この作品には、若干のキャラ崩壊+グロはありませんが流血表現がございます。
服用の際は、この二点に注意した上でもう駄目だ!と感じた時は、ブラウザバックで緊急脱出を推奨いたします。
少しでも楽しんで頂けたらこれ幸いです。
~幻想郷異変報告用レポート~
異変名 愛称異変(ニックネーム・パニック)
主犯 霧雨魔理沙(人間・魔法使い)
文責 アリス=マーガトロイド
1.異変発生までの経緯
「レミリアとパチュリーは、お互いにレミィだのパチェだのと呼ぶ。お空とお燐もしかりだな。」
全ての始まりは、魔理沙のこの何気ない発言がきっかけだったと、私、アリス=マーガトロイドは記憶している。早すぎる季節の変化に拗ねた秋姉妹が「もうやだ、お家に帰って冬眠する」等と叫びまわっていた時期に起きた出来事であった。
私は、その時は何にも考えずに相槌を打って魔理沙の話を聞いていたが、突然彼女は私の顔に自分の顔を寄せて、無邪気な声でこう言ってきたのである。
「私達も、お互いを呼ぶ時に愛称を使ってみないか?他の奴が使う白黒、七色みたいな味気ないのは流石に御免だぜ。」
「却下。今更、愛称で呼び合う事も無いでしょう?」
近づけてきた顔を優しく押し返しながら返事をしたが、魔理沙は口を尖らせて「えー」と言いながら椅子にドカッと腰かけた。これは魔理沙の納得してない事を表す態度の現れである事は、長年の付き合いで良く知っている。
今さらであるが、ここで上手くはぐらかし話題でも逸らしておけば、この異変は起きなかったと思う。
そう、魔理沙は決めたら、即行動するタイプなのだ。
「よし、私はアリスの事を、あーたんと呼ぶ事にしよう」
「止めなさいよ。よりにもよって何か色々と余所で出てきそうな愛称を・・・」
「固い事言うなよ、あーたん。怒ると小じわが増えるからさ。」
その魔理沙の一言で人形に突撃命令を出してやろうかとも考えたが、魔理沙はじゃれて来ているだけである。悪気も無いだろう、故に始末が悪い。さて、そんな彼女をどうしてやろうか、そんな事を考えていると自然とリアクションは無くなっていくものである。
「あーたん、どうしたんだ?」
「効果的に悪ふざけを止めさせる方法を考えていたところよ。」
「おお、そうだな。私だけ愛称で呼ぶのもフェアじゃないな。アリスは私の事を、まりりんって呼んでも良いんだぜ?」
脳内の私は全力で匙を家の壁に投げた。いい加減にしてほしい、そんな心境であったが、魔理沙はとにかくあーたん、あーたんと私を呼ぶ。こうなった場合、魔理沙を止める方法はほぼ皆無と言って良い事を熟知しているので、私はやむなく魔理沙のリクエストにこたえてあげた。
その一回、恥を偲ぶだけで騒々しいのが収まったら、むしろそっちが特のような気がしたから。
「いい、一回だけよ。私が魔理沙を愛称で呼んであげたら、もうおしまい。それでいいわね?」
「一回だけか。まぁいい、一番良いのを頼むぜ。それ以外なら、私は止めないからなー」
一番良いのを頼むと言われて私は困り果てた、何を持って一番良いのかという確証は得られないからだ。しかし、魔理沙は期待の目を向け、表情をキラキラ輝かせている。その仕草に、何故か母性本能をくすぐられてしまった私はゆっくりと息を吸ってー
「まりりん」
その一言が原因で、この異変は幕を開けた。
2.異変発生当日
私が「まりりん」と魔理沙を呼んであげた翌日の事だ、朝刊に以下のような記事が踊っていた事を覚えている。
『白黒魔法使い、人形遣いの自宅で流血の惨事~痴情のもつれか?~』(文々。新聞・一面)
『白黒、鼻血噴出してダウン!!~七色の魔法使いは何をした?~』(花菓子念報・文化欄)
まりりんと呼ばれた魔理沙は鼻血を実りやすいマスタースパークのように豪快に噴出して、その場に倒れてしまった。凄くうれしそうな顔をしていたが、流石に失血死させてはいけないと考えたため、鼻に大量の詰め物を施してヒーリングをかけて安静にさせた。
その顔は今でも鮮明に記憶に残っている間抜け面だったが、一言であのような事になるとは思ってもみなかった。
それにしても天狗は、ネタのある所を知っているものだ。
「全く、あのブン屋どもめ。」
先刻、意識を取り戻した魔理沙は新聞を読みながら悪態を付いていた。そして、ブルーベリージャムが沢山乗った焼きたてのトーストを頬張る。出血が多かったので鉄分を補給するために用意した朝食である。食欲は旺盛なので、多分すぐ回復するだろう。だが、今となってはすぐ回復させてしまった事が、異変に繋がる原因を作ったとも言えるため、とても複雑な気持ちである。
「魔理沙も魔理沙よ、なんであんな事で鼻血出して死にかけるのか教えて欲しい所だわ」
「いやー、何か・・・うん、色々とググッと来ちゃったぜ。」
魔理沙が親指立ててサムズアップしたので、その親指を魔理沙の方に思いっきり倒しておいた。
「痛たたたたたっ!!」
「寝言かと思ったら、起きていたようね。」
「酷いぞ、アリス。お前は、その意地悪を可及的速やかに治す必要があるな。」
次いで魔理沙が脹れっ面をしたので、指で頬を何度かムニムニと突いておく。全く、調子の良い女の子だ。そんな彼女もこらー、やめろー等と抗議はしているが、止めさせようとしない辺りがなんとも言えない可愛さがあるが、それは余談。
そんな調子で朝食を終えた魔理沙は、いそいそと着替えを済ませてから箒を掴んだ。お出かけである。
「よし、愛称で呼ぶことの素晴らしさを皆に伝えてくる。」
「止めときなさい。」
制止する私であったが、魔理沙がそんな事を聞いたためしはあんまりない。一抹の期待と大部分の諦めを抱きながら、魔理沙の返事を待った。
「いいか、あーたん。私はまりりんとお前に言って貰えて幸せだった。故に、他にも愛称で呼んであげたら幸せになる奴がこの幻想郷中に必ずいるだろうと思うんだ。」
やっぱりだ。予想はしていたからがっかりはしない。
「万一、また昨日のような事になったらどうするつもりなの?」
「そんときはそん時だ。行ってくるぜー」
「おやつはスコーンにママレードで頼む」飛び立つ魔理沙はこんな事をのたまった。彼女の美しい声がドップラー現象を起こして、何度も反響し、やがて幻想の空へ消える。この時、私は全力を持ってしてでも彼女を止めるべきであったのか?魔理沙がやりたかった事は、幻想郷の知り合いを愛称と称して奇妙な呼び方をするだけ、私があーたんあーたん言われているだけなら私達の中だけで終わったような話である。
だが今となってはもう遅い、彼女が起こした異変の被害に関する説明に移る。
3・被害
ケース1.八雲紫の場合。(証言者:博麗霊夢)
霊夢の証言によれば、魔理沙に言われて紫の事をゆかりんと呼んであげたらしい。
すると、嬉しさのあまりのたうち回り、喜びのあまりスキマの操作を誤ってしまってお腹が抜けなくなってしまったらしい。その姿を見た藍が、必死に主人を救出しようと頑張るハメになったとの事。丁度、良いお酒が入ったらしく、勝手に飲まれるのを阻止するきっかけを与えてくれた魔理沙に感謝している模様。霊夢には何か愛称を付けられなかったのか?と聞いたところ「な・い・しょ」と返された。
もうすぐ冬なのに頭は春な巫女っぷりには閉口するばかりである。
ケース2.守矢神社の場合。(証言者:河城にとり)
にとりの証言によれば、家電のメンテナンスをするために守矢神社を訪ねた所、境内で神奈子と諏訪子、そして早苗が三人寄り添うように盛大に鼻血を出して倒れていたらしい。
うわごとで、かなちゃん、すわっち、さーちゃんと各々が言っていたようだ。
恐らく、私が魔理沙に「まりりん」と言った時の症状と同じだ。お互いに愛情・・・と言うより、この場合は家族愛のようなものか。そう言った感情があると、愛称を呼び合うだけでこのような事になるのかもしれない。
余談だが、にとりも魔理沙に、にとりんと呼ばれたらしくその時は「ひゅいぃぃぃぃ!」と鳴いて悶えたらしい。
ケース3.命蓮寺の場合。(証言者:藤原妹紅)
妹紅の証言をまとめると、魔理沙に入れ知恵された星が修業僧と共に白蓮にひじりん可愛いと言ったそうで、これで白蓮は感極まったのか命蓮寺に集った人妖に修業と称して、ひじりんの膝枕&頭ナデナデを施したらしい。施された者の中には、そのまま最終解脱を通り越して、涅槃に旅立とうとした者も出る始末。軽傷でも、呆けによる意識障害(?)が残ったらしく、永遠亭への緊急搬送に追われて大変だったとの事。ちなみに、妹紅にはもこたんという愛称を付けられたが、慧音に言われないとヤダとかなんとか言って特になんとも無かったらしい。
お願いだから、慧音、それは止めて欲しい。
ケース4.彼岸の場合(証言者:四季映姫・ヤマザナドゥ)
彼女の証言によれば、魔理沙に言われて渋々ながら彼岸でサボリをかましていた小町に「こまっちゃん」と可愛く言った所、小町がやたらハッスルしたらしく、死者の霊はおろか先のケース3の涅槃に送られかけた人妖の魂をそのまま彼岸に連れて行こうとしたらしい。意図してかしてないかは知る由も無いが、地味に被害が拡大するように立ち回る魔理沙は恐ろしい。それに対する自覚も無いから余計に始末が悪い。
特にこの4点が印象深い被害である。
これらから、紫がスキマの操作を誤ってしまい、異変がさらに悪化してしまったのではないかという推測も立つ。が、あくまでも推測の域を出ず、はっきりとした確証も無い。
だが、愛称を付けて呼んで貰えるだけであんな風になれるだけの信頼関係・・・というか愛情(とは言っても女同士のケースが殆どであり女同士でそれは流石に無いと思うけれども・・・守矢神社のような家族愛のようなケースもあり一概には言えない)お互いに持っている事の表れではなかろうか?
命蓮字や彼岸のケースは、職場(?)における愛称使用の例として非常に興味深い。命蓮寺は、聖がひじりんと呼ばれた結果信者に施しを与え(すぎ)た。彼岸では、サボリで有名なあの小町が上司の一言でキリキリ働き出した。方向性はやや問題ありだが、結果として命蓮寺では信仰がさらに上がり、彼岸では死者の霊が素早く閻魔のところまで送り届けられる。
鼻血を出して卒倒した結果、人妖に被害が出た場合は霊夢が動いて懲らしめてくれるだろうし、最近では早苗も人に仇なすと分かれば懲らしめにかかってくれるだろう。
レミリアとパチュリー、お燐と空。彼女らも非常に仲が良く、親しい間柄にあるのは承知の事実である。やっぱり、近しい者同士はこうやって円滑にコミュニケーションを取った方が良いのだろうか?
確かに、私と魔理沙もつるむようになってから相当な年数が立っている。故にあーたんと親しみを込めて呼ぶのは、自然の事なのだろうか・・・
~~
「ふぅ」
ここまで書いて私は、ランプの炎の揺らめきに目をやった。ゆらゆら揺れる炎の向こうに、異変を起こした張本人である魔理沙が大口を開けて寝ている。はしたないと言う言葉がそのまま当てはまるような、無警戒な寝顔であった。
「全く・・・愛称付けて他人に呼ばせるだけで異変起こせるアンタは凄いわ。」
ほっぺたをむにむにとつつくと、とても張りが良く非常に良い感触が私の指から脳髄を駆け上がる。しばらくそれを楽しんでいると、魔理沙がうっすらと目を開けた。
「・・・あーたん。何書いてたんだ、魔法の術式か?」
「もう、いい加減にしなさい。」
「怒ると小じわが増えるぜー」
「余計なお世話よ!!」
にたぁ、と無邪気に笑うこの魔法使いを人形で乙女チックに泣くまでいたぶってやろうかとも考えたが、それは流石によろしくない。もっと上手い方法で彼女を大人しくさせる方法がある事をふと、思い出したからだ。
「まりりん」
「わぉ・・・・あーたん・・・かわいいぜ。」
今度はファイナルスパーク級の鼻血を噴出し、どうと倒れてしまった。私は、鼻に綿を詰めてヒーリングをかけてあげる。自宅で失血死したら洒落にもならない、その一心で世話をする私。あーたん、あーたんと言われて精神的にムズ痒い思いをするくらいなら、身の回りの世話の方が楽である。だって、人形にやらせるし。
「今日もお泊りコースね。」
私はため息と共に、人形にベットメイキングをさせた。ニヤけた顔で、鼻の詰め物を真っ赤に染める魔理沙を抱きかかえると、加齢と共に大きくなった事を改めて実感する。それでも中身はあんまり変わってない。そんな彼女もいつかは老いていくのだと思うと、少しだけ寂しくなった。
「あーたん・・・ありがとなぁ~」
このニヤケ顔を拝まなければ、秋のセンチメンタルにどっぷり浸れたのだろうがぶち壊しである。
~~
4.経過観察
現在は慣れと言う抵抗力が出来たのか、いつも通りの生活に戻った模様。所詮は魔理沙が起こした異変だ。そんなに長続きするとは思っていなかった。
しかし、私の周囲ではわずかな変化が起きていた。
「あーたん、今日のおやつは?」
「エクレアよってまりりん、あんたまたお菓子だけ食べてくつもり?」
「ちゃーんとお茶葉は提供するぜ、香りの良いダージリンをもらったぞ」
「盗んできたんじゃないでしょうね?」
「茶店の愛称付けたら、貰えた。えらく主人が喜んでいたが・・・」
「へぇ、まりりんもたまには良い事するじゃない。」
「私は、いつだって良い事するぜ。あーたん。」
とりあえず、一番問題だった魔理沙の鼻血噴出も慣れたせいか無くなったので・・・この異変は、とりあえず経過を静観するのが良いと思われる。飽きれば、またいつもどおりの幻想郷に戻るはずであるが、彼女の起こした異変が少しだけ住民の関係を円滑にしたのなら、それはそれでいいかなと思う。私としても、まりりんって呼んであげた時のあの屈託のない笑顔を見るだけでも、それはそれは素晴らしく幸せな事である。
「また何か書いてる。」
「あんたには関係ないわよ。さぁ、おやつが欲しかったら座りなさいな。」
「わかったぜー」
これが、私が遭遇した異変、愛称異変(ニックネーム・パニック)の全てである。
ー幻想郷は今日も平和である。
命蓮寺
まりりん…あーたん…最高です!!!
まりりん・あーたん最高!
もっとやれ!いえ、やって下さい!