Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

~幻想少女物語~九十九折でもゴールは同じ

2010/11/26 15:17:07
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~幻想少女物語~九十九折でもゴールは同じ




古明地こいし。

彼女の事を知っている人物は少ない。

それも知っている事と言えば、種族はさとり。

黒い帽子が似合う、可愛い少女。

無意識を操る程度の能力を有している。

姉に、さとりという少女がいる。

その姉も又、種族はさとりである。

精々この程度だろうか。

誰もこいしの本質を知らないのである。

そう、姉である「さとり」を除いては……



~幻想少女物語~九十九折でもゴールは同じ



「こいしー、おやつの時間ですよー」


地霊殿にさとりの声が響き渡る。

その発信源からは、香ばしい臭いが漂っていた。

チョコチップクッキーだろうか。

仄かに香るそれは焼き立てで、まだ湯気を放っている。

一口齧ればサクッとした歯ごたえが口内を魅了し、甘苦いカカオの味が鼻腔を通り抜けるだろう。

それはさとりが最も得意とするお菓子で、こいしの大好物だった。


「こいしー、出てこないと全部食べちゃいますよー」


呼びかけを続けるが、こいしが出てくる様子はない。

また外へ出ているのだろうか。

それならどれほど声を張り上げても、こいしに届くことはない。

尤も、さとりの小さな体では廊下の先に声を届けることも難しいだろうが。

さて、こいしを呼び始めてから結構な時間がたった。

半刻と一刻の間くらい。

確かな時間は分からないけれど、少なくともクッキーは冷め、香りも薄くなるくらいの時は過ぎている。

それは地霊殿を一周する時間に等しい。


「今日も捕まえられなかったわね」


ため息を深く吐き出し、さとりはリビングへと戻ってきた。

すると違和感を感じた。

さとりが目を周囲に走らせると、違和感を原因を見つけたようだ。

先ほど出た時には置かれていなかった紅茶のポットが置いてある。

ティーカップも二つ分。

中にはアップルティーが継がれているが、どちらも飲まれた形跡はない。

まだ暖かいのか、紅茶からは湯気が立ち上っている。


「こいし?」

「うにゅ?」


さとりの声に答えたのは、間の抜けた声。

どうやらこいしでは無いらしい。

そしてさとりはこんな声を出す人物を、一人しか知らない。


「あ、さとり様だー。おはようございます」

「空……もうお昼をとっくに過ぎて、夕飯前といっても過言ではない時刻よ?」

「うにゅ? でも今目が覚めたので、おはようですよ?」


このズレテいる子は、霊烏路 空。

さとりのペットで、平たく言うと頭のネジが外れた子。

ごくごく最近「あるてぃめっとぱぅわー(核)」とやらを身につけたらしい。

大きな胸が目立つが、さらに胸についている大きな目のほうが、人の目を引くだろう。

とまぁ、「目」を連発したくなるくらいに空についている目は大きかった。


「相変わらず大きいわね」

「うにゅー。重くて猫背になってしまいそうですよー」

「(胸も大きい……)」

「実はこの目、ぷにぷにしているのです。触ってみます?」

「遠慮しておくわ。人に"目"を触られるのはあまりいい気分にならないと知っているから」


そう言いながら、さとりは自分の目を両手で包んだ。

さとりにも目がある。

それは誰にでもあるだろうと言うなかれ、さとりには三つ目の目があるのだ。

アクセサリーのようについているその目は、ただじっと虚空を見つめている。

これが、人の心を読む能力の根源。

さとりが自分の体の中で、一番嫌いな部分だった。

軽くきゅっと握ると、脳を鷲掴みにされた様な鈍い痛みが走る。

どんなに嫌いでも、切り離せない理由がそこにはあった。


「さとり様?」

「……なんでもないわ」


ペットに心配されてしまったら、主失格である。

苦笑いを浮かべながら、さとりは話題を変えることにした。


「そんなことよりも空、貴女何をしているの?」

「朝ごはんが無いかなと」

「……もう夕飯前ですよ」

「うにゅー……お腹すきました……」

「しょうがないわね。クッキーを分けてあげるから」

「さとり様大好き!」


ぴょんぴょんととび跳ねる空を、呆れ顔でさとりは見ている。

そして幾つかクッキーを包もうと、ずっと持っていたお皿をテーブルへと置いた時、漸くそれに気が付いた。


「(あら? クッキーが減ってる?)」


今日は確か星形とハート形のクッキーをそれぞれ10個ずつ作った。

はずだったのだが、ハート形のクッキーだけ8個になっていた。

そのまま何気にティーカップへと視線を移す。

案の定アップルティーが飲まれた形跡がある。

片方のカップだけ、少々容積が減っている。

そしてそのカップの下には、一通の紙が挟んであった。

書かれていた言葉は……


「……」

「さとり様?」

「……紅茶、淹れなおすわ」


そう言い残すと、さとりはポットとカップを持って台所へと立った。

新しい紅茶の香りが漂ってくるまでに、さほど時間は掛からないだろう。

ポットと、こいしが飲んだカップを洗いお湯を沸かす。

茶葉を取り出し、二人分を適当に放り込む。

後はお湯が沸くのを待つだけ。

その間、じっと先ほどの紙を見つめる。

手紙には、姉へのメッセージが書かれていた。


『注意。私が入れた紅茶はものすごーく、美味しくないので飲まないこと』

「飲むなと言われて飲まない姉は居ないわ」


手紙にそう返答しながら、一つだけ残ったカップに口をつけた。


「うわ……」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




その日の深夜。

さとりはふと目を覚ました。

何のことはない、尿意をもよ……喉が渇いただけだ。

水を飲もうと訪れた台所。

物語はここから始まる。

否、それはもう始まっていた。


「だれかいるの?」


ランプだろうか。仄かな灯りが台所から漏れていた。

お燐か、それともお空か。それとも……

なんにせよ用心するに越したことはない。

だってここは旧地獄、地底の底なのだから。

さとりは自分の能力を使い、相手が誰であるか探ることにした。

忌々しい能力が、今は力強い味方であるように感じる。

「目」を凝らすと聞こえてくる声。


――見つかった!?

――つまみ食いしてたのがばれちゃう

――どうしようどうしよう……


ペットの誰かが、夕飯の残りを漁っているのか。


「つまみ食いですか……寝る前に食べると太りますよ?」


――!!


動揺の声が聞こえてくる。

どうやら影の向こうにいる人物はそうとう焦っているらしい。

あまり苛めても可哀そうだろう。

さとりは自分の持っていたランプを、影へと向けてさしだす。

照らされたつまみ食いの犯人は、目を細めながらさとりへと頭を下げていた。


「ごめんなさいお姉ちゃん! ちょっと小腹がすいちゃって……」

「こ、こいし?」


ランプに浮かび上がった人影は、ハートに彩られたもうひとりのさとり妖怪。

自らその能力を封じた、こいしだった。

こいしは悪戯が見つかった子供のように、腕を振り回しながら言い訳を続けていた。


「あのね、外でお夕飯をもらったんだけどその、成長期である私には足りなくて、それでお腹がすいて寝れなくて、だから、あのね」
「落ち着きなさいこいし」

「は、はい!」


さとりの言葉にピシっと背筋を伸ばすこいし。

本当に、こいしかしら?

さとりが知っているこいしは、第三の目をとじると同時に、感情というものも封じてしまった。

こいしが行う行動はすべて無意識で行われ、"このように"心が読めるはずがないのだ。

ましてや涙目で慌てているだなんて、それこそ子供の時ような……まさか。


「こいし、少し見せて」

「へ? 何を、ってきゃぁ!?」


さとりはこいしの第三の目を掴み、目の前まで持ってくる。

おのずとこいしも、密着するくらい引っ張られているのだが、さとりも割と慌てていたのだろう、その事に気が付いてない。

むしろその目は、こいしの"黒い目"へと注がれていた。

さとりの視線の先。

それはうっすらと、注意しなければ分からないほどに僅かに開かれている。

こいしは気が付いていないのだろうか?

気が付いていないのなら……


「こいし」

「ひゃい!?」

「この目……って、何をそんなに紅くなっているの?」

「だ、だって急に私の大事なところを触ったり、見つめたり」

「変な言い方をしない」

「でもでも、お姉ちゃんからはいい香りがするし、あぁもう頭の中がめいいっぱいだよぉ」


こいしの言うとおり、さとりにも読み取れないほどに情報が錯乱している。

とりあえずさとりは、すっとこいしから離れた。


「あ……」

「寂しい?」

「そ、そんなことないよ!」

「顔を真っ赤にして否定しても説得力無いわ」

「むぅ……今日のお姉ちゃん、いつもより意地悪だ」


ぷいっとむくれながらそっぽを向くこいしは、昔にもどったように感情豊かな少女だった。

でもそれは、こいしが成長していないという意味もさしている。

妹に感情が戻って嬉しい半面、さとりは戸惑った。

どうして戻ったのか。

このまま完全に目が開いてもいいのか。

もしかして今までもこんな事があったのか。

私はどうしたらいいの?


「お姉ちゃん、なんだか楽しそう」

「え?」

「だって、笑ってるよ」


言われて自分の頬に手をあてる。

確かに口元が緩んでいるみたいだった。

それはそうだ。

久しぶりに妹と話ができているのだ。

楽しくないはずがない。


「ふふ……そうね、そうよね」

「お、お姉ちゃん?」

「こいし、お姉ちゃんは馬鹿だったわ」

「知ってるよ?」

「なにおー!」


子供に帰ったかのように、さとりも暴れる。

腕を振り回し、ぽかぽかとこいしの頭をたたく。


「お姉ちゃん、痛いよーもぅ」

「ふふ、あまりにも嬉しくてつい」


そういいながら、そっとこいしを抱きしめる。

懐かしい香り。懐かしい温もりがさとりを包み込んだ。


「お姉ちゃん」

「何?」

「楽しいね」

「そうね」

「でも……少しだけ、寂しいね」

「……そうね」


それは、時間切れを告げる言葉。

唐突に訪れる別れの時間。

本来ありえないほんの一瞬の奇跡。

原因なんて分からない。

どうしてなんて知らない。

ただ、すぐに終わってしまうのは分かっていたから。

今を儘に、こいしとの時間を楽しみたかった。


「もうちょっと、強く抱きしめてもいい?」

「……」

「ありがと。お姉ちゃん……」


少しずつ、こいしが分からなくなっていく。

まるで闇に溶けるかのように。

温もりが消えていく。

少しでも繋ぎとめるように、さとりは呼びかける。


「こいし」


何度でも


「こいし……っ」

「ごめんねお寝ちゃん、私、臆病だから。まだ怖い。光も闇も」


帰ってきた返答は涙交じりで。所々聞き取れないくらい。

それでも、さとりは呼び続ける。愛おしい妹の名前を。

この温もりの名前を。


「こいし……」

「けど、いつになるか分からないけど、戻ってくるから」

「うん……」

「その時は、アップルティーの入れ方、教えてね?」

「ものすごく、まずかったものね」

「あれでも頑張ったんだよ?」

「だったら、もっと頑張らないと」

「うん、がんばる……私、がんばるから」

「えぇ、私も約束するわ」

「楽しみだなぁ……」


目から流れ出る涙は、頬を伝い床にしみを作る。

気が付いた時、さとりは一人台所に膝をついていた。

それは夢だったのか。

さとりが呼びだした幻だったのか。

晩御飯の残りには、手を付けられた跡はない。

床にしみもない。


「こいし……」


ひどく喉が渇いた。

さとりは重い腰を持ち上げ、水を汲む。

喉を通る冷水は、まるで涙を飲みこんだように切なかった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「こいしー、おやつの時間ですよー」


地霊殿にさとりの声が響き渡る。

その発信源からは、香ばしい臭いが漂っていた。

チョコチップクッキーだ。

仄かに香るそれは焼き立てで、まだ湯気を放っている。

一口齧ればサクッとした歯ごたえが口内を魅了し、甘苦いカカオの味が鼻腔を通り抜けるだろう。

それはさとりが最も得意とするお菓子で、こいしの大好物だった。


「こいしー」


呼びかけを続けるが、やっぱりこいしは出て来てはくれないのだろうか。

さとりは誰もいない廊下を一人歩く。

最愛の妹に会うために。


「こいしー、出てこないと今日も全部食べちゃいますよー」

「そんなに食べたら太るよ?」

「残念ですが、私はいくら食べても太らない体質なので大丈夫です」

「うわ、全女の敵だ。むしろ私の敵だ」


ただいまも言わない不良娘が、さとりの後ろに立っていた。

勝手にクッキーを摘まんでいく子供の声が聞こえた。


「なるほど、ダイエットしていたのですね。だから最近クッキーの減りが少ないと思いました」

「だってだってー、お腹と顔にばかりカロリーが行って、全然胸にいってくれないんだもん」

「規則正しい生活を、しないから、です、よ」


さとりの声が、だんだんかすれていく。

だめ、もっとしっかりしなくては。

約束も守らないと。


「そういうお姉ちゃんも胸ないじゃない。そうか、食べても太らない体質だから胸も膨らまないんだ」

「これは着やせというものです。ほらちゃんと確かめてみなさい」

「わっぷ!」


振り向くと同時に、子供を抱きしめた。

クッキーを落とさないように、慎重に。

でももう離さないというように、強く、強く。


「お姉ちゃん、約束おぼえてる?」

「もちろん」

「一緒に地上に出てくれるって約束」

「そんな記憶はないわ」

「臆病者ー」

「えぇそうよ。あなたと同じ」

「そっか。同じだよね」



あぁ、これもまた曲がり角だ。

曲がって、曲がって、右へ左へ。

ここはその接点でしかない。

それでも、いつかたどりつけるなら……


「こいし、次はお風呂場がいいわ」

「んー善処する」

「埃だらけの貴女を、全身くまなく洗ってあげる」

「……お姉ちゃんのえっち」

「心を読まれた!?」

「私もさとり妖怪ですから」

「そうね。同じよね」




曲がって、曲がって、右へ左へ。

そこに接点があるのなら、またまみえるだろう。

交互に重なる九十九折り。

それは、遺伝子と同じように曲がりくねっているから。



「そうそうお姉ちゃん」

「何?」

「アップルティー。入れておいたから」

「……味は?」



二人は求めあう。

お互いを、AもEも求めあう。

結局は向かうところは同じだから。

遺伝子の命令のままに。



こいしは笑顔で答えた。


「ものすっごくまずい♪」











喜怒哀楽。

九十九折りの情報に組み込まれたプログラム。

それは、決して消えることはなく……
ゲノム、ジーン。受け継がれし想いは必ず交差する。
人、それを愛と呼ぶ。
どうもこじろーです。

次で最後ですねー。そしてもうすぐデビューから一年。
我は成長しているのだろうか……
こじろー
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>無意識を操る程度の能力無意識を操る程度の能力を有している
二回?
最近気づいたんですけどコレって数字が続いてたんですね!
最後のお話がどうなるか楽しみです。
2.名前が無い程度の能力削除
アビスとエルかと
3.こじろー削除
>奇声しゃま
十の話は・・・おっとネタバレは禁止だぁ

>2しゃま
アダムとイヴかも?
さぁちょっとエルの肖像でも歌ってこよう♪