静かだった。部屋に立てかけた時計の音がやけに大きく響いて聞こえる程に。
あと耳に届くのは、衣服の擦れる音と彼女の寝息ぐらいのもの。
机の上で裁縫をする私の直ぐ脇で、魔理沙は穏やかな寝息を立てている。
彼女に頼まれて私はこうして裁縫をしているのだけど、当の本人はすっかり夢の中。
それも仕方ないか。彼女はまだ魔法使いでも魔女でも無い。ただの人間なのだから。
捨食の魔法も捨虫の魔法を持たぬ彼女には食事は勿論、睡眠だって欠かせない。
手を止めて、ふと思う。
まるで人形のように整った魔理沙の顔は何時見ても飽きないと。
私からの羨望の眼差しを受けても寝ている今なら魔理沙の顔が羞恥に赤く染まることもない。
『そんなにじろじろ見るなよ///』
本当なら今頃そう言ってそっぽを向いているところだろう。
じろじろと言うより、まじまじと眺める私。まるでこの部屋だけが世界から切り取られたような……そんな静けさ。
だけど時の流れはゆっくりでも確かに進んでいたようで。目覚めの兆しか、魔理沙の目蓋が僅かに揺らぐ。
彼女が、目を覚ます──
それは私の中の世界が動き出すのと同義だ。魔理沙が夢の中ならば、私の世界もまた夢の中。
だから私は今、夢を見ているの。綺麗で儚い、そんな夢を……。
ねえ……もうちょっとだけで良いの……夢の中に居させて。
彼女の髪をそっと撫でながら私は願う。元気な彼女も勿論大好きだけど。動かない彼女を独り占めするのも同じくらい好きだから……。
だけど夢は何時か醒める物。
ついに彼女はその綺麗な睫を持ち上げた。顔を上げてまだしょぼついた目を擦りながら辺りを見渡す魔理沙とばっちり目があった。
「あれ……? 私……寝ちゃったんだぜ?」
間の抜けた事を言う魔理沙についおかしくなって私は笑ってしまった。
「ふふふっ。ええ、良く寝ていたわ。お早う、魔理沙。」
がしがしと髪を掻きながらぼけーっとした視線をよこす魔理沙。
駄目じゃない、髪をそんな風に乱雑に扱ったら。直ぐにクシを取り出して髪を直してやる。
しゅっしゅっ。
朝日を浴びて輝く金色の髪を梳いてあげると、魔理沙はくすぐったそうに身をよじる。
「ほら、じっとして。」
「んっ……。」
うとうととしながらも短く魔理沙は返事をした。そのあどけない仕草に自然と頬が緩んでしまう私。
「もう、ホント世話がやけるんだから。」
その世話が楽しいのだけれど。嬉々として魔理沙の髪を梳かし続けていたら、彼女は譫言のように言った。
「……きもちいい。」
「……え?」
突然なにを言い出すのかと驚いて手を止めたら、魔理沙はこてんとそのまま私の肩にしなだれ掛かってきた。
「ま、魔理沙!?」
慌て取り乱してしまう私──おかしい、取り乱す程の事でも無い筈なのに……私の声は明らかに上擦っていた。
だけど魔理沙はそんな事は気にせず、うっすらと開けていた瞳をまた閉じてしまった。私の肩に頭を預けたまま……。
「魔理──」
「私……夢見てた。」
良かった、まだ眠ってはいなかったみたい。このまま眠られていては大変だったと、ほっと胸をなで下ろす私。
だけどそれもおかしな話ね。だって私はさっきまで彼女が眠っている事を望んでいた筈で。
だけど高鳴る胸が私に危険信号を送る。平常心では居られなくなるぞ、と。
「ねえ、魔理沙? 起きてるなら離れて? ほら、髪も梳かして上げられないし……。」
再度開けられた魔理沙の瞳に至近距離から見つめられる。すると私の胸はより強く跳ね上がった。
なに……? 一体私は何をされてるの?
説明の出来ないこの胸の以上なまでの高鳴りが、魔理沙のせいだと言う事だけが何故かはっきりとしていた。
そして見つめられること数秒。瑞々しい彼女の唇から飛び出した言葉に私は心臓が飛び出るかと思った。
「……やだ。」
たった一言。このたった一言に狂おしい程の感情が身体中を駆け巡る。ダメよ、魔理沙……それ以上は──!
「気持ちいい……なあアリス……私まだ夢、見てるのかな……。」
子猫のようにじゃれついてくる魔理沙に最早私の我慢も限界だった。
どうやら魔理沙は私の思う以上に魔性の気があるらしい……本物の魔法使いを魅了するなんて普通なら出来ないもの。
ホント、怖いくらい将来が有望ね。
「私が居て……アリスが居て……温かくて……気持ち良くて──」
ちゅっ
魔理沙の顔を上から覗き込むようにして、私はそっと彼女の唇にキスをした。
「──んっ……あり、す?」
私の茨姫はそれでもまだ眠りから目を覚ます事は出来ないらしく、覚醒しきらない瞳で不思議そうに私を見上げていた。
それならばいっそ眠り続けて貰おう。そう、ずっと夢の中に……。
「ええ、そうよ。魔理沙、貴女はまだ夢を見ているの。」
魔理沙の耳元でそっと呟くと、彼女は安心したようにそのまま目蓋を閉じた。
私の肩に身を寄せる彼女の寝顔はとても綺麗だった。つい先ほど、その唇に触れたんだと思うと身体の芯から熱くなる。
きっと貴女は忘れてしまうのでしょう。だけど私は忘れない。そう、決して忘れられないだろう。
今日という日を──それからまた魔理沙が目を覚ますまでずっと私は固まっていた。
あと耳に届くのは、衣服の擦れる音と彼女の寝息ぐらいのもの。
机の上で裁縫をする私の直ぐ脇で、魔理沙は穏やかな寝息を立てている。
彼女に頼まれて私はこうして裁縫をしているのだけど、当の本人はすっかり夢の中。
それも仕方ないか。彼女はまだ魔法使いでも魔女でも無い。ただの人間なのだから。
捨食の魔法も捨虫の魔法を持たぬ彼女には食事は勿論、睡眠だって欠かせない。
手を止めて、ふと思う。
まるで人形のように整った魔理沙の顔は何時見ても飽きないと。
私からの羨望の眼差しを受けても寝ている今なら魔理沙の顔が羞恥に赤く染まることもない。
『そんなにじろじろ見るなよ///』
本当なら今頃そう言ってそっぽを向いているところだろう。
じろじろと言うより、まじまじと眺める私。まるでこの部屋だけが世界から切り取られたような……そんな静けさ。
だけど時の流れはゆっくりでも確かに進んでいたようで。目覚めの兆しか、魔理沙の目蓋が僅かに揺らぐ。
彼女が、目を覚ます──
それは私の中の世界が動き出すのと同義だ。魔理沙が夢の中ならば、私の世界もまた夢の中。
だから私は今、夢を見ているの。綺麗で儚い、そんな夢を……。
ねえ……もうちょっとだけで良いの……夢の中に居させて。
彼女の髪をそっと撫でながら私は願う。元気な彼女も勿論大好きだけど。動かない彼女を独り占めするのも同じくらい好きだから……。
だけど夢は何時か醒める物。
ついに彼女はその綺麗な睫を持ち上げた。顔を上げてまだしょぼついた目を擦りながら辺りを見渡す魔理沙とばっちり目があった。
「あれ……? 私……寝ちゃったんだぜ?」
間の抜けた事を言う魔理沙についおかしくなって私は笑ってしまった。
「ふふふっ。ええ、良く寝ていたわ。お早う、魔理沙。」
がしがしと髪を掻きながらぼけーっとした視線をよこす魔理沙。
駄目じゃない、髪をそんな風に乱雑に扱ったら。直ぐにクシを取り出して髪を直してやる。
しゅっしゅっ。
朝日を浴びて輝く金色の髪を梳いてあげると、魔理沙はくすぐったそうに身をよじる。
「ほら、じっとして。」
「んっ……。」
うとうととしながらも短く魔理沙は返事をした。そのあどけない仕草に自然と頬が緩んでしまう私。
「もう、ホント世話がやけるんだから。」
その世話が楽しいのだけれど。嬉々として魔理沙の髪を梳かし続けていたら、彼女は譫言のように言った。
「……きもちいい。」
「……え?」
突然なにを言い出すのかと驚いて手を止めたら、魔理沙はこてんとそのまま私の肩にしなだれ掛かってきた。
「ま、魔理沙!?」
慌て取り乱してしまう私──おかしい、取り乱す程の事でも無い筈なのに……私の声は明らかに上擦っていた。
だけど魔理沙はそんな事は気にせず、うっすらと開けていた瞳をまた閉じてしまった。私の肩に頭を預けたまま……。
「魔理──」
「私……夢見てた。」
良かった、まだ眠ってはいなかったみたい。このまま眠られていては大変だったと、ほっと胸をなで下ろす私。
だけどそれもおかしな話ね。だって私はさっきまで彼女が眠っている事を望んでいた筈で。
だけど高鳴る胸が私に危険信号を送る。平常心では居られなくなるぞ、と。
「ねえ、魔理沙? 起きてるなら離れて? ほら、髪も梳かして上げられないし……。」
再度開けられた魔理沙の瞳に至近距離から見つめられる。すると私の胸はより強く跳ね上がった。
なに……? 一体私は何をされてるの?
説明の出来ないこの胸の以上なまでの高鳴りが、魔理沙のせいだと言う事だけが何故かはっきりとしていた。
そして見つめられること数秒。瑞々しい彼女の唇から飛び出した言葉に私は心臓が飛び出るかと思った。
「……やだ。」
たった一言。このたった一言に狂おしい程の感情が身体中を駆け巡る。ダメよ、魔理沙……それ以上は──!
「気持ちいい……なあアリス……私まだ夢、見てるのかな……。」
子猫のようにじゃれついてくる魔理沙に最早私の我慢も限界だった。
どうやら魔理沙は私の思う以上に魔性の気があるらしい……本物の魔法使いを魅了するなんて普通なら出来ないもの。
ホント、怖いくらい将来が有望ね。
「私が居て……アリスが居て……温かくて……気持ち良くて──」
ちゅっ
魔理沙の顔を上から覗き込むようにして、私はそっと彼女の唇にキスをした。
「──んっ……あり、す?」
私の茨姫はそれでもまだ眠りから目を覚ます事は出来ないらしく、覚醒しきらない瞳で不思議そうに私を見上げていた。
それならばいっそ眠り続けて貰おう。そう、ずっと夢の中に……。
「ええ、そうよ。魔理沙、貴女はまだ夢を見ているの。」
魔理沙の耳元でそっと呟くと、彼女は安心したようにそのまま目蓋を閉じた。
私の肩に身を寄せる彼女の寝顔はとても綺麗だった。つい先ほど、その唇に触れたんだと思うと身体の芯から熱くなる。
きっと貴女は忘れてしまうのでしょう。だけど私は忘れない。そう、決して忘れられないだろう。
今日という日を──それからまた魔理沙が目を覚ますまでずっと私は固まっていた。
あなたが甘いと言いきる100%を見せてみろよ!(すごいにやけ面
本気の甘さならどうなっちゃうんだよ!
誤 それでもまだまだ甘くないと言い張る作者
正 既に味覚がおかしい作者
甘い。けど、サッカリンのような甘さではなく花の蜜を煮詰めたような心地いい甘さ。
でもとりあえず作者は味覚障害のようなので医者に行ってください。