―メリークリスマス―
大きな看板にカラフルに彩られた文字。
紅魔館ではクリスマスパーティーの真最中だった。
「悪魔が聖夜を祝うってどうなんだ?」
「別に良いんじゃない? ご馳走あるし」
「確かに、巫女がクリスマスパーティーに来てるしな」
「悪い? それに紫の話だと外の世界でも最近は違うらしいわよ」
「そうなのか?」
「なんでも聖なる夜は性なる夜ともいって、
『ほてる』っていう宿泊施設が男女の営みで揺れて見えるとか…」
「キリスト泣くぞ」
「そういえば早苗も『クリスマスなんて都市伝説ですよ』とか呟いていたけれど、
何のことかしらね?」
「知らん」
「何かトラブルでも起こってくれませんかね?」
「ちょっとーあや~」
「はたて?うわっ、酒くさ! あなた潜入取材に来て何を飲んでるんです?」
「なんでわたしのしんぶんはあんたより売れないのよ~」
「自分で考えてくださいよ、っていうか思いっきり酔ってる!」
「悔しいからあやも飲めー」
「だから取材…」
「飲まないなら脱ぐ!」
「やめて下さい! 取材先で同僚の公開ストリップをスクープするなんてごめんですよ!」
「じゃあ飲めー!」
「ちょっと落ち着いて…椛手伝ってくだ…いない?
何ですこのメモ…『お肉いっぱい食べたので 帰ります・椛』って、犬ー!」
「橙ちゃん、こっちのお魚美味しいですよ」
「あ、本当、美味しそうですね? 星さん」
「鶏も美味しそうだねー。でもあたいさとり様に、
鶏は骨がお腹に刺さるからお肉だけ食べるように言われてるんだよ」
「あー私もです。昔、鶏を一羽丸呑みしたとき大変でしたね。あれ以来よく噛む様にしています」
「そういえばこの前、お寺に来る方から、マタタビの実の奈良漬けを頂いたのですが、
私、それで酔っ払ってしまいまして聖に迷惑を掛けてしまったんです」
「あー、マタタビはやばいよー暫く前後不覚」
「わたしも山に生えてたマタタビの木の下で寝ちゃってました」
三匹の尻尾が仲良く揺れていた。
藍・さとり・聖
「聖さんの所の星さんは立派ですね?頼りがいもありそうで」
「いえいえ、あれでもそそっかしい所があるんですよ。
それより藍さんの所の橙ちゃんはとても 可愛らしいですね?」
「いえ、まだまだですよ。もっと覚えないといけない事があるのにすぐ遊びに行ってしまって」
『などと言いながら、心では「うちの子が一番」ですか…まさに親馬鹿ですね。
まあ、一番はうちの燐に決まっていますけどね』
「パーティーも盛り上がっているわね」
会場の上座に席を取っているレミリアは赤に白のファーがついた、
サンタクロースをイメージさせるドレスを着てまわりを眺めた。
「一部カオスですが概ね盛況です」
そう言いながら咲夜は飲み物を差し出した。
「ありがとう。その…所で咲夜…め…な、何でもないわ」
「美鈴ならもうじき交代でパーティーに参加します」
「き、聞いてないわよ!」
「ではそういう事にしておきます」
「うぐぐ」
「では失礼します」
瀟洒な従者はトランプを数枚残し消えた。
「最近弄られてない?私」
咲夜から受け取った飲み物を口にしながら、周りを見ると目当ての妖怪が見えた。
会場内の知り合いに声をかけられては、右に左にとウロウロしている。
ふと、視線がレミリアに向いた。
美鈴の顔がいつもの大型犬を思わせる笑顔になる。
そして人をよけながら真っ直ぐにレミリアの元へやってきた。
「美鈴、門番ご苦労様」
「いいえ。あっ、お嬢様、今日は一段と可愛らしいですね」
「えっ、そう?」
「ええ、ドレスが、ぐふっ! じょ、冗談です…」
レミリアから腹パンを貰った。
「そんな使い古したネタは使わなくていい」
「すいません。でも今日のお嬢様は本当に可愛らしいですよ? プレゼントに欲しいくらいです」
「プ、プレゼントって私を?」
伝説の『プレゼントはわ・た・し』が脳裏に浮かんでしまった。
「えっ、あ、その冗談です」
「そ、そうよね…」
「半分は…」
「ふえ?!」
「「////」」
「お、お嬢様!外に出ませんか?」
「え、そうね、何だか暑いし」
庭園に出ると、浅く積もった雪には既に美鈴のものと思われる足跡があり、
こんな雪でも庭の手入れをしているのが伺われた。
先を行く美鈴の新しい足跡にレミリアは自分の右足を入れてみるとそれはずっと大きい。
そして次の足跡に左足を入れる。
かなり無理をして伸ばさないと届かない。
(そういえば、美鈴は歩くときの歩幅が大きかったわね)
そんな事を考えていた為、無理に開いた歩幅でバランスを取ることをうっかり忘れてしまった。
「きゃあ!」
「わっ、お嬢様!」
前方に倒れるのを咄嗟に美鈴に抱きとめられた。
「はー」
「大丈夫ですか?」
「平気よ、だから降ろしてくれる」
倒れたレミリアを抱きとめ、そのまま勢いで抱き上げてしまっていた。
「いいじゃないですか、また転ぶと何ですからこのまま運びますよ」
「子供じゃなんだから」
「知ってますよ、私と同じ位じゃないですか」
「飛べるし」
「知ってますって、私がお嬢様をこうしていきたいんです、駄目ですか?」
「うっ、…わかったわよ」
この『大型犬が主人を上目遣いで見つめておねだり』に敗北した。
レミリアを腕に抱き、美鈴は雪の積もった庭園を進んでいく。
「寒くないですか?」
「大丈夫よ」
「冬で、しかも雪となると花は見えないわね」
「そうですね。 でもこちらを見てください」
バラを植えている一角へ進むと其処には鮮やかな紅色が花開いていた。
「あっ、それ」
「はい、今日咲いたんですよ」
美鈴が冬に咲かせるために手を掛けていたバラだ。
「美鈴が、好きな人に渡したいっていうバラ」
「はい」
「それを私にくれるのよね?」
「はい、勿論です」
「家族や友人への好きじゃないのよね」
「その好きはちゃんとありますが、この好きとは違いますね」
「じゃあ、それを今、行動で証明できる?」
「行動ですか?」
「そうよ、バラを渡す以外の行動で」
バラ以外の方法など考えていない。
「お嬢様、それ…は…!?」
至近距離にレミリアの顔がある。
抱きかかえているので、下から覗く形になるが、問題はそこではなかった。
その顔は赤く、こちらを向いているのに視線だけは合わせない。
意地を張っているようで、何かを期待しているような表情。
この状況で行動で証明するもの、さすがの美鈴もそれに思い至った。
その瞬間美鈴の顔も一気に赤くなった。
「あー、えっと///」
「……」
突然だったので心の準備が整っていなかった。
だが、したくないのか?と聞かれたら、当然したい!
心臓は煩いくらいで、喉が渇く。上昇した体温で背中に汗が伝うのがわかる。
(このままでは駄目だ)
取りあえず、目を閉じ、武術で身につけた呼吸法で息を整え、精神を落ち着かせる。
ゆっくり目を開けるとそこにレミリアの顔。だが今度は大丈夫。
落ち着くのに時間をかけたので、少し不安げになったレミリアを愛しいとおもう感情だけがある。
「お嬢様」
「…」
顔を上げたレミリアと目が合った。
「誰よりもお慕い申し上げておりますよ」
「あ、うん」
「お嬢様?」
催促するようにレミリアの顔を覗き込む。
「わ、私も…美鈴の事、す…好きよ」
「それは家族や友人への好きじゃないですよね」
「当たり前よ」
「じゃあ、それを今、行動で証明しないといけませんね」
先程の会話が逆になった。
「お嬢様、キスしてもいいですか?」
「いいわよ、ゆ、許してあげる」
「ありがとうございます」
そう言って、レミリアの唇に触れるだけのキスをした。
「///」
キスの後、レミリアは耳まで真っ赤にして、美鈴の肩に顔を埋めてしまった。
クリスマスの夜に庭園で、しかも抱きかかえられたままで初キスという、
あまりに恥ずかしいシチュエーションだ。
美鈴は美鈴で、今頃のなって自分の言動が恥ずかしくなり、顔を赤くしていた。
お互い無言なのも恥ずかしさが増すばかりなので、美鈴は何か話題を振ることにした。
「お嬢様、咲いたバラは自室に飾りましょうか?」
レミリアは部屋には花を生けさすのが好きなので、
このバラもレミリアの目を楽しませることが出来たらいいだろうと思ったのだが。
「飾らなくていいわ」
「えっ、どうしてですか?」
「……そのバラが部屋にあったら、さっきの事思い出して恥ずかしくて死ぬ」
「そ、そうですね/// あれ?そうしたら庭園で仕事をするとき私が思い出してしまうんですが?」
「あなたはいいのよ」
「ひどっ!」
「ふん」
「これを見て思い出したらまたしたくなるかもしれませんね。
その時はお嬢様の所に行くので、キスさせてくださいね?」
「なっ!」
「お願いしますね?」
「あう///」
「じゃあ、そろそろ中に入りましょうか?」
「美鈴」
「何ですか?」
「来年も冬バラを育てなさいよ」
「もちろんです。そしてまたクリスマスの夜に見に来ましょう」
「か、考えておくわ」
「楽しみです」
「考えてあげるだけよ!」
「わかってまーす」
MerryChristmas
それでちっさい方も楽しみにしています。
良いめーレミでした
うぎぎぎぎ
あと、気になった点をひとつ、三匹の尻尾って、ちぇん・二本、星さん・0本、燐・一本って事? 三本?
美鈴はバラを見て思い出す度に庭先で転がってるといいです
このカップリングはもっと流行るべき!
因みに、紅魔館で美鈴争奪戦を見たいと思ったのはここだけの話(マテ