Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

クリスマス前哨戦~発端の在処~

2010/12/19 22:39:51
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Part.1 ~紅魔館~


「お嬢様。こんなお手紙が届きました」
「あら、何かしら」
 従者から渡される一枚の手紙に視線を落とすお嬢様。その後ろからお嬢様の妹が、「なになに?」とお嬢様の肩に顎を乗せて、頭をひょいと覗かせる」
「……『サンタクロース宛』?」
「はい。
 そういえば、今年もそろそろ、クリスマスが近づいて参りました」
「あなたねぇ、咲夜。うちは悪魔の館なのだから、クリスマスなんて……!」
「さくや! お手紙とペン!」
「はいただいま」
 ちらりと、従者がお嬢様を見る。
 そのお嬢様は顔を引きつらせつつも、
「おねえさまもお手紙、書くよね!?」
「そ、そんなことはしないわ。フラン。
 それに、わたしは、別にサンタクロースなんて……」
「そうなの? じゃあ、おねえさまはプレゼント、いらないんだね!」
「あ……う……ぐぐ……」
「それでは、二人分、持って参ります」
「サ、サンタクロースなんて信じてないけど……そ、そうね、咲夜がそこまで言うなら、仕方ないわ。わたしも書こうかしら」
 そんなことを言うお嬢様の羽が、ぱたぱたと上下に動いていた。
 ここ、紅の館では、その館を統べるちびっこお嬢様の感情を探る方法として、その羽の動きを見るというならわしがあった。
 上下にぱたぱた動いてる時は嬉しい時。斜めにぴんと立っている時は怒っている時。しゅんとなっている時は、悲しかったりする時。
 ここのお嬢様は子供らしく、わがままな一面が強いため、素直な感情を探るのがたまに難しい時がある。そんな時でも、その羽の動きを見れば、一目瞭然というわけである。
「……さて」
「で、今年も私がサンタクロース、やるんですか?」
 お嬢様の部屋を辞した従者にかけられる声。
 そこに立っている女に、しかし、従者は『いいえ』と言った。
「え? やらないんですか? クリスマス」
「やるわよ、もちろん。
 やらなかったらお嬢様達がふてくされるじゃない」
 なお、ここの館のお嬢様達の種族は吸血鬼である。本来、吸血鬼は神に敵対するものなのだが、その辺りの常識にとらわれては、この世界ではやっていけないのは言うまでもない。
「実はね、美鈴――」
 従者は彼女に顔を近づけ、ぼそぼそと、何かを耳打ちする。
 それを聞いて、彼女は『へぇ』と、思わず声を挙げるのだった。


Part.2 ~白玉楼~

「ねぇ、妖夢ぅ。今年はぁ、あなた、クリスマスにぃ、どんなプレゼントがぁ、欲しいのかしらぁ?」
「え? ……ああ、いえ、今年は……というか、もう結構ですよ。幽々子さま。あとそれから、紫さま」
「あら、気づいてたの」
 ひょいと、空間の亀裂から顔を覗かせる金髪の女。
 目の前に立っている主人と、その主人の友人に対して、少女は『はい』と苦笑を浮かべた。
「サンタクロースの正体が、かつてはおじいさま、そして今はお二方のうちのどちらかだということには、もうすでに気づいておりますので」
「あらぁ、かわいくないわねぇ」
「ほんとねぇ。
 うちの霊夢なんて、ほんと、つい最近までサンタクロースを信じてたっていうのに」
 ちなみに、橙は信じてるわよ、と彼女は空中から、くるりと一回転して地面へと舞い降りた。
「それなら、せっかくですから、橙ちゃんにあげたらどうですか?」
「それは藍のお仕事。
 で、妖夢。あなた、本当に何もいらないの?」
「……そうですねぇ。
 まぁ、特に、今は欲しいものもないですし」
 むしろ暇が欲しいです、とぼそりとつぶやく少女の切実な気持ちを、彼女は聞こえないふりをしてスルーした。その主人に至っては、聞こえているのかいないのか、「つまらないわねぇ」と頬を膨らませるだけだ。
「それじゃぁ、妖夢ぅ。
 もしもぉ、本物のぉ、サンタさんからぁ、プレゼントがもらえるとしたらぁ、欲しいかしらぁ?」
「え?」
 その一言で、少女の頭に『?』マークが浮かぶ。
 どういうことですか? と尋ねる少女に、『はぁい』と主人は一通の手紙を渡した。
「……サンタクロース宛の手紙? 何ですか、これ」
「さあ? 何かしらぁ?」
「紫さま?」
「今回は、私も何もしてないわよ」
 はて?
 もう一回、首をかしげた少女は、手紙の中を見てみる。当然のことながら、中の便せんは真っ白なままだった。
「もしかしたらぁ、本物かもしれないわよぉ?」
「そんなことは――」
「あながち、そういうこともないかもしれないわ。
 外の世界で、クリスマスという慣習がなくなれば、行き場を失ったそれが幻想郷に流れ着くこともあるでしょう?」
「……そういうこともあるんですか?」
「さあ、どうかしらね」
 曖昧な回答に、少女は、『じゃあ、考えてみます』と、その手紙を懐にしまって、てくてくと歩いて行ってしまった。
 少女の後ろ姿を見送ってから、二人は顔を見合わせ、小さな笑みを浮かべた。


Part.3 ~永遠亭~

「師匠。今年のクリスマスに欲しいものを、うさぎの子供達から聞いてきました」
「あら、ありがとう」
 どさっ、と床の上に置かれる無数の手紙。それらを一通一通、彼女は開いて中を見ていく。
「あらあら」
「今年も大変ですね。去年なんて、一晩のうちに回れなくて、最後の子がぎりぎりでしたし」
「そうね」
「あ、ちなみに、てゐが『サンタクロースなんてほんとはいないんだよ~』って言おうとして、姫様に『ちょっときなさい』って連れて行かれましたけど……」
「あらあら」
「……死ぬな、てゐ」
 今頃、どういう目に、彼女があっているのかを想像して、うさみみ少女は涙した。
 それはともあれ。
「それじゃ、みんなの分を、私が代筆しないとね」
「……代筆?」
 そこで、うさみみ少女は首をかしげる。
 この屋敷の中で行われるクリスマスパーティーは、例年通りなら、今、目の前にいるこの女性がサンタクロースの役割を買って出るものである。
 普段なら、ここから、『欲しいもの』として子供達が挙げてきたものを買いに行ったり、あるいは手作りしたりと大忙しになるのだが……。
「うどんげ。これ、見た?」
「何です? その手紙」
「本物の『サンタさん』に宛てるお手紙よ」
「そんな馬鹿な」
「あら、夢がないのね」
 いいじゃない、ほんとにいたとしても。
 彼女はそう言うと、流麗な筆跡で、一枚の便せんをしたためていく。
「いや、だけど、あれって基本的に言い伝えで……」
「たとえ言い伝えであったとしても、その文言が力を持って、いつしか本物の姿をとったとしても、この世界でならおかしくないでしょう?」
「それは……そうですけど……」
「それに、本物のサンタクロースは、私も見てみたいわ」
「……師匠。もしかして、知ってます?」
「さあ?」
 さあ、これを出してきてちょうだい、と彼女はうさみみ少女へと手紙を手渡した。きれいに封印までなされたそれを受け取ってから、うさみみ少女が立ち上がる。
「一応、協力はしますから」
「あなたは、特に何もいらないの?」
「私も、もうそういう年じゃないですよ」
「あなたは、私から見れば、いつまででもかわいい子供なんだけどね」
「やめてくださいよ」
 照れちゃいます、とうさみみ少女は顔を真っ赤にして、足早に彼女の部屋を辞した。
 その後ろ姿を見送ってから、彼女は、『さて、と』と腰を浮かすのだった。


Part.5 ~守矢神社~

「ねぇねぇ、早苗ぇ。今年のクリスマスは……」
「あ、ごめんなさい。諏訪子さま。
 わたし、今年は霊夢さんと一緒に過ごします」
「えー!? うちのケーキとかは-!?」
「事前に幽香さんからもらえますから」
「何それ夢がないよ夢が!」
 わたしだってプレゼントが欲しい! と地団駄を踏むちび神に、やれやれ、と彼女は肩をすくめる。
「ともあれ、今年は、わたしにとって大切な日なんです。
 今まで……そう、今まで、外の世界にいた時、わたしにとってクリスマスは敵でした……。友達のほとんどが『あ、ごめんね、早苗。あたし、今年は彼氏と過ごすから』と言って幸せな日々を味わう中、わたしは一人で部屋でプラモと電脳紙芝居が友達……」
「ごめん早苗わたしが悪かった」
「そのわたしが、今年こそ、幸せなクリスマスを過ごせるんです!」
「うんごめんマジごめんだから泣かないでわたしも悲しくなるから色々と」
「そういうわけで!
 今年はごめんなさい」
 ちび神は心から、彼女のことを思って、優しい眼差しを向けるしかなかった。
 というか、そういう顔しか出来なかった。あまりにも切なすぎたから。あまりにも涙しか出てこなかったから。
 今年は、自分のわがままは引っ込めよう。
 ちび神は、そう、胸に誓った。
「で、今、何やってるの?」
「やっぱり、クリスマスの定番と言えばプレゼントです。それで、手作りの定番と言えば、マフラーとか手袋と相場が決まってるじゃないですか?」
「なるほどね」
「咲夜さんからも手ほどきを受けたので、今年は、目一杯、奮発できそうです」
「にしちゃ、えらい長くない?」
 普通、マフラーと言えば、せいぜい、長くても一メートルかそこらだろう。
 ところが、彼女の作ってるマフラーはといえば、その1.5倍くらいの長さがあるのだ。
 しばしの沈黙の後、彼女は言った。
「こ、これなら、二人で一本のマフラーという、恋人同士の夢のシチュエーションがっ!」
「……素直に言いなよ。サイズミスったって」
「……今から、余った分をほどいて作り直したら、絶対に間に合わない自信があります」
 そこまで彼女は不器用と言うわけではないのだが、やはり、初めて作る『プレゼント』には、色々と込めるものがあるらしい。
 それを、今から作っていては、見た目には十分なものが出来ても、彼女自身が満足できるものは出来ないのだろう。
 しかたないね、とちび神は彼女の肩をたたいた。
「そんなら、今年は、早苗なしでわたし達はクリスマスするよ」
「はい、ごめんなさい」
「いいからいいから」
 んじゃね、と部屋を辞して。
 そうして、ちび神様は隣を見た。
「だってさ」
「これ、どうするかな」
 その隣に立っている、もう一人の神様は、その手に持った手紙を見つつつぶやく。
「あの子にとっちゃ、もう必要ないのかもしれないけどさ。
 せっかくだから、わたし達で勝手に出しちゃおうか?」
「悟られないプレゼント……か。
 悪いものじゃないだろうけど」
 それはそれでどうだろう、と神様はつぶやく。
 ちび神は、『それはそれでいいんじゃない?』といい加減な態度だ。こら、とその頭を、神様ははたいた。
「もっと真剣に考えろ。こういう行事は、早苗にとっても大切なんだから」
「そういう過干渉が悪いんだよ。
 いいじゃん、そろそろ巣立ちの時期だよ」
「いいや、私はまだ認めてないぞ。言っておくが、諏訪子。私は……」
「あー、はいはい。んじゃ、その手紙、わたしがねつ造しておくよ」
「こら、待て! 私の話を……諏訪子、こらー!」
 これだから親バカは。
 ちび神は苦笑しつつ、神様の手から掠め取った手紙を手に、どこかへと歩いて行ってしまったのだった。


Part.6 ~天界~

「ねぇ、衣玖。あのさ、クリスマス……」
「……それは私にとっての死刑宣告ですよ……」
「……今年もダメだったんだ?」
 天女は自室の机の上に突っ伏していた。
 その前に置かれたカレンダーの『24』と『25』の数字のところが黒く塗りつぶされている。天女にとって、その日は、もうすでになかったことになっているようだ。
「……今年『も』? 今年『も』と仰いましたか?」
「あ、い、いや、その……」
 ゆらぁり、と黒いオーラをたてつつ、天女が立ち上がる。
 天人は思わず、後ろに『ずさっ!』という音を立てて後ずさる。
「……今年、私よりもずっと年下の子に恋人が出来ました……」
「う、うん……」
「……私の友人に子供が出来ました……」
「そ、それは何より……」
「私の先輩が銀婚式をしていました……」
「う、うわぁ、幸せそうだなぁ……」
「…………………………」
「…………ごめん」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! クリスマスなんて嫌いですぅぅぅぅぅぅぅ!」
 泣きながら、天女は部屋から飛び出していってしまった。
 その後ろ姿を見送りつつ、天人はつぶやく。
「……衣玖、モテるくせに結婚出来ないからなぁ」
 その彼女にとって、こういう『節目ごとのお祭り』というものは、さぞかし、迎えるのが辛い日なのだろう。
 そういう日であっても、きちんと空気を読んで周囲を祝福する天女は、いつでも顔で笑って心で泣いているのだ。
 ――というか、何で衣玖は結婚出来ないんだろう?
 その原因の、主に9割を構成している天人は腕組みをして首をかしげた。
「……まぁ、いいか。
 それとこれとは別問題だし……」
 天人の手には、一枚の手紙。
 それを、何度もためつすがめつしてから、「……私から、なんて言ったら、衣玖は絶対受け取らないし」とつぶやく。
「あーあ、だけど、衣玖が何が欲しいか、結局、聞き出せなかったよ」
 まぁ、真顔で『愛が欲しい』なんて言われても困るけどさ。
 天人は肩をすくめると、『仕方ないか』と内心でつぶやいた。
「とりあえず、衣玖が喜びそうなもの、書いておこう」
 きっと、天女は、そのクリスマスの日、あちこちから声をかけられていることだろう。何だかんだで、天女の友達付き合いがいいのは誰も否定せず、加えて、その友達たちも、天女が『幸せになる』ことを心から望んでいるのだ。
 文字通り、『善意の刃の集中攻撃』なのである。


Part.7 ~地底~

「お空。あんた、何やってるのさ」
「あ、お燐! あのねあのね、サンタさんに欲しいものを頼もうと思って!」
「……何その山盛りの手紙」
「欲しいものがいっぱいあって、一個に決められないの!」
 はぁ、とねこみみ娘はため息をついた。
 その友人の反応に、鳥娘は『?』という表情を浮かべた。
「あのねぇ、お空。そもそも、サンタクロースなんていないんだよ? わかってる? そこんところ」
「えー!?
 そんなことないもん! サンタさん、ちゃんといるもん! 去年だってプレゼントもらったもん!」
「いや、あれはさとり様が……」
「お燐だってもらったくせに!」
「それもさとり様の手伝いをしたから……」
「サンタさんはちゃんといるんだよ! そういうこと言ってたら、お燐、今年、プレゼントもらえないよ!」
「いや、だから……」
「むぅ! お燐のばか!」
「お燐のねこー!」
「って、こいし様いつのまに!?」
 いつの間にか自分に対する悪口が一個増えていたのに気づいて、ねこみみ娘は声を上げる。
「お燐はそんなこと言ってちゃ、めっ、だよ!
 お姉ちゃんに言いつけるよ!」
「あ、いや、その……」
「ねぇ、お空。何を頼むの?」
「んーっと、んーっと……こいし様は?」
「私はねぇ……あ~、決められないなぁ。
 よーっし、それじゃ、欲しいものをいっぱい書いて、その中から目をつぶって『これ』って選ぼう!」
「はーい!」
 どうしたもんだか。
 目の前の光景を見ながら頭を悩ませるねこみみ娘の肩が、唐突に、とんとん、と叩かれる。
 振り返った先には少女の姿。思わず声を上げそうになるねこみみ娘の手を引っ張って、少女は部屋を出て行く。
「さとり様」
「ダメですよ、お燐。そんな風なことを言っては」
「まぁ、そうなんだろうけど……。
 けど、さとり様、あの二人を甘やかしすぎですよ。もうそろそろ、二人だってちゃんとした年齢なんだから、ちゃんと由来を伝えた上で、きちんとしたパーティーを……」
「いいじゃないですか。夢があって。
 それに、お燐だって、つい最近までサンタさんを信じていたでしょう?」
 その一言に、ねこみみ娘は黙り込む。
 サンタクロースは実在の人物ではないことを、ねこみみ娘が知ったのは、少女の言う通り、本当につい最近だからだ。
 その理由も、『サンタさんってどんな人なんですか?』と目の前の少女に聞きに行ったことに端を発するものである。
「だけど……何て言うか、騙してるみたいというか……」
 少女がその時、ねこみみ娘に本当のことを話したのも、今、ねこみみ娘が話したのと同じような理由だ。
 もっとも、その時の台詞としては、『お燐は、大人っぽくなってきましたから、そろそろ本当のことを教えてあげますね』という前置きがつくのだが。
「じゃあ、騙さなければいいんじゃないですか?」
「え? それってどういう……」
「本物のサンタクロースがいればいいんですよね?」
 そう言って、少女が取り出した手紙を見て、ねこみみ娘は『えっ』という顔をした。
「これが本物のサンタクロースの手紙なのかはわかりませんけれど、わたし達が演じる『サンタさん』よりは、遙かに彼女たちの夢を壊さなくてすむじゃないですか?」
「……それって……」
「じゃあ、お燐。このお手紙を書くのはあなたに任せますね。わたしは、あの子達が、何が欲しいかを聞いてきますから」
 そう言って、少女はもう一度、部屋の中へ入っていく。
 ドアを隔てた空間から響いてくる賑やかな声を聞きながら、ねこみみ娘は手元の手紙に視線を落とす。
「……どういうことなんだろ」
 当日になればわかるだろう。
 そう思っていても、目の前の違和感は消えない。しかし、少女の言うことに逆らうつもりもない。
 とりあえず、言われた通りにしてみよう。そして、何かわかったら、それはその時にしておけばいい。ねこみみ娘は、そういう結論を、自分の中でつけたようだった。


Part.8 ~命蓮寺~

「ところで、聖」
「はい」
「今日は何の買い物なんですか?」
 遣いは隣を歩く尼僧に尋ねる。
 尼僧は、答えた。
「星はクリスマスって知ってますか?」
「あ、はい。一応は」
「とても夢のある話だと思わない?」
「ええ、そうですね」
「私、何がもらえるかしら」
「…………え?」
 思わず、声を上げてしまう。
 尼僧はそれに気づかなかったのか、立ち寄った店で、『もみの木と、それから、あの辺りの飾りをくださいな』と店員と話を始めてしまった。
「……ど、どうしよう」
 教えた方がいいんだろうか。
 サンタクロースは、そもそも実在しないんですよ。っていうか、『子供のところにしかこないんですよ』って。
 いや、だけど、ここで聖の夢をぶちこわしにしてしまうのはよくない……だ、だけど、聖の年齢で、サンタクロースからプレゼントって言うのも色々……。
「とても楽しみだわ。うふふ」
「……そ、そうです、ね……」
 そして、遣いは、全ての言葉を胸の内にしまうしかなかった。
 言えなかった。
 色々、不可能だった。
 言い換えれば、その勇気がなかったと言うことも出来るだろう。というか、言ったが最後、えらいことになりそうな気がしたのだ。もちろん、それは悪い方向での話である。
 しかし、世の中、悪いことと言うのはその場でちゃんと解決しておかないと、後々、どうにもならないことになるものである。
「靴下に入るサイズのものじゃないとダメなのよね?
 じゃあ、もう少し、大きな靴下を買わないといけないわよね」
「は、はい……」
 一体、何が欲しいんだろう。いや、待てよ。それってもしかして、私が今、この場で聞き出しておけば、真実と嘘を取り繕うことが可能なんじゃないだろうか。
 うん、出来る。それなら何とかなりそうだ。聖は気配を探るのが得意だけど、たとえば雲山とかに頼めば何とかしてくれるはずだ。よ、よーし、聞くぞ。それ、今だ!
「あ、あの聖……」
「一晩中、起きてないといけないわよね。きっと、この寒い時期だもの。サンタクロースさんも、お仕事が大変だろうから。お茶とかを用意しておかないとね」
 ダメじゃん! 見張られてるじゃん! 私たちのうち、誰が変装しても、個性の塊みたいなのばっかりだから、絶対に聖にばれる……あ、でも待てよ……一輪なら大丈夫じゃないかな……。彼女なら、髪型とかを変えれば目立つこともないだろうし……。
「ああ、そうそう。星は何か欲しいもの、ある?
 あるなら、一緒に頼んでおくわよ」
「は……え?」
 なかなかひどいことを考えていた遣いの意識が引き戻されたのは、その時だった。
 尼僧の手元には、一通の手紙がある。それを見て、遣いは『サンタクロースへの手紙……?』とつぶやいた。
「今朝、お寺に届けられていたの。やっぱり、サンタクロースさんは大変なのね。こういうこともまめにやらないと、プレゼントを配りきれないんだわ」
「……は、はあ」
「で。何か欲しいもの、ある?」
 ……どうしよう。
 考えを巡らせる遣いに名案が浮かぶのは、まだ少しかかるようであった。


Part.9 ~いつものメンバー~

「――という話があるらしいぜ」
「ふぅん」
「誰かの悪のりか、それとも本物か。ちょっと興味深いわね」
 神社の境内に、巫女と魔法使いと人形遣い。
 彼女たちは、魔法使いの手元にある手紙を見ながら、お茶を飲む。
「本物のサンタクロースだったら面白そうだな」
「うちのサンタクロースは、お母さんか紫だったからなぁ。んなのいないとは思うけど」
「けど、今まで、こういうのはなかったわよね。
 霊夢、せっかくだから何か頼んでみたら?」
「……ん~、まぁ、早苗に何かもらえるだろうし。私はいいや」
「そうね」
「え、即肯定!?」
「魔理沙は?」
「今年は紅魔館のクリスマスパーティーに乱入して、たらふく食って飲んでくるつもりだから何もいらないぜ!」
「こいつは……」
 ちょっぴり楽しみではあるものの、それほどの大きなネタにするつもりはない。
 特に悪いものでもないのなら、ほったらかしでもいいだろう。それ以外に大切なものもあるのだし。
 そんな感じで、彼女たちのかしましいお喋りは、しばらくの間、続くのであった。
~クリスマス終了のお知らせ~

長らく、皆さんにご愛顧頂きましたクリスマスですが、本年をもって終了となることが決定しました。
サンタクロースが多忙であること、また、聖夜を迎えることで生じる風紀の乱れ、加えてお財布の中身が非常に寂しくなる金銭的事情など、諸々の要素を考慮した上で、当方としては苦肉の判断をせざるを得ませんでした。
今まで、クリスマスを楽しみにしていてくださった方々には誠に申し訳ないと思う所存であると同時に、終了を避けられなかった当方の見識のなさを深く反省いたします。
今年から、24日、25日ともに平日となってしまいますが、皆様におかれましても、本事実を厳粛に受け止めて頂きたい所存であります。
今後の再開の見通しは全く立っておらず、制度自体の検討も、全くの未定でございます。
今まで、クリスマスをご愛顧頂き、誠にありがとうございました。




「蓮子、あなた、何やってるの?」
「クリスマスなんて……クリスマスなんて嫌いよちくしょー!」
「そう。今年は、わたしの家でクリスマスパーティーをやるから来なさいって言うつもりだったけど、残念ね」
「………………………………………」


~クリスマス再開のお知らせ~

先日、クリスマス終了のお知らせを出させて頂きましたが、諸般の事情に伴い、クリスマスを再開することと決定いたしました。
皆様のクリスマスに対する真摯な思いを受け止め、今後とも一生懸命、本行事を盛り上げていく所存であります。


「さあ、行きましょう、メリー! クリスマス、れっつクリスマスー!」
「あなた、相当な暇人だったのね」


 ~本編に続く、かもしれない~
haruka
コメント



1.風峰削除
こんな話にするコメントは一つだ。




続けぇぇぇぇぇぇ!!!!
2.名前が無い程度の能力削除
続きに期待。

真っ赤なお鼻のトナカイさんの真っ赤じゃない部分も真っ赤にしたい(返り血的な意味で)
特に恋人同士のクリスマスを過ごそうとしてる奴はRSZ(理不尽なサービス残業)と言う極上の悪夢を見れば良いよ。修羅場っちまいなぁ。
3.名前が無い程度の能力削除
くりぃすますって何?おいしいの?
4.名前が無い程度の能力削除
さり気ないレイサナが素敵
蓮子サンタ!
5.奇声 from クリスマス充撲滅派削除
続いて欲しいです!
6.名無し削除
さあ、当日版を書く作業に戻るんだ
レイサナ!レイサナ!
7.名前が無い程度の能力削除
今年のケーキ、どこで買おうかな…いや一人で食べるんだけども

続きに期待
8.名前が無い程度の能力削除
続きにも期待してます。

早苗さんに素敵なクリスマスを!
9.名前が無い程度の能力削除
く、くりすます?
なにこれこわい
10.名前が無い程度の能力削除
クリスマス?
ああみんなでパルスィの歌を歌う日のことか
11.名前が無い程度の能力削除
当日のレイサナが楽しみです。

……あれ、Part.4は? 彼岸組は?
harukaさん、文ちゃん、はたてちゃん、是非曲直庁に取材をーっ!