本日の門番業務が終わり美鈴は部屋でくつろいでいた。
ショーツ一枚にシャツをはおっただけの非常にラフな格好だ。
冬なのに寒くはないかというと実はそうではない。
紅魔館は河童達から暖房器具を仕入れているので館内はいつも温かいのだ。
故に最近では普通の魔法使いだけでなく暖を取るために様々な来客が増え、美鈴も少し忙しくなった。
そんな訳でくたくたに疲れる為にその後の気力が薄れ、こんなだらしない様子になるのである。
完全にだらけ切った様子でただ無心に漫画を読みふけることしばし、部屋の戸がノックされた。
「ん~」
と面倒くさそうに立ち上がり、とりあえずドアを開ける。
視線の先には何もない、いたずらかと思ってそのまま閉めて……
「待ちなさい!」
ドアの隙間に靴が挟まれて閉める事が出来なかった。
「おやこれは……」
視線を下げるとそこには主人。
少しむくれた顔のレミリアが仁王立ちで美鈴を見上げていた。
「いきなり締め出そうとするなんてどういう了見よ」
「ああすいません、ちっこくって気が付きませんでした」
「ちっこぃ……」
「それで、用件は?」
「ああ、そうね、実は……」
不満そうに、だがとりあえず気を取り直してレミリアが改めて美鈴に視線を移す。
それから硬直。胡乱気な様子の美鈴に彼女は言った。
「すげえ刺激的」
「え?」
美鈴はいまショーツ一枚にシャツをはおっただけである。
ついでに前のボタンは必要最低限に止めてあるだけであった。
「誘ってるのね、誘ってるんでしょ!」
「お嬢様?」
見上げるレミリアの視線は当然の様に一点に集中していた。
「さあ、ベッドに行きま……」
「てい!」
バアン!と音がしてドアが閉められる。
見とれていたレミリアは、今度は足が間に合わずに廊下に一人取り残された。
「さて、続き続きと……」
なにやらうるさい廊下からの声を意識からシャットダウンして、美鈴は再びベッドへ寝転がる。
閉じてしまった漫画を手に取り、先ほどのページはどこだったかなと捲り始める。
「そうね、この台詞の所からよ」
「ああ、ありがとうございます、てか……」
不意に幼い声と共に小さな指がページを指した。
美鈴はそのまま首を巡らすといつの間にか部屋にいたレミリアを見る。
「どうやって入ったんです」
言葉に彼女はにやりと笑みを浮かべると右手を霧状に変化させた。
「私を締め出したいのなら、完全密封にでもする事ね」
「今度からそうしますね」
「そうしたらぶち破るまでよ」
「結局は入ってくるんじゃないですか」
呆れたように息を吐いて美鈴が半身を起こす。
何故か勝ち誇った様子でレミリアがにやりと笑みを浮かべた。
「それで用はなんですか?」
「ああ、そうね……ええと」
レミリアは手にした枕を抱え、美鈴の前へと来ると上目使いを見せる。
ご丁寧に瞳を潤ませて、怯えた様子で小さく震えながら言った。
「おねーちゃん、レミィ、怖くて一人じゃねれな……」
「冗談は結構です」
「酷っ!最後まで言わせてくれてもいいじゃないの」
醒めた様子の美鈴に、すぐさまレミリアが眉を吊り上げる。
「全く、こんな美少女が不安がって震えてるのに何も感じない所か冗談だなんて。
美鈴は枯れているのかしら?普通なら劣情を催して一緒に寝ようねってベッドに誘うところでしょうが!」
「生憎と幼女趣味はありませんので」
答えに今度は艶っぽい視線を美鈴へと向ける。
「あら、なら今覚えてみるのもいいんじゃないかしら?」
「結構です」
「とまあ、冗談はこれくらいにして」
「冗談だったのか」
「何か言った?」
「いえ」
レミリアはそのまま帽子を探るとそれを取りだした。
「酒ですか?」
「ええ」
取りだしたのは一升瓶。
明らかにおかしい収納なのだが特に美鈴は気にしなかった。
「ふむ」
美鈴が観察したところラベルには「銘酒 う詐欺」と書いてある。
「なんかヤバそうな酒ですね」
「なんでも永遠亭がリリースした新作らしいわ。咲夜が持って帰って来たのよ」
「大丈夫なんですか?」
「人里では気持ち良く酔えるって評判みたいだしまあ、大丈夫じゃない?」
そんな事を言いながらレミリアは帽子から二つコップを取りだした。
それから美鈴の視線に気が付いて、汚くないわよと呟く。
「酒飲みに来たんです?」
「そうよ、一人酒は寂しいでしょ」
こぽこぽと酒が注がれていく。
「最近忙しいみたいだし、部下の労をねぎらう意味も込めてね」
「そうですか、ありがとうございます」
美鈴がベッドから降りて、レミリアと向かい合うように腰を下ろす。
「くく、私の優しさに惚れ直したかしら?」
「そもそも惚れてませんから」
「なら惚れてもいいのよ」
「考えときます」
軽口を叩きあって一口。
少しだけ驚いた様子を浮かべる。
「うまいですね」
「そうね。あんまり期待していなかったのだけど悪くないわ」
「薬と酒は似た様なもの、あの薬師、腕は確かですしうまい酒も作れる道理がある訳ですね」
「違いない」
くすくすと笑って、お互いにただ酒をあおる。
それからくだらない話をただ垂れ流しあって。
酒の上の話は特に遠慮が無い。
やがて不意にレミリアが問う。
「美鈴、あんたの好きなタイプってどんな感じ?」
美鈴は赤ら顔で少し考える。
「そうですね、まず自分より強い方ですね」
「あら、奇遇ね、目の前に居るじゃない」
「確かにまともにやっちゃ勝てませんけどね~」
少し朱に染まった頬で美鈴が笑う。
「それだけじゃないんですよ~優しい方がいいですね」
「あら奇遇ね、目の前にいるじゃない、私はどんな男よりも優しいわ」
髪を掻き上げて、レミリアが妖しい視線を美鈴に送る。
「なんならいまベッドで証明してあげるわよ?」
「……処女の癖に」
「処女ちゃうわ!」
「はいはい、それでですね……」
「まだあるの?」
彼女は少しだけ、照れた様子で語る。
「私だけを思ってくれる人。黙って自分についてこい、じゃなくて、一緒に歩幅を合わせてくれる人ですかね~」
「なによそれ、良くわからないわ」
「あらあら、それじゃお嬢様はタイプじゃありませんね」
「む、それなら理解するから教えなさい?」
悔しそうに呻いて美鈴に詰め寄るレミリア。
そんな彼女に美鈴は不思議そうに問う。
「そもそもなんで私なんです?しがない妖怪風情なんか選ぶなんて」
レミリアはきょとんとした表情を見せた。
それから何だそんな事かとでも言うように息を吐く。
「お前だからだよ、直感、一目ぼれ、運命の相手、好きな理由を選べ」
少しだけ意外そうな顔の美鈴に彼女は続ける。
「私はお前を選んだの。一目見た時から欲しいと思った。
なによりレミリア・スカーレットにふさわしいと、そう思ったのよ」
それは傲岸不遜で自信に満ち溢れていて、紅い目は何よりもまっすぐに美鈴に向いていて。
「それが理由じゃ不満?」
「……いえ」
どこか呆けた様子の美鈴にレミリアは肩をすくめる。
「まあ、あえて理由を言うならば、おっぱいかな」
そしておどけて見せた。
それから無邪気に笑みを浮かべる。
美鈴は顔を伏せて全くこの色ボケはと呟いて。
そのままで口を手で覆って小さく欠伸。
「おや、眠くなったのか、まだ一瓶しか開けていないのに」
「おかしいですね~」
それからベッドに寄りかかる。
よくよくみると頬が真っ赤に染まっていた。
「何か、変な成分が入ってませんかこれ」
「ううむ、私は何ともないが」
「ともあれ、なんだか駄目なんで~」
そのまま立ち上がろうとしてふらついて、咄嗟にレミリアが支える。
「まったく、夜はこれからだと言うのにしょうがない、疲れがたまっていたんだろ。今日は休め」
「は~い、襲わないでくださいね」
そのままベッドに寝かせようとして、急に美鈴が倒れこんでレミリアを押し倒す形でベッドに倒れ込んだ。
「む、美鈴?」
それから動きが無かった。
「……ん」
数度呼びかけてみるが返事はない。
聞こえる呼吸は安らかで瞳は閉じられていて。
明らかに寝ていると、そんな感じだ。
「にしても……」
首元を美鈴の寝息がくすぐる。
押しつけられた胸の感触は酷く柔らかい。
漂ってくる汗と……血の匂い。
訪れた静寂の中に規則正しく時計の針の音が響いている。
誰も居ない、二人きりの静かな空間。
「……まずい」
レミリアは体が疼くのを感じた。
その名が示す通りの吸血衝動。
今自分を覆っている暖かい体。
白い肌。微かに感じる鼓動。
そう、丁度おいしそうな首筋が目の前にあるではないか。
「………いけない」
体が言う事を聞かないとレミリアは思う。
今すぐに美鈴を押しのけて、ベッドに寝かせてやらねばいけないのにそれが出来ない。
視線の先には端正な顔立ち。
やや上気して、とても色っぽくて……
だからこそ、疼きが大きくなっていくのを感じる。
むせかえるほどの甘い匂いを感じて頭がぼんやりしていく。
「……何が……いけない?」
半ば無意識に、吸いつくように首筋にキスをする。
ピクリと美鈴が反応して小さく声を漏らす。
それが何かのスイッチになったのかレミリアはそのまま両手で美鈴の肩を抑える。
きっと美鈴はこれを望まないと、駄目だと思いつつもレミリアは止める事は出来ない。
何よりも強い欲求。それを否定する事は己を否定する事に等しい事ゆえに難しく。
だから抑えきれずにそのまま数度、舌を這わせた。
血を吸う前の準備。こうして愛撫して自分と相手を高めるのだ。
頭がぼんやりとしている。
理性が空しく空回り。
レミリアの唇からはぁ……と熱い息が漏れて。
何度も何度も執拗に這う舌の感触に、美鈴は寝ていながらも何か感じるのか短い吐息と声を漏らし続ける。
普段からは想像できぬ、悩ましい声。
それが酷く扇情的に聞こえて、もう止める事が出来ない。
そして、夢心地のままにレミリアが牙を肌に押し当てて。
「………お嬢…様」
と、美鈴が声を漏らした。
驚いたようにレミリアの動きが止まる。
(はいはい、それでですね……)
(まだあるの?)
(私だけを思ってくれる人。黙って自分についてこい、じゃなくて、一緒に歩幅を合わせてくれる人ですかね~)
それから数秒、牙を引く。
脱力したように体を投げ出した。
湧きあがってきた先ほどの言葉。
己の行動を止めたそれの意味を考える。
僅かな間考えて、それから思考が纏まらずに止める。
馬鹿らしいと、レミリアは思う。
劣情に任せてこんな事をして、美鈴に嫌われたらただの馬鹿だと。
無理やり物にするのは趣味じゃない。
「お前の言う事はよく分からないけれど……まあ、寝てる相手を襲うほどに恥知らずじゃないわ」
誤魔化すように呟いて、それから美鈴の背に手を回す。
「まったく、仕方のない奴だ」
と吐いて。それから私もかと苦笑する。
瞳を閉じると、睡魔はすぐにやってきた。
これは酒の所為だと、やはり変な成分が入っていたとそう思いながら彼女は眠りに落ちるのだ。
すうすうと二つの寝息が響いている。
そのうち一つが止まり、気だるそうな声が響いた。
「吸えばよかったのに……」
と、それから小さく美鈴の溜息。
何のためにわざわざあんな演技をしたのか分からない。
目の前に無防備に身を投げ出してやったのに、抵抗できない状況を作り出してやったのに。
「いつもは色ボケの癖に変なところでしっかりして……このヘタレめ」
でも……と美鈴は呟いてきゅっとレミリアを抱きしめる。
「そういうところも、好きですよ」
こんどこそ本当の眠りへと落ちていく。
-終-
少しエロィ感じが最高じゃないですかぁ!
これさえあればおれも美鈴といちゃいt(ピチューン
こんなお嬢にわたしはなりt(ry
頑張れおぜう!頑張れ美鈴!
イイネ!! この二人