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第8回稗田文芸賞・候補作予想メッタ斬り!

2010/12/07 22:37:00
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※『第7回稗田文芸賞』と『第6回稗田文芸賞』あたりを読まれていた方が解りやすいと思います。











霊夢 今回は何? 今年の稗田文芸賞ならまだ候補作も決まってないじゃない。
萃香 決まってないからこそ、だってさ。今年出た小説の中から、第8回の候補作予想をしろってお達しだね。ついでに今年の作品についてなら好きなように語ってオッケーって話だから、実質そっちがメインかな(笑)。
霊夢 ふぅん。しかし好きなようにって言われても、何から話せばいいのよ?
――そう仰るだろうと思いまして、今年出た主な小説のリストと実物をこちらに用意しました。
霊夢 あら、準備がいいわね。なんだっけあんた、えーと、ほたて?
――はたてです! 姫海棠はたて!
霊夢 畑でも掘っ立てでも何でもいいけど。
萃香 (リストを見ながら)しかし改めて振り返ると、小説の刊行点数も増えたもんだねえ。こんなに出てたっけか。おかげで今年は豊作だったけどさ。
霊夢 仕方ないわね、ちゃっちゃと終わらせましょ。どこからいく?
萃香 んじゃまあ、ジャンルごとに適当に追っていこうか。




◆幻想小説編
 西行寺幽々子『忘我抄』(白玉書店)
 パチュリー・ノーレッジ『七つの部屋と牢獄のパレード』(スカーレット・パブリッシング)


霊夢 まあ、今年の文芸ビッグニュースって言ったら、幽々子の新作が出たことじゃない?
萃香 世間的にはそれほどのニュースじゃないけどね(笑)。えーと、第3作の『蝶』が出たのが121季だったから……4年ぶりか。いきなり候補作予想の趣旨からは外れるけど、今年の小説語るならまず外せないよね、『忘我抄』は。内容の解釈を巡って《幻想演義》誌上と文々。新聞紙上で侃々諤々の大論争。
霊夢 発端はどこだっけ。慧音?
萃香 というか、《幻想演義》が組んだ特集だね。何しろ『桜の下に沈む夢』より遥かに難解な内容だったもんだから、読書家の間でも「なんだかよく解らん」って評判が大勢を占めて、それを受けて《幻想演義》が「西行寺幽々子『忘我抄』を読み解く」って特集を組んだ。パチュリーと慧音と藍がそれぞれの読み解きを寄稿したんだけど、これがまた見事に意見がバラバラで(苦笑)。藍と慧音が往復書簡って形で意見をぶつけあって、よせばいいのにパチュリーも混ざって作家・西行寺幽々子論にまで発展する大論争になった。
霊夢 また当の幽々子が何にも言わないもんだからだんだん議論は明後日の方向に飛んでいくし。はたから見てる分には面白かったけど。
萃香 まあ、あれはどうとでも解釈できるから面白い作品なんだし、幽々子が正解を表明しちゃったら興ざめじゃん? 霊夢はちなみに誰の意見に賛成するの?
霊夢 平行世界とタイムトラベルの話だって言ってたのは藍だっけ。私はそういう話だと思って読んでたけど。
萃香 藍派かー。私はパチュリー派だなぁ。記憶の不完全さと、それに立脚した世界という認識の曖昧さについての話だと思うんだけど。
霊夢 世界は永遠に分岐し続けて収束しないって話じゃないの? どれだけ可能性を辿っていってもそれは無限の分岐のひとつに過ぎないっていう絶望そのものじゃない、この結末。
萃香 いや、このラストは「それでも世界はちゃんとここにある」って希望でしょー。ハッピーエンドでしょこれ。そうじゃなきゃいくらなんでもひどいよ(苦笑)。
霊夢 ……まあ、みんなこんな調子だから論争になるのよねえ。
萃香 だねえ(苦笑)。そういや論争の当人、パチュリーの新作も良かったよね。『七つの部屋と牢獄のパレード』。七つの小部屋しか存在しない世界で、それぞれの部屋に置かれた本の世界を通って小部屋を行き来していく幻想小説。こっちもよくわかんない話だけど(笑)。
霊夢 変な世界と作中作の入れ子構造を書かせたら天下一品よね、パチュリーは。でもたまには幻想小説以外も書けばいいのに。ずっと同じアプローチだからだんだんパターン化してきてない?
萃香 あのレベルでマンネリ言うとか贅沢だなあ(苦笑)。というか、パチュリーの凄いとこは発想とか世界の作り方よりも、その引き出しの多さだと私は思うよ。たぶん書けって言われればなんでも書けるんじゃない? ただ本人の好みと一緒で、直球のジャンル小説は書きたくないから毎回捻った形の幻想小説に落ち着くんじゃないかな。今回の話だって、たとえば第三の小部屋から入る世界の話なんか、めちゃくちゃ上手いサイコスリラーだし。
霊夢 たまには直球のジャンル小説書いたってバチは当たらないと思うけどねえ。魔理沙みたいな王道エンタメ書いてみたっていいじゃない。
萃香 そうそう、その魔理沙も久々に新作出したよね。たぶん第8回の候補にも挙がるんじゃない? つうわけで、次は青春小説いこうか。




◆青春小説編
 霧雨魔理沙『フェアリーウォーズ』(博麗神社)
 小松町子『幽霊屋台の縁日騒動』(是非曲直庁出版部)
 宇津保鈴『イカロスは雪原に舞う』(旧地獄堂出版)


萃香 魔理沙の新作、聞いた話だとチルノと三月精の喧嘩がモデルなんだっけ?
霊夢 ああ、そんなこと言ってたわね。まあ、実際のチルノたちはこんな真面目な理由で喧嘩してたわけじゃないでしょうけど。
萃香 いや、チルノの奴はあれで結構友達想いだよ? まあこの作品はフィクションだけどさ。住処を終われた妖精の少女が、弱っていく友達のために自分たちを追い出した三匹の妖精に戦いを挑む話。互いに大事な友達のために譲れないから戦うしかない、っていう王道エンターテイメント。やっぱり魔理沙はこういう真っ向勝負の娯楽小説がよく似合うよ。
霊夢 確かにねえ。でも妖精の話にしちゃ真面目すぎない? もっと馬鹿でしょあいつら。
萃香 やー、妥協して落としどころ見つけようとしないあたりが妖精っぽいじゃん(笑)。人間や妖怪でこんなド直球の友情バトル小説書くのは難しかったんじゃないかなあ。
霊夢 まあね。面白いけど、人間や妖怪でやるにはクサすぎるもの。
萃香 久々の新作だし、稗田文芸賞の候補には挙がるかな。獲れるかどーかは微妙な気がするけど、まあそれは候補に挙がってからのメッタ斬りで話せばいいか(苦笑)。
霊夢 候補候補……ってのも変な言い方ねえ。小松町子の新刊はどうかしらね。
萃香 『幽霊屋台の縁日騒動』か。候補に挙がれば幽々子あたりが好きそうだけど。中有の道の縁日に出店した屋台がアクシデントで無人になっちゃって、通りすがりの主人公が代役として屋台を切り盛りする羽目になる話。縁日の描写がめちゃくちゃ楽しそうで私は好きだなぁ、これ。お祭りっていいよね。
霊夢 でもこれ、主人公が屋台の手伝いする動機がイマイチ納得いかないのよねえ、私は。
萃香 そう? お祭りのときの雰囲気ってこんなもんだと思うけどなあ。屋台が評判になってお客さんが増えだしててんやわんやのときに、見ず知らずの人たちが助けてくれるあたりなんかすごくいいじゃん。最後はスカッとするし、いい作品だと思うよ。別にご大層な話じゃないし、ちっとも文学的でもないけどさ(笑)。
霊夢 まあね。でも王道エンタメ枠で候補に入れるなら今回は魔理沙じゃない?
萃香 傾向はそんなに似てるわけでもないから両方入れてもいいと思うけど。小松町子は前回もそこそこ支持してもらえてたし可能性はありそうだしね。私は一押ししとくよ。そういう霊夢はこの系統なら何を推す?
霊夢 私? そうねえ、宇津保鈴のあれ。
萃香 『イカロスは雪原に舞う』? あれはジュヴナイル枠だから候補にならないと思うけど。ていうか前回候補にならなかった『地の底のイカロス』の続編だし。いや、私も良い作品だと思うけど。
霊夢 『フェアリーウォーズ』を候補にするならあっち入れてもいいんじゃない? 前作が綺麗にまとまってからどう続けるのかと思ったら、ちゃんと真っ当に続編だったし。前作で回収しきれなかったテーマにもケリつけてたし。そりゃま、候補になったとき選考委員が前作読んでないとアレだけど。
萃香 それがあるよねえ。まあ、『ミッシングハンター・ナッツ』とか『風雲少女・リンメイが行く!』とかよりは可能性はあるかな。イカロスシリーズは割と人里じゃ大人にも人気あるみたいだし。ただ単品だとやっぱりどうかなあ。前作とセットで評価してもらえれば割といい勝負できそうではあるけど。
霊夢 前作が候補になってれば良かったのにねえ。
萃香 ま、それは言っても仕方ない(苦笑)。




◆剣豪小説編
 大橋もみじ『白狼の咆吼 巻ノ五』(鴉天狗出版部)
 魂魄妖夢『辻斬り双剣伝 半人の章』(白玉書店)
 比那名居天子『全人類の緋想剣』(天界舎)
 永月夜姫『月下白刃』(竹林書房)
 富士原モコ『必殺不死鳥剣』(稗田出版)


萃香 今年一番流行ったのがこれだったねえ。元々人気ジャンルだったけど、大橋もみじの『白狼の咆吼』が春からドラマ化されてブームが加熱。みんなチャンバラ好きだねえ(笑)。
霊夢 その『白狼の咆吼』だけど、連載もそろそろ終わりそうじゃない?
萃香 来年の6巻で最終巻って話だからね。なんか鴉天狗出版部には「終わらせないで」って手紙が毎月大量に届いてるらしいよ(笑)。《幻想演義》としても看板作品だから本当は終わらせたくないんじゃないかなぁ。
霊夢 しれっと第二部とか始まったりしてね。
萃香 有り得る(苦笑)。まあしかし、稗田文芸賞の候補入りは無いかな。一巻が落ちてから続刊は候補入りしてないし。あるとすれば来年、最終巻で候補入りかね。何もラスト手前の5巻で候補にすることもないだろうし。
霊夢 『辻斬り双剣伝』の方は? 私は読んでないんだけど。
萃香 あれ、読んでないの?
霊夢 1巻だけ読んで、別にいいかと思ったし。
萃香 あらもったいない。私としちゃ今年一番びっくりしたかもしれないのがこれだよ。いや、上手くなるもんだねえ。去年の年末に出た『半霊の章』と前後編だけど、面白かったよー。1巻の頃は私もどうかと思ったけど、書けば伸びるんだねえ。
霊夢 そうなの? 未熟じゃなくなっちゃったわけ?
萃香 いや、稗田文芸賞獲れるか――パチュリーあたりにも文句を言わせないレベルかって言えばそりゃ微妙なところだけどさ(苦笑)。未熟者は未熟者なりに頑張ってんじゃん? 妖忌が幽々子に向ける忠義と守る意志の書き方がどんどん上手くなってるよ。
霊夢 ふうん。完結したらまとめて読もうかしらね。
萃香 いつ完結すんのかなぁ(苦笑)。ま、そのへんの昔から剣豪モノ書いてた面々が頑張ってる中で、新作にも良いのが結構あったね。比那名居天子の『全人類の緋想剣』なんかなかなか新機軸の剣豪ものって感じで私ゃ好きだなぁ。
霊夢 新機軸ねえ。私はパス。
萃香 候補入りは無さそうだけど、永月夜姫の『月下白刃』もいいね。相変わらず何書かせても憎たらしいぐらい上手い(笑)。
霊夢 もともとは読み切りだったやつよね?
萃香 そうそう。《幻想演義》の剣豪小説特集に載った短編が連載になったやつ。富士原モコの『必殺不死鳥剣』もそうだね。どっちも今年になって単行本化。毎度のことながら売上も評価も伯仲してる(笑)。私ゃ『月下白刃』の方が好きだけど。
霊夢 『必殺不死鳥剣』は中身はともかくタイトルのセンスがどうもねえ。『月下白刃』は私も良いと思うけど、まあ候補入りは無いわよねえ。これ候補にするなら『あの月の向こうがわ』をなんで外したって話がまた再燃しそうだし。
萃香 富士原モコなら『無限の殺人』の方が可能性あるかなあ。ミステリ行こうか、次。




◆ミステリー・ホラー編
 富士原モコ『無限の殺人』(竹林書房)
 因幡てゐ『月夜に跳ねる、跳ねるはウサギ』(竹林書房)
 十六夜咲夜『紅い館の殺人鬼』(スカーレット・パブリッシング)
 ミス・レッドラム『幻想ヴァンパイアナイト』(スカーレット・パブリッシング)


霊夢 『無限の殺人』は絶対に死なない不死者が殺され続ける謎を巡るミステリね。殺人者はなぜ死なない相手を殺し続けるのか、不死者はなぜ毎回殺されてあげるのか――っていう謎の話だけど、相変わらずこういう独特のロジックのミステリは上手いわよね、妹紅は。
萃香 ペンネーム使ってるのに本名言うてやるなってば(苦笑)。まあ、自分のことだからネタにしやすいんだろうけどさ。同じようなモチーフ使っててもネタの転がし方を工夫してるからマンネリ感もないしね。ただミステリとしては去年候補漏れした『屍は二度よみがえる』の方が出来が良かったと思うから、個人的にこれで獲ってほしいかっていうと微妙。まず候補入りするかどうかが問題だけどさ。
霊夢 前に候補になってるてゐはどうかしらね?
萃香 てゐは相変わらず私好みの話書いてくれて好きだなぁ。『月夜に跳ねる、跳ねるはウサギ』は綺麗に一本背負い決められたみたいな叙述ミステリ。いや見事に騙されたわ。叙述トリックのミステリは幻想郷でも既にいくつか書かれてるけど、さすがにてゐは周到さが違うね。騙すことにかけちゃさすが本職だわ(笑)。ただこういうトリッキーな小説は稗田文芸賞獲ったためしが無いからなぁ……(苦笑)。
霊夢 アリスのアレみたいなひどいちゃぶ台返しじゃないからいけるんじゃない? 私は前に候補になってた詐欺師の話よりは馬鹿馬鹿しすぎなくて好きよ。
萃香 『マスカレード・スコープ』はだからあのオチでいいんだってば(苦笑)。ミステリといえば咲夜もあったね。『紅い館の殺人鬼』。まあどうせ候補にはならないんだけど。
霊夢 あれは咲夜にしてはどうかと思ったけど。
萃香 いやー、咲夜も元々の趣味はどっちかってーとレミリアの残酷路線に近いんじゃない?デビュー作もそういう路線だし。世間的には『クロック』とか『明日を思いだして』みたいな時間SFロマンスの方が有名だけどさ。『紅い館の殺人鬼』は久々にはっちゃけて趣味全開のもの書いてみたって感じじゃない? 個人的な好き嫌いはさておきレミリアよりは上手いと思うよ(笑)。
霊夢 そのレミリアのやつ、久しぶりに読んでみたけど、最初の頃の作品となーんも変わってないわねえ。またやたらめったら強い主人公が血みどろ無双する話?
萃香 本人がそういうの書きたいんだろうし読んでる方もそういうの好きなんでしょ(苦笑)。ま、いいんじゃん? 作者と読者で幸福なサイクルができてる分には。私の趣味じゃーないからどうでもいいけど(苦笑)。




◆恋愛小説・家族小説編
 白岩怜『四月の雪』(博麗神社)
 マーガレット・アイリス『嘘つき人形は魔法で踊る』(博麗神社)
 風見幽香『冬にヒマワリが咲いたら』(稗田出版)
 八雲藍『夕暮れに猫を数えて』(マヨヒガ書房)
 船水三波『大海原の小さな家族』(命蓮寺)


萃香 『四月の雪』かあ。白岩怜はなんてーか相変わらずベッタベタな話書くよねえ(苦笑)。そこが受けてるんだから別にいいんだけどさあ。私個人としちゃ相変わらずむずがゆくて読めない(笑)。
霊夢 あの『雪桜の街』で稗田文芸賞獲っちゃったんだから仕方ないじゃない。ま、ベタはベタなりに上手いでしょ。ちょっと最近マンネリ入ってるけど。また『氷の王国』みたいな路線で書けばいいのに。
萃香 自分とこで出してるんだから本人にそう言いなってばさ(苦笑)。私は白岩怜は家族小説の方が好きだから、恋愛小説中心の今はちょっと、うーん。『冬色家族』みたいなのまた書いてくんないかな。
霊夢 仕方ないじゃない、恋愛小説の方が売れるんだから。マンネリといえばアリスも相変わらず人形ネタでまた恋愛小説ね。
萃香 だから本名……もういいや(苦笑)。でも『嘘つき人形は魔法で踊る』は去年の『人形の森』より個人的にはいいと思うよ。心理描写を流す作風なのは相変わらずだけど、今回はそれが上手く機能してんじゃない?
霊夢 まあね。私も今までのアリスの作品の中じゃ一番いいと思うわ。
萃香 おお? 霊夢がマーガレット・アイリスを褒めたよ。珍しいこともあるもんだ(笑)。
霊夢 私だって別に嫌ってるわけじゃないわよ。作風が趣味に合わないだけで。
萃香 今年はアイリスが恋愛小説枠で候補入りはありそうだね。パチュリーの好みからだんだん遠ざかってる気がするのがあれだけど……阿求が味方につけば可能性あるかな?
霊夢 その予想は候補になってからでいいでしょ。まあ、幽香が去年獲って候補入りがなくなったからアリスがその分有利になってる気がするけど。
萃香 まあ、幽香の方が上手いから比べちゃうとねえ(苦笑)。幽香の三作目の『冬にヒマワリが咲いたら』はどっちかっていうと家族小説だけど。愛情を注ぐ対象が広がったのはやっぱり結婚したからかな(笑)。
霊夢 家族小説も今年は豊作だったわね。藍の久々の小説もそれだし。
萃香 『夕暮れに猫を数えて』ね。数学ネタがそこかしこに顔を出すあたりが藍だけど、ほのぼのしてていい話だよね。候補入りすれば面白い存在になりそうだけど……藍、今回から紫に変わって選考委員だから候補入りは無いんだよなあ(苦笑)。
霊夢 もったいないわねえ。紫の奴も一回待ってこれで獲らせてあげればいいのに。
萃香 今年は混戦だから獲れるかどうかは解らんよ(笑)。家族小説といえば、船水三波の『大海原の小さな家族』も良かったねえ。難破した船に乗り合わせた見ず知らずの面々が、家族のように助け合って生き延びるサバイバル家族小説。『幽霊客船はどこへ行く』からこういう路線に振ってくるとは思わなかったけど、見ず知らずの他人同士が強い絆で結ばれていく様を書かせたらホント上手いよ船水三波は。
霊夢 幻想郷には海が無いからイメージし辛いんだってば。話自体は私もいいと思うけど、どうせ候補になったらまた慧音が文章に文句つけて終わりじゃない?
萃香 あんま慧音には野暮なこと言わないでほしいなあ(苦笑)。いいじゃん少しぐらい文章下手でもさあ。面白い話が獲ってくれることを私ゃ望むよ。




◆歴史小説・冒険小説編
 上白沢慧音『懐かしき幻想の血脈』(稗田出版)
 門前美鈴『そして大地は眠る』(スカーレット・パブリッシング)
 笠原たたら『さまよえる紫の傘』(守矢新社)


萃香 慧音の『懐かしき幻想の血脈』はよーやく本になったねえ。連載は足かけ三年? 長かったなぁ。本も分厚いし。
霊夢 正直読む気しなくて読んでないんだけど、どうなの?
萃香 んー、霊夢の好きな作品じゃないとは思うよ(苦笑)。私もちょっとさすがに長すぎてしんどかった。半分歴史の教科書みたいになってるしねえ。『満月を喰らう獣』とか『神剣動乱』はちゃんとエンターテイメントしてたけど、今回は本人の授業みたいに堅苦しさが前面に出ちゃってるかなぁ。力作なのは確かなんだけど、力を入れる方向がこれで良かったのかって感じ。
霊夢 そりゃ、読まなくて良さそうね。
萃香 神奈子の新刊が歴史ものじゃなかっただけに、歴史ものは弾が少ないね今年は。冒険小説の方行こうか。
霊夢 今年の冒険小説っていったら、門前美鈴の『そして大地は眠る』?
萃香 さて、五度目の正直の稗田文芸賞受賞はあるか。大地の崩壊を食い止めるために原因を探しに地底へ向かう冒険小説。拳ひとつで世界を救おうなんて荒唐無稽な話を真っ向から書き切っちゃった作品だね。面白かったわー。
霊夢 あんたの好きそうな話よねえ。
萃香 今まで書いてきた格闘小説に、『風雲少女』シリーズで培ったジュヴナイルの明快な作劇を取り入れて、子供から大人まで読める痛快エンターテイメントに仕上げた快作じゃんさ。『華国英雄伝』のとき「こんな上手かったっけ?」って言って申し訳ない(笑)。こんな上手くなってるとは思わなかった。
霊夢 ま、解りやすくて楽しい作品だとは思うけど、候補になったらどうかしらね。慧音が推してくれるのかしら? 文は好きそうだけど、今年は他に候補になりそうなのもわりとエンタメ的なのが多いから。
萃香 個人的には候補に挙がったら本命打ちたいなぁ。
霊夢 私としちゃ、笠原たたらの『さまよえる紫の傘』なんか結構好きなんだけど、どう?
萃香 え、あれ? ときどき霊夢の小説の趣味がわからない(笑)。というか冒険小説ってくくりであれを語るの?
霊夢 飛んでった傘を追いかける話なんだから冒険小説でしょ。ハラハラドキドキなんかじゃないけど、すっとぼけた味わいがあって好きよ。
萃香 うーん(苦笑)。まあできそこないのお化け屋敷って感じだった『風がふいたら傘屋がもうかる』よりは良いと思うけど……。候補入りは無いでしょ。




◆SF編
 八坂神奈子『エヴォリューション・ゼロ』(守矢新社)
 河城にとり『雲の上の虹をめざして』(鴉天狗出版部)


萃香 神奈子は今までの歴史・戦記ものから一転してSFに。新書で出した『エネルギー革命』を発展させて小説にしたって感じの、技術革命が起こった幻想郷の未来図を描いたSFだね。
霊夢 でもこれ、「未来すごい技術革命すごい」って話じゃなくない?
萃香 そこがいいんじゃん。技術革命がもたらすメリットを描きつつ、後半ではそれがもたらす崩壊を克明に描いてるのは公平な立場ってやつでしょ(笑)。要するに前半みたいな進化を遂げた上で、後半みたいなことにならないように頑張りましょうって話。
霊夢 私は別に今のままでいいんだけど。
萃香 うおーいそれでいいのか人間代表(苦笑)。まあ幻想郷じゃそっちはむしろ河童の仕事か。にとりは相変わらずSF一本で頑張るねえ。『雲の上の虹をめざして』は宇宙から落っこちてきた破片を拾ってロケットを作る話。
霊夢 ロケットの話はあんまり思いだしたくないからパス。
萃香 (苦笑)。相変わらず未知の世界への憧れと情熱はよく書けてるよね、にとりは。技術論のあたりが小難しいから一般向けじゃないけどSFってそういうもんだから仕方ない。今回から選考委員に藍が入るから、もし候補に挙がれば台風の目かも。
霊夢 宇宙なんか行って何が面白いのかしらねえ。
萃香 夢が無いなぁこの巫女は……(苦笑)。




◆ジュヴナイル編
 門前美鈴『風雲少女・リンメイが行く!8 白夜の果て』(スカーレット・パブリッシング)
 星丸小虎『ミッシングハンター・ナッツ2』(命蓮寺)
 永江衣玖『おてんば姫と雷雲の剣』(天界舎)



霊夢 あんた、このへんまで読んでるの?
萃香 面白けりゃなんでも読むよ私ゃ。ま、候補作にはならないだろうからさらっといこうか。『風雲少女・リンメイが行く!』は相変わらずハイペースで新刊が出るねえ。終わる気配もなかなか無いんだけど。『ミッシングハンター・ナッツ』は相変わらずナッツが万能チートすぎる気はするけど、話は日常の謎系ミステリチックでわりかしいい感じ。
霊夢 衣玖も小説なんか書いてたのね。
萃香 『おてんば姫と雷雲の剣』ね。屋敷を飛び出したおてんば姫とそれに振り回される従者の冒険もので、ものすごく真っ当なジュヴナイルってーか児童文学ってーか。姫様に振り回されてる振りして陰で全部操ってる従者のキャラがなかなかよろしい(笑)。
霊夢 まあ、どれにしても稗田文芸賞の候補になることはないでしょ。
萃香 まあそうだけど、子供向けだからって馬鹿にしたもんでもないよ。宇津保鈴のイカロスシリーズは霊夢も好きなんでしょ? なんか読んでみれば?




◆その他
 虹川月音『題名のないメロディ』(白玉書店)
 厄井和音『えんがちょマイスター』(鴉天狗出版部)
 黒谷ヤマメ『土の家』(旧地獄堂出版)
 米井恋『サブタレイニアン・ラブハート』(旧地獄堂出版)


萃香 その他、目についた作品いこうか。虹川月音の新作『題名のないメロディ』は、題名不明のメロディの正体を探してあげる《音探し屋》を主人公にした短編連作。ほのぼのした話かと思いきや意外と暗い話でちょっとびっくり。
霊夢 あいかわらず音を文章で描写するのは上手いわよねえ。結構暗いけど、最後はわりと綺麗に収まってるしいいんじゃない? 音を手がかりに曲を探していく過程も面白いし。
萃香 そのへんはミステリっぽいからミステリ枠で語っても良かったかな。まあ、安心して読める作品だと思うよ。
霊夢 短編連作といえば、厄井和音は何か変な方向にいったわねえ。
萃香 『えんがちょマイスター』のこと? いや、タイトルはアレだけど、根っこの部分は去年の『不幸のシステム』とあんまり変わらないと思うよ。皆に「えんがちょ」言われるものを拾って集めて、綺麗にしてあげる――んじゃなく、えんがちょだけど役に立つ部分を見つけてあげるっていう短編連作。えんがちょも魅力のうちってね。
霊夢 でもえんがちょはえんがちょじゃない。
萃香 そう言ってあげなさんなって(苦笑)。
霊夢 個人的に気に入ったのは『土の家』かしらね。黒谷ヤマメの。
萃香 あ、私も好きだなそれ。候補にならないかなー。古くなった家のリフォーム専門業の主人公が、いろんな家をリフォームしていく話。目の付け所がいいよね。
霊夢 引きこもりを家から引きずり出すために家ごと改造する話は笑えたわね。
萃香 私はゴミ屋敷の話が好きだな。こういう短編連作形式も最近増えてきたねえ。もともと短編じたいが少なかったけどさ。
霊夢 短編じゃ本にならないから仕方ないじゃない。
萃香 一昨年だかに出たパチュリーの異色短編集『赤く細い川を渡れ』なんか良いと思うんだけど。ああいう短編一本一本で勝負する短編集もっと増えないかなぁ。
霊夢 ところで、こいつはどうなるのかしらね。米井恋の。
萃香 『サブタレイニアン・ラブハート』! 出ました今年の超大穴(笑)。
霊夢 また候補になると思う? 慧音なんか去年は相当怒ってたみたいだけど。
萃香 いやー、清々しいほどカオスな作風を維持してて私ゃ素晴らしいと思うんだけどね。今回はいきなり世界が滅亡したせいで地上の生き物がみんな死んで地獄に流れ込んできて、地獄が死者であふれかえっちゃったからとりあえず天界行くためにみんなで殺され合いを始める話(笑)。
霊夢 それだけならちょっと発想が奇抜なレミリアなのに、今度は天界が溢れかえって仕方ないからもっかい地上を作り直そうって、なんで当たり前のように世界創成の話になるのよ。
萃香 ていうか最初に地上を滅ぼしたのが主人公たちなのに全く反省せず作った世界何回も滅ぼすし。そして最後はまた爆発オチ(笑)。いや笑った笑った。
霊夢 ホント何なのかしらねえコレ。パチュリーは相変わらずベタ惚れしてるみたいだけど、今年も候補に残したら慧音の血圧が大ピンチじゃない?
萃香 まあねえ(苦笑)。どうなることやら。




◆まとめ――第8回稗田文芸賞候補作は?

萃香 で、6作品候補を選ぶとすればどれになると思う?
霊夢 好みは別にして予想するなら、魔理沙の『フェアリーウォーズ』、てゐの『月夜に跳ねる、跳ねるはウサギ』、アリスの『嘘つき人形は魔法で踊る』、船水三波の『大海原の小さな家族』とにとりの『雲の上の虹をめざして』。あとひとつは何でもいいから『土の家』にしとくわ。んで、受賞予想はアリス。パチュリーが推すでしょうし今回は他もそんなに反対しないんじゃない?
萃香 ふーむ。私は迷うなあ。永月夜姫と富士原モコを外すとしても……魔理沙、アイリス、船水三波は来るかな。あとは私は小松町子『幽霊屋台の縁日騒動』、門前美鈴『そして大地は眠る』、米井恋『サブタレイニアン・ラブハート』の6作品と予想しとこうか。パチュリーはまた撃沈して、受賞は門前美鈴に一票。
霊夢 こうして見ると、今年は一昨年みたいに本命不在ねえ。
萃香 豊作で混戦なんだからいいんじゃん? ま、とりあえずは16日の候補作発表を楽しみにしておこうよ。まさかの永月夜姫&富士原モコの大逆転候補入りがあるかもしんないしさ。
霊夢 どうなっても今回は慧音が大変そうねえ。
萃香 いや、慧音の周りの方が大変なんじゃないかなあ(苦笑)。


(文々。新聞 師走7日号 3面文化欄より)

 第8回稗田文芸賞候補作は16日、幻想郷文芸振興会より発表される。



第8回稗田文芸賞
浅木原忍
[email protected]
http://r-f21.jugem.jp/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
相変わらず、どれもこれも面白そうで困る。読みたくなって仕方がない。
2.奇声を発する程度の能力削除
やべえ…全部本気で読んでみたい…
3.名前が無い程度の能力削除
発表は16日か……。
もちろん受賞作は本誌に掲載されますよね!?(懇願)
4.名前が無い程度の能力削除
相変わらずのタイトルセンス、お見事です。
個人的にはサブタレイニアン・ラブハート押しですがはてさてどうなることやら
5.名前が無い程度の能力削除
個人的にはすごく好きなんだけど、あんまりこのネタで回し続けるとマンネリ化しちゃう気がして心配
とはいえ、内容はすごく読書魂を掻き立てられる話で面白いんだよなぁ
6.名前が無い程度の能力削除
美鈴とヤマメちゃんの本読みたいです
7.名前が無い程度の能力削除
毎度思うけどあなたのこの作品は卑怯だ。
例に出していいものかわからないが、葉月さんの書く料理SSとかはまだいいんです。読んだ後 作ったり探してきたりしてたべてどうにかこうにか欲は満たせますから・・・でもあなたの書くこれは違う。どうがんばっても欲を満たせない。生殺しを味わってしまう。本当 血涙状態ですよーーーー。


ああっ 『七つの部屋と牢獄のパレード』と『フェアリーウォーズ』を読みt  いや やっぱり全部読みたい。
8.名前が無い程度の能力削除
妖夢の成長というのがうどみょんのこれからにどうか変わってくるのか、という意味でも「辻斬り双剣伝」を読みたいなあ
9.名前が無い程度の能力削除
相変わらずこいしちゃんがガン吹っ飛び安定すぎてて腹筋に来るw
読みたさで雲の上の虹を目指してに一票!
10.名前が無い程度の能力削除
前回に引き続きてゐの作品が読みたくてたまらん…。
手に入れられるものなら今すぐにでも読みたい。

…いつか書いていただけるんですよね?(チラッ
11.名前が無い程度の能力削除
ヤマメちゃんの作品が激しく読みたいです。

いや、全部読みたいが本音ですが。
12.名前が無い程度の能力削除
妖夢のが……うどみょんと確実にリンクしてますよねコレ!
うわぁ読みたくて仕方ない……

実際の所、一番気になるのは『月夜に跳ねる、跳ねるはウサギ』か『土の家』のどっちか……って「一番」と言ってすら決め切れん…なんだこの「全部読みたい感」orz
13.名前が無い程度の能力削除
この中の作品を一つでも手にとれたらなあ。
……期待してますよ?
14.名前が無い程度の能力削除
今年もこの時期がやってきましたね!
どれが受賞するんだろう……16日が楽しみですねえ
15.名前が無い程度の能力削除
忘我抄が読みてえ……前の幽々子の書評が楽しかったしなあ
幻想郷の書店に行くにはどうすればいいんだ
16.文学部の学生削除
昨今の不況など意に介さず、僕はバイトで貯めた資金を金券ショップで図書券に換えて本を買う。
そして、何度も熟読した後は決して古本屋には売らずに古紙回収に出すのが作者への敬意。さあ、今年も稼ぎ時だぁ!
17.名前が無い程度の能力削除
(苦笑)(笑)つけて会話する萃香良い感じにうぜぇw
18.カンデラ削除
全部購読欲をそそられるw
毎回、小説がこんなに多種多様に作り出せる浅木原忍さん、ホンマにスゴイ!
19.ケトゥアン削除
わくわくが止まりませんw
期待して待ってます!
20.名前が無い程度の能力削除
妖精大戦争をクリアしたばかりの三月精スキーな自分は『フェアリーウォーズ』に一票!!
シリアス&王道モノ版「妖精大戦争」が読んでみたいです。

他にも微妙に「うみょんげ」や浅木原さんの他の東方SSネタとリンクしててニヤニヤが止まりませんでした。
21.名前が無い程度の能力削除
どの作品も読んでみたいなチクショー。
16日が楽しみですわ。
22.名前が無い程度の能力削除
第8回はマジで豊作ですなあ。どれが受賞するのか楽しみです。

ところで私もこの本全部読みたいんですが、霧雨書店さんは通販やってませんかねえ?
23.名前が無い程度の能力削除
大海原の小さな家族超読みたいです!!
24.名前が無い程度の能力削除
相変わらずどれもこれも面白そうで
読めないのはわかってるのに引き込まれて困る

一番読みたいのはてゐのか小町のかキャプテンのか妹紅の無限の殺人か
いややっぱり選べん
25.名前が無い程度の能力削除
抄録で良い。ぜひ受賞作を拝読したい。
26.名前が無い程度の能力削除
てゐと米井さんの作品を読みたい。むっちゃ読みたい。
27.名前が無い程度の能力削除
すげぇ、普段本をあまり買わない私が惹かれてる……
霊夢と萃香のキャラがまたピッタリ過ぎてwwww
28.名前が無い程度の能力削除
相変わらずどれも読みたいようなものばかりをwww
29.名前が無い程度の能力削除
相変わらずオールジャンルカバーしてて卑怯なくらい上手すぎるww
以前本の装丁なんかも作ってくれましたが、タイトルを見ながら自分で装丁を想像するのも面白いww
30.名前が無い程度の能力削除
てゐの新作よみたいw だまされたいw
31.非現実世界に棲む者削除
自分はフェアリーウォーズを読んでみたいです。
あと忘我抄も。