Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ひみつ

2010/12/23 04:39:02
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 夏が過ぎ去ったあたりからだろうか。鬱陶しいほどしょっちゅう見かけていた文の姿を、全く見かけなくなった。
 別に心配しているわけじゃあない、うん。ただ、妙な違和感があるだけ。
 秋の宵に、紅葉を肴に宴会が開かれる、騒がしい日々。だけど、秋ももう終わりに近い。どこぞの神様は、秋の終わりを嘆いてそうな気がする。
 鬼も妖怪も人間も神様も、みんな種族関係なしにぎゃあぎゃあと喧しい。そんな中、いつもなら鬱陶しい天狗の姿が見える筈なのに、もう長いこと見ていない。最後に見たのは、一ヶ月前か二ヶ月前か。とにかく、夏の終わり以降見ていないのは確かだ。

「おーい、霊夢! ん? なんだ、全然飲んでないじゃないか。気分でも悪いのか?」

 気が付くと、いつの間にやら魔理沙が近くに来ていた。さっきまでは、萃香たちの輪の中に居たのに。片手には日本酒の入ったコップ。既に顔は赤く、酔っているみたいだ。絡まれると、面倒そうだ。

「べっつにー。ただ、なんかねぇ……酔える気がしないのよ」
「なんだよー飲めよーノリ悪いぞー」
「あーうっさいわねぇ」

 魔理沙のコップを奪う。「あっ」と声を上げる魔理沙を無視して、一気に飲み干した。喉と胃が、一気にかぁっと熱くなる。ただの日本酒かと思ったら……どんだけ強い酒飲んでるのよ、こいつ。
 思わず、目に涙が溜まってしまう。
 キッと睨むと、あははと笑われた。くそぅ、殴ってやりたい。周りのぎゃあぎゃあ騒ぐ声が、やけに頭に響く。

「あんた、なんてもん、飲ませんのよ……」
「いや、私は止めようとしたが。霊夢が勝手に私の奪って飲んだんだろ」

 うぐぅ、正論だ。
 あーもう、なんかぐるぐるする。

「あー……霊夢、今日は酔えないんじゃなかったのか?」
「っ、うっさいわね。大体なんで魔理沙、こんな強い酒持ってるのよ」
「あーこれな。数日前に文に貰ったんだよ。天狗の酒だから、そりゃあ強いかもな」
「え? あんた文に会ったの?」
「ん? そりゃあ会うだろ。宴会に誘いに行ったからな。来れない代わりにって、酒だけくれたんだよ」

 やっぱり何か事情があるのだろうか。
 普段なら喜んで乗るはずの、魔理沙からの宴会の誘いを断る上に、お酒まで渡してくるなんて。

「文がどうかしたのか?」
「ん、別に。元気そうだった?」
「……めっずらしー。お前が他人を気にするなんて」
「気にしてるわけじゃないわよ。ただ、最近見かけないからどうしたのかなって思っただけで」
「それを気にしてるって言うんじゃないか」
「ぐ……」

 にやぁっと、紫みたいに嫌な笑みを浮かべる魔理沙。何か新しい玩具でも見つけたような、そんな感じだ。
 あぁ、厄介。本当、酔った魔理沙に絡まれるなんて、かなり面倒なことにしかならないような。巫女の勘がそう告げている。いや、巫女の勘を除いても、今までの長い付き合いだ。それくらいは分かる。
 横に腰掛けてきた。正直、今すぐにでもこの場を去りたい衝動に駆られているけど、さっきのお酒のせいでまだ思うように動ける気はしない。

「いやーまさかねぇ、霊夢があの鴉を心配ねぇ」
「何よ? 何が言いたいのよ?」
「んー? 言っても良いのか? 言っちゃって良いのか?」
「魔理沙」
「なんだ?」
「酔いすぎね。酔いを醒ましてあげるから、歯ぁ食いしばれ」
「……え、ちょ!?」

 騒がしい宴会の中に混じって、悲鳴が一つ。なんだなんだとこっちに注目する者も居れば、気にしないで酒を飲み明かしてるアルコール中毒者も居る。
 数分後、目の前にはボロボロになった魔理沙。
 わははー私をからかうなんて百年早い。

「お前なぁ……もうちょっと手加減をしろよ。酒の席によくある、ほんのジョークじゃないか」
「残念、巫女はジョークがあまり好きじゃないのよ」
「くそぅ、文のせいで霊夢が不機嫌だ。今度文に会ったら、文句言ってやる」
「別に不機嫌でもなければ、文は何一つ関係ないわよ」
「素直に言えば良いのに。寂しいよー文に会いたいわーうわーんって」
「魔理沙、私最近針治療覚えたのよ。してあげるから腰出しなさい」
「回し蹴りされる光景が頭に浮かんだから、遠慮しておくぜ」

 回し蹴りじゃなくて、本当に針刺してあげようと思ったんだけど。千本くらい。猫みたいに警戒されて、流石に攻撃が出来なかった。
 はぁ、とため息一つ。

「そんなテンション上がらないなら、意地張ってないで会いに行けば良いじゃないか。姿見てないから心配なんだろ?」
「別に意地張ってるわけじゃあ……」

 確かに、ほんのちょっぴりだけど、文のことを心配していたのは認めよう。
 けど、魔理沙がもう会ったのなら、元気ということだろう。そう、何も心配することはない。どうせしばらくすれば、またひょこっとやってくるだろう。

「それにほら、お前が不機嫌な顔してると、周りのやつらが怯えるから」
「どういう意味よ?」
「さっさと行けって意味だよ」
「何よ、その邪魔みたいな言い方」
「あーそうだな。邪魔だ邪魔だーさっさと行ってこーい!」
「あーもう、これだから酔っ払いは嫌なのよ!」
「うっせ! 私が気を使ってやってるんだから、さっさと行って来いって! なんなら理由考えてやろうか? そうだな、私があいつの家に忘れ物したっぽいとか、そんなんで良いだろ」
「なんであんたの忘れ物を私が取りに行かなきゃならないのよ! 不自然でしょうが!」
「じゃあもう素直に行けよ! 私、文のこと心配すぎて夜も寝ないで昼寝しかしてないんだから、って涙目で言って抱きつけば良いだろう!」

 あぁもう、魔理沙が騒ぐせいでギャラリーが集まってきた。くそう、この酔っ払いめ。
 もう普通にこの場を去りたい気分だ。

「ほーら行け行け。どっちにしろここに残っても、なんで騒いでたのか訊かれるだけだぞ」
「あーもう、あんたのせいで最悪っ!」
「あはは、文句なら後でいくらでも受け付けてやるから、さっさと行って来い」

 笑う魔理沙をやっぱり殴りたいけれど、今はここを去った方が良さそうだ。いやいやいや、決して文のところへ向かうためとかではない。
 ここに居たら、萃香やら紫やら鬱陶しいやつらにニヤニヤした笑みで絡まれそうだから、退散するだけだ。
 ふわっと空を飛ぶ。

「ここ、っていうかこの状況は、あんたに任せるからね」
「おーおー任せろ。行って来いー!」

 魔理沙なら、まぁなんとか話を変えたりしてくれるだろう。
 次第に小さくなっていく博麗神社を背に、もう暗くなりつつある空を飛ぶ。あぁ、妖怪の山に着く頃には、完全に夜になってそうだ。
 獣型の低級妖怪に遭遇しそうだけど、まぁ負ける気はないしいっか。

「うぅ、冷える……」

 あー防寒着の一つでも、持ってくれば良かった。





◇◇◇





「文の家って何処よ」

 妖怪の山に来たは良いが、よくよく考えてみたら文の家を知らなかった。そもそも、いつもあいつから勝手にやって来て、私の方からあいつのところへ行ったことは無かった。
 あー……どうしようか。もう完全に夜だ。星は出てるけど、視界はそんなによろしくない。

「見張り番をしていたら、こんな時間に妖怪じゃなくて人間……一体何の用だ?」
「ん? あんたは……」

 鋭い眼光に、大きな剣と盾。そして頭には、天狗たちが被っている独特の帽子。
 なんか何処かで見たことあるような。

「あんた誰だっけ?」
「犬走椛だ。お前は博麗霊夢だな。一体何の用だ? まさか異変が!? もし異変なら、大天狗様や天魔様にご報告しに――」
「あぁ別にそんな大事じゃないってば!」

 なんて気が早い子だ。
 慌てて止める。なんてことない気分で来ただけなのに、そんな山全部を巻き込む大事になっても困る。
 あ、そうだ。この子も立場が違うとはいえ、文と同じ天狗だ。もしかしたら、文の家の場所を知っているかもしれない。

「では一体何でわざわざ?」
「あーなんていうかさ、文の家の場所知らない?」
「文さんに用事ですか? あの人は今、なんというか……」
「ん? 居ないの?」
「いや、居るのは居るけど……あー案内しようか?」
「そう。じゃあ、お言葉に甘えようかしら」

 苦笑いを浮かべている椛の後を、着いて行く。
 なんだろう。文は普通の状況ではないということだろうか。うーん、まぁ会ってみれば分かるか。

「あのさ、文さん多分相当やばいかもしれないから、あんまり刺激しないようにね」
「え? そんなヤバイの? 体調不良?」
「体調は……うん、下手したら崩してるかも。っとと、そろそろ着くよ。この道を真っすぐ行けば、文さんの家だ」
「あれ? 最後まで案内してくれないの?」
「あ、あはは。正直、今のあの人に関わりたくはないよ。それじゃね」
「あ! ちょっと!」

 どういう意味よ、と問う前に、椛は今来た道を走って戻って行った。意外に速くて、少し驚く。私よりも速いんじゃないだろうか。
 まぁ行ってしまったものは仕方ない。椛は見張りの仕事をしていたわけだし、持ち場に戻らなきゃ行けないってこともあったのだろう。
 ここまで案内してもらえれば、もう大丈夫だ。

「えーと……あれかな?」

 椛の言っていた通り、真っすぐ進むと数分もかからずに一つの家が見つかった。意外にも、木製の普通っぽい家。特別大きいわけでもないが、小さいってわけでもない。
 明かりが付いていないように見えるが、もしかして寝てるのだろうか。

「とりあえず、ノックよね。文、居るー?」

 コンコン。ベタに軽く二回のノック。
 返事はない。
 コンコン。
 一応、もう一度ノック。

「……なーんーでーすーかー?」
「っ!」

 文らしくない、間延びした声で返ってきた。
 少し、びっくりだ。
 そ、そういえば結局会いに来た理由を考えてなかった。えーと、えーと……どうしようか。

「なんですかー? 結局何の用なんですかー? 誰だか知りませんけど、冷やかしなら帰ってくださいー」
「あーいや、なんていうか……そうそう! お礼を言いに来たのよ。お酒貰ったお礼を」
「んー? 魔理沙さんですかー?」
「私よ」
「だーれーでーすーかー?」
「扉開けていいの?」
「いいですよー勝手に入って来て下さいー」

 鍵はかかってないようで、普通に入ることが出来た。
 室内は真っ暗で、何処に文が居るのか分からない。というか、足元もよく見えなくて、少し慎重になる。

「ちょっと、何処よ?」
「こっちですー」
「明かりつけなさいよ。何も見えやしないわ」

 そう言うと、急に室内が明るくなった。
 室内は思わず顔をしかめてしまうほどにぐちゃぐちゃで、そこらに私には何を意味するのか分からなそうなことが書かれた紙が散っている。
 そして目の前には、ぼうっと突っ立っている文。後ろ姿なせいで、どんな表情をしているかは分からない。けど、まったく動かない。もしかしてあの見張りわんこが言ってた通り、本当に体調が悪いのだろうか。

「ちょっと、あんた大丈夫?」

 声をかけるが、返事は無い。
 というか、本当ぴくりとも動かない。

「ねぇ、ちょっと」

 もう一度呼び掛けるが、やはり反応は無し。
 うーん、これは流石におかしいわよね。無視してるだけなら殴るけど。
 散らかっているものを踏まないように気をつけながら、文に近づく。そして、正面に回り込んで見ると、無反応のわけが判明した。

「……立ったまま寝てるし」

 こいつ、ただ寝てるだけだった。目を瞑って、ぴくりとも動かずに。
 はぁ、なんか心配して損した。

「おいこら、起きろ」

 肩を揺する。うーうー唸るだけで、目を開かない。
 頬を引っ張ってみる。想像以上の柔らかさにびっくり。それでも、やーやーと唸るだけで、目を開かない。
 犬や猫を愛でるみたいに、顎を指先でくすぐってみる。ぴくっぴくっと反応はするけれども、やはり目を開けるまでには至らない。
 うーん、どうしたものか。

「あんた、ちゃんと布団で寝ないと風邪引くわよー」
「うぅ……んっ」
「ほら、とりあえず起きなさいってば」
「ぅ、あーもうー喧しいっ! 私の眠りを妨げる愚か者は誰ですか!?」
「私よ」

 文がいきなり大声と同時に、目を開いた。どうやら眠りを邪魔されたと思って、いらっときたみたいだ。
 その原因、目の前の私をジッと見る。そして、大きく目を開く。

「え? え? ちょ、なんであなたがここに?」
「なんでって……さ、最初に言ったでしょ。お酒のお礼を言いに来たのよ」
「はぁ? それだけのために、わざわざここへ?」
「何よ、悪い?」
「いえ、悪くは無いですが……あなたらしくないなぁと。ふぁ~……んっ」
「あんた、眠いの? 寝るならちゃんと布団で寝なさいよ。風邪引くわよ」
「お心遣い感謝ですけど、もう本当疲れたので」

 文は大きな欠伸を何度何度もする。そんなに疲れているのだろうか。よく見れば、目の下にくまが出来ている。
 もう一度、周りを見て、そして文を見る。きっと、何か作業をしていたのだろうと予測が出来た。

「新聞作ってたの?」
「いえ、今回は違います。溜まりに溜まった仕事を……」
「仕事?」
「えぇ、私の仕事です。書類関係ですけどね。今まで後回しにしてた分、ここ最近はずっと家に籠って作業してましたよ。あ、そこらへんに落ちてるの、見ちゃダメですよ? 一応山の事情で、色々と重要なことが書かれているので」
「そんな大切なもん、そこらへんに放っておくんじゃないわよ。もう溜まってた仕事は終わったの?」
「ついさっき、ですね。もうふらふらですよ。天魔様がわざわざ私の家にやって来て、作業を急かすものですから、とてもプレッシャーと焦りが」
「天魔直々って、あんたどんだけ溜めこんでたのよ……」
「いやー大天狗のやつならともかく、天魔様みたいな見た目幼女に涙目で急かされちゃ、流石に逃げるわけにはいきませんでした」
「え? 天魔って女なの? あと、大天狗ってあんたの上司じゃ……」
「天魔様は女性ですよー。当たり前ですが、私よりもずっと長生きで。大天狗は同期なんで。結構仲良いんですよ、私。他の者の前じゃ、一応様をつけますけど」
「……なんか、いろいろと衝撃の事実を聞いた気がするわ」

 なんか勝手に、白い髭生やした渋いおっさんを想像してたから、かなり衝撃的な事実だ。けど、文の態度を見るに、事実なのだろう。
 うわー、天魔に会ってみたい。あと大天狗にも。同期なら、きっと文の昔の話を聞けるかもしれない。それをネタに、いつもの仕返しに文を弄ってみるのも、面白いかも。
 よし、今度絶対に会いに行こう。何処に居るか分からないけど。

「んー話してたからか、ちょっと目が覚めてきました」
「疲れてるなら、無理しないで寝た方が良いわよ」
「くいっと一杯、したい気分ですねぇ」
「いや、寝ろって」
「あーあー誰か一緒に飲んでくれないですかねー。今から宴会行っても、間に合わないだろうしー」

 ちらっちらっとこっちを見てくる。
 冗談じゃあない。天狗のこいつと飲んだら、潰れるに決まってる。一杯と言ってるが、絶対に満足するまで飲む気だ。にやにやとした笑みが、まさにそう言っているようにしか見えない。
 よし、ここは無視して帰るべきね、うん。
 踵を翻してその場を去ろう――

「誰かさんに起こされたのが原因で、飲みたくなってきちゃったんですよねー。あーあー誰かさんが責任取ってくれないと、私悲しくて、明日神社に竜巻起こしちゃうかもしれません」

 去れなかった。
 明らかに脅しだ。こんちくしょうめ。

「もちろん、それは山の上の神社よね」
「いえ、どちらかというとお賽銭が少ない方の神社ですね」
「喧嘩売ってるの?」
「いえいえ、とんでもない。ただ、お酒を一緒に飲んでくれる相手が欲しいだけです」

 ジッと睨むと、笑顔を返された。少し、疲れが混じった笑顔。
 これは逃げられそうにない。うーん、仕方ないか。こいつなら本当に竜巻起こしかねないし。お酒を飲むのも、嫌なわけじゃあない。酔い潰れるのが嫌なだけだから、気をつければそれで良い。

「極上のお酒、飲ませなさいよ?」
「そうこなくっちゃ。もちろん、良いお酒を御馳走しましょう。ただ、魔理沙さんにお酒をあげてしまったので、今私はお酒を持っていません」
「は? じゃあどうするのよ? 買ってくる気?」
「まさか。ちょっと知る人ぞ知る、良いお店があるんですよ。案内します」

 楽しそうな笑みを浮かべて、文は外に出ようとする。
 お店かぁ……宴会途中で来たから、お財布持ってきてないんだけど。まぁ、こいつに奢らせるか。誘ってきたのはこいつからなわけだしね、うん。
 外に出ると、やっぱり寒い。真っ暗な空に、まるで金平糖をばら撒いたように、きらきらした星がたくさん輝いている。

「遠いの?」
「いえ、数分で着きますよ。ただ、ちょっと道を間違えると迷いますけどね。私は行き慣れてるので、大丈夫ですが」

 そもそも、妖怪の山に店があるということに驚きだった。けれど、よくよく考えてみればあって当然だとも思う。店くらいないと、天狗やら河童やらの生活がどうなっているのかが不思議でならないから。
 まさか毎日自給自足とも思えないし、人里にわざわざやってきて食材などを買っているとも思えない。店があると言われれば、納得だ。
 そんなことを考えながら歩いていると、ぼんやりとした灯りが見えてきた。目を凝らしてみると、小さなお店。人里にあるカフェよりも、小さい。
 もしかしてここだろうか。
 文は足を止めて、こちらに向いた。

「さ、入りましょう」
「ここなの?」
「えぇ、妖怪カフェです」
「なんかお化け屋敷みたいな名前ね」
「あはは、仮にお化けが出てきたところで、怖くないでしょう?」
「まぁね。私なら札と針で潰すし」
「お化けよりもあなたが怖い怖い」

 そう言って、扉を開ける文。からんからんと、扉についていた鈴が投げやりな音を発した。
 私もついて行く。店内は、やっぱり広くは無い。けれども、狭すぎるわけでもない。
 入口に一番近い席に座る。木製の椅子が、ぎしぃっと音を立てた。外から見えたぼんやりとした灯りは店内でもそのままで、少し薄暗い。

「これメニューですね。ま、私はお酒でいきますけど」
「ねぇ、店員の姿が見えないけど。それと他にお客が誰も居ないのがまた不安なんだけど」
「あーここは呼ばなきゃ店員は出てきませんよ。まぁ店員って言っても、マスターが一人でやってるのであれですけど。他に客が居ないのは、ここが穴場だっていうのと、時間的にですかね。椛やにとりとたまに来るんですけど、そのときも大体人は居ないですから」

 メニューを開くと、大雑把に『お酒』や『適当なつまみ』やら『トーストセット』などとだけ書いてある。……値段が書いてない。
 これじゃあどれを頼めば良いのか分からない。どうしよう。

「なんでこんなアバウトなのよ」
「基本、マスターの気分とかでコロコロ変わりますから。マスター! 私はいつものお酒でー! 巫女はどうします?」
「どうって言われても……」
「んーじゃあ、私のより少し弱いお酒にでもしておきましょうか。マスター、いつものより若干弱めのお酒も一つ!」

 文が叫ぶと、かぁかぁと鴉の鳴き声が返ってきた。

「え? そのマスターっていうのは姿を見せないの?」
「はい、極度の照れ屋なので。奥に一応居ますが、注文とか会計とかは全部ご自身の鴉たちに任せてるんですよ」
「……凄いわね、なんか」
「まぁこんなことやってるから、お客が一向に増えないんですけどねーここ」

 けらけらと笑って文は言うが、正直私は苦笑い。これは確かに、いくら味が良いと言われても、この接客態度を見れば二度来ようと思う者は少ないだろう。
 ここへ何度も来るというのは、変わり者の証なのかもしれない。そんなことを、目の前の文を見ながら思う。
 少しの間軽く会話を交わす。すると鴉が数羽、背中にお酒の入ったコップと、酒瓶を乗せてやってきた。バランス感覚尋常じゃなく良いな、この鴉。

「はい、ありがとうございます」

 お酒を受け取り、文が鴉たちの頭を撫でる。かぁかぁと、鳴く鴉。あれは甘えてる声なのだろうか。人間の私には、鴉が何を喋っているのかなんて分からない。
 文は何故か鴉たちと数十秒ほど談笑していた。うーん、やっぱり文は言葉が分かるのか。こうして見ると、見た目はそんなに変わらないのに、人間と妖怪の差というものを感じる。

「さて、飲みましょうか」
「ねぇ、鴉はなんて言ってたの?」
「え? あの巫女さん、胸小さいなマジウケる。だがそれが良い。とかなんとか。まぁそんなことはどーでもいいですから、さっさと乾杯しましょうか」
「ちょっと待てやこら。よし、しとめに行く」
「動物虐待禁止ですよー。ほら、動物の言うことだと思って、さらっと流したら良いじゃないですか」
「動物に私の胸の価値が分かってたまるか!」
「霊夢さんの胸が貧相なのはもう周知の事実ですし。ほら、魔理沙さんよりは大きいから良いじゃないですか。それに、そういうのが好きな人もいますって、きっと」
「なんの慰めよ!?」
「はい、かんぱーい」

 私の怒りと悲しみの叫びは、乾杯の声で無理矢理終了させられた。
 くそぅ、ちょっと私より大きいからって余裕かましやがって。文だって、そこまで大きいわけじゃないくせに。
 ジーッと睨むと、にこっと笑顔を返された。なんでだろうか、こいつの笑顔はいらっとくる。

「ま、とにかく飲んでみてください。ここのお酒は美味しいですよ。んっ……美味しっ」

 文は一口ずつ味わうようにして、ちまちまっと飲んでいる。いつもはがっつり一気に飲むのに、珍しい。
 正直、あまり飲む気はしないんだけどなぁ。
 まぁせっかくのタダ酒だ。飲んでおかなきゃ損というもの。
ぐいっと一杯。軽く飲んだだけなのに、喉が熱くなる。顔に熱がいく。体が、じわっと熱くなってきた。

「っ!? ちょ、あんた、これ弱いお酒だったんじゃ……」
「あー私のよりも少し弱いものを頼んだつもりでしたが、そもそも私のやつがきつすぎたのかもしれませんね。だから少し弱い程度じゃ、霊夢さんにとっては厳しかったのかも」
「み、水……」
「はい、どうぞ」

 文からコップを受け取り、一気に飲み干す。……ッ!? こ、これ、さっきよりきつい!
 もしかして、いやもしかしなくても、これお酒だ。しかも、かなり強い。文を見ると、ニヤニヤとした、人を小馬鹿にしたような腹立つ笑み。は、嵌められた。

「いやーすみません。水と間違えて、私の飲んでたお酒渡しちゃいました」
「あんた……絶対、潰す」
「今のあなたなら、私右手一本で勝てる自信あります。今のうちに巫女の、あんな写真やこんな写真でも撮っておいて、後で保身のために使わせてもらいましょうかね」

 最悪だ。こいつ最悪だ。
 酔ってる私を、カメラで楽しそうに撮っている。くそぅ、普段の私ならカメラも文も破壊出来るのに。体が熱くなったのはほとんど一瞬で、今はむしろ体が寒い。けれども、手は思うように動かないし、気をしっかりもたないと視界がぐらつく。
 こいつ、っていうか天狗とか鬼は、普段こういうお酒を飲んでいるのだろうか。そう思うと、自分はやっぱり人間なんだなぁと実感する。こんなものをほいほい飲めるやつ、人外だ。

「んー正直、巫女ならそこそこ飲めるしいけるかなーって思ってたんですけど」
「……無理」
「いやーすみませんでした。飲み明かしたいなぁと思いましたけど、これは無理ですかね」

 苦笑い気味に、そう零す文。こっちとしては、苦笑いで済まされるレベルじゃないんだけど。
 気持ち悪さはないけど、やっぱりふらつく。
 あーやばい、これ帰りどうしようか。ちゃんと飛んで帰れるかなぁ。

「どうします? 始めたばかりですが、もう飲むのやめて帰りますか?」

 少しだけ、心配を含んだ声で、文が言った。
 私の答えは、決まっている。

「冗談っ! もうこれ以上飲んでも飲まなくても、さほど変わらないわよ。だったら、潰れるまで付き合ってやるわ」
「っふふ、流石は霊夢さん。良いですね、実に良い」

 文は楽しそうに笑う。
 どっちにしろ、今からまともに帰れる気はしない。
 それならば、タダ酒飲めるだけ飲んでいってやろうじゃあないか。私に出来ることは、こいつの財布を潰してやることだ。
 意地を見せてやろう。死にしないだろう、多分、きっと、おそらくだけど。

「……よし、この店で一番高いお酒を貰おうかしらね」
「霊夢さん、もしかして私に奢らせる気ですか?」

 何を今さら。
 あえて返事はしないで、にたぁっと笑っておいた。
 文の額に、汗が見える。ふははー今さら後悔したところで遅いということを、教えてやろう。
 そんなことを思いながら、コップに入っているお酒を一気に飲み干す。喉が焼けるような熱さと同時に、安物のお酒とは違う味が染み渡った。
 ――あぁ、こりゃあ確かに美味しいわ。





◇◇◇





「ん、んぅ……あれ?」

 いつの間に眠っていたんだろうか。
 目を開くと、そこは見慣れない天井。鳥の鳴く声が聞こえる。窓から差し込む陽の光が、今は少なくとも夜ではないということを教えてくれた。
 えーと、昨日はどうしたんだっけ。お酒を飲んでいたところまでは覚えてるけど、寝てたってことはやっぱり潰れちゃったか。

「んっ、寒い……」

 ぶるっと体を震わす。
 よく見たら、白いワイシャツ一枚だった。下にはドロワーズのみ。あぁ、こりゃあ寒いわ。当たり前だ。
 周りを見渡すと、どっかで見たような場所。主に昨日の夜。けれども、何か違和感。
 んーなんだろう?

「あ、起きましたか」

 ふと声がした方へ振り返ると、文が居た。いつもの服と違って、薄いランニングシャツとホットパンツ。私服なのかな、多分。
 そこでようやく、自分が布団に寝かされていたことに気付く。ゆっくりと起き上がろうと上半身だけ起こすと、頭に痛み。あー……こりゃあ二日酔いか。
 動く気がしなくて、再びポスっと枕に頭を預ける。うん、楽だ。
 そんな私を見て、文は苦笑い。

「あやややや、もしかして二日酔いですかね」
「せーかい。で、私は昨日どうなったわけ? ここ何処よ?」
「何処って、分かるでしょう? 私の家ですよ」

 何を当たり前のことを訊いているんだ、みたいな顔された。
 いや、ちょっと待て。確かにどっかで見たような部屋だなぁとは思ったけど。明らかに昨日と違う。

「……ねぇ、昨日洒落にならないくらいに、部屋ぐちゃぐちゃな状態だったはずだけど。私の記憶違い?」
「ん? 掃除したに決まってるでしょう。昨日酔い潰れたあなたを家まで運んで、寝かせた後にちょちょっとね」

 ちょちょっと、で片付くレベルじゃなかった記憶があるけど……。うーん、意外に掃除が得意なタイプなのかもしれない。昨日までの酷い状態が、まさかここまで綺麗になっているなんて。ゴミ一つ落ちてないじゃない。
 今度、境内の掃除手伝わせてみようかしら。

「ありがとう、なんて言わないわよ。あんたが強いお酒飲ませたのが原因だし」
「はいはい、別に巫女から感謝の言葉なんて期待してないですよーっだ」
「……それはそれで、なんか腹立つ」
「それにお財布は痛手を受けましたけど、それ以上に良いモノが撮れたので」
「は?」

 今とっても不穏な言葉が聞こえた気がした。
 私の聞き違いであることを祈りたいが、あいにく目の前では憎たらしい笑みを浮かべた鴉天狗。これは多分、私の寝ている間に、何かがあった。
 まずい、非常にまずい。

「ちょ、何撮ったのよ!? ~っ!」

 叫んだせいで、頭に響く。痛い痛い、あーもうっ!

「巫女の今の服、巫女服から着換えさせたのは誰だと思います? むしろ、私以外に誰が居ると思いますかね」
「あ、あんたまさか……」
「いやー普段は巫女服ばっかりの霊夢さんが、ワイシャツとドロワーズ一枚の姿、レアだと思うんですよねぇ」
「……潰す。カメラもろとも」
「今のあなたじゃあ、無理じゃないですかねぇ。あ、ちなみに着替えさせてる途中にも何枚か撮らせていただきました」
「~っ!?」
「ご安心を。これらの写真はアルバムに入れて、誰にも見せないよう保存しておくだけですから。私個人で、たまに眺めてニヤニヤしたり大笑いするくらいですから」

 こいつが持っているのが、一番たち悪いわ。
 今すぐにでも制裁を与えたいが、本調子じゃない身体は思うように動いてくれない。というか、頭痛すぎる。うぅ……最悪だ。
 もうこのまま寝てしまって、再び目が覚めたらいっそ全部夢でしたーって結末だったら最高なのに。
 思わずため息一つ。

「まぁまぁ、元は霊夢さんがわざわざここへやって来てしまったのが始まりですし。自己責任だと思ってください」
「私の落ち度が見当たらないんだけど……」

 やっぱこいつのところなんて、来るべきじゃなかったのかもしれない。
 今さら後悔しても遅いし、もう良いけどね。そもそもなんで来たんだっけ? えーと、えーと……あぁ、長い間姿見せないから、ちょっぴりだけ心配したんだった。そう、ちょっぴりだ。
 けれど、それは杞憂だった。こいつはいつもと同じように、鬱陶しいくらいに元気だ。

「ん、良かった」
「はい?」
「いや、あんたが無駄に元気なようで安心しただけよ」
「どういうことです?」
「分からなくて良いわよ、別に」

 うん、分からなくて良い。
 私がちょっぴりとはいえ、心配してたなんてこいつが知ったら、もっと調子に乗るだろうから。ただでさえ普段から調子に乗っていて、鬱陶しいくらいなのに。
 だから、私だけの秘密だ。魔理沙には感付かれていたから、正確には私だけってわけじゃあないけど。
 首を傾げる文に、べーっと舌を出してやった。ムッとした表情になる文を見て、勝ち誇ったように笑ってやる。
 ばーか、誰があんたに言うかっての。

「むー納得がいきません。秘密は良くないと思うのですが」
「馬鹿ね。女性は秘密を持ってこそ、美しくなれるものなのよ」
「そんなひんそーぼでぃで美しさを語られても……滑稽というか」
「よーし、その喧嘩買ったぞー」

 うん、こいつボコボコにしよう。不調だけど、なんとかなるでしょ、きっと。というか、怒りの力でカバーできる。
 文はにやぁっと笑みを浮かべる。

「じゃあこうしましょう。私が勝ったら、その秘密とやらを教えてもらいます」

 なるほど、だから挑発してきたってことか。

「私が勝ったら?」

 ゆっくり布団から起き上がる。あー……だるいけど、なんとかなりそうな気もする。

「謝罪でもなんでもしましょう。なんなら、撮った写真をお返しします。どうですか?」
「上等ぅ! 不調だからって舐めてかかると、痛い目見るわよ!」

 先手必勝。
 お札と針を懐から取り出し――ってあれ? 着替えさせられたせいで、いつも常備してる武器が見当たらない。
 やば、はめられた!

「そう、最初から勝負は決まっていたのです! スペカもお札も針もないあなたでは、私には勝てな――ごふぁ!?」

 勝ち誇って喋っていた文の腹部に、膝蹴り一発。
 飛び道具が無いなら、体を使えば良いじゃないってどこかの偉い人が言ってた気がする。まさにその通りだ。

「ちょ、膝蹴りは弾幕じゃないですよね!?」
「覚悟ぉ!」
「うわ、なんの! 無双風神!」

 無双風神VS私の体。
 すると、どうなるか。
 勝敗云々よりも先に、文の部屋が再び惨劇レベルのぐちゃぐちゃになったのは、言うまでも無かった。
 
結局、秘密は言ったのか、写真はどうなったのか、それは二人だけが知っています。
割とお久し振りな気もしますが、どうも喉飴という者です。
天魔様幼女だったら最高だと思うのです。
いやはや、12月ですねー忙しい時期ですねー。今年もあと少し、後悔の無いよう、精一杯過ごしたいものです。
あと、体調を崩さないよう気をつけましょう。うがい手洗い、大切ですよ~。
さて、そんにゃこんにゃではありますが、今回のお話、少しでも楽しんでもらえたら、嬉しいです。
ではではっ!
喉飴
http://amedamadaisuki.blog20.fc2.com/
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価名前が無い程度の能力 削除
久々の会長だー!
しかし霊夢さんや…二日酔いの身、しかも寝起きでそんなハッスルして大丈夫なのかw

この秘密をかけた一戦は…どっちに転んでも悪くない結果な気がします。
2.無評価ヒロスケ 削除
幼女の天魔様についてくわしく。
霊夢と文が可愛くて、朝から悶えました。
3.無評価ケトゥアン 削除
飴さんの天魔様は女性ですかー。
そのうち、期待してますよ?(チラッ
お酒まだ飲めないからこういうSS書けないんですよね。
今回も楽しませていただきました!
今模試開始19分前ですけどね!
4.無評価名無し 削除
流石会長。相変わらず素晴らしかった
5.無評価奇声を発する程度の能力 削除
とても良かったです!
>ケトゥアン氏
それやばくないですか?w
6.無評価唯 削除
文が「責任とって下さい!」って涙目で言いながら、霊夢が「あーはいはい」って呟いて、

喧嘩を中断して仲良くお片づけする光景を幻視しました。

まぁそんな妄想はともかく、お久しぶりです!
素晴らしい作品、有難う御座いました!
7.無評価名前が無い程度の能力 削除
素晴らしい
天魔様が幼女…捗るな
8.無評価名前が無い程度の能力 削除
天魔様が幼女?

ちょっと山に行ってくる
9.無評価名前が無い程度の能力 削除
上の天狗たちがどんな奴らなのか気になるな・・・
今後に期待っ
10.無評価名前が無い程度の能力 削除
天魔様ぜひみたいです。
霊夢は酔ってもかわいいね。すばらしい。
11.無評価ksk 削除
酔った霊夢の可愛さもさることながら、ロリ天魔が気になりすぎて色々とやばいです。
12.無評価オオガイ 削除
これは良い物を読ませていただきました。
二人の掛け合いが本当に心地好くて楽しくなります。
部屋着の描写で思わずニヤニヤ。
ありがとうございます。
13.無評価名前が無い程度の能力 削除
幼女天魔‥…だと!?
14.無評価名前が無い程度の能力 削除
吸血鬼の頭、スキマ妖怪、蓬莱の姫、土着の頂点、地霊の主、判決狂い―――と並べて見ると幻想郷重役のようじょ率に驚く。確かに幼女天魔もありだな。