分のデザインが甘いのだけど」
「大丈夫です、レミリアお嬢様。実はですね、ここのひもを引っ張ると……ほら、隠してあったギミックを使って、ぶわっと」
「これは……なかなか見栄えがするわね」
「いい感じよ、小悪魔。この衣装で、この舞台、うまく飾れそうね……。台本の修正をするわ、少し待ってて」
「……ごめんなさい、私、ここで働くのやめます」
「そうね。あなたでは、魔法少女の舞台に立つのは、あと十年早い」
何かメイドの仕事と関係ないところで断られたような気がするが、それについては気にしないのが一番だろう。
紅魔館の仕事というのは、かくもきついものなのだ。そして、かくも壮絶なものなのである。それを甘く見て、単に、お金が欲しいからと言う理由で働こうとしていた己を恥じなくてはなるまい。
決して、色んな意味で人生を踏み外すのが嫌だから断るのではない。これは名誉ある撤収なのだ。そう、私は間違った判断をしていないのだ。
「ところで咲夜、あなたの衣装は裸エプロンを命じてあったはずだけど」
「それではお嬢様私は霊夢のお見送りをしてきます故」
「そう。残念ね」
「……裸エプロン?」
「よけいなこと言わないで! お嬢様が思い出したらどうするの!」
その気持ち、わからんでもなかった。
だから、黙って、霊夢は踵を返したのだった。色んな意味で、切羽詰まった表情のメイド長には気づかないふりをしたままで。
日記より抜粋
某月某日
博麗神社に収入があった
「あ、紫」
「ごきげんよう、霊夢。そのお金、どうしたの?」
のし袋に入ったそれを片手に、神社の縁側に腰掛けている霊夢に紫は訊ねた。彼女は、んー、と空を見上げた後、
「実はね、麓の村で妖怪が悪さをしていたらしくて。慧音から聞いて、行って退治してきたの。そしたら、村長さんがえらく感謝してくれてね。『少ないですが』って。もらってきちゃった」
「そう」
彼女の隣に腰を下ろし、よかったわね、と微笑みかける。
「これが巫女の仕事だもの。仕事には、ちゃんとした対価があるものでしょ」
「……まぁ、ね。確かに」
けどさ、と彼女は頬をかく。
「もらえない、って断ったんだけどね」
「あら、どうして?」
「ん~……こういう仕事はさ、私にとっちゃ、一種のライフワークだし。それに報酬をもらうのは間違ってるわよ」
「言葉が矛盾しているけれど、そう言う考え方、嫌いではないわ」
「だから、神社に納められた浄財だと考えておくことにしたの」
「そう」
疲れた疲れた、と霊夢は大きく伸びをする。
夕べは夜遅くまで、村の見張りをしていたからである。妖怪を退治したとはいえ、また何かの二次災害が待っていないとも限らない。一つの原因を排除するだけでは、世の中、完璧ではないのだ。だから、霊夢はそれを完全な意味で確認するために、あえて一日、徹夜をしたのである。
「ふぁ~……眠たいな~……」
「寝たらどう? 眠たい時に寝るのに限らず、お腹が空いたらご飯を食べるものだし、疲れた時は体を休めるもの。そういうものよ」
「ん……そうだね」
「色々大変だったみたいだけど?」
「べっつにー。
ただ、まぁ……」
よいしょ、と紫の膝に頭を預けて。
「巫女やってて楽しいわ」
「そう」
「それじゃ、お休み。晩ご飯の時間になったら起こしてよ」
「ええ、お休みなさい」
軽く、彼女の頭をなでて。
目を閉じると同時に、すぐに霊夢は寝息を立て始める。よほど疲れていたのだろう。
「紫様」
「藍、静かに」
「はい」
「この子が寝ている間に、神社のお掃除、やっておいてあげて。あと、どうせ空っぽだろうから、食料を」
「本当に、紫様は」
「何? 何が言いたいのかしら」
「いいえ、何でも。
それじゃ、仰せのままに」
背中に背負ったかごを背負い直し、そっと忍び足で、藍が神社の中へと入っていった。それを見送って、もう、と紫は肩をすくめる。
「寝ている時はかわいいのにね」
小さな寝息を立てている彼女の艶やかな髪に、そっと指を絡める。いいこいいこ、と頭をなでてやると、小さく、霊夢が口を動かした。何を言ったのかは聞き取ることが出来なかったが、きっと、何かいい事でも思い出しているのだろう。
「本当に、苦労ばっかりかけるんだから」
だから、私も休まないとね。
彼女を抱いたまま、空を見上げれば。
いつもと変わらぬ幻想郷の空だった。
日記より抜粋
某月某日
お母さん、だって。
某月某日
神社に行ったら巫女が倒れてた
「……助かったわ、紫」
「……何してたの」
あきれ顔で訊ねる彼女の前で、今し方、お椀に三杯のご飯を食べ終わった少女が「聞いてよ……それがね」と聞くも涙、語るも涙、涙涙の博麗人生でございます、とばかりに語り始める。半分以上は愚痴なのだが。
「お金がなくてお金がなくて……。いやぁ、世知辛いわよねぇ。人生って。
あんなちんまい金属の塊一つで左右されちゃうんだもの」
ず~、とお茶を一口。
ちなみに、ここは少女の家兼仕事場である神社ではなく、どこにあるともしれない、だが、確実にそれはそこにあるといわれる遠野の家屋、マヨヒガである。
彼女を連れてきた、この屋敷の主、八雲紫は肩をすくめると、
「あきれた。本当に」
「あきれてもらって結構。それでお金がもらえるのなら、いくらでもあきれてもらっていいわよ」
「口だけは減らないのね」
「そういうもんでしょ。人間」
口先だけで、世の中、結構渡っていけるものなのよ、と。
先ほどの愚痴とは正反対のことをいって、少女――霊夢は、ようやく空っぽになったお腹を満足させることが出来たのか、ぽん、と手でお腹を叩く。
「はしたない。年頃の女の子が、なんてことしてるの」
「なによー、うっさいなー。あんた私の母親かー」
「そうよ。あなたは、私がお腹を痛めて産んだ子なのよ。だから、もう少し、親に頼らずに生活してちょうだいな」
「へへー、母上様、どうか平にご容赦をー」
なんて、わけのわからないことをやっていられるうちは余裕たっぷりだ。
くすくす笑う紫に霊夢も満足したのか、「ありがと」と笑いかける。
「それにしても、何でうちの神社にはお金が入らないのかしら」
「知名度の問題はクリアしているとして……問題なのは、悪いことばかりが先行していることかしら」
「と言うと?」
「あなたの神社は妖怪の巣窟。近寄っただけで食われてしまう。
そんな噂が人里で広がっているらしいわよ」
「うわー、マジで?」
しかもあながち否定できないところがむなしかった。
第一、こうやって親しげに話している相手も、幻想郷で一、二を争う大妖怪だ。してみると、私も妖怪街道に片足突っ込んでるのか、と意味のわからないところで深く納得する霊夢。
「本当に情けない。今日だって、私が、たまたま遊び心を起こさなかったらどうするつもりだったの?」
「実は三日前から倒れてました」
「……ほんと?」
「う・そ」
「……ならよかったわ」
「記憶がないのは昨日から」
「をい。」
手にした扇子で、ぺちん、と霊夢の頭を叩く。
「いったぁ~……。何するのよ!」
「なら、こっちの傘の方がよかったかしら。最近、試し切りをしていないから切れ味がなまってないかどうか不安なのよ」
「くっ……さすがは八雲紫! だが、この博麗霊夢が量産の暁には……!」
「量産されてどうするの。物理的に増やすわよ」
意味もわからず、腰を上げた霊夢が「冗談よ」と、改めて畳の上に座り直す。
そうして、空っぽになっていた湯飲みの中に、紫がこぽこぽとお茶をついだ。美しく、金色に輝くお茶だ。飲んでみれば、普段の出がらしなどとは全く違った、深みのある、しかし、さっぱりとした味わいが口中に広がっていく。
「ねぇ、このマヨヒガのものを持ち帰るとさ、幸せになれるっていうけれど」
「迷信ね」
「迷信でも何でもいいからさ。何かくれない?」
「そうねぇ……。ああ、じゃあ、この前、使っていた箸が折れてしまったの。持って行く?」
「私はゴミの回収業者か」
べしっ、と手にした祓え串で、今度は紫へとツッコミを返す。
なかなかいいコンビである。ひょっとしたら、ペアでお笑いでもやったら受けるかもしれない――そんなことを思いながら、「冗談はさておいて」と霊夢。
「金策とかしてみるのがいいのかな?」
「そうね。いつもの生活をしていてどうにもならないのだから、ちょっぴり、普段とは違うことをしてみたらいいわ」
「裸の一枚でも放り出せばお金は集まる、って聞いたんだけど」
「やめておきなさい。娼婦にでもなるの?」
「それは嫌」
「そうね」
「んー……まぁ、色々考えてみる。
ともかく、ご飯、ありがと。助かった」
「今度は魔理沙にでも助けてもらうのね。私の気まぐれは、そうそう毎日続くものでもないから」
「うん」
またね、と。
立ち上がった霊夢を、紫は玄関まで送り出し、その後ろ姿を見送った。ちなみに、霊夢の片手には、一体いつの間にくすねたのか、先ほど飲んでいたお茶の湯飲みがあったりする。確かに、あれもマヨヒガのものだけど、幸運を招いてくれるかしら、と。
「本当に、紫様もお暇な方ですね」
「人が悪いと言ってちょうだい」
「退屈しのぎに出かけていったと思えば、とんだものを拾ってきてくださるもので」
ドアを閉めて振り返れば、何やら苦労を表情に浮かべた狐が立っていた。彼女のお説教――というか、お小言――に、はいはい、と笑いながら返す。
「いいじゃない。あの子の面倒を見るくらい」
「まぁ、確かに、私も紫様も、幼いものの面倒を見るのは得意かもしれませんが」
「かも、じゃなくて得意なのよ。藍。
あなたの面倒を見てきたのは私。そして、橙の面倒を見ているのはあなた。それなら、その経験を生かして、あの子にご飯の一つくらいも出してあげたくなるわ」
「お気に入り――というわけでもないのでしょう?」
「そうねぇ……。まぁ、気まぐれの一つと言うことで」
「やれやれ。あなたは、本当に変わったお方だ」
果たして、それはどういう感情の元での言葉だったのか。とりあえず、問い返すようなことをせずに、紫は踵を返す。
「……ついでに言えば、素直じゃないのも付け加えないといけませんかね」
その一言は、聞こえなかったふりをして。
日記より抜粋
某月某日、巫女が金策を始めた
「次の方ー」
その言葉にやってきたのは、紅白の衣装が目に痛い――もとい、鮮やかな少女だった。彼女の方を見て、その言葉を発した人物は、にっこりと笑う。
「どうなさいましたか?」
その相手は、ここ、永遠亭にて医療相談所などを開設している八意永琳である。メガネ、白衣、ミニスカ、黒ストとパーフェクトな格好の彼女に、端的に、霊夢は言った。
「お金が欲しいです」
「脱ぎなさい」
「やっぱり?」
あっさりと返されて、いやいや実は、と事の詳細を語り出す。
それを聞いて、永琳は、またもや一言。
「うちは人生相談所じゃありません。然るべき所に行くことをお勧めします」
「その然るべき所がないんです、先生」
「……それもそうね」
「まぁ……さっきの話はさておいてね。あなたに知恵を借りたいの。いいかな?」
「別に構いませんよ。
もっとも、今はお仕事が忙しいから、その話はまた後で。
ウドンゲー、霊夢さんに白衣を着せて、お手伝いやらせてちょうだーい」
「はい!?」
「相談料」
「……うぐ」
「……師匠の趣味ですから」
歩み寄ってきたうさみみナースの言葉に、霊夢は反論することも出来ず、押し黙った。目の前の相手はにこにこと笑っているだけだ。しかし、言い返せない。その笑顔は鉄壁の防壁であり、自分が展開する結界術など、彼女の笑顔の前では薄っぺらな紙にしか過ぎないと言うことを察してしまったのである。
――というわけで、みこみこなーすが誕生することになった。
「……いい趣味してるわね」
「お褒めにあずかり光栄です」
などという会話も交わしたりしたが、ともあれ。
「……あんた、料理上手ね」
「あらあら。ありがとう」
とんとんとん、とリズミカルに包丁がまな板を叩いている。
医療相談が終わってすぐに、永琳は白衣を脱いで台所に立っていた。それほど、彼女のやっている医療相談所が忙しいというわけでもないのだが、それでもずっと仕事をしていたのに、すぐに家事に入れる彼女を、素直にすごいと思いながら、永琳へと洗った食材を渡していく。
「長い間生きていれば、色んな事を覚えてしまうもの」
「ふぅん……」
「ししょー、これ、持って行きますねー」
「あらあら」
うさみみナース改め、鈴仙が入ってきて、完成済みの料理を持って去っていく。もうすぐ、永遠亭は晩ご飯の時刻。広いキッチンには、永琳の他、数名の兎たちが甲斐甲斐しく働いている姿があった。住んでいるものが多いだけに、これくらいの数の料理人達が必要とされるのだろう。
「それに、月にいた頃は、それはそれは恐れられたものなのよ?
天才料理人、って」
「……マジ?」
「あらあら」
笑顔で返され、言うことが見あたらず、霊夢は押し黙る。
「……この頃さ、思うことがあるの。何か、私の周りにいる奴らの中で、特に人間の連中って、変なの多いなぁ……って」
「類は友を呼ぶ」
「私が類かよ」
「もちろん」
「……ストレートに来たなこの野郎」
うめき、霊夢は手にした包丁で魚をさばいていく。永琳の手つきと比べればお粗末だが、それでもその技にそつはなかった。端的に言えば、そこそこの腕前、ということである。
「いつもこんなに料理を作ったりしてるのね」
「そうね」
「大変でしょ?」
「食べるものがなくて、料理をするにも出来ないあなたよりは大変ではないわね」
「……ほっとけちくしょう」
「同じ日常を送っていて満たされないのなら、そうではない日々を送るのも、時として必要よ」
「……金策ねぇ」
さりげないアドバイスだった。
それを聞いて、頭の中で色々なことを思い浮かべながら、さばき終わった魚を永琳へ。彼女はフライパンを片手で操り、その上で魚をムニエルに仕上げてしまう。見事な手つきに、思わず、おおー、と手を叩いてしまった。
「食事は、悪いのだけど、あなたは他のうさぎと摂ってね。お話は、お風呂でしましょう」
「……はーい、わかりましたー、えーりんおかーさーん」
「あらあら」
いいこいいこ、と頭をなでなでされて。
子ども扱いするな、と顔を赤くして、永琳の手を振り払うのだった。
「お金を手に入れる簡単な方法は、働くこと」
「……それはわかってるつもりだけど」
ちゃぷ、と水面に波紋が立つ。
「あなたが一生懸命、何かの対価を求めて働けば、ちゃんと返事はあるものよ。逆に、何もしなければ何もないのは当たり前」
「うーん……」
自分は何もしてないのだろうか。
日々、しっかりと神様への奉納をするのが巫女の仕事ではないのだろうか。そりゃ、確かに、その昔には色々なことが『巫女』という職業を取り巻いていたらしいが、それだってすでに今は昔の話だ。
「……労働の対価、かぁ」
「たとえば、私は今日、あなたに情報の見返りに労働を提供してもらったでしょう? それと同じ事よ」
「ん~……。たとえば、ここで私を雇ってくれたり、とか」
「うちには医療の知識が必要だもの。ごめんなさいね」
「言ってみただけよ」
熱くなってきたのか、一度、湯船から体を上げる。
永遠亭の中に作られた、立派な檜風呂。一度に十人は入れそうな広いそこには、今は二人だけ。もっとも――、
「ちょっと、イナバ。もう少し丁寧にしてよ」
「そうは言いますけど、姫様の髪って、すごく艶がありすぎて……。これをどうにかせずに手入れするのは難しいんですよー」
と、主君の世話をさせられている従者の姿もあったりはするのだが。
「うふふ。
ウドンゲ、そう言う時はね、そこにあるリンスを使うと楽よ」
「あ、はーい」
愛する師匠の言葉に、彼女を敬愛する弟子は素直に従った。その光景が、また何とも言えず、微笑ましい。
「そうなると……アルバイトみたいなことをやるというのが一つの手段かなぁ」
「それにしても珍しいのね」
「え?」
「あなたって、誰かに何かを言われたくらいで自分の生活を変えたりするような人ではないと思っていたけれど」
「まあ、人生に関わってるし。
それに、逆らうと、うちのお母さんはうるさいから」
「お母さん?」
「うん……変なお母さんよ」
苦笑して肩をすくめる霊夢に、さしもの天才も小首をかしげた。妙に子供っぽいその仕草に、思わず霊夢は吹きだしてしまう。
「そう。ほんと、変なお母さんなの……。変わった人」
「だから、変わった子が生まれたのかしら?」
「うっさいなぁ」
ざばっ、と永琳が湯船の中から立ち上がった。
まだまだ子供の気配を残す霊夢とは違った、美しく熟成された女の体をしている彼女に、霊夢の視線が完全に釘付けになる。
「あらあら、恥ずかしいわ」
大きく張り出した乳房を隠しながら、彼女は微笑んだ。
「いらっしゃい。ついでだから、お肌とか髪の毛のお手入れをしてあげる」
「い、いいわよ」
「あら。私だって永遠亭のお母さんよ。あなたのお母さんほどではないかもしれないけど、子供の扱い方には自信があるの」
いらっしゃい、と手を引かれてしまう。
結局、逆らえずに洗い場へと連れて行かれて、ぽつんとしょざいなげに、霊夢。
「子供はね、大人に守られて育つものなの」
「それはわかってるけど……」
「大人は、子供を慈しんで育てないといけないわ。私にとって、みんながかわいい子供」
「ひゃっ。くすぐったい」
「あらあら。ごめんなさいね」
優しくタオルを当てられて、それが肌の表面を柔らかくなでていく。自信がある、と言っていただけに、その手つきは、普段、霊夢が自分で体を洗ったりするのよりもずっと気持ちがよかった。思わず、顔もとろけていく。
「今夜は泊まって行きなさい。たっぷり、お金の稼ぎ方を講習してあげる」
「あはは……ありがと。優しいね」
「あらあら」
「……ししょー、私のこと、洗ってくれたことなんてないくせにー……」
「あらあら、やきもち?」
「ちっ、違いますよぅ……」
「甘いわね、イナバ。永琳を独り占めしたかったら、まずは突撃よ。控えめじゃ、永琳の気持ちをゲットする事なんて出来ないわ。それこそ、弾幕勝負を挑むくらいの勢いで」
「……ごめんなさい、それ死ねます」
そのうさぎはというと、ひょこんと立った耳をしなしなとしおれさせながら肩を落としていた。少しだけ、悪いかな、と思ってしまうのだが、今の自分の状況を彼女に譲ってやろうとは、霊夢は考えなかったらしい。
「……ママ、って呼んでみたいな」
「あら?」
「あんたのことじゃなくてね。……誰かを」
「甘えんぼ」
「うっさーい」
「う~……ししょ~……」
「あ~、よしよし。うさぎはかわいいわね~、寂しいと死んじゃうものね~」
「ふえ~ん……何か、極めて特殊な方法でいじめられてる~……」
みんなのいじられっこ、というあだ名は絶妙である、と霊夢は思った。
なるほど、確かに鈴仙という輩はからかうと楽しいかもしれない。あんな風に、こっちが思った通りの反応をしてくれると、それはもう、何というか色々と。
「髪の毛、荒れているわね。それにお肌も。
体の内側は外側に出るんだから。気をつけるのよ」
「はーい」
「あらあら。えらいえらい」
「やめーい」
とは言いつつも、頭をなでてもらうのが、実は少しだけ嬉しかった。
日記より抜粋
某月某日
どうやら、巫女がアルバイトを始めた模様
「というわけで、紅魔館で雇って欲しいんだけど。お試し期間で一日、二日」
「断る理由はないわ即採用」
「ち、ちょっと待ってくださいお嬢様。何でいきなり速攻ですか」
「何よ咲夜わたしの言うことに文句があるというのないわよねあるわけないわねそれじゃ採用」
「いやだから、息継ぎくらいはしてください、せめて」
「だから霊夢をメイドにするのなら文句はないわむしろそれが望む所よさあ霊夢わたしの身の回りの世話をしてちょうだいもちろんアレやこれやの色んな事までれっつかもん」
「……一応、採用試験するから。ちょっと待ってて」
もはや、色んな意味で正常ではあり得ないお嬢様が、ずるずると咲夜に引っ張って行かれる。紅魔館の応接室に通された霊夢は、ふむ、とうなずいてその後ろ姿を見送った。
彼女がここに来た理由は単純。自分の知り合いの中で、最も、『仕事』というものに関して貪欲に人材を求めているのはここだと理解していたからである。事実、その旨を伝えたら、門番が「ええっ!? 本気ですか!?」と死ぬほど驚いていたことだし。
――それは関係ないのかもしれないが、ともあれ。
「お待たせしたわね」
「レミリアは?」
「よく言って聞かせてきたわ」
「……あ、そ」
何してきたんだろうと思ったが、訊ねるようなことはしなかった。知ってしまえば不幸になりそうな予感がしたからである。
さて、とおもむろに咲夜が霊夢の対面に腰を下ろす。
「また、どんな風の吹き回し?」
「まぁ……別に理由はないんだけどね。強いて言えば、お金が欲しい」
「……ごめんなさい、霊夢。お茶とお菓子を追加するわ」
「何で謝りますかてめぇこのやろう」
「だって……だって……」
ううっ……、とハンカチで目元ぬぐってマジ泣きのメイド長に、色んな意味で怒りをもよおして夢想封印でもぶちまけてやろうかと思ったが、とりあえず、それをぐっとこらえる。一応、今後、自分の上司になるかもしれない相手だからである。
「……こほん。
紅魔館は、確かに人手に関して言えば、文句なく、常に募集しているわ。でも、あなたにここの仕事が務まるとは、とてもじゃないけど思えないの」
「そんなに厳しいの?」
「厳しい……って言うか……。まぁ、論より証拠、とは言うわね。
紅魔館の仕事を見せてあげる。それでも、まだここで働きたいと思ったら、改めて面接をしましょう」
「まぁ……それならそれでありがたいけどさ」
就職したと思ったら、あまりの現実と理想の乖離について行けず、結局、仕事を辞めてしまう人間が増えてきているのだという。慧音が里の方で頭を悩ましていた事実を思いだし、まずは実地訓練からよね、とつぶやく霊夢。
「メイドの仕事は、館の中のありとあらゆる雑多な家事及びお嬢様達のお世話よ」
「それはわかってるわ」
「そう。それなら……」
咲夜が足を止めた。
「まずはこれからね」
「え?」
まっすぐに伸びる、紅魔館名物大回廊。
そこで、じっと立って待っていると、何やら視界の向こうから声が聞こえてくる。
「どいてどいてどいてーっ!」
「お掃除お掃除お掃除よー!」
「はい、あなた達、周回ラップが遅れてるわよ。あと五秒早く」
『イエス・マム!』
とりゃーっ! と叫びながら突っ走っていくメイド達。
「……今の……何?」
「見ての通り、廊下のモップがけよ。あれを一日で終わらせるの」
「……………」
確かに、紅魔館は広い。と言うのも、どこぞの輩がこの空間をねじれさせ、外側と内部の釣り合いを取れなくさせているからなのだが……しかし、それにしたって、今のは……。
「鬼気迫る形相だったんだけど……」
「周回ラップを予定より遅れさせたものは、あとでお説教だから」
なるほど。もうこの段階で、仕事の厳しさには気づけたと言っていいが、まだこのくらいなら覚悟していたことである。次へ案内しなさい、との霊夢の言葉に、咲夜は無言で歩き始めた。
ふと、窓から外を見れば、中庭でメイド達が木々の剪定作業をやっている。見た限り、楽しそうであるが、時折上がる悲鳴と襲いかかってくる謎の植物には気を向けてはいけないのだろう。多分。
「ここが厨房」
大きな扉を開けば。
「五番の料理、出来上がりましたっ!」
「十三番、完成です!」
「八番の料理が遅れてるわ! 担当者、何やってるの!」
「あーっ! 誰よ、このお皿割ったの!? これで、今月に入って六枚目よ!?」
「ぎゃーっ! 買い置きの調味料がもうないーっ!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
これはどこの無間地獄ですか? という視線をメイド長に向ける。
「もうそろそろ、うちのレストランサービスの注文が増えてくる頃なの。あと三十分もしたら、私と美鈴もここに立たないといけないわ」
「……こんなに大変だったのね」
「一日の注文総数、どれくらいあるか、あなた知りたい?」
「……二百くらい?」
「倍以上」
「げっ」
さらりと言ってくれた咲夜に、さすがに驚愕の声を隠しきれない。
確かに、紅魔館の食事は美味しい。吸血鬼の館だというのに、その料理の味はきめ細やかでまろやかで、いつまででも口の中に幸せの残る――そんな味。それなのにお値段据え置きでお手軽と言うことで、霊夢もよく利用していたのだが、まさかその幸せの裏に、こんな地道すぎる努力が隠れていたとは……。
「うちに就職したら、ここでの皿洗いも仕事のうちよ」
あれ、と咲夜が指さしたのは、厨房の一角に積み上がったお皿の山。それを『メイド見習い』という名札をつけたメイド達が必死の形相できれいに磨き上げていく。
「お皿にちょっとでも曇りがあったらやり直し。それがうちの信条よ」
「……吸血鬼の館なのに?」
「聞かないで」
どうやら、色んな意味で痛い腹を探られてしまったらしい。涙を辛うじてこらえたメイド長が、次に行くわよ、と歩いていく。
そして、次に案内されたのは、これまで入ったことのない部屋だった。
ばたん、と開けられた扉の向こうを見て。
霊夢はめまいを覚えて倒れかけた。
「あら霊夢就職の意思は決まったありがとうよかったわそれじゃ一緒に頑張っていきましょうね」
「レミィ! 誰がステージを離れていいと言ったの!」
「あ、ああ、ごめんなさい。パチェ」
装飾たっぷり、フリルたっぷりの可愛らしい衣装に身を包んだレミリアが、喜色満面の笑顔でやってきて、パチュリーに怒鳴られてステージに戻る。そんな不思議な光景が刹那の間に展開した。
ステージの上では、同じような格好をしたフランドールが「まじかる☆ふらんどーるびーむ♪」などとやっている。
「……その……えっと……」
「メイド達の仕事の一つに、舞台の悪人役よ」
その言葉にあわせたかのように、ステージの上に現れるメイド達。何かみんな半裸に近い衣装で、「今日があなた達の年貢の納め時よ、魔法少女達!」なんてことをやってたりする。
「……」
「最初はエキストラから始まって、ちょい役、雑魚、中ボス、大ボス、魔法少女を助ける美人のお姉さんなどなど。階級によって、与えられる役所は違ってくるわ」
「えっと……ねぇ、何でそんなに大まじめに解説してくれるの……?」
「フラン! 何その大根は! 台本はきちんと覚えてきたの!? げほげほっ!」
「うー……だって、字が難しくて読めないんだもーん」
「そんなものは言い訳にはならないわ!
ええいっ、こんなんじゃ練習にならない! 解散よ、解散!」
「パチュリー様、お気を鎮めて。まだこれからですよ」
「黙りなさい、小悪魔! こんな無様なショーをやるために、私は心血を注いできたのではないわ!」
「でしたら、こちらの衣装はいかがでしょう。ゴスロリちっくの中にも妖艶な色気を混ぜてみました」
「……ふむ。これは……」
怒鳴り散らしていたパチュリーが、小悪魔から受け取った服を片手にためつすがめつを始めた。怒りの原因が解消されたというわけではなさそうだが、してみると、彼女、もしかしたら演出家としての才能があるのかもしれない。
「レミィ、こっちの衣装に着替えてみて。あと、フラン。猶予をあげる。三十分だけ、台本の読み合わせをしてきなさい」
「はーい……」
「パチェ、その服、少しフリルが足りないのでない?
この部分のデザインが甘いのだけど」
「大丈夫です、レミリアお嬢様。実はですね、ここのひもを引っ張ると……ほら、隠してあったギミックを使って、ぶわっと」
「これは……なかなか見栄えがするわね」
「いい感じよ、小悪魔。この衣装で、この舞台、うまく飾れそうね……。台本の修正をするわ、少し待ってて」
「……ごめんなさい、私、ここで働くのやめます」
「そうね。あなたでは、魔法少女の舞台に立つのは、あと十年早い」
何かメイドの仕事と関係ないところで断られたような気がするが、それについては気にしないのが一番だろう。
紅魔館の仕事というのは、かくもきついものなのだ。そして、かくも壮絶なものなのである。それを甘く見て、単に、お金が欲しいからと言う理由で働こうとしていた己を恥じなくてはなるまい。
決して、色んな意味で人生を踏み外すのが嫌だから断るのではない。これは名誉ある撤収なのだ。そう、私は間違った判断をしていないのだ。
「ところで咲夜、あなたの衣装は裸エプロンを命じてあったはずだけど」
「それではお嬢様私は霊夢のお見送りをしてきます故」
「そう。残念ね」
「……裸エプロン?」
「よけいなこと言わないで! お嬢様が思い出したらどうするの!」
その気持ち、わからんでもなかった。
だから、黙って、霊夢は踵を返したのだった。色んな意味で、切羽詰まった表情のメイド長には気づかないふりをしたままで。
日記より抜粋
某月某日
博麗神社に収入があった
「あ、紫」
「ごきげんよう、霊夢。そのお金、どうしたの?」
のし袋に入ったそれを片手に、神社の縁側に腰掛けている霊夢に紫は訊ねた。彼女は、んー、と空を見上げた後、
「実はね、麓の村で妖怪が悪さをしていたらしくて。慧音から聞いて、行って退治してきたの。そしたら、村長さんがえらく感謝してくれてね。『少ないですが』って。もらってきちゃった」
「そう」
彼女の隣に腰を下ろし、よかったわね、と微笑みかける。
「これが巫女の仕事だもの。仕事には、ちゃんとした対価があるものでしょ」
「……まぁ、ね。確かに」
けどさ、と彼女は頬をかく。
「もらえない、って断ったんだけどね」
「あら、どうして?」
「ん~……こういう仕事はさ、私にとっちゃ、一種のライフワークだし。それに報酬をもらうのは間違ってるわよ」
「言葉が矛盾しているけれど、そう言う考え方、嫌いではないわ」
「だから、神社に納められた浄財だと考えておくことにしたの」
「そう」
疲れた疲れた、と霊夢は大きく伸びをする。
夕べは夜遅くまで、村の見張りをしていたからである。妖怪を退治したとはいえ、また何かの二次災害が待っていないとも限らない。一つの原因を排除するだけでは、世の中、完璧ではないのだ。だから、霊夢はそれを完全な意味で確認するために、あえて一日、徹夜をしたのである。
「ふぁ~……眠たいな~……」
「寝たらどう? 眠たい時に寝るのに限らず、お腹が空いたらご飯を食べるものだし、疲れた時は体を休めるもの。そういうものよ」
「ん……そうだね」
「色々大変だったみたいだけど?」
「べっつにー。
ただ、まぁ……」
よいしょ、と紫の膝に頭を預けて。
「巫女やってて楽しいわ」
「そう」
「それじゃ、お休み。晩ご飯の時間になったら起こしてよ」
「ええ、お休みなさい」
軽く、彼女の頭をなでて。
目を閉じると同時に、すぐに霊夢は寝息を立て始める。よほど疲れていたのだろう。
「紫様」
「藍、静かに」
「はい」
「この子が寝ている間に、神社のお掃除、やっておいてあげて。あと、どうせ空っぽだろうから、食料を」
「本当に、紫様は」
「何? 何が言いたいのかしら」
「いいえ、何でも。
それじゃ、仰せのままに」
背中に背負ったかごを背負い直し、そっと忍び足で、藍が神社の中へと入っていった。それを見送って、もう、と紫は肩をすくめる。
「寝ている時はかわいいのにね」
小さな寝息を立てている彼女の艶やかな髪に、そっと指を絡める。いいこいいこ、と頭をなでてやると、小さく、霊夢が口を動かした。何を言ったのかは聞き取ることが出来なかったが、きっと、何かいい事でも思い出しているのだろう。
「本当に、苦労ばっかりかけるんだから」
だから、私も休まないとね。
彼女を抱いたまま、空を見上げれば。
いつもと変わらぬ幻想郷の空だった。
日記より抜粋
某月某日
お母さん、だって。
てかゆかれいむいいよゆかれいむ
……紅い館の内部事情は、見なかったことに。
でもこの分量なら向こうの方でもいいような?
何はともあれゆかれいむ
ともあれみんなのいじめられっこに賛同。
あとゆかれいむばんじゃい。