Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

チン、チンと鳴くその声に

2010/12/09 07:06:45
最終更新
サイズ
3.01KB
ページ数
1

分類タグ

 人里離れたその場所は、暗くも不気味な闇の森。
季節を問わず蟲は囁き、梟などの夜行性の鳥達は、餌を求めて飛び回る。
木々の隙間から見える星々は、行く人を見つめる瞳のようにも見えた。

 そこは、夜には行ってはいけない場所だった。
小さい頃から言われている、夜雀の歌。
その舞台になる森こそが、今、歩を進める者がいる場所である。

 何故その場所にいるのか。それは簡単なものである。
冬場は寒くなり、火で暖を取るものとしては薪が必要なのだ。
先日、薪を切らしていたにも関わらず、面倒くさがった結果がこれだった。

 どうせ村に伝わる伝承のようなものでしかないその歌など、信じていなかった。
幼い頃にそれで親に脅されたのが懐かしく、馬鹿馬鹿しいと思うほどに。



 今宵、満月。
木々の合間から盛れる月光は、じめじめとした地を青白く照らす。
冬の寒風が木々を揺らし、その者の頬を撫でた。
突如身に寒気を感じ、一度震えると、暖を求めて家路を急ぐ。

チン、チン。

 それは、不意に耳に入った。
その辺で囁く蟲でもなく、餌を狙い目を研ぎ澄ます梟のものでもない。
夜に鳴く筈も無い、雀のそれだった。
間違い無くそれが背後から聞こえたのだ。

 先ほどの寒気とは違ったものを感じ、急いで振り向く。
雀らしい姿は見当たらないし、こんな暗闇の中見つけるのは難しかった。
嫌な予感が、その者の脳を埋め尽くしていく。

 急いで帰らなければと、己の足に命令を送りつける。
走り出したその背後で、またあの奇妙な雀の鳴き声が聞こえてくる。

チン、チン。

 夜の帳が、闇が降りてくる。
今は太陽が傾いているのに、聞こえる筈なんて無い。
そう言い聞かせて足を進めるも、耳に聞こえるは己の荒れる息と雀の鳴き声。

 やがてそれは、鳴き声から、歌へと変わる。
荒れる心情とは打って変わって、それはとても優しく暖かい歌だった。
聞きたくない、そう思って脳に直接訴えかけてくる。
耳を塞いでも聞こえるそれは、恐怖でしかなかった。

 森を出ようと決めた頃から、どれだけの時が経ったかなんて分からない。
それほど長くないと走りながらぼんやりと考える。
しかし、それほど夜が深まったのかと思うような、暗幕が視界にかかる。

 次第に大きくなるその歌は、意識を曖昧にしていく。

 何故逃げる必要がある?
その美しい歌に耳を貸せばいいじゃないか。

 足を止め、ふと後ろを振り向いた。
視界は悪く、もうほとんどといっても良いほど前が見えない。
だけど、微かに見えるものがあった。

 ちょうど大きく開いた、木の隙間。
そこには、満天の夜空に満ちる月から毀れた光の帯が集まっていた。
それは、暗い森の中でひっそりと行われている、コンサート。
ステージに集まる明かりの中で、一人歌う姿が見えた。

 瞳を閉じて、歌に気持ちを注いでいるのが良くわかる。
そして、その気持ちは声に乗って届く。
美しく、どこか消え入りそうな儚い声。
まるで幻想の音を聞いているのではないかと思うような、そんな気持ち。

 もうまるで見えなくなった世界。
それでも、声を頼りにその方向へと足を進める。
足は、あれほど走ったにも関わらず軽かった。

 そして、その足を止める。
とても近い場所で、その歌を聞く事ができる場所まで。

 耳に、甘美な声が満ちる。
艶やかで、優しく、心地の良い声。

 そんな声に溺れながら、意識は闇へと落ちていく。
暖かく、心地の良い闇の中へ。
光を見る事を最後に望んだけれど、今はそれも後回し。

 また明日になれば日が見える。
だから、その時まで、暖かい闇の中で。

















サヨウナラ。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
みすちいいいいい
2.奇声を発する程度の能力削除
おおう…
3.名前が無い程度の能力削除
~♪
4.けやっきー削除
おぉ、おお…
どう言えばいいのか…
5.名前が無い程度の能力削除
ちん♪ちょっと怖い感じがとてもいいです。