私は、自分の誕生日を知らない。
この幻想郷で、誕生日を知らない者は意外と沢山居る。
特に、妖怪は。
人間でも、少数。
生まれた時から一人の者、記憶のない者。
様々な理由から自身の生まれた日付を知らないものは数多に存在している。
私もそんな中の一人だ。
私の恋人は、自分の誕生日を知っている。
望まれて生まれてきて、周りの者から誕生を祝われて。
今までどんな人生を歩んできたのかは知らない。
それでも、彼女が幸せに生まれてきてくれた事を私は嬉しく思う。
だから、私だって彼女が生まれたその日を祝いたいのに。
「ねえ、アリス。何で嫌なの?」
「だってフェアじゃないんだもの」
「それは仕方ないじゃない。覚えてないんだもの」
「むう…」
この遣り取りも、もう何度目だろう。
何がきっかけだったかは忘れたが、以前、誕生日の話になった。
その時に、私が誕生日を知らなくて、アリスが誕生日を知っている事をお互い知った。
アリスは少し申し訳無さそうにしたが、私は気にする事はないと言った。
事実、私は自身の誕生日を知らない事を何とも思っていない。
今が幸せだし、全ての事柄が関係して今があるとも思う。
極論だが、私が誕生日を知っていたらアリスにも、お嬢様にも会えなかったかもしれない。
だから、どうでも良い。
それに対してアリスはしつこく食い下がる事もなく、大人しく私の言葉を受け入れた。
それなのに。
「私の誕生日がない事とアリスの誕生日を祝う事は関係ないでしょ?」
「あるわ」
「何が?」
「わ、………」
アリスの飲み込んだ言葉は分かる。
『私だって咲夜の誕生日を祝いたい』だ。
でも、ないものはないのだから仕方ない。
だから、あるものを、アリスの誕生日を祝いたいのにこの子ったら頑固なんだから。
一体誰に似たのだろう。
私は、アリスの誕生日を知らない。
アリスは、教えてくれなかった。
知っていたら無理矢理にでも押しかけて祝うところなのに。
私の自己満足の邪魔をしないで欲しい。
しかし、私がどうにかしてアリスの誕生日を知って無理矢理祝おうとしたら、きっと怒るのだろう。
アリスはそういう子だ。
折角の誕生日に怒らすのは申し訳ない。
結局私はいつまでも首を振らないアリスにしつこく尋ねる事しか出来ない。
「じゃ、アリス。せめて日にちを教えて。心の中で祝ってるから」
「それも嫌」
「強情ねえ」
「あんたもね」
延々続く堂々巡り。
これを終わらすにはアリスが教えてくれれば済む話なのに、一向に教えてくれる気配はない。
仕方ない。
コトの最中に縛って吐かせれば…いや、後が怖いからやめておこう。
「次にそれ言ってきたら怒るから」
「えっ?」
「咲夜しつこいんだもん。嫌なものは嫌なのよ」
どうやら私は聞くだけで怒られてしまうらしい。
確かに堂々巡りは終わるが、こんな終わりは不本意だ。
だって、アリスの誕生日を知っている者はいるわけじゃない。
他の人が知っていて私が知らないのは納得がいかない。
こうなったら最終手段を発動させるしかないか。
「アリス、私良い事思いついたわ」
「は?絶対良い事じゃない気がする」
「いえ、とっても良い事よ」
私はベッドの中で背を向けているアリスの肩を掴みこちらを向かせる。
彼女は眉を少しだけ吊りあがらせ、呆れた表情をしていた。
露になっている白い肩が暗闇の中でも眩しい。
「アリスの誕生日のちょうど半年後を記念日にするわ」
「は?」
「アリスに出会えた私良かったわね記念日」
「長い!ってゆーかそれ何かおかしくない?」
吊りあがっていた眉毛は眉尻が下がり、アリスはますます呆れた表情になった。
言わないでも分かる。
『馬鹿じゃないの?』
彼女の顔からにじみ出ている。
「何がおかしいのか分からないわね。私は貴女の事が好きよ。とても好き。貴女が存在している事を心から嬉しく思うわ。幸せなの。だから、私良かったわね!みたいな。『私に出会えて良かったわね咲夜!』ってアリスが祝ってくれれば良いのよ、半年後に。ほらこれでフェアになった」
にっこりと笑い、アリスの瞳を見つめる。
アリスは何度か瞬きをした後、大きく溜息を吐いた。
「ぜんっぜん意味が分かんないですけど」
「意味は今言った通り。はい決まり。さ、アリス。あなたの生まれた日を教えてちょうだい?」
アリスの柔らかい金髪に指を通し、瞼に口付ける。
綺麗な肌への口付けは気持ち良いし、幸せな気持ちになれる。
そんな私を振り払うようにアリスはいやいやと首を横に振った。
金髪が頬を掠める。
「咲夜はやっぱり分かってない。私の気持ちを分かってない」
「分かってるわ。アリスだって、私が存在している事を嬉しく思ってくれてるんでしょう?だから、私が生まれてきた事を祝いたいんでしょう?でもね、ないものはないの。仕方ないの。理由なんてこじつけにすぎないわ。その日はアリスは私の事を目いっぱい祝ってくれればいいの。ま、そうはいってもさっき言った事は本当。アリスに出会えて私は幸せよ」
「………」
「アリス、好きよ」
重なる、唇。
瞼を完全に下しきらないでうっすらアリスの顔を見ていると、アリスは眉間に皺を寄せた後、諦めたように力を抜いた。
「…結局こうなるのよね。もう良いわ。分かっていた事だもの」
「ふふふ」
「ああ、むっかつくわー」
「そんな怒らないで。可愛い顔がもっと可愛くなるわ」
「待ってそれどういう意味?」
「笑ってても怒っててもアリスは最高に可愛いって事よ」
「褒めてるんだかどうだか」
「ふふふ」
「ばか」
来年はアリスの誕生日を祝う事が出来る。
大好きな人がうまれてきた事を、私が祝う事が出来る。
それが、とても嬉しい。
「咲夜。誕生日楽しみにしてるわ」
「ええ」
「私、我侭いっぱい言うから」
「望むところよ」
「勿論、性的な意味でもね」
「え…」
「嫌なの?」
「の、望むところよ!」
「ふふ、ばか。好き」
ああ、アリスの誕生日が楽しみで仕方ない。
この幻想郷で、誕生日を知らない者は意外と沢山居る。
特に、妖怪は。
人間でも、少数。
生まれた時から一人の者、記憶のない者。
様々な理由から自身の生まれた日付を知らないものは数多に存在している。
私もそんな中の一人だ。
私の恋人は、自分の誕生日を知っている。
望まれて生まれてきて、周りの者から誕生を祝われて。
今までどんな人生を歩んできたのかは知らない。
それでも、彼女が幸せに生まれてきてくれた事を私は嬉しく思う。
だから、私だって彼女が生まれたその日を祝いたいのに。
「ねえ、アリス。何で嫌なの?」
「だってフェアじゃないんだもの」
「それは仕方ないじゃない。覚えてないんだもの」
「むう…」
この遣り取りも、もう何度目だろう。
何がきっかけだったかは忘れたが、以前、誕生日の話になった。
その時に、私が誕生日を知らなくて、アリスが誕生日を知っている事をお互い知った。
アリスは少し申し訳無さそうにしたが、私は気にする事はないと言った。
事実、私は自身の誕生日を知らない事を何とも思っていない。
今が幸せだし、全ての事柄が関係して今があるとも思う。
極論だが、私が誕生日を知っていたらアリスにも、お嬢様にも会えなかったかもしれない。
だから、どうでも良い。
それに対してアリスはしつこく食い下がる事もなく、大人しく私の言葉を受け入れた。
それなのに。
「私の誕生日がない事とアリスの誕生日を祝う事は関係ないでしょ?」
「あるわ」
「何が?」
「わ、………」
アリスの飲み込んだ言葉は分かる。
『私だって咲夜の誕生日を祝いたい』だ。
でも、ないものはないのだから仕方ない。
だから、あるものを、アリスの誕生日を祝いたいのにこの子ったら頑固なんだから。
一体誰に似たのだろう。
私は、アリスの誕生日を知らない。
アリスは、教えてくれなかった。
知っていたら無理矢理にでも押しかけて祝うところなのに。
私の自己満足の邪魔をしないで欲しい。
しかし、私がどうにかしてアリスの誕生日を知って無理矢理祝おうとしたら、きっと怒るのだろう。
アリスはそういう子だ。
折角の誕生日に怒らすのは申し訳ない。
結局私はいつまでも首を振らないアリスにしつこく尋ねる事しか出来ない。
「じゃ、アリス。せめて日にちを教えて。心の中で祝ってるから」
「それも嫌」
「強情ねえ」
「あんたもね」
延々続く堂々巡り。
これを終わらすにはアリスが教えてくれれば済む話なのに、一向に教えてくれる気配はない。
仕方ない。
コトの最中に縛って吐かせれば…いや、後が怖いからやめておこう。
「次にそれ言ってきたら怒るから」
「えっ?」
「咲夜しつこいんだもん。嫌なものは嫌なのよ」
どうやら私は聞くだけで怒られてしまうらしい。
確かに堂々巡りは終わるが、こんな終わりは不本意だ。
だって、アリスの誕生日を知っている者はいるわけじゃない。
他の人が知っていて私が知らないのは納得がいかない。
こうなったら最終手段を発動させるしかないか。
「アリス、私良い事思いついたわ」
「は?絶対良い事じゃない気がする」
「いえ、とっても良い事よ」
私はベッドの中で背を向けているアリスの肩を掴みこちらを向かせる。
彼女は眉を少しだけ吊りあがらせ、呆れた表情をしていた。
露になっている白い肩が暗闇の中でも眩しい。
「アリスの誕生日のちょうど半年後を記念日にするわ」
「は?」
「アリスに出会えた私良かったわね記念日」
「長い!ってゆーかそれ何かおかしくない?」
吊りあがっていた眉毛は眉尻が下がり、アリスはますます呆れた表情になった。
言わないでも分かる。
『馬鹿じゃないの?』
彼女の顔からにじみ出ている。
「何がおかしいのか分からないわね。私は貴女の事が好きよ。とても好き。貴女が存在している事を心から嬉しく思うわ。幸せなの。だから、私良かったわね!みたいな。『私に出会えて良かったわね咲夜!』ってアリスが祝ってくれれば良いのよ、半年後に。ほらこれでフェアになった」
にっこりと笑い、アリスの瞳を見つめる。
アリスは何度か瞬きをした後、大きく溜息を吐いた。
「ぜんっぜん意味が分かんないですけど」
「意味は今言った通り。はい決まり。さ、アリス。あなたの生まれた日を教えてちょうだい?」
アリスの柔らかい金髪に指を通し、瞼に口付ける。
綺麗な肌への口付けは気持ち良いし、幸せな気持ちになれる。
そんな私を振り払うようにアリスはいやいやと首を横に振った。
金髪が頬を掠める。
「咲夜はやっぱり分かってない。私の気持ちを分かってない」
「分かってるわ。アリスだって、私が存在している事を嬉しく思ってくれてるんでしょう?だから、私が生まれてきた事を祝いたいんでしょう?でもね、ないものはないの。仕方ないの。理由なんてこじつけにすぎないわ。その日はアリスは私の事を目いっぱい祝ってくれればいいの。ま、そうはいってもさっき言った事は本当。アリスに出会えて私は幸せよ」
「………」
「アリス、好きよ」
重なる、唇。
瞼を完全に下しきらないでうっすらアリスの顔を見ていると、アリスは眉間に皺を寄せた後、諦めたように力を抜いた。
「…結局こうなるのよね。もう良いわ。分かっていた事だもの」
「ふふふ」
「ああ、むっかつくわー」
「そんな怒らないで。可愛い顔がもっと可愛くなるわ」
「待ってそれどういう意味?」
「笑ってても怒っててもアリスは最高に可愛いって事よ」
「褒めてるんだかどうだか」
「ふふふ」
「ばか」
来年はアリスの誕生日を祝う事が出来る。
大好きな人がうまれてきた事を、私が祝う事が出来る。
それが、とても嬉しい。
「咲夜。誕生日楽しみにしてるわ」
「ええ」
「私、我侭いっぱい言うから」
「望むところよ」
「勿論、性的な意味でもね」
「え…」
「嫌なの?」
「の、望むところよ!」
「ふふ、ばか。好き」
ああ、アリスの誕生日が楽しみで仕方ない。
ばか。好きのコンボに滾る。
外野さんの咲アリいつも最高です!!
待ってますよクリスマスまでにもう四本。
このままガンガン走って下さい。咲アリ万歳!