コガネイロに光る幻想の海
大切な気持ちひとつだけ沈めて眠るの
最初に抱いた思いは、小さな小さな憧れだった。
フルーツでいえばよく熟れた完成品。人形みたいな綺麗な容姿。
それぐらい彼女は完全で瀟洒だった。
彼女が入れた紅茶も完全で文句なんて考えつかないぐらい美味しかった。
今目の前にある紅茶は私が入れたものなので、大分味が変わっている。
私の紅茶は東洋独特の入れ方でもあるから、お嬢様にも一度ぐちぐちいわれた。
何時だっただろうか。彼女がここからいなくなったのは。
分かっていたことだった。
私達は妖怪。
彼女は人間。
どちらも終わりは、必ず来る。
でも、彼女の歩きは私達から見れば、充分な駆け足で。
すぐに遠くに行って、見えなくなってしまう。
一緒に過ごしていたときが楽しければ楽しかった程、失えば悲しくて、寂しい。
だからこそ、紅魔館は悲しみで満ち溢れた。
「忘れないで」
お嬢様と妹様、パチュリー様、小悪魔さん、私が見守る中、彼女は旅立った。
彼女が最後に放った言葉は、深く私達の中の悲しみを増加させた。
妹様と小悪魔さんと私は号泣。
お嬢様とパチュリー様は静かに涙を流していた。
そんな暗い雰囲気に包まれた部屋から見えた木を揺らした南風が、彼女を迎えにきた気がした。
「……」
紅茶を片付けいつものように門に戻る。
今のメイド長は彼女が徹底して育てた妖精が担当しているが、やはり何か物足りない。
それほどまでに彼女は完全で、居なくなった方が不思議なぐらいで。
目を閉じると今でも傍にいて、すぐにナイフが飛んできそうな感じがして苦笑した。
閉じた瞼には、彼女の影が残っているような気がした。
秋に咲く黄金色の草花で埋め尽くされた、幻想の海。
一つ一つを大事に育て、やっとこの景色ができたところだった。
彼女にふれるように、優しく育てるたびに、大切な気持ちを一つ沈める。
私はそのまま空を仰ぐ。
秋の空にふさわしい茜色に霞む幻想的な空。
花が風に揺られざわめくのを、ふれている人差し指が強く教えてくれていた。
――センチメンタルなキャンバスに、ファンタスティックなイメージで。
彼女の絵を一人、瞼の奥で描く。
彼女の笑顔を私は一人、瞼の裏で見つめている。
もう一度、黄金色の海を見渡す。
今さっきと変わらぬ景色に、一つまた思いを寄せる。
茜色の空も、黄金色の海も、彼女も、私も、全て、いつかは変わっていく。
それは決して変えられることの出来ない真実。
でも、それが全て悪いことだとは思わない。
彼女が成長していったこと。
私や、お嬢様達の心が彼女を通して変化していったこと。
紅魔館が前よりも賑やかになったこと。笑顔が増えたこと。
他にもたくさん、たくさんある。
一人じゃ数えられないぐらい、本当に、たくさん。
つぅ、と頬を一筋の雫が伝う。
それが涙だと気付いた瞬間に、いろんな感情がまた溢れてくる。
もう沈むのも、後悔するのもいいだろう。そう思い、草から手を離す。
そろそろ門に戻らなければ休憩時間が終わってしまう。
立ち上がり、彼女がくれた懐中時計を覗く。
案の定、休憩時間はもうすぐ終わりそうだった。
歩く。
ただ、門に向かって。一人で、歩く。
後ろで見ていた視線はもうない、という事は充分に分かっている。
でも。
それでも。もう一度だけ。
私は振り返る。
やはりそこには誰も居らず、ただ黄金色の海があっただけだった。
分かっていた。でも、期待してしまうのだ。
彼女が居ることが日常だった。
彼女が怒って、呆れて、笑ってくれるのが普通だった。
私にとって、彼女は必要不可欠なものだったのだ。
また涙が流れ出す。
どうせなら、この胸の中にある気持ちも吐き出したほうが楽だろう。
私はそう思い、彼女のことを黄金色を背景に強く想う。
――最後にもう一度、君の記憶を黄金色の海に優しく映し出して。
「――愛してました、咲夜さん。」
その呟きは優しく、とけるように消えていった。
大切な気持ちひとつだけ沈めて眠るの
最初に抱いた思いは、小さな小さな憧れだった。
フルーツでいえばよく熟れた完成品。人形みたいな綺麗な容姿。
それぐらい彼女は完全で瀟洒だった。
彼女が入れた紅茶も完全で文句なんて考えつかないぐらい美味しかった。
今目の前にある紅茶は私が入れたものなので、大分味が変わっている。
私の紅茶は東洋独特の入れ方でもあるから、お嬢様にも一度ぐちぐちいわれた。
何時だっただろうか。彼女がここからいなくなったのは。
分かっていたことだった。
私達は妖怪。
彼女は人間。
どちらも終わりは、必ず来る。
でも、彼女の歩きは私達から見れば、充分な駆け足で。
すぐに遠くに行って、見えなくなってしまう。
一緒に過ごしていたときが楽しければ楽しかった程、失えば悲しくて、寂しい。
だからこそ、紅魔館は悲しみで満ち溢れた。
「忘れないで」
お嬢様と妹様、パチュリー様、小悪魔さん、私が見守る中、彼女は旅立った。
彼女が最後に放った言葉は、深く私達の中の悲しみを増加させた。
妹様と小悪魔さんと私は号泣。
お嬢様とパチュリー様は静かに涙を流していた。
そんな暗い雰囲気に包まれた部屋から見えた木を揺らした南風が、彼女を迎えにきた気がした。
「……」
紅茶を片付けいつものように門に戻る。
今のメイド長は彼女が徹底して育てた妖精が担当しているが、やはり何か物足りない。
それほどまでに彼女は完全で、居なくなった方が不思議なぐらいで。
目を閉じると今でも傍にいて、すぐにナイフが飛んできそうな感じがして苦笑した。
閉じた瞼には、彼女の影が残っているような気がした。
秋に咲く黄金色の草花で埋め尽くされた、幻想の海。
一つ一つを大事に育て、やっとこの景色ができたところだった。
彼女にふれるように、優しく育てるたびに、大切な気持ちを一つ沈める。
私はそのまま空を仰ぐ。
秋の空にふさわしい茜色に霞む幻想的な空。
花が風に揺られざわめくのを、ふれている人差し指が強く教えてくれていた。
――センチメンタルなキャンバスに、ファンタスティックなイメージで。
彼女の絵を一人、瞼の奥で描く。
彼女の笑顔を私は一人、瞼の裏で見つめている。
もう一度、黄金色の海を見渡す。
今さっきと変わらぬ景色に、一つまた思いを寄せる。
茜色の空も、黄金色の海も、彼女も、私も、全て、いつかは変わっていく。
それは決して変えられることの出来ない真実。
でも、それが全て悪いことだとは思わない。
彼女が成長していったこと。
私や、お嬢様達の心が彼女を通して変化していったこと。
紅魔館が前よりも賑やかになったこと。笑顔が増えたこと。
他にもたくさん、たくさんある。
一人じゃ数えられないぐらい、本当に、たくさん。
つぅ、と頬を一筋の雫が伝う。
それが涙だと気付いた瞬間に、いろんな感情がまた溢れてくる。
もう沈むのも、後悔するのもいいだろう。そう思い、草から手を離す。
そろそろ門に戻らなければ休憩時間が終わってしまう。
立ち上がり、彼女がくれた懐中時計を覗く。
案の定、休憩時間はもうすぐ終わりそうだった。
歩く。
ただ、門に向かって。一人で、歩く。
後ろで見ていた視線はもうない、という事は充分に分かっている。
でも。
それでも。もう一度だけ。
私は振り返る。
やはりそこには誰も居らず、ただ黄金色の海があっただけだった。
分かっていた。でも、期待してしまうのだ。
彼女が居ることが日常だった。
彼女が怒って、呆れて、笑ってくれるのが普通だった。
私にとって、彼女は必要不可欠なものだったのだ。
また涙が流れ出す。
どうせなら、この胸の中にある気持ちも吐き出したほうが楽だろう。
私はそう思い、彼女のことを黄金色を背景に強く想う。
――最後にもう一度、君の記憶を黄金色の海に優しく映し出して。
「――愛してました、咲夜さん。」
その呟きは優しく、とけるように消えていった。
個人的には夢見がちすぎかなーと思ったけど、タイトル踏まえたら成功か
めーさくをありがとう!