※できれば『第8回稗田文芸賞・候補作予想メッタ斬り!』からお読みください。
稗田文芸賞、新選考委員に数学者の八雲藍氏
幻想郷文芸振興会は18日、第7回をもって稗田文芸賞選考委員を辞退した八雲紫氏(妖怪の賢者)に替わり、その式神である八雲藍氏(数学者)が第8回より新たに選考委員として加わることを発表した。
新選考委員となる八雲藍氏は数学者として、三途の河幅を算出する計算式を開発したことなどで知られ、著書である『基礎算術入門』『美しき数字の世界』は人間の里の寺子屋で教科書として用いられている。また第3回稗田文芸賞の候補作となった『猫のための方程式』など、数学を題材にとった小説の著作でも知られている。
これまで途中から加わった選考委員は第2回受賞者の西行寺幽々子氏、第3回受賞者の上白沢慧音氏と、ともに稗田文芸賞受賞者だったが、今回受賞経験のない八雲藍氏が加わることについて、幻想郷文芸振興会代表のパチュリー・ノーレッジ氏(作家)は「八雲紫氏からの強い推薦があり、また選考における小説観の幅を広げる意味で、数学者であり科学的知識に基づく小説に造詣の深い八雲藍氏は新たな選考委員に適任と判断しました」と説明した。
八雲藍氏は本紙の取材に対し、「分不相応な大役を仰せつかり緊張している。八雲の名に恥じぬよう、しっかりと選考をつとめあげたい」と語った。
第8回稗田文芸賞の選考会は、師走24日、人間の里の稗田邸にて行われる。
(文々。新聞 霜月19日号 1面より)
第8回稗田文芸賞候補作発表
幻想郷文芸振興会は16日、第8回稗田文芸賞の候補作を発表した。
今回は七作品がノミネート。稗田出版の作品がノミネートされないのは史上初となった。また今回から八雲紫氏に替わり、選考委員に数学者の八雲藍氏が加わることが発表されている。
選考会は24日、人間の里の稗田邸にて行われる。
候補作は以下の通り。
霧雨魔理沙『フェアリーウォーズ』(博麗神社)3回目
門前美鈴『そして大地は眠る』(スカーレット・パブリッシング)5回目
船水三波『大海原の小さな家族』(命蓮寺)2回目
河城にとり『雲の上の虹をめざして』(鴉天狗出版部)3回目
黒谷ヤマメ『土の家』(旧地獄堂出版)初
永月夜姫『月下白刃』(竹林書房)初
富士原モコ『無限の殺人』(竹林書房)初
(文々。新聞 師走17日号 1面より)
博麗霊夢&伊吹萃香の第8回稗田文芸賞メッタ斬り!
近年稀に見る大混戦模様の稗田文芸賞。果たして受賞の栄冠は誰に輝くのか、今年も天下無敵のメッタ斬りコンビが歯に衣着せず徹底予想! 常連候補が念願の受賞を掴み取るのか、それとも新鋭が攫っていくのか? 今年の締めくくりに笑うのは鬼か巫女か!
◆受賞レース予想&作品評価
(◎…本命 ○…対抗 ▲…大穴 評価はA~Eの五段階)
霊夢 萃香
◎B -B 霧雨魔理沙『フェアリーウォーズ』(博麗神社)3回目
-C ◎A 門前美鈴『そして大地は眠る』(スカーレット・パブリッシング)5回目
▲B ○A 船水三波『大海原の小さな家族』(命蓮寺)2回目
-D ○B 河城にとり『雲の上の虹をめざして』(鴉天狗出版部)3回目
○B -A 黒谷ヤマメ『土の家』(旧地獄堂出版)初
-B -B 永月夜姫『月下白刃』(竹林書房)初
-B ▲C 富士原モコ『無限の殺人』(竹林書房)初
萃香 ありゃりゃ、米井恋の『サブタレイニアン・ラブハート』落ちたよ。こりゃパチュリー涙目の展開だねえ。誰が獲っても選評で候補作の選定に文句言うのが目に見える(苦笑)。
霊夢 どうせ上げたってまた慧音や阿求に反対されて終わりでしょ、あれ。
萃香 そりゃまあそうなんだけどさ。小松町子、マーガレット・アイリス、因幡てゐあたりも落ちた。てゐが落ちたのは残念だなぁ。アイリスも今回の作品は良かったのに運がないね。そしてまさかの永月夜姫と富士原モコが候補入り。いやはや(苦笑)。
霊夢 どっちも前にこれよりいい作品あるのに、何もこれで候補にしなくてもって感じだけど。あげる気無いなら候補にしなきゃいいのに。
萃香 ま、それを差し引いても今回は豊作だね。善哉善哉。
霊夢 (予想シートを見て)あれ、あんた対抗ふたつ? ていうか今回は随分評価甘いわね。
萃香 ん、あれからいろいろ考えて、今回は二作受賞予想に切り替えた。あと甘いわけじゃなくて今回は普通に豊作なんだってば(笑)。
霊夢 ふうん。まあいいけど、どれから片付ける?
萃香 それじゃまあ、魔理沙からいこうか。
◆霧雨魔理沙『フェアリーウォーズ』(博麗神社)3回目
予想…霊夢◎ 萃香- 評価…霊夢B 萃香B
萃香 霊夢は本命つけてるね。『フェアリーウォーズ』はチルノと三月精の喧嘩をモデルにした妖精の青春バトル小説。突然やって来た三匹の妖精に住処を追われた主人公が、弱っていく友達のために住処を取り戻そうと三匹に戦いを挑む話。第三回で落ちた『星屑ミルキーウェイ』みたいなストレートなエンタメ路線に戻してきたね。
霊夢 まあ魔理沙は『星盗人と鏡の国の魔女』みたいな変な話より、こういうストレートなのが向いてるわよね。敵の三匹の方にも事情があって、最後はお互い根本の原因を何とかするために共闘して爽やかに終わるし、悪くないんじゃない? 妖精にしちゃ真面目すぎる気はするし、どっちももうちょっと融通利かせなさいよとは思うけど。
萃香 アイリスのタイトルは毎回忘れてるくせに魔理沙のはちゃんと覚えてるんだ(笑)。
霊夢 あによ?
萃香 いや別に。いい歳の人間や妖怪じゃ気恥ずかしくて言えないような、ものすごく真っ直ぐなテーマを妖精の話って形にすることで真っ向から書いた作品だよね。でも、霊夢はなんで本命? 選考委員の票読みする限り割と微妙な気はするけど。
霊夢 文と藍、阿求が推すでしょ。あと慧音もありうると思うけど。
萃香 え? 文はともかく……いや、藍も子供好きだからあるか。藍は『雲の上の虹をめざして』に行くと思うけど。でも阿求? 大の妖精嫌いじゃなかった?
霊夢 こういう割と真面目な話なら妖精でもいけるんじゃない。阿求が妖精嫌いなのってだいたい迷惑な存在だからだし。友達を守るために戦う、ってメンタリティは妖怪よりも人間寄りだから慧音も好きなんじゃない?
萃香 慧音はどうせ富士原モコ一点推しでしょ今回は(苦笑)。んー、私は今回はバトルものは門前美鈴があるから、票はあっちに流れると思うなぁ。慧音もモコ以外を推すとすれば、『華国英雄伝』推した過去を踏まえればあっちでしょ。
霊夢 あっちは私、あんまりピンと来ないんだけど。
◆門前美鈴『そして大地は眠る』(スカーレット・パブリッシング)5回目
予想…霊夢- 萃香◎ 評価…霊夢C 萃香A
萃香 いやいや傑作じゃんさー。門前美鈴もとうとう五回目のノミネートだし、獲らせるにはうってつけのタイミングだと思うよ。今までで一番いい作品だし。
霊夢 そう? 私はなんだっけ、あの三代記の方が好きだけど。
萃香 第四回の候補だった『紅の血脈』? そういや割と推してたね霊夢。なんか門前美鈴に関しては霊夢と意見が食い違うなぁ(苦笑)。
霊夢 というかね、地底に行って大地の神をぶん殴って大地震を食い止めるってこれ、なんか前にそんな異変があったような気がするんだけど。
萃香 あの異変がモデルなのは間違いないんじゃない? 確か本人は当事者じゃなかったはずだけど。いやでも今までの門前美鈴作品の中じゃ私は一番好きだよ。拳ひとつで何でも守れると思っていた主人公が、地震で大切なものを傷つけられて誇りを失って。これから来る大災害は自然の摂理、黙って受け入れろって言う大地の神を全力でぶん殴りにいく。やー、拳で守れなかったものをあくまで拳で守ろうとするこの姿勢、私は大好きだね。そんで守りきっちゃう話にするあたりが最高じゃん。
霊夢 まあ、神様ふんづかまえてタコ殴りにする場面は確かに痛快だけど。でもその後、大地震の原因になる大地の歪みまで拳ひとつで何とかしちゃうのはどうなのよ? いくら神様の力借りてるとはいったって、この主人公いちおう普通の人間でしょ?
萃香 信念を込めた拳は月だって砕くんだよ。ご都合主義だなんて言わないでほしいね。
霊夢 そういえばあんたって力馬鹿の鬼だったわね。
萃香 ま、そんなわけで多少願望も入ってるけど、二作受賞でいくなら『フェアリーウォーズ』『月下白刃』と三作あるバトルもの中からこれと、残り四作からもうひとつになると思う。そういうわけで本命。それが一番バランスいいからね。
霊夢 バランスとか考えるのかしらねえ。私はあんまり推しそうな顔が浮かばない気がするんだけど。ま、あんたと好みがよく似てる文は推すのかしら?
萃香 そうであってほしいなあ。
◆船水三波『大海原の小さな家族』(命蓮寺)2回目
予想…霊夢▲ 萃香○ 評価…霊夢B 萃香A
霊夢 で、あんたの対抗その1がこれね。難破した船に乗り合わせた見ず知らずの四人が助け合って生き延びようとする話。まあ、海がどんなものか想像し辛いのがあれだけど、作品としちゃいいのは認めるわ。
萃香 シチュエーションはサバイバル小説なんだけど、タイトル通り中身は疑似家族小説だよねこれ。生き延びた四人はそれぞれ深刻な問題を抱えてて、でも船の難破でとりあえずそんなことより生き残ることを考えなきゃいけない状況に放り込まれて。見知らぬ相手と助け合っていくうちに、少しずつ自分の問題に答えを出していく。まあ、ありがちといえばありがちな家族小説ではあるけど、大海原の真ん中で、釣った魚とポケットに入っていた焼酎でささやかな宴会を開く場面がすごくいい。
霊夢 相変わらず美味そうに酒飲むシーン好きねえあんた。
萃香 酒は命の源だもんさ。船水三波の美点はやっぱり、見ず知らずの相手と繋がっていく様を書くのが上手いことだよね。『幽霊客船はどこへ行く』の艦長と探索チームの絆もそうだし。冒険小説の書き手として期待してたけど、むしろこういう疑似家族ものの方が向いてるのかも。というわけで、私の理想は『大地』と『大海原』の二作受賞。
霊夢 『大地』はともかく、こっちは私も受賞しても文句は無いわ。ところどころご都合主義なのは気になるけど、良い話だし。でも、文章がねえ。
萃香 そこはどうか目を瞑ってほしいなあ(苦笑)。前回の選考でも慧音に粗雑な文章とか散々に言われてたけどさ。文章力コンテストじゃないんだから。
霊夢 慧音とパチュリーがどう出るかしらね。阿求、幽々子あたりは好きそうだけど。
萃香 幽々子にはきっと宴会の場面の素晴らしさを理解してもらえると信じてる(笑)。
◆河城にとり『雲の上の虹をめざして』(鴉天狗出版部)3回目
予想…霊夢- 萃香○ 評価…霊夢D 萃香B
萃香 もうひとつの対抗がこれ。ある日空から落ちてきた金属の破片を、ロケットの残骸だと突き止めて、その破片を手がかりにロケットを再現して宇宙を目指す冒険SF。……って、霊夢なんでそんな評価低いのさ。いい作品じゃん。
霊夢 ロケットはどうもいいイメージが無くてねえ。それは別としても、小難しいところをかっ飛ばして読めば、途中まではわりと清々しい話なんだけど……このラストはどうなの? 地上に居場所がないから宇宙を目指して、その中でようやく仲間ができたのに、最終的にひとりで辿り着いた宇宙は果てしなく孤独で、ひっそり誰にも知られずに死んじゃっておしまいじゃ救いようがないじゃない。
萃香 いやいやいや霊夢、このラストは、宇宙船の窓から見たスターボウを冒頭の地上で見た虹と重ね合わせることで、地上も宇宙もみんな繋がってて、この世界の全てが自分の居場所だって気付くハッピーエンドだよ。「雲の上にも虹はあったんだ。」この一文が全ての象徴じゃん。
霊夢 その後に「だけど虹には、決して手は届かない。」って続くのに?
萃香 それは絶望じゃないと思うんだけどなあ。明言されてはいないけど、主人公は確かに宇宙でこのまま死んじゃったんだと私も思うよ。でも、そこが自分の居場所だったって気付けて終わりならそれはハッピーエンドじゃない?
霊夢 真っ暗闇の中で、ひとりきりで死ぬのがハッピーエンドってのは、人間としちゃあんまり共感したくないわねえ。そうだとしても、そんなことに気付けずにこんなところに来てしまって、ひとりで死ぬなんて、っていうバッドエンドにしか思えないんだけど。どうも後味が悪くて評価する気になれないのよね。
萃香 なんでそれでこないだ候補入り予想したのさ(苦笑)。私は門前美鈴に獲って欲しかったから敢えて外したのにー。
霊夢 こないだの時点じゃ読んでなかったのよ。
萃香 ああ、そういう(苦笑)。うーん。私は完全にハッピーエンドだと思って読んでたけど、そうか、そういう受け取り方もあるのか。そのへん選考委員がどう受け取ってくれるかなあ。特に阿求とか慧音。ああ、そういう意味ではパチュリーが気に入ってくれるかも、これ。前にも『川の流れの果てる先』推した縁もあるし。
霊夢 パチュリーが推すのは最近だと自爆フラグじゃない?
萃香 そいつは言わないでおくれよう(苦笑)。まあ少なくとも藍は推してくれるはず。そもそもこういうSF方面の作品に理解のある選考委員を入れようってことで藍が入ったわけだし。上手いこと慧音や阿求を説得してくんないかなぁ。
◆黒谷ヤマメ『土の家』(旧地獄堂出版)初
予想…霊夢○ 萃香- 評価…霊夢B 萃香A
霊夢 さて、今回の伏兵。
萃香 というか今回の初候補組は全員まさかの候補入りなんだけどさ(苦笑)。『土の家』は住宅の改築を専門に請け負うリフォーム業者の主人公が、色んな家の改築をしていく話。
霊夢 私は対抗。候補作の中ならこれが一番好きね。神奈子が選考委員にいれば本命打ったんだけど。
萃香 文々。新聞の書評コーナーで絶賛してたもんね。ちょいと引用しようか。「住宅のリフォームを通して、コミカルな筆致で描かれる《家》の再生の物語は、しかし同時に地底社会の抱える様々な問題を浮き彫りにしていく。忌み嫌われた力を持ち、他者を傷つけて生きてきながらも、決して孤独ではいられずに背中合わせで寄り添う地底の妖怪たちの抱える想いを、彼らの暮らす土の家の閉塞に見いだし、改築という解放によって《地底という家族》の物語へと昇華する。その爽やかな絆の形が、優しい読後感とともに胸を打つのである」。
霊夢 でもそれってわりと深読みじゃない? 単純にリフォーム業者の仕事のディテールやトラブルの解決を楽しむ仕事小説でしょ、これ。
萃香 や、私は神奈子に賛成。地底の連中の姿や問題はさすがによく書けてると思うよ。まあ、私が地底にいたのはもうけっこう前だけど、あんまり変わってないねえ。
霊夢 ああ、そういやあんた、うちに来る前は地底に住んでたんだっけ。
萃香 その前もちょくちょく地上にゃ顔出してたけどね。霧になってだけど。
霊夢 でもあんた、評価の割に無印なのね。文とか幽々子が好きそうな話じゃない?
萃香 んー、そうなんだけど、霊夢の言うように単純に仕事小説として読まれちゃうとちょっと難しいかなーと思って。地底世界の背景知らないと、普通にコミカルな話で終わっちゃうからさ。『うちの上司が横暴なんですけど。』とか『幸運エスケープ』とか『そして、死神は笑う。』とか、軽いノリの作品は今のところ獲ったためしが無いし。
霊夢 そうねえ。引きこもりを家から出すために家ごと建て直す話とか、酔うと壁壊しちゃう鬼のために壊れない壁を作る話とか笑えたし、私としちゃ魔理沙が駄目ならこれに獲ってほしいんだけど。
萃香 私はゴミ屋敷のゴミを使って増築しちゃう話が好きだなぁ。でも選考委員に地底の事情に詳しそうなのが文ぐらいしか居ないから難しいだろうね。まあ、今回は運が悪かったかな。
◆永月夜姫『月下白刃』(竹林書房)初
予想…霊夢- 萃香- 評価…霊夢B 萃香B
萃香 永月夜姫と富士原モコの候補入りは腰が抜けたね。いや確かにあるかもしれないとは言ったけど、なんで今頃候補にするのさ(笑)。
霊夢 全くよね。せめて永月夜姫なら『あの月の向こうがわ』、富士原モコなら『屍は二度よみがえる』で候補にしておきなさいよっていう。
萃香 ほんとにねえ。いや、『月下白刃』だって悪くはないよ。月夜になると人格が入れ替わる美貌の剣士が、血に飢えた己の半身を滅するために彷徨する剣豪小説。ネタはそんな目新しくないけど、さすがに文章も展開も上手い。
霊夢 温厚な人格と殺人鬼の人格、どっちが本性なのかってミステリ的にも読めるし。
萃香 剣戟の描写も、一太刀の交錯に神経を張りめぐらせる様がよく書けてるし、ほんと何書かせてもそつなくまとめるなぁ。ただ、永月作品の中でとりたてて良い作品かっていうと微妙なところ。安定はしてるんだけど。
霊夢 他のが候補になった上でこれならまだしも、初候補でこれだと受賞させるには決定打に欠けるでしょ。これにあげるなら先に『白狼の咆吼』にあげなさいよってところだし。
萃香 あと、慧音が反対するよねえ(苦笑)。ただでさえ書評とかでも永月作品にはいつも厳しいし。
霊夢 私情持ち込みすぎなのよ。
萃香 まあ書評なんてある意味じゃ私情の塊みたいなもんだけどさ(苦笑)。
◆富士原モコ『無限の殺人』(竹林書房)初
予想…霊夢- 萃香▲ 評価…霊夢B 萃香C
霊夢 で、こっちも今更の初候補。
萃香 だから前回『屍は二度よみがえる』で候補にしておけば……。『無限の殺人』は、何回も殺され続ける不死者の謎をめぐるミステリ。死なない人間を殺し続ける理由と、不死者がわざわざ毎回殺されてあげる理由、ホワイダニットを主眼にした作品だね。
霊夢 こないだも喋ったけど、妹紅の作品の独特のロジックは結構好きよ。感覚的に納得できるかは別として、面白い思考回路だと思うし。
萃香 でも、ミステリとしては完成度でもケレン味でも『屍は二度よみがえる』の方が上だよねえ。いや、選考委員があっちを読んでる保証は無いけどさ。
霊夢 とか言って、一番評価低いくせに大穴つけてるのね。
萃香 まあ、慧音が推すでしょ(笑)。可能性は薄いとは思うけど、二作受賞なら慧音のごり押しで通るかもしれないし。『雪桜の街』が阿求のごり押しで獲ったみたいにさ。
霊夢 確かにそんなに強く反対する顔も浮かばないけど。阿求あたり? 不死者の話に人間味が薄いとかトンチンカンなこと言い出さなきゃいいんだけど。
萃香 しかし、この中でこれに獲らせちゃうのは他の作品にとってもモコにとっても割と不幸だと思うなぁ。あげるならやっぱりその時点の代表作にあげたいよね。
霊夢 ま、何にしても慧音の動向が今回は鍵になりそうねえ。
◆ まとめ ◆
萃香 私の希望はやっぱり『そして大地は眠る』と『大海原の小さな家族』の二作受賞。現実的に考えても充分あると思う。『サブタレイニアン・ラブハート』が落ちた以上、パチュリーが意地張りそうな作品はないし。慧音がスパッとモコを諦めてくれればなんだけど(苦笑)。
霊夢 永月夜姫と富士原モコは顔見せでしょ。富士原モコは次あたり、稗田出版で出した作品で獲らせて万々歳って腹づもりじゃない?
萃香 まあねえ。『フェアリーウォーズ』と『土の家』がどう評価されるかはひとつポイントだね。妖精と地底、どっちも今の選考委員とは縁の薄い世界の話だから、それぞれどういう視点で評するかはわりと見物。
霊夢 やっぱり今回は票読みが難しいわねえ。幽々子はたぶん『土の家』か『大海原の小さな家族』に行くでしょうけど。藍はやっぱり『雲の上の虹をめざして』?
萃香 じゃない? 文は『フェアリーウォーズ』と『そして大地は眠る』推しだと思うな。『土の家』も好きだと思うけど。慧音はモコが駄目だと早めに諦めてくれれば『そして大地は眠る』に行くと思う。第六回の『華国英雄伝』のこともあるし。
霊夢 『フェアリーウォーズ』はもうちょっと票集める気はするけどねえ。
萃香 やー、阿求が反対して終わりじゃないかなあ。阿求は『大海原の小さな家族』が好きだと思うよ。となるとあとはパチュリー次第かな。いっそ三作受賞にならないかなあ(笑)。
霊夢 アレの落選に抗議して選考ボイコットとかしなきゃいいんだけど。
萃香 さすがにそれは大人げない(苦笑)。
(文々。新聞 師走20日号 3面文化欄より)
第8回稗田文芸賞に河城にとりさんと黒谷ヤマメさん
第8回稗田文芸賞は24日、人間の里・稗田邸にて選考会が行われ、河城にとりさんの『雲の上の虹をめざして』(鴉天狗出版部)と黒谷ヤマメさんの『土の家』(旧地獄堂出版)の二作品が受賞作に決まった。二作受賞は第4回以来二度目。授賞式は来月5日、妖怪の山の麓にて行われる。
パチュリー・ノーレッジ氏が体調不良により欠席・書面解答となった選考会の模様について、今回から選考委員となった八雲藍氏は「委員の間で票が割れ、一作一作について長い討議が行われることになりました。あまりの混戦に一時は受賞作なしも検討されましたが、結局三度に渡る投票の結果、今回の二作受賞という形になりました。初めての選考会でしたが、これほど疲れるものとは思いませんでした。阿求氏は中座することになりましたし、パチュリー氏が欠席されたのは正解だったかもしれませんね」と少々疲れた様子で語った。
河城にとりさんは、妖怪の山に暮らす河童のエンジニア。SF作家としても活動しており、稗田文芸賞は今回が三度目のノミネートだった。『雲の上の虹をめざして』は、空から降っていた金属片を元にロケットを作り上げ、宇宙を目指すSF小説。
黒谷ヤマメさんは、地底の旧都で建築業を営む土蜘蛛。『土の家』は小説デビュー作で、地底の家屋のリフォーム業者の仕事を通して、地底の妖怪たちの姿を描いた短編連作。
選評は来月15日発売の『幻想演義』如月号に全文掲載される。
河城にとりさんの受賞のことば
「ひゅい!? 私が稗田文芸賞!? え、なになに、ドッキリ? いやだって私前にも二回落ちたし……マジで? ガチで? え、ちょ、どどどどうしよ、どうすればいいのー!? ねえちょっともみっち、なに、私人間の里行かなきゃだめ? 授賞式とかパーティとかあるんでしょ? 人間いっぱいのところに行くとか無理ー! 絶対無理ー! ……え、授賞式はうちの近所でやるの? な、なーんだ、それならそうと早く言ってよー。
え、賞金の使い道? そういやいくらだっけ? 五十貫文!? わわわ、そんだけあればあれも作れるしこれも作れるし……うわーどうしよどうしよねえ(以下略)」
黒谷ヤマメさんの受賞のことば
「私が受賞? ほへー、地上の連中に評価してもらえるなんて意外だねえ。いやまあ、評価はありがたく受け取っておくけどさ。おーいキスメー、なんか賞獲っちゃったってさ。どうしよっかね? いやそんな大したもんじゃないよ、たはは。
賞金? え、そんなに貰っちゃっていいの? んー、じゃあまあ、姐さんやお燐誘ってぱーっと飲みに行って、あとは我が家の修繕にでも使おうかな?」
《選評》
疑問の残る候補作選定 パチュリー・ノーレッジ
今回、選考会の直前に重い喘息の発作を起こしてしまい、やむなく選考会を欠席することとなってしまった。年に一度の大役であるから、多少の無理をおしてでも行くべきであったかもしれない。しかし今回、候補作の質以前にその選出に対して疑問に思うところがあり、体調不良をおしてまで選考会に行かねばならぬ――という使命感に私が欠けていたのは事実だった。
候補作の選定は幻想郷文芸振興会の下読み委員の仕事であって、本来選考委員が口を差し挟むことではない。稗田文芸賞の選評で、候補にすら挙がらぬ作品について論ずるのも不適当であろうから、これ以上の言及は避けるが、いずれにしても今回は、私個人としての受賞作は候補となった七作の他にあった、ということだけを附記しておく。
受賞作について語ろう。選考会は欠席となったが、書面解答という形で評価は選考会に提出させてもらった。私が一番に推したのは『土の家』である。既に文々。新聞紙上の書評において八坂神奈子氏が喝破したごとく、このコメディ調の仕事小説の裏にあるのは、地上を追われ地底に暮らす妖怪たちの、陽気でありながら屈折した感情と、近付きながらも決定的に互いに線を引き合う関係性が孕んだ地底社会の歪さである。「大酒飲みと壊れた壁」が描く行き場のない破壊衝動、「嘘つき娘と妬み姫」に仮託された地上へのやり場のない苛立ち。それを個人の《家》の問題に一度ミニマイズすることで、《個人》―《家》―《社会》―《世界》という構造をシームレスに接続し、《個人》の物語をそのまま地底と幻想郷という《世界》の物語として描き出した構成は見事の一語に尽きる。仮に地底の社会の背景に詳しくなくとも、コミカルな仕事小説としての愉しみにも満ちており、無事に受賞となったのは喜ばしい。
もう一方の受賞作である『雲の上の虹をめざして』も推した。第六回で私の強く推した『川の流れの果てる先』と対を為す作品である。果てのある世界を描いた前作に対して、果てのない世界の形を描いた本作の結末はおそらく選考会でも意見の割れたところであろうが、『川の流れの果てる先』の結末と引き合わせてみれば、この背反は作者自身の未知なる世界への揺れ惑う思いそのものであろう。まだ見ぬものへ確固たる意志を持つことは視野を狭め、世界を狭める。故に本作に滲む惑いを私は彼女の小説世界のさらなる広がりへの一歩と見なしたい。
その他の作品については簡単に。『フェアリーウォーズ』と『そして大地は眠る』はどちらも痛快で質の高い娯楽小説であり、他の回であれば受賞作として推されたかもしれないが、今回はいささか運が悪かったであろう。『大海原の小さな家族』は愛すべき佳作だが、同じテーマをより深く描き出した『土の家』には及ばない。『月下白刃』は作者の安定した力量を示す一作であるが、敢えて今これを受賞作として推すこともあるまい。『無限の殺人』は作者の味である独特の論理が、パターンの順列組み合わせに成り下がりつつある懸念をおぼえた。もう一歩、新たな視点を切り開いてもらいたいところである。
総じて今回の候補作の水準は高く、結果として私の推した二作品が受賞したことは素直に喜ばしい。だが、最大の本命が俎上にすら上げられなかった点に、いささかの空しさが残る。既存の価値観に風穴を開ける力を持った作品がまた候補に挙がってくることを願って止まない。
時間無制限の大宴会 西行寺幽々子
このところよく選考が揉めるけれど、今回は本当に長い選考だったわ。出された作品はどれもとても美味しかったのだけど、時間無制限でいつまでも料理が出続ける宴会という感じで、だんだんいつ終わるのか不安になってきちゃうほど。四作品まで絞ってから、最終的に二作を決定するまでどれだけかかったのかしら? さすがに疲れたわ。
私が今回推したのは『フェアリーウォーズ』と『大海原の小さな家族』のふたつだったのだけれど、どちらも最後の投票で落ちてしまってちょっと残念。
『フェアリーウォーズ』は汗を拭いながら食べる熱々のラーメンみたいで、寒いこの時期に心からあったまる作品だったわ。ちょっと融通の利かないところがあっても、大切なもののために一生懸命な姿を見ると応援したくなってしまうのが人情というもの。なんだか身近な顔を思い出しながら、子供の成長を見守るような気持ちで楽しめたわ。
『大海原の小さな家族』は、これも冬場に美味しいほかほかのおでんみたいな作品。具材はどれもしっかり味が染みていて、ぴりりと効いたからしの風味が味全体を引き締めていたわ。大根、はんぺん、たまご、がんもどき、それぞれ全然別の食材がお鍋の中でおでんという形で一体化した瞬間、それを箸でつつきながら飲むお酒の美味しいこと。食材と食材が鍋の中で不思議な調和を響かせるように、人と人の出会いも不思議な縁を紡ぐ、素敵な作品だったわ。
受賞作になった『土の家』は、初めて読んだときには似通った味わいの作品が続いてちょっと平板かしらと思ったのだけれど、他の委員が指摘した作品の背景を知ると、なるほど隠し味の利いた作品だと理解できたので受賞に異議はないわ。選考するならもう少し私も勉強をしておかなければいけないわね、と反省。
もう一作の『雲の上の虹をめざして』は、作品の後味を巡ってどう評価するかで大揉め。私はどちらとも取れる結末、ということでいいと思うのだけれど……。主人公の見上げた虹のように、そこにあるか無いかは定められない、ということでいいのではないかしらね。
それ以外の作品は、どれも美味しいけれど、あとひとつ隠し味があれば、というところかしら。ほんの僅かな心配りの差が決定的な味わいの差になってしまうこともあるのね。
価値観の相違 上白沢慧音
今回の選考は、私にとってはただ疲れるばかりであった。本命と推した二作品がいずれも早い段階で落選が決まってしまい、最終投票に残った四作品はいずれも推しかねたからである。選考が長時間に渡り、阿求委員が体調不良を訴えた段階で受賞作なしも提案したが、一昨年に当の私が他の委員や関係各位にかけた迷惑を考えると、それ以上強くは出られなかった。
私が最初に本命と推したのは『無限の殺人』であった。不死者を殺し続けるという矛盾した行為と、繰り返される死を受け入れる不死者の、およそ常人には理解しがたい冷徹な論理が、しかし同時に生と死の理を外れてしまった者の内包する哀切を巧みに浮かび上がらせた作品である。終わることのない生、果てしなく続く時間に取り残される者の孕む狂気にも似た絶望と、そこに与えられる安らぎという刹那の救済。永遠に囚われ続ける苦痛を文字に刻みつけた、ミステリーという枠を超える力作であると強く主張したが、選考会では孤立無援、他の委員からの援軍は望みえず、二度目の投票で落選となってしまった。もう一作の本命として○をつけた、痛快なる冒険小説である『そして大地は眠る』も同じく二度目の投票で落選となり、実質的に私にとって今回の選考会はそこで終わってしまったも同然であった。
最終投票に残ったのは『フェアリーウォーズ』『大海原の小さな家族』『雲の上の虹をめざして』『土の家』の四作品であったが、私がこのいずれも推しかねたのは前述の通りである。『フェアリーウォーズ』は子供向けの読み物としては充分であろうが、作品に通底する倫理観、正義感が一面的に過ぎるきらいがあり、大人の鑑賞に堪えうる作品と評価するには不足を感じた。『大海原の小さな家族』は目につく粗雑な文章は減ったものの、まだ情報を伝達するものとしてしか機能しておらず、小説としてのふくらみには欠ける。『土の家』は確固とした主題を内包した作品であろうが、それを伝える手段がこのような作風で良いのであろうか。この主題であれば、このような形ではなくもっと真摯に向き合い描き出すべきではないのか。
『雲の上の虹をめざして』は、私は×をつけた。一昨年の候補であった『川の流れの果てる先』と同様、作者の狭量な世界観と逃避願望の投影された物語には共感しがたく、結末にも承伏しがたい。この結末は主人公の世界の肯定であるように思わせて、実体は逃避の終着点に過ぎず、結論を放り投げたも同然である。最終的には多数決に従い受賞に同意したが、作者にはこの受賞によって狭量なる己を肯定しきることなく、視野を広げ自らの世界と向き合ってもらいたい。
受賞作を出すことは選考委員の使命である。混戦が予想され、一昨年の反省からそのことを強く胸に刻み臨んだ選考会だったが、他の委員との価値観の相違と、その受容の難しさに己の器の小ささを痛感することとなった。しかし、今回の選考で私の感じた疲労は、同時に私たち選考委員の価値観によって受賞と落選に分かたれる候補作家たちの感ずる疲労と相通じるものであろう。これもまた、選考委員である以上避けては通れぬ道である。せめて己の選評に胸を張れるだけの確固たる価値観を、己の中に保持し続けていたい。
合理と非合理、予想と証明 八雲藍
愛情や敬意を証明する数式が存在しないように、小説の価値を証明する数式もまた存在しない。個人のレベルであれば、ある程度の論理構築はできよう。しかしその論理はあくまで個人的な論理であって、1+1が人によっては3であったり10であったりする。小説において、1+1が2であることの正しさは自分自身に対してしか証明できない。
だとすれば、絶対的な論理の存在し得ぬ小説について、数人の合議によって証明不可能な価値を定めるという行為は甚だ不合理であると言わざるを得ない。今回、稗田文芸賞の選考委員を務めるよう主から命じられたとき、私はそのように主張した。それに対して主はこう答えられた。「稗田文芸賞は証明ではなく予想なのよ。貴方は橙の喜びそうな本を予想して買う。それを橙が喜ぶことで証明が為される。それと一緒」と。では私は選考委員として誰に対して予想を提示すれば良いのか。主曰く――「それを答えるには、余白が狭すぎるわ」。
さて、七作品が候補となった選考会は、小説の論理の多様性を証明するかのごとく、選考委員の間で票が割れることとなった。第一回の投票結果が出た際の、射命丸委員の「やれやれ、今年もですか」という歎息が印象深い。最終的に三度の投票を経て二作品の受賞へと絞られたが、それぞれの作品への、委員それぞれの論理に基づく賛否の応酬は大変興味深いものであった。同じ作品と向き合っても、かくも異なる論理によって評価が分かたれる。数学ではあり得ない不確実性の場に私ははじめ当惑したが、主より任じられた大役である。八雲の名に恥じぬよう務めねばならないと思い、私は私の論理によって一作品を受賞作として推した。今回二作受賞の片割れとなった『雲の上の虹をめざして』である。
河城にとり氏の作品は、エンジニアとしての知識を活用した論理的な技術描写と、相反する非論理的な未知なるものへの情熱が不可分として共存する。技術描写の確かであることは今は論ずるまでもあるまい。問題となったのはその非論理的な情熱――見果てぬ夢と、その行き着く先という予想に対しての選考委員の個々の証明であった。
本作の主人公ははじめ、孤独であるが故に宇宙を目指しロケットを作り始める。その過程で協力者たちが集い、彼女の孤独は癒されたかに思える。しかし一人乗りのロケットが完成したとき、協力者たちを振り切って、彼女はひとり孤独な宇宙へ向かう。孤独であるが故に宇宙を目指したのであれば、この結末は論理的ではない。それ故にか、ある委員は作者の狭量さと逃避願望の充足に過ぎぬとして本作を否定した。それもまたひとつの証明であろう。しかし、本作の主題はその不合理さにこそある、と私は読む。そもそも宇宙を目指すという行為そのものが論理的ではない。情熱とは本来論理とは離れたところにある。合理的な技術開発によって非合理を目指す。その結果としてこの結末があるとすれば、それはまさしく合理と非合理の狭間での作者の煩悶に他ならない。この物語は逃避の物語ではなく、あるがままにしかない世界の中で、立ち止まれぬ者の苦悩を描いた前進の物語なのだ。その結果がいかなるものであれ、彼女は目指した宇宙へ辿り着き、そして虹を見た。宇宙で虹が見えることには論理的な理由がある。しかしその虹は非論理的な情熱の象徴でもある。決して手の届かぬその背反こそが、それでも前進し続けなければならぬという意思表明であるはずだ。
紙幅が尽きた。残る余白で他の作品に充分な論評を加えることは難しいので、敢えてここで筆を置くことにする。選考委員として、私は『雲の上の虹をめざして』が受賞に値するという予想を立てた。この証明は、これから本作を読まれるあなた方へと委ねたい。
開かれた世界へ 射命丸文
二年前の間欠泉事変以来、これまで存在自体がつまびらかでなかった地底社会と幻想郷の関係も、徐々に開かれつつあります。とはいえまだまだ、相互理解には遠いというのが現状でありましょう。記者として取材を試みたところ、地底社会は地上とはまた異なる独特の論理が支配しています。その論理が相互理解を阻む足枷であるかもしれません。
さて、今回は久々の二作受賞となりましたが、私が推したのはその片方である『土の家』です。大変珍しいことにパチュリー委員と意見の一致を見、彼女が選考会に来てくれていればと思った次第ですが、それはさておき。本作の主眼は、おそらくパチュリー委員が先んじて語ってくださっているでしょうが、地上の人間や妖怪には馴染みのない地底社会の姿を明瞭に活写した点にあります。フィクションではありますが、地底の妖怪の暮らしぶり、その社会の様子を知るための手がかりとしても充分な作品でありましょう。無論のこと、娯楽作品としての楽しさはこの射命丸文が保証します。引きこもり妖怪のために家ごと建て直してしまう話はまさに抱腹絶倒、読者を愉しませるツボを押さえながら、その裏にしっかり深読みのできる描写を潜ませ、地上と地底について考える足がかりともなりうる良書であります。幻想郷の文芸ブームは地底にも波及しつつあり、本作のような作品がこれから地上と地底を繋ぐ架け橋となるのであれば、それは稗田文芸賞にとっても記念すべきことでありましょう。まあ、そんなご大層なことを言わずとも、これほど笑える作品が初めて賞をうけたことだけでも、第一回から選考に参加している私にとっては充分記念すべきことなのですが。
候補作の中ではもう一作、私は『フェアリーウォーズ』も推したのですが、こちらは最終投票において僅差で受賞を逃すこととなってしまいました。作品として幼い、という声が聞かれましたが、その幼さこそが本作の主題でありましょう。娯楽小説としての楽しさで言えば本作が候補作の中で一番であっただけに、『土の家』の受賞と合わせてまたも一勝一敗というところでしょうか。魔理沙さんには挫けずこの路線で書き続け、『星屑ミルキーウェイ』を超える誰にも文句をつけさせない傑作をものして貰いたいものです。
もう一方の受賞作となった『雲の上の虹をめざして』は慧音委員が強く反対し、結末の解釈を巡ってまたまた揉めに揉めました。この結末は希望か絶望か、結論の放棄かそれともこれこそが結論なのか。私個人としては最後の主人公の心情に対してどうしても納得しがたく推しかねましたが、最終的には多数決に従いました。夢を追うことの幸不幸の判断は難しいところです。読者という完全な他者であればなおのことでしょう。
もう一本、ストレートな娯楽作品である『そして大地は眠る』も痛快な作品でありましたが、地底と地震に関しては取材不足の感が強く、地底へ向かう後半は物語が上滑りしてしまった感があります。『大海原の小さな家族』は上質の家族小説でしたが、緊迫しているはずの状況に比していささか作風が脳天気に過ぎた気はします。『無限の殺人』は作中の殺人を巡る論理が破綻しているように思えるのですが、私の理解が及ばないだけでしょうか? 『月下白刃』は堅実な出来の剣豪小説ですが、今回の候補作の中では強い支持を取り付けるだけの力に欠けたとしか言いようがありませんね。
豊作ゆえの混迷 稗田阿求
今回の候補作が、稗田文芸賞史上に残る豊作であったのは間違いのないところである。しかしそれ故に選考会は紛糾し、あまりの長時間化に私は最終投票を前に体調不良のため中座することとなった。内心は最後まで選考に参加していたかったが、過保護な彼女に怒られてしまっては致し方ない。最終投票にだけは参加させてもらい、結果として票を投じた作品が受賞に至ったので、中座することになったのは残念だったが結果には満足している。
私は今回、例外的に三作に○をつけて臨んだ。『大海原の小さな家族』、『土の家』、そして『雲の上の虹をめざして』である。最終投票で落選となった『大海原の小さな家族』は、作中の状況に比して緊張感に欠けるという声もあったが、本作はむしろ人と人の繋がりと絆を描いた寓話であろう。確かに物語が登場人物に対し優しすぎるきらいはあるが、たった四人の小さな世界に仮託された、他者へ優しくありたいという願いは胸に染み入るものがある。
『土の家』は人間の身では知り得ざる地底の社会、その精神性についての描写が非常に興味深い。これほど軽い筆致で書くべき話であろうかという疑問は残ったが、娯楽性と主題の両立という点において完成度の高い作品であり、本作に関しては大勢で問題無しという流れとなった。
もう一方の受賞作となった『雲の上の虹をめざして』は、おそらく他の委員も触れているであろうが、結末をめぐって大揉めとなった。私が中座せざるを得なくなったのも、本作についての協議が長時間に渡ったことが大きい。慧音委員は一昨年の『川の流れの果てる先』に続いて全面否定の姿勢を打ち出し、文委員も反対、幽々子委員は中立。私と藍委員、そして欠席であったパチュリー委員が推す構図となり、議論は紛糾した。結末の処理についてはまさに六者六様の解釈が提示されたが、私はこれは使命と願望の狭間での苦悩の表象と読んだ。宇宙へ行くという果たさねばならぬ目標と、その目標の中でできた仲間たちとの絆。最終的にどちらを取るかと問われ、宇宙を目指さざるを得ない主人公の想いは悲壮であるが、しかしそれは逃避ではなく紛れもない彼女の願いである。宇宙へ行く、その目標があったからこそ生まれ得た絆であるのだから、彼女は支えてくれた者たちのために宇宙を目指さねばならないのだ。たとえ地上に戻ることが叶わないとしても。故にこそ、最後に彼女が見た宇宙の虹は、地上の虹と繋がる、彼女が地上に残してきた愛すべきものたちと繋がり続ける証であってほしいと思う。
己の為すべきことと、傍らにある者の願い。その狭間に囚われたとき、人はどちらかを切り捨てなければならないのだとすれば、いずれ私も決断を迫られるのであろう。意志を貫くことが死で、挫けることが生であるならば、どちらを選ぶのがあるべき姿であろうか。私自身の答えは、今はまだ保留としておきたい。
(『幻想演義』如月号「特集 第8回稗田文芸賞受賞作決定」より抜粋)
◆受賞作決定と選評を読んで、メッタ斬りコンビの感想
霊夢 パチュリー、やっぱりこれボイコットしたんじゃないの?
萃香 いや、喘息の発作起こしたってのは事実らしいよ(苦笑)。しかしあーもう、アレで獲れないなら門前美鈴は何書けば獲れるのさー。選評でもほとんどスルーされてるし、地底への取材不足ってそういう話じゃないじゃんさ、もー。
霊夢 推しそうな顔が慧音しか浮かばなかったから私としちゃ案の定だけど。しかしまあ、にとりのヤマメの二作受賞ってのはさすがに予想外だったわねえ。
萃香 いやまあどっちも好きな作品だから獲ったのは嬉しいんだけどさ。『土の家』はパチュリーと文が意外と地底について知ってたのが決め手になったみたいだね。文はいろいろ取材してたみたいだし、パチュリーもあの間欠泉事件以来自分で調べてたのかな? 慧音は相変わらず堅苦しいねえ。もうちょい肩の力を抜きなよと言いたい(苦笑)。
霊夢 『雲の上の虹をめざして』は割れたみたいねえ。そういえば選評で明確に反対したって言われた作品が受賞したのって初めてじゃない?
萃香 だねえ。今までは最終的に反対意見の少ないところに落ち着く感じだったし。まあ、前回パチュリーが折れたから、今回は慧音に折れてもらおうって雰囲気が選考会にあったのかもね。結局パチュリーの推した二作品が受賞してるわけだし。
霊夢 その当人が欠席してりゃ世話無いけど。
萃香 (苦笑)
霊夢 魔理沙は今回も運が無いわね。『星屑ミルキーウェイ』の存在がかえって足引っぱりになっちゃってるのかしら。あれ落としてあれより落ちる作品であげてもってのは確かにあるし。そういえば阿求は選評でスルーしてるけど結局どうしたのかしらね、これ。
萃香 文から聞いた話だとやっぱり反対したらしいよ(笑)。慧音も『月下白刃』を選評でスルーしてるけどやっぱり反対したって。
霊夢 なんだかねえ。藍はやっぱり『雲の上の虹をめざして』推しだったのね。なんだか選評は何が言いたいのかよくわかんないけど。
萃香 紫が真面目に選評書いてればたぶんもっとわけわからんよ(笑)。それはそうとして霊夢、これ収録終わったらおでん食べにいこ、おでん。
霊夢 いいわね、幽々子の選評読んでたらまたお腹空いてきたし。魔理沙でも誘って行く?
萃香 え、魔理沙誘うの……?
霊夢 あによ?
萃香 いや別に。
(文々。新聞 睦月20日号 3面文化欄より)
稗田文芸賞授賞式にて弾幕ごっこが発生、式典中止に
5日、妖怪の山の麓で行われた第8回稗田文芸賞授賞式において、受賞者同士の弾幕ごっこが発生、式場は一時騒然とした雰囲気に包まれた。
第8回稗田文芸賞は妖怪の山に暮らす河童の河城にとりさんと、地底に暮らす土蜘蛛の黒谷ヤマメさんが受賞。授賞式は両者の居住地に近い妖怪の山の麓にて行われたが、受賞者の対面に際してどちらからともなく口喧嘩が始まり、そのまま弾幕ごっこに発展。来賓として訪れていた両者の関係者も一触即発の雰囲気となったが、同席していた風見幽香さんの特大の砲撃により事態は沈静化した。
にとりさんは「川を汚す土蜘蛛とこんなところで一緒に授賞式なんて絶対嫌! 川に近付いたらぎったんぎたんにしてやる!」と語り授賞式の続行を拒否。結局そのまま式典は中止となり、授賞式は後日、河童の里と地底の旧都にて、別々に行われることが決定した。
授賞式に出席していた選考委員の稗田阿求氏は「受賞作となった『土の家』には地上と地底の相互理解の架け橋となることが期待されますが、なかなかその道は険しそうですね」と疲れた様子で語った。
(文々。新聞 睦月6日号 1面より)
そして最後がw
でも、パチュリーと慧音のやりあいがないとちょっとさびしい気もしますねw
パチュリーもやりやがったwwww
これ一人で作品考えて、幾つも書評を考えてるの凄いよね。
しかもそれをまた別視点から予想するわけだし。
しかしパチュリー、思い切ったなあwwwww
むしろパッチェさん賞のこれからが気になるw
やはり選評はみんならしい上におもしろくていいなぁ
特にゆゆ様は毎回すばらしい
ところでめーりんはキャラ的な感覚で落とされてる気がするw
普段能天気っぽい人が描いたってことであんまりみんな深読みしてくれないもんねぇw
ああ、「土の家」が読んでみたいな。マジな話、せめて受賞作だけでも小説としてあげて頂けないでしょうか!
フェアリーウォーズ落ちちゃったかー。高評価なのに。
中国なにおいがしますねw
藍の選評読んで、「雲の上の虹をめざして」読みたくなりました
あと霊夢は魔理沙好きすぎるなw
やりやがったWWWW
いやでも自分的にはいつもパッチェさんの推してる作品が一番読んでみたくなる。
今後に期待。
ムラ……船水三波さんが文章力にやや欠ける設定というのはどういう理由があるのだろうか。ともかく頑張って欲しい。
パチュリーは本当に米井恋さんの作品好きなんだなあ。
藍の選評が実に素晴らしい。
パチェさんはこの調子でどんどん突き進んでほしいw
よくみれば幽香さん、砲撃すかwww
阿求にグレイズしたんだろうと妄想。
小悪魔氏は紅魔館附属図書館の司書であり、図書特務部隊の隊長である(階級は1等図書監)。詳細は追って報告する。
いや三島賞?
パッチェさん始まったな というか やっちまったというか でも紅魔館付属図書館の永久利用パスは魅力的
まぁ、こいしにはパスはあまり意味ないような気もするが
そんで、翌日のいい感じにテンションが落ち着いたときに「雲の上の虹をめざして」を読んでグワングワンした気分になって、「フェアリーウォーズ」で心を温めた後に「大海原」、最後の最後は「土の家」で締める! 土日の二連休! 読みたい!
……あ、パッチェさんは少し自重してくださいw
こちらは360年程度では解決できない永遠の課題なのだろうけれど。
そしてパチュリー…米井さん好きすぎるでしょwそこまで推されたら読んでみたいわww
藍の文章いいなーと思ってたらわけわからん言われてて吹いたw
「無意識の能力で入って気付かれずに出て行くのではなく、ゆっくりしていきなさい」と勝手に深読みしてみる
しかし、やっぱ読みたいなぁ。フェアリーウォーズ。
浅木原さん書いてくださいよw
ここでこれをする必要があったのかな、と思わないでもなかったです。
これを除けば非常に楽しめました。
ふいた
しかし「パチュリー・ノーレッジ賞」の今後には期待が高まるw
いや、楽しかった。どんどん読みたくなります。
熱い。前評判通り数字を持ち出して来たので少しお堅い感じかな?と思ったのですが、これはこれは。
一番グッと来ました。
しかし、「幽霊屋台の縁日騒動」が選考外か……パッチェさんの気持ちがよくわかる。
読んでみたいなぁ。
理屈じゃない、かといって感情だけじゃ説明できない決断は、醜くて美しい
でもそれが生きるってことじゃないかな
霊夢さん、魔理沙を優しく宥めてあげてください。
>その目標があったからこそ生まれ得た絆であるのだから、彼女は支えてくれた者たちのために宇宙を目指さねばならないのだ。
と言う評論がやけに心を打ちます