むかーし昔あるところに、一匹のウドンゲとそのお師匠様がいました。 ウドンゲは大層気立てのいい、優しい兎で、皆からはそれをいいことにからかわれたり、手酷くかわいがられたりして毎日を過ごしておったそうな。
ある時、ウドンゲが夕食の準備をすっかり終えて、お師匠様を呼びに部屋の前まで歩いていった時のこと。 部屋の前で立ち止まったウドンゲは、何やら部屋の中からうんうんとうなる声を聞いたのでした。 それは大層苦しそうな声でありました。
お師匠様が薬を爆発させてしまって、どこか怪我でもしてしまったんじゃないだろうか。という嫌な考えがウドンゲの頭の中をよぎります。 慌てたウドンゲは血相を変えて部屋の中へと飛び込みました。
「師匠!! お怪我はっ!? 何がありまし……」
そして変な顔をしました。
部屋の中では、お師匠様がうんうんうなりながら逆立ちをしていました。 お師匠様の目とウドンゲの目とが合います。
「あらウドンゲ」
「あらウドンゲ。 ……じゃないですよ師匠! 何やってるんですか?」
気立てのいいウドンゲは、その逆立ちにも何か意味があるのかと思い、あからさまに呆れることも無くお師匠様に尋ねました。 お師匠様も逆立ちをしたまま答えてくれます。
「ウドンゲ。 世の中には視点を変えて見ないといけない物があるの」
「はあ」
「常に新しい視点を求めるその姿勢も大事だけれど、行為自体も大事なの」
「それはその逆立ちのことですか?」
「その問いを肯定してしまうのは簡単なことだけれど、物事を完結したと認めてしまった時点で思考体の進歩は止まるわ。 だから肯定するのはいけないこと」
「はあ」
「視点を変えて物事を見ないといけない物。 それは物質の個数の何億倍も何京倍も何極倍も何那由他倍もそれこそ無量大数ほどあるわ」
「イメージしにくいです」
「本当、それだけ多くの物事を理解していくには命が幾つあっても足りないわ。 生命バンクとかあったらいいのにね」
「それ以前に死なないじゃないですか。 それと、夕御飯できましたよ」
夕御飯という言葉を聞くと、師匠はわーいと嬉しそうにウドンゲに飛びつきました。
その夕食の御膳の中にカエルが入っていてウドンゲが昏倒した後、悪戯兎と追いかけっこをするのはまた別のお話し。
レイセン情けなくて涙が出て……あれ?