雀も身を寄せ合う初冬の博麗神社。
今日も少女たちの声が絶えないその場所で。
幻想郷の巫女霊夢は、いつもどおり渋い表情で渋いお茶を啜っていた。
「はー、ぬくいぜ」
「やっぱり冬は炬燵よね」
先日蔵から出した木炭を掘り炬燵の中に入れ、ようやく霊夢は本格的な冬に向けての支度を済ませたのだが、その途端にこうして傍迷惑な客人がやってきてしまった。
「あんたたち、魔法使いのくせして、なんでそんな寒がりなのよ」
目の前でミカンの皮を剥きながらだべっている金髪魔法使いたちに対して、霊夢はじっと睨みを利かせた。
しかし当人たちは、言外に含めた皮肉にも視線の意味にも気付くことなく、さらっと答える。
「昔から魔女は猫に例えられるだろう?猫は炬燵で丸くならないとな」
「犬にでも変身して庭を駆け回りなさいよ。というかアリス。あんた、寒さはあまり感じないんじゃなかったっけ?」
狭い炬燵の半分までも占領されて、このまま引き下がれるものか。
霊夢はこの身勝手な侵入者の追い出しにいつも以上に意気込んでいた。
「こんなに幸せそうにされたら、入ってみたくなるわ」
だが、そこは腐ってもひきこもり魔法使い。ちょっとやそっとの文句では梃子でも動かない。
「好奇心は猫をも魔女をも殺すわよ」
「残念、今の私はただのミカン好きの人形遣いよ」
そう言ってアリスは、上海人形に皮を剥かせていたミカンを、一房ぱくりと口に含んだ。
そのミカンも秋の終りに、冬眠に入るという隙間妖怪から餞別にもらったものだというのに。
魔法使いたちの所業に、霊夢は俯いて溜め息をつくことしかできなかった。
「ねえ、霊夢」
「なあ、霊夢」
「もう……何よ」
半ば諦めたように霊夢は声のした方に向き直る。
もう何を言われようとも、はいはい、とどこぞのメイドみたいに聞いてしまうかもしれない。
「こんなにも寒くて憂鬱な日は」
「ほっかほかの鍋にしようぜ!」
そんな仕様もないことを霊夢が考えている内に、にやりと気味の良い笑みを見せた魔法使い二人は、どこから取り出したのか、炬燵の上にたくさんの食材の入った籠をどさりと乗せた。
「これ……」
「最近めっきり寒くなったからな」
「鍋が美味しい季節になってきたわね」
炬燵にはやっぱり鍋だぜ、と帽子の中から土鍋と八卦炉を取り出した魔理沙。
アリスは人形たちに台所から小皿やレンゲを次々と持ってこさせている。
霊夢は、まだ少し目の前の現実に戸惑っていた。
「……こういうもの用意してたんなら、さっさと出しなさいよね」
口では憎まれ口を叩きながらも、霊夢は自分の身体がじくじくと真ん中からあたたかくなってくるのを感じていた。
「魔法使いとは常に他人を驚かせる生き物だからね」
「いつも世話になっている巫女への、ささやかなサプライズだ」
お湯が注がれ熱そうな湯気を放つ鍋を前にして、霊夢は頬を僅かに赤く染め、悪戯な魔法使い二人に小さな笑みを浮かべて言った。
「その猫舌、火傷しないように気をつけなさいよ」
吐き出す息も白くなる初冬の博麗神社。
今日も少女たちの声が絶えないその場所で。
幻想郷の巫女霊夢は、珍しく幸せそうな顔で熱い鍋をつついていた。
そしてその傍らでは、金髪の魔法使いが二人、猫のように炬燵で丸くなっていた。
今日も少女たちの声が絶えないその場所で。
幻想郷の巫女霊夢は、いつもどおり渋い表情で渋いお茶を啜っていた。
「はー、ぬくいぜ」
「やっぱり冬は炬燵よね」
先日蔵から出した木炭を掘り炬燵の中に入れ、ようやく霊夢は本格的な冬に向けての支度を済ませたのだが、その途端にこうして傍迷惑な客人がやってきてしまった。
「あんたたち、魔法使いのくせして、なんでそんな寒がりなのよ」
目の前でミカンの皮を剥きながらだべっている金髪魔法使いたちに対して、霊夢はじっと睨みを利かせた。
しかし当人たちは、言外に含めた皮肉にも視線の意味にも気付くことなく、さらっと答える。
「昔から魔女は猫に例えられるだろう?猫は炬燵で丸くならないとな」
「犬にでも変身して庭を駆け回りなさいよ。というかアリス。あんた、寒さはあまり感じないんじゃなかったっけ?」
狭い炬燵の半分までも占領されて、このまま引き下がれるものか。
霊夢はこの身勝手な侵入者の追い出しにいつも以上に意気込んでいた。
「こんなに幸せそうにされたら、入ってみたくなるわ」
だが、そこは腐ってもひきこもり魔法使い。ちょっとやそっとの文句では梃子でも動かない。
「好奇心は猫をも魔女をも殺すわよ」
「残念、今の私はただのミカン好きの人形遣いよ」
そう言ってアリスは、上海人形に皮を剥かせていたミカンを、一房ぱくりと口に含んだ。
そのミカンも秋の終りに、冬眠に入るという隙間妖怪から餞別にもらったものだというのに。
魔法使いたちの所業に、霊夢は俯いて溜め息をつくことしかできなかった。
「ねえ、霊夢」
「なあ、霊夢」
「もう……何よ」
半ば諦めたように霊夢は声のした方に向き直る。
もう何を言われようとも、はいはい、とどこぞのメイドみたいに聞いてしまうかもしれない。
「こんなにも寒くて憂鬱な日は」
「ほっかほかの鍋にしようぜ!」
そんな仕様もないことを霊夢が考えている内に、にやりと気味の良い笑みを見せた魔法使い二人は、どこから取り出したのか、炬燵の上にたくさんの食材の入った籠をどさりと乗せた。
「これ……」
「最近めっきり寒くなったからな」
「鍋が美味しい季節になってきたわね」
炬燵にはやっぱり鍋だぜ、と帽子の中から土鍋と八卦炉を取り出した魔理沙。
アリスは人形たちに台所から小皿やレンゲを次々と持ってこさせている。
霊夢は、まだ少し目の前の現実に戸惑っていた。
「……こういうもの用意してたんなら、さっさと出しなさいよね」
口では憎まれ口を叩きながらも、霊夢は自分の身体がじくじくと真ん中からあたたかくなってくるのを感じていた。
「魔法使いとは常に他人を驚かせる生き物だからね」
「いつも世話になっている巫女への、ささやかなサプライズだ」
お湯が注がれ熱そうな湯気を放つ鍋を前にして、霊夢は頬を僅かに赤く染め、悪戯な魔法使い二人に小さな笑みを浮かべて言った。
「その猫舌、火傷しないように気をつけなさいよ」
吐き出す息も白くなる初冬の博麗神社。
今日も少女たちの声が絶えないその場所で。
幻想郷の巫女霊夢は、珍しく幸せそうな顔で熱い鍋をつついていた。
そしてその傍らでは、金髪の魔法使いが二人、猫のように炬燵で丸くなっていた。
さて、鍋でもつくるか・・・。
温まったじゃないかどうしてくれる。