Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ふかふか求めてまっしぐら

2006/07/17 21:58:27
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 何処まで行っても高い空。

 青くて遠い夏の空。

 爽やかな風に身を任せ、静かに雲が流れてく。


 大きな瞳に映る空。

 夢と憧れ映す空。

 静かな縁側、見上げる瞳。

 我慢出来ずに飛び出した。

 主の主を放っといて、家の留守番放り出し、夏の空へと舞い上がる。




 隙間妖怪の式の式、ふかふかするもの大好物。

 主の尻尾が一番だけど、今日は生憎御出勤。

 結界修理はまだ早く、連れて行っては貰えない。

 主の主のお布団は、ひと冬過ごせるふかふかだけど、油断大敵御用心。


 一度手を出しゃ眠気に襲われ、

 二度も手を出しゃ隙間が襲う、

 三度手を出しゃ悲劇が見舞う、

 とってもとっても危険な布団。


 ふかふか大好き式の式。

 そんな環境も手伝って、ふかふかするもの見逃さない。

 今日も今日とて夏の空、見付けたふかふかまっしぐら。


「おやびっくり」


 騒霊姉妹のお姉さん。

 目の前過ぎてく黒猫に、驚きぱちくり瞬いた。

 風より早く飛んでいく、姿はまさに飛翔韋駄天。


「上昇気流?」


 真ん中の白いお姉さん、駆け抜ける風に目を遣って、いつぞやの巫女を思い出す。


「今のは違うわ、黒いから」


「それじゃあリリカのお友達?」


 紅白じゃない黒い風。

 白玉楼のお嬢様、桜の花びら散らすから、困ったものねと言っていた。


「それも違うわね。尻尾があったから、猫じゃない?」


「猫も飛んでく上昇気流ね~」


 飛ぶ鳥追い抜く上昇気流。

 風より早い式の式。

 風より早くなかったら、あのふかふかに追い付けない。



 もふっ。



 飛んで追い付き抱きしめた。

 目当てのふかふか捕まえた。

 顔もほころぶ式の式、ごろごろごろごろ喉鳴らす。

 ぴかぴか雷瞬くけれど、それよりふかふか嬉しくて。


 やっと捕まえたふかふかは、日なたに干した布団みたい。

 ぽかぽかぽかぽか暖かい、布団でこたつを思い出す。

 それから後はまっしぐら。

 眠りの世界へまっしぐら。

 爽やかぽかぽか夏の空、ぐっすりお昼寝式の式。




「ん~……」


 日も傾いたマヨイガで、お家の主が目を覚ます。

 眠るの大好き紫様、起きているのは夜ばかり。

 それでも起きればみんなと一緒、家族と一緒の晩御飯。


「ん~……?」


 だけれど今宵は何か変。

 美味しい料理の香りもなくて。

 準備にぱたぱた駆け回る、みんなの声も聞こえない。


「ちょっと探してみましょうか」


 開いた隙間を覗き込み、屋敷の中を見て回る。

 留守番は一人いたはずだけど、何処にもいないよ式の式。


「仕方のない子ねぇ」


 床からいそいそ這い出して、隙間を開くよ紫様。

 隙間の向こうは空の上。

 雲より高く日も落ちた、ちょっと寒いよ夏の空。

 隙間を抜けた向こう側、ふかふかの雲で丸くなり、寝息を立ててる式の式。


「……ふふ」


 小さく幼い式の式。

 可愛い寝顔を見ていたら、顔もほころぶ紫様。

 寝る子は育つよ猫寝る子。

 大きくなあれと呟いて、可愛い寝顔を見つめてた、優しい優しい紫様。




 すっかりとっぷり日も暮れて、夜空に星がきらきらり。

 今日も一日頑張った、天狐が空を駆けていく。

 家事に弾幕、介護にしつけ。

 何でもござれのその狐。

 ふかふか九尾が御自慢の、狐の名前は八雲藍。

 家族が待ってるマヨイガへ、星空の下を駆けていく。


「……ん?」


 気付いた天狐は方向転換。

 何処か近くの雲の影、主の気配に気が付いた。

 ずっと一緒の紫様。

 大事な大事な御主人様。

 流れる雲のその近く、開いた隙間がその証拠。


「あら、藍じゃない。ご苦労様」


 隙間の中からこんばんは。


「お目覚めですか、紫様」


「ええもうスッキリ」


 にっこり微笑む紫様。

 二度寝三度寝大好きだけど、今は眠くはないみたい。


「こんな所で、どうしたんですか?」


「困ってたのよ」


 聞かれて隙間が矢印作る。

 つられてそちらを見てみれば、雲の布団にくるまって、すやすや眠るよ式の式。


「寝顔が可愛いから、起こせなくて」


「……ま、まぁ。それは同感ですが」


 白いふかふか入道雲は、風に吹かれて流れてく。

 優しいそよ風向かう先、マヨイガと違う方向で。


「ちょっぴり持って帰りましょうか。藍、お願いね」


「畏まりました」


 適度に雲をちぎり取り、橙ごと抱えた九尾の狐。

 雲を受け取る紫様。ぎゅっと抱きしめご満悦。


「ふかふかねぇ」


「ふかふかですか」


 ちょっと複雑九尾の狐。

 決して顔には出さないけれど、御主人様はお見通し。


「でも、藍の尻尾の方がふかふかよ♪」


 黙ってぺこりと頭を下げた、真面目なふかふか八雲藍。

 大きく開いた隙間の向こう。

 何時も見慣れた流し台。


「橙は私が見てるから、御飯の支度をお願いね」


「はい、少々お待ち下さい」


 優しい主の腕の中、小さな雲にくるまって、すやすや眠るよ式の式。

 寝顔を見ていた八雲藍、名残惜しくは思いつつ、隙間を抜けて厨房へ。

 隙間が閉じた夜空には、ちょっぴり欠けた雲ひとつ。




 ふかふか求める式の式。

 主の尻尾が一番だけど、

 見付ければすぐにまっしぐら。
 そんなふかふかな雲を見た、会社帰りの夏の空。
鈴風 鴻
コメント



1.煌庫削除
何やら和ませてもらいました。ふかふか
2.跳ね狐削除
もうそんな季節ですね~。子供心に雲は触ったらどうなんだろう、とか考えてましたよ。そうか、幻想郷なら触れるんだ。