何処まで行っても高い空。
青くて遠い夏の空。
爽やかな風に身を任せ、静かに雲が流れてく。
大きな瞳に映る空。
夢と憧れ映す空。
静かな縁側、見上げる瞳。
我慢出来ずに飛び出した。
主の主を放っといて、家の留守番放り出し、夏の空へと舞い上がる。
隙間妖怪の式の式、ふかふかするもの大好物。
主の尻尾が一番だけど、今日は生憎御出勤。
結界修理はまだ早く、連れて行っては貰えない。
主の主のお布団は、ひと冬過ごせるふかふかだけど、油断大敵御用心。
一度手を出しゃ眠気に襲われ、
二度も手を出しゃ隙間が襲う、
三度手を出しゃ悲劇が見舞う、
とってもとっても危険な布団。
ふかふか大好き式の式。
そんな環境も手伝って、ふかふかするもの見逃さない。
今日も今日とて夏の空、見付けたふかふかまっしぐら。
「おやびっくり」
騒霊姉妹のお姉さん。
目の前過ぎてく黒猫に、驚きぱちくり瞬いた。
風より早く飛んでいく、姿はまさに飛翔韋駄天。
「上昇気流?」
真ん中の白いお姉さん、駆け抜ける風に目を遣って、いつぞやの巫女を思い出す。
「今のは違うわ、黒いから」
「それじゃあリリカのお友達?」
紅白じゃない黒い風。
白玉楼のお嬢様、桜の花びら散らすから、困ったものねと言っていた。
「それも違うわね。尻尾があったから、猫じゃない?」
「猫も飛んでく上昇気流ね~」
飛ぶ鳥追い抜く上昇気流。
風より早い式の式。
風より早くなかったら、あのふかふかに追い付けない。
もふっ。
飛んで追い付き抱きしめた。
目当てのふかふか捕まえた。
顔もほころぶ式の式、ごろごろごろごろ喉鳴らす。
ぴかぴか雷瞬くけれど、それよりふかふか嬉しくて。
やっと捕まえたふかふかは、日なたに干した布団みたい。
ぽかぽかぽかぽか暖かい、布団でこたつを思い出す。
それから後はまっしぐら。
眠りの世界へまっしぐら。
爽やかぽかぽか夏の空、ぐっすりお昼寝式の式。
「ん~……」
日も傾いたマヨイガで、お家の主が目を覚ます。
眠るの大好き紫様、起きているのは夜ばかり。
それでも起きればみんなと一緒、家族と一緒の晩御飯。
「ん~……?」
だけれど今宵は何か変。
美味しい料理の香りもなくて。
準備にぱたぱた駆け回る、みんなの声も聞こえない。
「ちょっと探してみましょうか」
開いた隙間を覗き込み、屋敷の中を見て回る。
留守番は一人いたはずだけど、何処にもいないよ式の式。
「仕方のない子ねぇ」
床からいそいそ這い出して、隙間を開くよ紫様。
隙間の向こうは空の上。
雲より高く日も落ちた、ちょっと寒いよ夏の空。
隙間を抜けた向こう側、ふかふかの雲で丸くなり、寝息を立ててる式の式。
「……ふふ」
小さく幼い式の式。
可愛い寝顔を見ていたら、顔もほころぶ紫様。
寝る子は育つよ猫寝る子。
大きくなあれと呟いて、可愛い寝顔を見つめてた、優しい優しい紫様。
すっかりとっぷり日も暮れて、夜空に星がきらきらり。
今日も一日頑張った、天狐が空を駆けていく。
家事に弾幕、介護にしつけ。
何でもござれのその狐。
ふかふか九尾が御自慢の、狐の名前は八雲藍。
家族が待ってるマヨイガへ、星空の下を駆けていく。
「……ん?」
気付いた天狐は方向転換。
何処か近くの雲の影、主の気配に気が付いた。
ずっと一緒の紫様。
大事な大事な御主人様。
流れる雲のその近く、開いた隙間がその証拠。
「あら、藍じゃない。ご苦労様」
隙間の中からこんばんは。
「お目覚めですか、紫様」
「ええもうスッキリ」
にっこり微笑む紫様。
二度寝三度寝大好きだけど、今は眠くはないみたい。
「こんな所で、どうしたんですか?」
「困ってたのよ」
聞かれて隙間が矢印作る。
つられてそちらを見てみれば、雲の布団にくるまって、すやすや眠るよ式の式。
「寝顔が可愛いから、起こせなくて」
「……ま、まぁ。それは同感ですが」
白いふかふか入道雲は、風に吹かれて流れてく。
優しいそよ風向かう先、マヨイガと違う方向で。
「ちょっぴり持って帰りましょうか。藍、お願いね」
「畏まりました」
適度に雲をちぎり取り、橙ごと抱えた九尾の狐。
雲を受け取る紫様。ぎゅっと抱きしめご満悦。
「ふかふかねぇ」
「ふかふかですか」
ちょっと複雑九尾の狐。
決して顔には出さないけれど、御主人様はお見通し。
「でも、藍の尻尾の方がふかふかよ♪」
黙ってぺこりと頭を下げた、真面目なふかふか八雲藍。
大きく開いた隙間の向こう。
何時も見慣れた流し台。
「橙は私が見てるから、御飯の支度をお願いね」
「はい、少々お待ち下さい」
優しい主の腕の中、小さな雲にくるまって、すやすや眠るよ式の式。
寝顔を見ていた八雲藍、名残惜しくは思いつつ、隙間を抜けて厨房へ。
隙間が閉じた夜空には、ちょっぴり欠けた雲ひとつ。
ふかふか求める式の式。
主の尻尾が一番だけど、
見付ければすぐにまっしぐら。