Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

雪の降る日は暖かい

2010/12/03 19:18:16
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雪も降り始めた朝、霖之助はカウンターで二人の少女の相手をしていた。

「…と言うわけで宴会来ません?霖之助さん」

一人はおめでたい紅白の衣装に身を包みマフラーを巻き付けた少女、博麗霊夢である。

「そう言えば何で急に宴会なんか開くんだい?」

「そりゃ唐突に宴会開くのが霊夢の得意技さ、知ってるだろ?香霖」

店の戸棚の向こう側から顔を覗かせて同意を求めたのは白黒の衣装に身を包んでストールを肩に掛けている魔女、霧雨魔理沙である。

「まぁ雪も降り始めたし今年もそろそろ終わりでしょ?だからパァーッと宴会開こうかなって」

「要するにあれだ『なんか差し入れ持ってきてくれ』って事だぜ、香霖」

「そうか、納得した」

「まぁでも無理だと思うぜ、霊夢」

「何がよ」

魔理沙の忠告に霊夢は頬を膨らませ問い詰めた。

「あのな、香霖も予定があるんだ、色々とな、な?」

「まぁ無いわけではないね」

霖之助は本に目をやりながら魔理沙の言葉に首肯した。

「やっぱ年の瀬は集まらないのかしら、レミリアの所は館で年末を迎えたいとか言ってたし早苗ん所も家族で年末だとか紫も幽香も来ないし」

「珍しいね、博麗神社の宴会に人が集まらないなんて」

「まぁ霊夢、今日は二人っきりで過ごそうぜ」

魔理沙はそう言って笑うと霊夢の肩に手を回し雪がちらつく道を帰っていった。

「じゃな、言いお年を~」

「それじゃあ霖之助さん、来年も宜しく」

「あぁ、風邪ひくなよ、二人とも」

店先で二人を見送り姿が見えなくなると霖之助は店の中へ入り込み冷たくなった手に息を吐きかけた。



昼食を終える頃には雪も本格的に降り始め窓枠にも雪がこびり付いたとき、店の呼び鈴を鳴らし来客を告げた。

「…邪魔するぞ、霖之助」

「おや、慧音じゃないか、どうした?」

そこには外套に身を包んだ慧音がいた

「丁度白墨がきれたんだ、売ってくれるか?」

「構わないよ、ほら」

白墨が納められた箱を差し出すと慧音はそれを手に取り代金をカウンターに置くと懐へ納め出て行こうとした。

「お茶でも飲んでいかないか?外は寒いだろ」

「ありがとう、だが妹紅が待ってるからな、今度頂くことにするよ」

「そうか」

それだけ言って霖之助は降りしきる雪の中家路につく慧音を見送った。



とうとう視界が効かなくなり始めた午後、霖之助はストーブの火力を上げ読み終え堆く積まれた本を片づけていた。

「…霖之助、いる?」

呼び鈴と共に聞こえた声に振り向くとそこには雪まみれの天子が居た

「やぁ、いらっしゃい」

霖之助は天子に付いた雪を払い落としストーブの前に座らせると台所に行き温かい飲み物をマグカップに注いだ。

「さぁ飲むと良いよ、体が暖まる」

「あ、ありがとう」

天子はマグカップを受け取り口に運び一息吐いた

「美味しい?」

「うん」

何時しか雪は“降る”から“吹く”へと変わり雪が窓硝子を叩く音が大きくなっていた。

「吹雪いてきたな、明日は積もるぞ」

「え?本当に?」

霖之助の呟きに天子は目を輝かせ反応した。

「あぁ見てごらん、外が全く見えない」

「綺麗だね」

危機感を憶えなければならないはずの風景を見ての天子の発言に霖之助は頭を抑えながら言った。

「あのな、分かるかい?目の前が見えない状況で帰れないだろ?良いのか」

「良いよ」

「そうだろう、良いわけが…え?」

「良いって言ったの、霖之助と二人っきりになれるんでしょ?」

無邪気な笑顔で此方を見てくる天子に霖之助は頭を抑えながらも

「…分かったよ、今日は泊まって行きなさい」

そう言って天子のお泊まりを許可したのだった。



日が沈み始め、風と雪が窓枠をがたつかせる音を聞きながら二人は一つの布団に一緒にくるまってストーブの前にいた。

「…それにしても良く降るね」

「そう言えば天子は初めてだっけ、雪」

「うん」

降りしきる雪の音に負けずストーブは賑やかな音を立て部屋全体を暖めてくれている
そんな時だった、霖之助の肩が柔らかい衝撃と共に重くなったのは。

「どうしたんだい、天子」

「…何でもない」

「そうか」

そう言って天子は何時しか静かな寝息を立て夢の世界へ旅立っていった。



翌日、目を覚ました二人は店の屋根にいた。

「…凄いね」

「あぁ、圧巻だ」

店の周りは一晩にして雪原へ変わり、高く積もった雪によって店は屋根の窓以外からの出入りが不可能な状態だった。

「…えいっ!」

「うっ」

元気の良いかけ声と共に霖之助の頭に真っ白な雪が落ち、僕はずれた眼鏡で天子に言った。

「…何するんだ!天子」

「雪合戦しようよ、雪合戦」

「…ふふふ、良いよ、やろうじゃないか」

雪玉を天に向かって何度か投げ上げて言った天子に霖之助は眼鏡を直しながら言った。



冬の綺麗な朝空の下、二人は冷たく熱い弾幕ごっこを開始した。

「…それっ!」

「軽い軽い」

天子の放った雪玉を軽く回避すると霖之助はすかさず牽制の雪玉を放つ。
しかし天子は素早く遮蔽物へ隠れ被弾を防ぐ、だがこれを僕は待っていた。

「…決めさせて貰うよ」

霖之助は雪玉を両手に抱え天子が隠れている雪壁へ詰め寄り上に一つ放り投げ横に回り振りかぶる。

「あ、ヤバ…」

敗北を察した呟きを聞き霖之助は微笑み天子の頭に優しく雪玉を乗せた。
うっすらと目をつぶっていた天子に霖之助はこういった。

「僕の勝ち…」

しかしその言葉を霖之助は言い切ることなく頭に衝撃を受けた。
開いたもう片方の手で触ったそれは雪だった、そう、先程投げ上げた雪玉が霖之助の頭に落ちてきたのだ。

「…引き分けかな」

「そうだね」

その瞬間、天子は雪を掬うと霖之助投げかけた。

「うっ…やったな、こいつ!」

霖之助は顔を拭うと雪を掬って天子の頭に振り掛けた。

「今度はこっちの番よ!」

「させるか!」

こうして二回目の雪合戦、と言うよりはただの雪の掛け合いが始まった。

「それっ」

「えいっ」

馴れない雪を駆け回り、持てるだけの雪を持ち互いの体に掛け合いそして派手に雪原へめり込んだ。

「…空が広いね、霖之助」

「あぁ、それに綺麗だ」

二人は大の字になって空を眺めていた。

「…よっこいしょっと、大丈夫かい?天子」

「ん、ありがと」

天子を助け起こした霖之助も助けられた天子も互いに雪まみれの顔を暫く見つめ合うと、どちらが先かも分からないくらい笑い合った。
一頻り笑った後霖之助は周りを見渡してある提案をした。

「そうだ、天子、雪洞を掘ってみないか?」

「雪洞?」

「あぁ、雪の洞穴だ」

霖之助は天子を伴って店の外にある物置まで歩いていきスコップを取り出し説明した。

「まずは場所を決める」

「うん」

そしては霖之助適当な斜面を見つけ周りを抉り雪の柱を作る。

「そしてこれで出来た雪の柱をぽんぽんと叩く、やってご覧」

「う、うん」

雪の柱に天子の掌が叩きつけられくっきりとその手形が残ったのを確認するとは霖之助頷いて言った。

「よし、この斜面は大丈夫だ、今のを弱層テストと言って雪崩れるか雪崩れないかを見極める大事なテストだ、良いね?」

「うん」

「じゃあ掘り始めよう」

そう言って天子にスコップを渡し霖之助も雪壁に穴を掘り始めた。



掘り始めてから大凡三十分、二人が楽に寝られるほどの大きさの穴が完成した。

「…完成だね」

霖之助はスコップを地面に突き刺すと中に潜り込み天子を手招きした。

「寒くないの?」

「あぁ快適だよ、入ってみると良い」

身をかがめ恐る恐る洞穴へ入ってきた天子のために霖之助はビニールシートを敷きそこに座らせた。

「本当だ、寒くない」

「あぁ、外がどんなに寒くてもこの中は零度を下回ることはないんだ、それに静かだよ」

雪の床に横たわると霖之助は唐突に語り出した。

「…里で自警団の仕事をしていたときだ、雪山での行軍訓練で僕の隊は視界不良で行動不能になってね、遭難したんだ」

「え?どういう事?」

天子の驚いた声と顔を見て霖之助は昔話を語り出した。

「あれはもう今から何年前かな、まだ自警団の下っ端で周りから坊や扱いされていた時だね、雪中行動訓練で僕は初めて死を感じたよ」

「…軽すぎない?」

「うん、ただ何でここまで軽く言えるかと言うとね、僕にも分からないんだ」

「は?」

「うん、全くそう言うことが続くと人間馴れるもんだねって」

「だいじょうぶ?」

霖之助は天子の問いに頷きながら続けた。

「雪が降りしきる真冬、たった一人で僕は里山の警戒を任されたんだ、でも稜線に出るとね、風が恐ろしく冷たくて雪が降ると言うよりは叩きつける感じなんだ、顔に当たって痛いの何のって」

「大丈夫だったの?」

「いや駄目だったね、丁度昼頃いきなりフッと横風に飛ばされてね、山の稜線からはずれた斜面に落ちたんだ」

黙り込む天子に霖之助は更に続けた。

「持っていた装備は小銃にスコップ、そしてお昼の残りのお握り一個、これだけだった」

「…良く、無事だったね」

「まぁね、それで僕はすぐに斜面に穴を掘ってそこに身を隠してお握りを食べたんだ、懐に入れていたおかげでお握りは少し暖かくてね、遭難から五日後、僕は腹ぺこの状態で親父さんの隊に発見され生還できた」

そう言いながら笑う霖之助に天子は驚いて言った。

「それって下手したら死んでたって事になるじゃない!」

「まぁね、でも生きてるから良いじゃないか」

「そうじゃなくって…んむ」

反論しようとする天子の唇に人差し指を突きつけ霖之助は口を塞ぎ言った。

「大丈夫、今僕は生きてここにいる、死んだらその時考えれば良いんだよ生きてるなら生きることを考えなくちゃ」

そう言って天子の頭を撫でると霖之助は起きあがり言った。

「さ、一旦戻ってお昼ご飯を食べよう」

「…ま、待って」

そう言って雪洞を出ようとする霖之助を天子は呼び止めた。

「どうしたんだい?」

しかし天子は質問に答えず霖之助を押し倒しその唇に自分の唇を重ねた。
そしてその結果二人は仲良く風邪を引くこととなった。
その日、永琳は仲良く寝込んでいる二人を訪れた。
「…すまない、永琳」
「良いのよ、仕事だから」
霖之助は辛うじて会話が出来る状態だが天子は完全にダウンしてしまっている。
「はい、取り敢えずこのお薬を食後に必ず飲むこと、良いわね」
「あぁ、すまない」
「支払いは完全に治ってからで良いわよ」
「ありがとう」
「あぁそれから…」
そして永琳は鞄を閉じて店を出る際、霖之助に言った。
「…仲が良いのは良いけどね、ちゃんと付けなさいよ?ナニをとは言わないけどね」
「うっ!」
「じゃ、お大事に」
霖之助は真っ赤な顔をして見送り、永琳は笑顔で森を歩いていった。


どうも、後書きでやらかす男、投げ槍です
香霖堂シベリア店に天子を足して寒さを和らがせた感じがこれです、本当です

12/3 誤字訂正 奇声を発する程度の能力様、ご指摘ありがとうございます
投げ槍
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>遺体の何のって
痛い?
一体ナニをしたんだー!!
2.削除
キスの後
天子「い、今が大事なら、此所で……しよ?」
ですね、わかります。(違

さて、向こうに雪洞掘って待機するとしますか。
3.名前が無い程度の能力削除
寒いけど・・・暖かい!!
さあ!その「ナニ」は店にあるのか!どうなんだ?
4.名前が無い程度の能力削除
ふ、伏せられた部分が気になる
5.投げ槍削除
と言うわけでコメ返しです

>奇声を発する程度の能力様
一体、ナニをしたのか、その説明はここでは出来ません、悪しからず

>唯様
その発想は有りませんでしたねぇ
雪洞を掘るときは天井に注意して埋まらぬよう気を付けて下さい

>3様
香霖堂には何でも置いてます、多分、「ナニ」も有るとは思います

>4様
僕も気になりますね