「ねぇ、魔理沙」
「なんだよ」
「私と貴方って、どういう関係?」
「…何聞いてんだ?」
日差しが強い真っ昼間。
鬱蒼と木々の茂るこの森には大した影響が無いものの、ところどころ木漏れ日が射す。
暖かくて、気持ちいい。
「だから、あなたにとって、私は何なの?」
「…友達? 恥ずかしいこと言わせんな」
「そう」
そんな日には、少し哲学したくなる。
そう思ったのは、つい三分前。
三分という長い時を経て、遂に聞きだした結果がこれ。
「そう、って…。じゃあ、お前にとって私は何なんだ? 恋人か? 人形か?」
「…友達、かしら」
「だろ? 相思相愛、いいことじゃないか」
正直なところ、私は魔理沙を友達以上の存在、親友だと思っていた。
でも、魔理沙が私のことを友達だと言った以上、どうにも親友だとは言い出せなくて。
今日の私は、どこか都会派じゃない。
「…少し出かけてくるわ。こんな晴れた日に引き籠るなんて、都会派じゃないもの」
「おぉ、いい心がけだな。いってらっしゃい」
「魔理沙は?」
「私は引き籠るぜ。辺境に住む魔法使いだからな」
親友なら、『私も行くぜ! いや、連れてってくれ! 一生の頼みだ!』とか言う筈。
それを、こんなにも簡単にあしらってくれて。
私の家に一人残しておくのは少し不安だけれど、やりきれない気持ちの方が勝っている。
今日の天気と、私の気分は反比例。
「でね、ちょっと、聞いてくれる!? もう!」
「…酔ってるの?」
そうして訪れたのは、暗い暗い図書館の広間。
いっつもの場所にいっつも通り座っているのは、いっつも通りのパチュリー。
…私は、逃げ場のパターンをそんなに持ち合わせてはいない。
「ちゃんと聞いてる!? もう、これだからプァチュリーは!」
「パチュリーよ。そんなことより、酷い大根役者ね」
「…え?」
「顔、素面なのが丸分かりよ。綺麗な純白だし」
人に愚痴を言う時は、お酒の力を借りるのが定番。
そう聞いたから、それっぽい演技をしたつもりだったのに。
「…改めて、ちょっと聞きたいのだけれど」
「何? 手短にどうぞ」
「貴方と私の関係って、何?」
「他人」
「手短にどうも」
他人とくるとは。
せめて同業者、もしくはライバルぐらいには思っててほしかった。
質問を変えよう。
「もう一つ、聞いてもいい?」
「ダメ。図書館ではお静かに」
「友達と親友の違いって、何かしら」
「言って理解してくれるのが友達、言わずとも分かるのが親友。言っても分からないのが他人よ」
「手短にしてよ」
「アリスは他人ってことで。いい?」
良くない。
でも、ちょっとしたヒントは得ることができた。
言わずとも分かるのが親友、かぁ。
「もういいかしら。私、不機嫌なのよ。見て分かる通り」
「…えぇ、ありがとう。パチュリーは私の親友よ」
「好きに言ってなさい」
人間関係に敏感な、お年頃の女の子が別にいる。
パチュリーには、少し苦手分野だったのかもしれない。
優しい私は、ここいらで退散することにしよう。
触らぬ魔女に祟りなし。
「…何で、どうして素直に神社にいないのよ」
「……あぁ、アリスさん。どうも」
お年頃な女の子、早苗はいっつも通りの神社にいなかった。
山の中腹にある、開けた湖に佇んでいた彼女。
夕陽が射しこむ時間でもあり、様になっているのが少しだけ悔しい。少しだけ。
「で、何か用ですか? 手短に済ませてくださいね」
「いいわよ、別に」
「なら」
「帰りません。何をそんなに落ち込んでるの。聞いてあげないことも無いけど」
困っている、悩んでいる人を見かけたら放っておけない優しい私。
これも都会派の成せる業。
好奇心八割なのは内緒。
「…誰にも言いませんか?」
「分からないわ。面白い話なら喋っちゃうかも。つい」
「正直ですね」
話す相手がいないけど。
強いて、本当に強いて言うなら魔理沙ぐらい。
まぁ、魔理沙に言えば幻想郷中に広まっちゃうかも。
「…私、親友がいたんですよ。外の世界に」
「へぇ。良い事じゃない」
「良い事の様に思えます? 二度と会えないのに」
…誰にも言わないって、今決めた。
だって、ここまでつまらない話なんて無いもの。
得意気に話しても、恐らく場が白けるだけ。
「今朝、その親友の夢を見まして」
「うん」
「近所に湖があって。そこで将来の話とか、好きな男の子の話とかしたんですよ。夢の中で」
「うんうん」
「でも、それが二度と現実にならないんだなぁって思うと、どうにも切なくて…」
私の見込み違いだったのだろうか。
彼女、早苗はひたすらに前を見て生きている子だと思っていたけど。
その明るさ、健気さに多少惹かれているところがあったのに。
「…アリスさんにも、そういう経験無いですか?」
「無いわね。私は都会派だから」
「…?」
「今更どうにもならないことを思って、沈んでるのは時間の無駄よ。無駄無駄」
非生産的な考えは、今の私には無い。
自分と似たところを感じた彼女には、さっさと元の空回りな元気を取り戻してほしくて。
都会派じゃなく語り続ける。
「どうしても会いたいなら、あのスキマ妖怪に相談してみるとか、色々手段があるじゃない」
「でも、そんな事許されるか分からないし…」
「その時間が無駄だって言ってるの」
私にとって、思い悩む時間は無駄でしかない。
でも、ここまで彼女が思い悩むのは。
その親友を、とてもとても大切に思っていたからなのだろう。
「でも、でも私はまだ…」
「さっさと帰って、食べて、寝なさい。それでも気持ちが冷めないなら、行動を起こすことね」
「…はい」
ただ気の合う友達、というレベルではここまで思い悩むことも無かったのかもしれない。
深く付き合うと、別れた時の反動が大きい。
いい勉強になった。
「あの、アリスさん」
「何? お礼なら秋の味覚てんこ盛りセットでいいわよ」
「…それは、私の沈んだ顔を見れただけで十分じゃないですか?」
にやついて言う彼女。
やっぱり、彼女は少しばかり生意気な方が似合っている。
明るく、強く。生意気に。
「じゃ、私はもう行くから。時間を無駄にしたわ、まったく」
「はい。私も無駄にしました」
「お互い様ね」
「えぇ」
夕陽が眩しい。
結局、パチュリー以下の成果しか得られなかったけど。
珍しいものを見れたから、それでよしとしよう。
「でね、魔理沙。私は松茸より、どっちかって言えば椎茸の方が好みなの」
「はい」
「でも、和食よりは洋食の方が好きね。きのこソテーとか」
「はいはい」
「あ、和食が嫌いなわけじゃないの。松茸ご飯だって大好き」
夕陽もすっかり沈んで、少し肌寒い満月の夜。
今晩は、魔理沙の家に泊まりこみ。
それは、勿論泊まりこまなきゃいけない理由があるから。
「はいはいはい…どうした、酒が入ってるのか? よく喋るな」
「今日は飲んでないわ。話したいから話すだけよ」
「…まぁ、好きにしろよ」
私と魔理沙は、友達。
親友になれば、別れた時の辛さが計り知れない。
そして、友達である条件はパチュリーに教わった通り。
「でも、森でわざわざきのこを探すのは都会派じゃ無いの…聞いてる?」
「はいはいはい」
「聞いてくれなきゃ困るのよ。魔理沙には言って分かる人になってもらわないと」
「聞いてるよ。聞いてるから、ちょっと横になるぜ。横になるだけだから」
「ダメよ。絶対寝るじゃない」
そう言えば、私が語るだけじゃいけない。
魔理沙にも語ってもらって、それをちゃんと私が理解しないと。
友達を極めるには、まだまだ時間がかかりそう。
「ねぇ、魔理沙。何か話してよ」
「昔々、おじいさんとおばあさんがいました」
「ふんふん」
「おしまい。寝るぜ、また夜明けに会おう」
…今日は、友達日和じゃなかったみたい。
まぁ、時間は腐るほどあるから。腐らないけど。
親友目指して、永遠に彼女とは友達でいよう。
やっぱりけやっきーさんの書くアリスはちょっと天然入ってて可愛いですね。純粋に好きです。
次回も頑張って下さい。
大好きです。