「なあ、アリス。シフォンケーキって好きか?」
しんしんと雪の降る景色を窓の外に臨む家の中。
唐突に訊ねてきたのは、向かいに座っていた魔理沙だった。
アリスと呼ばれた少女は編み物の手を止めて、伏せていた顔をゆっくりと上げた。
「まあ、好きと言えば好きね」
「じゃあシチューは?」
「じっくり煮込んだものは好きだわ」
目の前の白黒魔法使いは行儀悪くもテーブルに両肘をついていた。
アリスはもう見慣れてしまっているらしく、それを咎めることもなく彼女の話に耳を傾けている。
「トマトケチャップは?」
「料理によく使うわね」
樹木のすっとした匂いが消えないテーブルに、向かい合って座っている魔法使いたち。
似たような色だが少し違う髪を持つ二人は、とりとめのない会話をさらに繰り返していく。
「犬派?猫派?」
「どちらかというと猫」
「どの季節が好きだ?」
「うーん、冬かしら」
いつまでも続いていくかに思えた問答。
それを止めたのは、アリスのため息交じりの一言だった。
「ねえ、魔理沙。こんなこと訊いてどうするのよ?」
「ん?あ、ああ、ええと……その……」
急に質問を浴びせられ動揺したのか、困った顔でしどろもどろになる魔理沙。
目はくるくると泳ぎ、時折アリスの方を見ては何かを訴えかけるように潤む。
しかし、アリスはその様子をただじっと見守っているだけで、何もしてこない。
助け舟の期待できない状況に陥って、魔理沙はようやく観念し口を開いた。
「好きな人の好きなものくらい、知っておきたい……なんて思ってさ」
咽喉の奥から声を絞り出すように弱々しく語る魔理沙。
頬っぺたが淡く紅色になっているのは、暖炉が焚かれているからだけではないだろう。
「何かと思えばそんなこと?」
「な、そんなことってなんだよ。これでも私は真剣なんだぞ」
何やらぶつぶつと言い訳をしている魔理沙を尻目に、アリスは楽しそうに微笑むと、ちょいちょいと彼女を手招きした。
「そう。それじゃあいいこと教えてあげるから、耳貸しなさい」
「いいことって、何だ……?」
「私が一番好きなもののこと」
そう言ってアリスは、恐る恐る近づいてくる魔理沙の耳に、体温の低い己の手をあてがった。
くすぐったそうに少し身じろぎした魔理沙だったが、すぐに意識を耳朶に集中させる。
「――」
小さく、本当に魔理沙にだけしか聞こえない声量で、アリスはそっと言葉を発した。
それを聞いた魔理沙の顔は、火が付いたように一瞬にして真っ赤に染まってしまった。
「お、おまえ、そんなこと耳元で言うなよ!」
「あら、ごめんなさい」
反省の色もないしたり顔で謝ってくるアリスに、魔理沙は不満げに低く唸って顔を逸らした。
オレンジがかった黄色い瞳の先に、白銀の世界が映る。
窓の外の雪はまだ降り止んでいないようだった。
「……なあ、アリス」
「ん?」
「雪が止むまで……ここにいても、いいか?」
未だ赤いままの魔理沙の申し出に、一瞬目をぱちくりさせるアリス。
だが彼女はすぐに笑顔を取り戻すと、優しい声でそれに応えた。
「もちろんよ」
結局、雪が止んだのは、次の日の朝になってからだった。
しんしんと雪の降る景色を窓の外に臨む家の中。
唐突に訊ねてきたのは、向かいに座っていた魔理沙だった。
アリスと呼ばれた少女は編み物の手を止めて、伏せていた顔をゆっくりと上げた。
「まあ、好きと言えば好きね」
「じゃあシチューは?」
「じっくり煮込んだものは好きだわ」
目の前の白黒魔法使いは行儀悪くもテーブルに両肘をついていた。
アリスはもう見慣れてしまっているらしく、それを咎めることもなく彼女の話に耳を傾けている。
「トマトケチャップは?」
「料理によく使うわね」
樹木のすっとした匂いが消えないテーブルに、向かい合って座っている魔法使いたち。
似たような色だが少し違う髪を持つ二人は、とりとめのない会話をさらに繰り返していく。
「犬派?猫派?」
「どちらかというと猫」
「どの季節が好きだ?」
「うーん、冬かしら」
いつまでも続いていくかに思えた問答。
それを止めたのは、アリスのため息交じりの一言だった。
「ねえ、魔理沙。こんなこと訊いてどうするのよ?」
「ん?あ、ああ、ええと……その……」
急に質問を浴びせられ動揺したのか、困った顔でしどろもどろになる魔理沙。
目はくるくると泳ぎ、時折アリスの方を見ては何かを訴えかけるように潤む。
しかし、アリスはその様子をただじっと見守っているだけで、何もしてこない。
助け舟の期待できない状況に陥って、魔理沙はようやく観念し口を開いた。
「好きな人の好きなものくらい、知っておきたい……なんて思ってさ」
咽喉の奥から声を絞り出すように弱々しく語る魔理沙。
頬っぺたが淡く紅色になっているのは、暖炉が焚かれているからだけではないだろう。
「何かと思えばそんなこと?」
「な、そんなことってなんだよ。これでも私は真剣なんだぞ」
何やらぶつぶつと言い訳をしている魔理沙を尻目に、アリスは楽しそうに微笑むと、ちょいちょいと彼女を手招きした。
「そう。それじゃあいいこと教えてあげるから、耳貸しなさい」
「いいことって、何だ……?」
「私が一番好きなもののこと」
そう言ってアリスは、恐る恐る近づいてくる魔理沙の耳に、体温の低い己の手をあてがった。
くすぐったそうに少し身じろぎした魔理沙だったが、すぐに意識を耳朶に集中させる。
「――」
小さく、本当に魔理沙にだけしか聞こえない声量で、アリスはそっと言葉を発した。
それを聞いた魔理沙の顔は、火が付いたように一瞬にして真っ赤に染まってしまった。
「お、おまえ、そんなこと耳元で言うなよ!」
「あら、ごめんなさい」
反省の色もないしたり顔で謝ってくるアリスに、魔理沙は不満げに低く唸って顔を逸らした。
オレンジがかった黄色い瞳の先に、白銀の世界が映る。
窓の外の雪はまだ降り止んでいないようだった。
「……なあ、アリス」
「ん?」
「雪が止むまで……ここにいても、いいか?」
未だ赤いままの魔理沙の申し出に、一瞬目をぱちくりさせるアリス。
だが彼女はすぐに笑顔を取り戻すと、優しい声でそれに応えた。
「もちろんよ」
結局、雪が止んだのは、次の日の朝になってからだった。
ごちそうさまでした
アリスもかわいいなぁ。