※ この話は、ジェネリック作品集69、『ケーキよりも甘いもの。』の話の内容を若干引き継いでおります。
気にならない程度だとは思うのですが、気になったら是非お読みください。
今、二人の吸血鬼少女たちは図書館に居る。日の射し込む事のない紅魔館の中でも一際薄暗いこの場所で僅かな光源を頼りに読書をしているようだ。
「……ねぇ~お姉さま~……わたしもう飽きちゃったよぉ……。」
しかしどうやら読み耽けていたのは姉であるレミリアの方だけだったようで。
フランは手に持った本から顔を上げるとふてくされた表情を見せた。
「…………。」
そんなフランの心からの訴えも虚しく、姉からは無言の返事が返ってくるだけ。
レミリアは本から視線を外す事無く頬を膨らませた妹の顔を見ようともしなかった。
「お姉さまっ!」
そんなことで諦めるフランでも無く、図書館だと言うのにも構わず彼女は大声を張り上げた。
「そんなに大声を出さなくてもちゃんと聞こえているわよ……それよりもパチェに叱られるわよ?」
フランの思いが届いたのか、それとも単に煩わしかったのか。おそらく後者なのだろう。
レミリアは渋々と言った様子で注意するも、やはり本から顔を離さなかった。
勿論フランにとっては面白くない。
「……パチェなら居ないよ。」
そっぽを向きながらいじけた声でそう返すと未だ本ばかり見つめる姉の顔を盗み見るフラン。
実は彼女にとってこれは一つの策だったのだ。
「あら、そう。」
「っ……!?」
しかしフランの立てた策は目の前の姉には通じなかった。
驚愕に瞳を見開くフラン。平然としている姉の姿に信じられないと彼女は目を疑った。
普段のレミリアならこうも淡泊では無かっただろう。
仰々しく諭すようにしてこう言った筈だ。
『フラン、そう言う問題ではないのよ。貴女はもっとレディとしての嗜みを覚えなさい』──と。
体裁やら沽券やらに強い美意識を持っている姉らしく無いと当然フランは思う。
そもそもレミリアのお小言は全てフランへの愛情があってこそなのだが……今はそれすら忘れてしまったかのように本にかじり付いている。
「そんなっ……!」
「お姉さま……!?」
不意に悲鳴じみた声を上げるレミリアにただならぬ雰囲気を感じ取ったフランは慌ててテーブルから身を乗り出した。
「ああ……ダメよくんくん……! そっちには怪盗の罠が……!」
「…………は?」
──くんくんって……誰?
頭上に大きな疑問符を浮かべてフランは可愛らしくその場で首を傾げる。
全く事態を飲み込めていないフランをよそに、レミリアの独り言は続いた。
「そう! そうよ、くんくん……! よく気が付いたわ! きっと私の声援が届いたのね……!」
どうやら本の話らしいとフランは察した。
ついに壊れてしまった姉に、しかしフランはもうどうでもいいやと投げ出した。
構って貰えないのなら興味は無いとテーブルに突っ伏して、とうとうふて寝を始めてしまうフランだった。
「ふぅ……手に汗握るスリルと展開……子供向けとは言え侮れないわね……フラン、貴女も読んで見たらどうかしら?」
漸く読み終えたレミリアが隣りの椅子に腰掛けるフランに声を掛ける。
「フラン……寝ているの?」
しかし待ちくたびれてしまったフランはとっくの昔にテーブルの上で小さな寝息を立てていた。
それに気付いたレミリアは呆れたと言わんばかりに溜め息を付いた。
「全く……ちょっとぐらい待てなかったのかしら。」
言いながらフランの耳に掛かる金色の横髪にそっと触れるレミリア。
そして安らかに眠る妹の寝顔を見守るような温かな目で眺め始めた。
「貴女に読み聞かせようと思って読んでたのよ……? なのに読む前に寝ちゃうなんて……どう責任とってくれるのかしら?」
聞こえていない事を承知で話し掛けるレミリア。
その表情はとても柔らかく、フランを責めるつもりは微塵もない事が窺える。
「どうしても起きないつもりかしら? ふふふっ、生意気ね。そんな可愛げの無い妹は……お仕置きよ。」
心にも無い事を宣いながらこれ見よがしにフランの頬をつつくレミリア。
起こさないようしっかりと加減しながらも幾度となくつつき続ける。
その絶妙とも言える力加減の為か、身じろぎすらしないフラン。
それでもレミリアは飽きもせず妹の頬をつつき続けた。
「んんーっ! んっんっーーっ!」
「お願いだから黙っててちょうだい、こあ……!」
本棚の影に身を隠していたパチュリーは同じく身を潜めていた小悪魔が声を出そうとするのを必死になって両手で押さえ込んでいた。
「んっー! んんー!」
尚も暴れようとする小悪魔を羽交い締めにして押さえ込むパチュリー……その勇ましい姿は普段の病気的な彼女の雰囲気とはかけ離れていた。
「今いいところなのよ……! 折角あの意地っ張りなレミィなのだから邪魔しちゃダメよ!」
興奮の余り訳の分からない言葉を口走るパチュリー。
器用にもそのままの体制でレミリア達を覗き込むパチュリーはうっとりとした溜め息を吐いたかと思うと、急に目元をキリッと釣り上げた。
「何をやっているのレミィ……! ほっぺにちゅうぐらい事故よ! さあ今すぐ妹様の柔肌にキスを……!」
流石に注意力が散漫になったのか小悪魔が僅かな隙をついて、漸くパチュリーの束縛を払いのけた。
「ぷはっー……! ヒドいですよぉ~パチュリー様、突然口を塞ぐなんて……こあ苦しかったです。」
こほこほと咳をしながらぼやく小悪魔だったが、主の反応は冷たく、鼻を鳴らして一瞥をくれた。
「空気を読めない貴女が悪いのよ。自業自得よ。」
責任転嫁だと小悪魔は思ったがパチュリーは本気でそう思っているようだ。
「大体何時も言ってあるでしょう? 図書館では大きな音を出すなと……それなのに貴女と来たらレミィ達を確認した途端大口開けて駆け出して……。」
主人のお小言に辟易としながら薄目を開けてジト目を向ける小悪魔。
そんな司書の露骨な態度にパチュリーは眉間に皺を寄せた。
「…………何よ。」
冷たく言い放つパチュリーに尚も不貞不貞しい態度を小悪魔は取り続けた。
「いいえ~、ただそれくらい素直に魔理沙さんにも接してあげれば良いのになんて、こあはこれっぽっちも思ってませんよぉ~?」
「なっ……!」
思わず絶句するパチュリーにしたり顔を浮かべて小悪魔はカラカラと笑い出した。
「外野から人の恋路にぴーちくぱーちく言ってる暇があったらぁ、今すぐ彼女のもとへ行ってその無駄にデカい乳を揉ませて来いってんだー!」
小悪魔魂全開──
調子に乗った小悪魔はここぞとばかりにパチュリーをけしかけた。
「このっ──」
「叫んじゃうんですか? 騒いじゃうんですか?」
「──っ……!」
「出来ませんよねぇ~? なんて言ったってここ、図書館ですから。」
完全に言いくるめられて、恥ずかしさと悔しさから俯いてぷるぷると震え出すパチュリー。
一方で小悪魔は自分の台詞がツボに入ったらしく、『ここ、図書館ですから』を反濁しては声を殺してクスクスと笑う。
──久々の悪魔っぽい行いに、彼女は今、確かに輝いていた。
「……調子に…………乗るなっ!」
ゴスッ!
「ぐえっ……!」
しかし我慢の限界は直ぐにやってきた。
パチュリーが怒りと共に振り下ろした魔導書が小悪魔の脳天を捉える同時に、短かった彼女の時代は音を立てて崩れ落ちるのであった。
「知ってる? 魔導書は鈍器にもなるのよ。」
「め、メジャー化……おめでとうございます……!」
崩れ落ちる瞬間、謎のメッセージを残しながら小悪魔は意識を手放した。
浅い眠りの淵にいたフランは、パチュリー達が起こした物音をきっかけに目を覚ましてしまった。
「あら、フラン。漸くお目覚め?」
「んっ……あれ? お姉さま……?」
だけどまだ寝ぼけているらしく、しょぼついた目を擦りながらフランは小首を傾げた。
どことなくご機嫌な様子の姉──頬を薄く赤色に染めるレミリアの笑顔を見て、どうしたんだろうと不思議に思ったからだ。
ちょっと考えてみるも全く思い当たる節の無いフラン。それどころか自身がふて寝した理由すら今の彼女は忘れしまっていた。
目覚めたら大好き姉が目の前で笑っていた。彼女に取ってこれ以上の幸福は無かったからだ。
それでもどうしてそんなにご機嫌なのか、フランは気になって訳を聞くことにした。
「お姉さま? 何か良い事でもあった?」
するとレミリアはとても意味深な笑みを浮かべるとフランの質問に悪戯っぽく答えた。
「ええ、そうね。とっても甘い……それこそ今までに味わった事のない美味に巡り会えたわ。」
そう言って微笑むレミリアだったが、フランは理解できないと唸るしか無かった。
しかしそれすらも愉快そうにレミリアは笑った。
「分からないかしら?」
「わかんないよぉ……。」
可愛く頬を膨らませるフランの頬にそっと手を伸ばし、愛おしそうに優しく撫でながらレミリアは言う。
「いずれまた……味あわせて貰うわ。」
そう言ってレミリアは優雅に微笑むのだった。
気にならない程度だとは思うのですが、気になったら是非お読みください。
今、二人の吸血鬼少女たちは図書館に居る。日の射し込む事のない紅魔館の中でも一際薄暗いこの場所で僅かな光源を頼りに読書をしているようだ。
「……ねぇ~お姉さま~……わたしもう飽きちゃったよぉ……。」
しかしどうやら読み耽けていたのは姉であるレミリアの方だけだったようで。
フランは手に持った本から顔を上げるとふてくされた表情を見せた。
「…………。」
そんなフランの心からの訴えも虚しく、姉からは無言の返事が返ってくるだけ。
レミリアは本から視線を外す事無く頬を膨らませた妹の顔を見ようともしなかった。
「お姉さまっ!」
そんなことで諦めるフランでも無く、図書館だと言うのにも構わず彼女は大声を張り上げた。
「そんなに大声を出さなくてもちゃんと聞こえているわよ……それよりもパチェに叱られるわよ?」
フランの思いが届いたのか、それとも単に煩わしかったのか。おそらく後者なのだろう。
レミリアは渋々と言った様子で注意するも、やはり本から顔を離さなかった。
勿論フランにとっては面白くない。
「……パチェなら居ないよ。」
そっぽを向きながらいじけた声でそう返すと未だ本ばかり見つめる姉の顔を盗み見るフラン。
実は彼女にとってこれは一つの策だったのだ。
「あら、そう。」
「っ……!?」
しかしフランの立てた策は目の前の姉には通じなかった。
驚愕に瞳を見開くフラン。平然としている姉の姿に信じられないと彼女は目を疑った。
普段のレミリアならこうも淡泊では無かっただろう。
仰々しく諭すようにしてこう言った筈だ。
『フラン、そう言う問題ではないのよ。貴女はもっとレディとしての嗜みを覚えなさい』──と。
体裁やら沽券やらに強い美意識を持っている姉らしく無いと当然フランは思う。
そもそもレミリアのお小言は全てフランへの愛情があってこそなのだが……今はそれすら忘れてしまったかのように本にかじり付いている。
「そんなっ……!」
「お姉さま……!?」
不意に悲鳴じみた声を上げるレミリアにただならぬ雰囲気を感じ取ったフランは慌ててテーブルから身を乗り出した。
「ああ……ダメよくんくん……! そっちには怪盗の罠が……!」
「…………は?」
──くんくんって……誰?
頭上に大きな疑問符を浮かべてフランは可愛らしくその場で首を傾げる。
全く事態を飲み込めていないフランをよそに、レミリアの独り言は続いた。
「そう! そうよ、くんくん……! よく気が付いたわ! きっと私の声援が届いたのね……!」
どうやら本の話らしいとフランは察した。
ついに壊れてしまった姉に、しかしフランはもうどうでもいいやと投げ出した。
構って貰えないのなら興味は無いとテーブルに突っ伏して、とうとうふて寝を始めてしまうフランだった。
「ふぅ……手に汗握るスリルと展開……子供向けとは言え侮れないわね……フラン、貴女も読んで見たらどうかしら?」
漸く読み終えたレミリアが隣りの椅子に腰掛けるフランに声を掛ける。
「フラン……寝ているの?」
しかし待ちくたびれてしまったフランはとっくの昔にテーブルの上で小さな寝息を立てていた。
それに気付いたレミリアは呆れたと言わんばかりに溜め息を付いた。
「全く……ちょっとぐらい待てなかったのかしら。」
言いながらフランの耳に掛かる金色の横髪にそっと触れるレミリア。
そして安らかに眠る妹の寝顔を見守るような温かな目で眺め始めた。
「貴女に読み聞かせようと思って読んでたのよ……? なのに読む前に寝ちゃうなんて……どう責任とってくれるのかしら?」
聞こえていない事を承知で話し掛けるレミリア。
その表情はとても柔らかく、フランを責めるつもりは微塵もない事が窺える。
「どうしても起きないつもりかしら? ふふふっ、生意気ね。そんな可愛げの無い妹は……お仕置きよ。」
心にも無い事を宣いながらこれ見よがしにフランの頬をつつくレミリア。
起こさないようしっかりと加減しながらも幾度となくつつき続ける。
その絶妙とも言える力加減の為か、身じろぎすらしないフラン。
それでもレミリアは飽きもせず妹の頬をつつき続けた。
「んんーっ! んっんっーーっ!」
「お願いだから黙っててちょうだい、こあ……!」
本棚の影に身を隠していたパチュリーは同じく身を潜めていた小悪魔が声を出そうとするのを必死になって両手で押さえ込んでいた。
「んっー! んんー!」
尚も暴れようとする小悪魔を羽交い締めにして押さえ込むパチュリー……その勇ましい姿は普段の病気的な彼女の雰囲気とはかけ離れていた。
「今いいところなのよ……! 折角あの意地っ張りなレミィなのだから邪魔しちゃダメよ!」
興奮の余り訳の分からない言葉を口走るパチュリー。
器用にもそのままの体制でレミリア達を覗き込むパチュリーはうっとりとした溜め息を吐いたかと思うと、急に目元をキリッと釣り上げた。
「何をやっているのレミィ……! ほっぺにちゅうぐらい事故よ! さあ今すぐ妹様の柔肌にキスを……!」
流石に注意力が散漫になったのか小悪魔が僅かな隙をついて、漸くパチュリーの束縛を払いのけた。
「ぷはっー……! ヒドいですよぉ~パチュリー様、突然口を塞ぐなんて……こあ苦しかったです。」
こほこほと咳をしながらぼやく小悪魔だったが、主の反応は冷たく、鼻を鳴らして一瞥をくれた。
「空気を読めない貴女が悪いのよ。自業自得よ。」
責任転嫁だと小悪魔は思ったがパチュリーは本気でそう思っているようだ。
「大体何時も言ってあるでしょう? 図書館では大きな音を出すなと……それなのに貴女と来たらレミィ達を確認した途端大口開けて駆け出して……。」
主人のお小言に辟易としながら薄目を開けてジト目を向ける小悪魔。
そんな司書の露骨な態度にパチュリーは眉間に皺を寄せた。
「…………何よ。」
冷たく言い放つパチュリーに尚も不貞不貞しい態度を小悪魔は取り続けた。
「いいえ~、ただそれくらい素直に魔理沙さんにも接してあげれば良いのになんて、こあはこれっぽっちも思ってませんよぉ~?」
「なっ……!」
思わず絶句するパチュリーにしたり顔を浮かべて小悪魔はカラカラと笑い出した。
「外野から人の恋路にぴーちくぱーちく言ってる暇があったらぁ、今すぐ彼女のもとへ行ってその無駄にデカい乳を揉ませて来いってんだー!」
小悪魔魂全開──
調子に乗った小悪魔はここぞとばかりにパチュリーをけしかけた。
「このっ──」
「叫んじゃうんですか? 騒いじゃうんですか?」
「──っ……!」
「出来ませんよねぇ~? なんて言ったってここ、図書館ですから。」
完全に言いくるめられて、恥ずかしさと悔しさから俯いてぷるぷると震え出すパチュリー。
一方で小悪魔は自分の台詞がツボに入ったらしく、『ここ、図書館ですから』を反濁しては声を殺してクスクスと笑う。
──久々の悪魔っぽい行いに、彼女は今、確かに輝いていた。
「……調子に…………乗るなっ!」
ゴスッ!
「ぐえっ……!」
しかし我慢の限界は直ぐにやってきた。
パチュリーが怒りと共に振り下ろした魔導書が小悪魔の脳天を捉える同時に、短かった彼女の時代は音を立てて崩れ落ちるのであった。
「知ってる? 魔導書は鈍器にもなるのよ。」
「め、メジャー化……おめでとうございます……!」
崩れ落ちる瞬間、謎のメッセージを残しながら小悪魔は意識を手放した。
浅い眠りの淵にいたフランは、パチュリー達が起こした物音をきっかけに目を覚ましてしまった。
「あら、フラン。漸くお目覚め?」
「んっ……あれ? お姉さま……?」
だけどまだ寝ぼけているらしく、しょぼついた目を擦りながらフランは小首を傾げた。
どことなくご機嫌な様子の姉──頬を薄く赤色に染めるレミリアの笑顔を見て、どうしたんだろうと不思議に思ったからだ。
ちょっと考えてみるも全く思い当たる節の無いフラン。それどころか自身がふて寝した理由すら今の彼女は忘れしまっていた。
目覚めたら大好き姉が目の前で笑っていた。彼女に取ってこれ以上の幸福は無かったからだ。
それでもどうしてそんなにご機嫌なのか、フランは気になって訳を聞くことにした。
「お姉さま? 何か良い事でもあった?」
するとレミリアはとても意味深な笑みを浮かべるとフランの質問に悪戯っぽく答えた。
「ええ、そうね。とっても甘い……それこそ今までに味わった事のない美味に巡り会えたわ。」
そう言って微笑むレミリアだったが、フランは理解できないと唸るしか無かった。
しかしそれすらも愉快そうにレミリアは笑った。
「分からないかしら?」
「わかんないよぉ……。」
可愛く頬を膨らませるフランの頬にそっと手を伸ばし、愛おしそうに優しく撫でながらレミリアは言う。
「いずれまた……味あわせて貰うわ。」
そう言ってレミリアは優雅に微笑むのだった。
甘くて素晴らしかったです
レミフラおいしかったです