もしかしたら自分の能力を使えば、壁をすり抜けることが可能ではないか?
部屋で紅茶を飲んでいたらふと思い立った。
思い立ったら即座に行動を始める。
能力を駆使して、壁をすり抜ける運命を探すことにした。
部屋の壁に向かって集中。無数に存在する運命の中から、壁をすり抜ける運命を探し当てるのは、至難の業だった。
いくら探しても、壁に激突するか、壁を破壊する運命しか見つからない。不可能とも言えるほど可能性の低いことだ。当然だろう。
壁と睨みあって早くも1時間が経過した。まだ見つからない。
その間に探った運命は、数えるのが馬鹿らしくなるほど途方も無い数字だった。だが諦めるわけには行かない。少しでも眼を逸らせたら、僅かな可能性を見逃してしまうかもしれない。
何時間経ったか忘れかけた頃、唐突に部屋のドアが開いた。
咲夜が食事の用意が出来たことを告げに来たのだった。
今までに無いほど能力を酷使し続けたから、集中が切れた直後、一気に疲れが来た。あまり集中を切らせたくなかったが、栄養を補給すれば脳の回転も早まるかもしれないと考えた私は、食事に向かった。
食事中も運命の捜索を続ける。
そんな姿を見て咲夜が不思議そうにしているが、気にしない。
私にとって今、最も重要なのは壁をすり抜けることなのだ。
丸一日経った頃、とうとう探り当てることに成功した。
努力は報われる。この言葉を馬鹿にしていたときもあったが、今は信じることができる。あの言葉は、真実だったのだ。
言葉に表せぬほどの達成感。神に感謝してやっても良いくらい、今は気分が良い。だが、その余韻に浸っている暇は無い。
運命は刻一刻と姿を変化させ続けているものだ。やっと見つけた一筋の光を、見失うわけにはいかない。
手繰り寄せた運命を逃さぬよう集中し、勢いよく壁に突撃する。
もし失敗をしたらかなり痛い。タンコブくらいは覚悟せねばなるまい。
壁が目前に迫り、視界が壁に覆いつくされる。だが私は目を逸らすことなく、ただ真っ直ぐ前だけを見つめ、突進した。
一瞬の後、視界から壁が消え、見慣れた廊下と、窓から見慣れた庭が目の前にあった。
自分の身体を触ってみるが、なんともない。少なくとも幽体離脱したわけではないようだ。
後ろを振り返ると、そこにはただの壁が、傷一つ無くそこにあった。
私は壁抜けに成功したのだ。
丁度近くを通っていたらしき咲夜が驚愕の表情でこちらを見ている。当然だろう。自分の主人が、いきなり壁を突き抜けてきたのだ。壁には傷一つない。種も仕掛けも一切無し。種無し手品が得意な彼女もびっくりだ。
それからコツを掴んだ私は壁抜けマジックを徐々に使いこなしていった。
いまや壁抜けに関しては幻想郷で右に出るものなど居ないだろう。
その上達振りというと、最初は1日かかって見つけていた運命を、1時間で探り当てることができるほどだ。自分の才能が恐ろしい。
自分の力に自信を持った私は、さらに上を目指すことにした。
自分以外の人物の壁抜けマジックだ。
丁度妹のフランドールに話したら興味を持ったようで、実験に協力してもらうことにしたのだ。
他人の運命を操作するのは、自分の運命を操るよりも複雑で、時間がかかる。だが、練習に練習を重ねた今の私にはその程度、大した問題ではない。
期待に満ちた眼差しでこちらを見つめるフラン。ちょっと問題がある子とはいえ、大切な家族、それも可愛い妹のためだと思うと気合が入る。
そして僅か30分で探り当てるという自己新記録を出し、フランに準備が出来たことを告げる。
壁にぶつかって怪我をしてしまう可能性なんて考えていない、こちらに全幅の信頼を寄せた、驚くほど迷いの無い突撃だった。その信頼に答えてみせるのが姉としての私の役割だ。
そして壁に衝突する瞬間、吸い込まれるように妹の姿が消えた。
初めてやることだから失敗するかもしれない。そんな不安があったが、無事に成功したことに安堵する。
フランがドアを開けて再び私の部屋に入ってきた。その無邪気な笑顔を見て自然とこちらも顔が綻ぶ。さらに面白かったからもう一度やりたいとまで言ってきた。近くに居た妖精メイドの驚く様が面白かったらしい。
いいだろう。今の私に不可能なんて無い。今度は20分で見つけてやろうじゃないか。
そして25分後。
目標の20分は達成できなかったものの、更なる新記録を打ち立てた私は得意気にフランに告げる。
待ってましたと言わんばかりに、再び壁に突進するフラン。
だがこの時、私は調子に乗っていたせいか、ふと気を緩めてしまった。その瞬間、先ほどまでこの手に掴んでいた運命を見失ってしまう。
しまった、と思った時には既に手遅れだった。
館を揺らすほどの轟音と共に、壁が砕けた。先ほどまで壁だったところには、瓦礫の山が築かれている。
なんということだろう。ちょっとした気の緩みがとんでもない結果を招いた閉まった。いくら練習を重ねても最後まで気を抜いてはいけない。そんな基本的なことを失念していたようだ。
瓦礫の山からフランが顔を出し、開けた穴を通って帰ってきた。幸い大した怪我は無く、膝と額を擦り剥いて肩を少し打った程度だった。
怒っているかもしれない、そう思っていたが、本人は勢いが足りなかったと勘違いしているようで、少し安心した。
しかし、それも束の間。瓦礫の向こうから放たれる気配に、背筋が凍りついた。
視線を向けると瓦礫の山のすぐ横に、咲夜が立っていた。
その表情は笑顔ではあるが、今の私には鬼のような形相にしか見えない。それほど強い怒りのオーラを纏っている。
夜の王たる私をここまで恐怖させるとは、流石は私の従者だ。
──そして私は、一晩中従者から説教を受けることとなった。
それから、当然の如く壁抜けマジックは禁止された。
これは私の招いたことであるし、文句は言えない。だが、壁を抜けるときのあの感覚をどうしても忘れることが出来なかった私は、友人に相談することにした。
友人から提案は素晴らしいもので、私は即座にそれを実行した。
友人の提案、それは館の壁の一部を回転するようにし、からくり屋敷のように改造することだった。
これならば安全に壁を抜けることができ、上手く使えば移動距離の短縮も可能な画期的なアイディアである。
妹には勿論、妖精メイド達にも大好評で、意外なことに咲夜にも好評だった。
だが、唯一の誤算はそのせいでしばらくの間、掃除が捗らなくなったことである。
でも鼻が痛いです
*かべのなかにいる*状態はどうなのだろうか…
できる!できるぞ自分!
……と思って、壁に激突すること1800回。もしかしてありゃあ「180兆×1/1000億」ではなくて「1/(180兆×1000億)」だったんじゃないかと気付いた。そしてダニーが死んだことを思いだし。
泣いた。
1/1800だったら、1秒に1回探せば約30分で見つかる計算に……
あ、さすがおぜうさま。30分でしっかり見つけてますね(笑)
ぉぉおおおお刻むぞ魂のび
紅霧変起こせる位のレミリアさんなら超細かい霧状に変身すればあるいは…
超流動で壁抜けなんて余裕にできる
物理が好きな私にはウマウマでした。
でも敢えて挑戦したお嬢様のお話しGJです。
昔、道路のコンクリートに埋まってる500円玉を見たことがあったけど、ひょっとして……。