※これは以前上げた「タイミング・上」の続き物になります。続き物なので、上を読んでからの方がより楽しめるかと思います。
「そう言えば、美鈴さんってどこへ行ったんでしたっけ?」
食堂で延々とお嬢様コールをしていた咲夜達の声が、小悪魔の一言でピタリと止まった。それと同時に、いつの間にか胴上げまでしていた皆の動きも止まった。当然、胴上げをされていたレミリアはそのまま堅い床に頭から落ちた。「うー! うー!」と悶絶しているレミリアを他所に、咲夜達は「すっかり忘れていた」とか「美鈴のやってみたかったことって何?」とか話し合っていた。哀れみりあ。
そして話し合いの結果、朝一番に美鈴の捜索活動が行なわれることになった(もちろん、レミリアの許可無し)。そうと決まれば咲夜達の行動は早かった。夕食そっちのけで、明日のためにとそれぞれの自室へ戻って行った。
また、皆が居なくなっても誰か気が付いてくれるだろうと暫く悶絶していたが、誰一人として戻って来ない寂しさに、急いで自室に戻って枕を涙で濡らしたが、翌日、誰もレミリアを起こさないで、しかもレミリア抜きで出発しようとしている光景を見て、レミリアの何かが崩壊したのは別の話である。
何かが崩壊したレミリアを沈めるのに、思いのほか時間が掛かってしまい、結局出発したのはお腹が我儘を言いだす昼頃であった。
「それで美鈴はどこに行ったのかしらね?」
ばたんきゅ~状態のレミリアを引きずりながらパチュリーは言う。
問題はそこであった。いくら自分達から探しに行こうとしても、どこに行ったのか分からない以上、見当のつかない状態である。
早くも大きな壁の出現に一同は考え込むが、その壁を壊してくれたのは意外にもフランだった。
フラン曰く、霧の湖によくいるチルノとその友達の大妖精が知っているかもしれないとのこと。たしかに、美鈴は門番という職業柄、人との関わりは内部の者より遥かに多い。そして、美鈴によく遊んでもらっていたチルノや大妖精は、もしかしたら美鈴にこの話を聞いていてどこに行ったのか知っているかもしれない。
一同はすぐさま霧の湖に向かった。ちなみに、レミリアは湖に着くまでの間、ずっと引きずられっぱなしだったのは別の話である。
深い霧に覆われている霧の湖のほとり。妖精や妖怪が多く集まる場所の一つである。しかし、そんな場所であるが、基本的に妖精達の遊んでる声や弾幕ごっこなどの微笑ましい(?)光景があり、危険なのか危険じゃないのか分からない場所でもある。まぁ、一般人ならすぐにピチューンするかもしれないので危険な場所に変わりないと思うが。
「なかなか見つからないわね、チルノと大妖精」
さっきから流れ弾を当たり前のように避けながら湖の周りを歩いている咲夜達。いつもならすぐにでも見つかる筈なのに、今日に限ってなかなか見つからない。
手分けして探そうかと咲夜が提案しようと思っていると―――
「ねぇ、もしかしたらアレじゃないですか?」
小悪魔が少し先にある木の上を指差した。
一同がそこを見てみると、チルノと大妖精が手を繋ぎながら何やら楽しそうに話し合っている姿があった。
「おーい、チルノに大ちゃん!」
「ん?」
「はい?」
木の根元まで行き、会話を遮るのは悪いと思いながらも二人に聞こえるようにフランは呼び掛ける。呼び掛けに気付いた二人は「なんだろう?」という顔をしながらゆっくりと木から下りてきた。
「どうしたのフラン?」
「何かあったんですか? 皆さんお揃いで」
「ちょっと美鈴について聞きたいことがあるんだけど」
「美鈴がどうかしたの?」
フランは、美鈴が門番を辞めたことや門番以外に何かやりたいとチルノ達に言っていなかったかを聞いた。
「……という訳なの。だから何か美鈴から聞いてない?」
「ううん。そんな話全然聞いてないよ」
「すみませんが、私も美鈴さんからそんな話は聞いていません」
だが、チルノも大妖精も美鈴の行き先については知らなかったようだ。何か有力な手掛かりを期待していた一同は落胆の表情を浮かべる。
「あ、でも。あの人なら知ってるかもしれませんね」
しかし、大妖精から発せられたその言葉を聞くと「そこんとこkwsk!」と言いながら物凄いスピードで大妖精に詰め寄る。
「え、えっとですね、風見幽香さんってご存知ですよね?」
風見幽香。四季のフラワーマスターであり幻想郷で最強クラスに入る花を操る妖怪である。外の世界では「ゆうかりん」や「アルティメットサディスティッククリーチャー」などの愛称で知られている。しかし、最近ではリグル・ナイトバグという蟲の妖怪に夢中であり、すっかり丸くなってしまっているという噂もちらほらある。(情報元、文々。新聞より)
なお、文々。新聞の発行者である射命丸文は、先月何者かの襲撃に遭い全治3ヶ月の怪我を負ったそうである。そして今現在、彼女は犬走椛の手厚い看病(主に性的な意味)に毎日苦しんでいたりする。
「美鈴さん、よく花壇の花の世話について相談してもらっているって言ってましたので、もしかしたら幽香さんなら何か知ってるんじゃないでしょうか?」
「なるほどね。あまりあそこに行くのは乗り気になれないけど、行ってみる価値はあるわね」
「ありがとね大ちゃん!」
「それじゃあ、私達は“太陽の畑”へ行きましょう」
そう言って咲夜達は太陽の畑に向かって飛んでいった。
しかし、レミリアだけはその場から動こうとはしなかった。
「どうしたのレミリア?」
「あの、皆さんもう行っちゃいましたけど?」
「貴方達2人にちょっと聞きたいことがあるのよ」
真面目な表情でレミリアはチルノと大妖精の前に立つ。
チルノと違い、普段あまり見ないレミリアを前にして緊張しているのか、大妖精は表情を強張らせている。
「ねぇ、貴方達はなんでずっと手ぇ繋いでるのかしら?」
至極、真面目な顔でそんなことを聞いてきたレミリア。
たしかにチルノと大妖精の手元を見てみると、ガッチリという感じで2人は手を握り合っている。
レミリアに指摘されて、どういう訳か、大妖精は顔を赤くしている。それに対してチルノは「ようやく気が付いたね!」と瞳をキラキラさせている。
「ふふん! 実はね、あたいと大ちゃんは今“でーと”っていうやつをやってるんだよ!」
「ち、チルノちゃん!? なに言ってるの!?」
「え? でも大ちゃん『でーとみたいでうれしい』て言ってたじゃん」
「そ、それはそうだけど…」
「大ちゃんはあたいとでーとするの、いやだった?」
「そ、そんなことないよ! 私だってチルノちゃんとデートできて嬉しいよ!」
「よかったー! 大ちゃん大好き!」
「は、はう~……」
イチャイチャ、ラブラブ、イチャイチャ、ラブラブ
「…ごちそうさま」
聞くんじゃなかった、とレミリアは今更ながら後悔する。そして、こんなことになると分かっていたから咲夜達がツッコまなかったんだとも理解した。
レミリアは口から大量の砂糖を吐きながら力無くぱたぱたと羽を動かして飛び上がった。
いつもなら向日葵の花だけでなく数多くの花が咲き誇っている幽香の太陽の畑。しかし、冬が本格的になり始めているこの時期に咲いてる花はとても少なく、どことなく哀愁が漂う雰囲気を醸し出している。
そんな雰囲気の中をレミリアが飛んでいると、姿は確認できていないが遠くから咲夜達ともう一人、別人の声が聞こえてきた。
スピードを上げて声のする方へ急ぐと、咲夜達が植物の根っこに身体を縛られて動けない状態だった。その前に日傘を差した女性が悠々と立っている。
「私の妹と親友と従者に何してるのかしら、風見幽香?」
「あらあら、吸血鬼のお嬢様じゃない」
日傘をくるくると回しながら、くすくすとどこか小馬鹿にしたように笑う幽香。そんな幽香に対してレミリアは表情一つ変えずに幽香を見る。
「風見幽香。まず皆を解放してくれないかしら?」
「それは難しいわね。この娘達ったら勝手に私の花畑に入ってきて花達を踏み荒らしたのよ? とっ捕まえて少し痛い目にあってもらうのは当然だと思うけど」
「…咲夜達が貴方の花畑に勝手に入ったことは謝るわ。ごめんなさい」
「くすくす。いいわ、お嬢様に免じてとりあえずは解放してあげるわ」
そう言ってパチン!と幽香が指を鳴らすとシュルシュルと咲夜達を解放し、根っこは地面に戻って行った。
「皆ッ! 大丈夫!」
レミリアが皆の元に駆け寄って声を掛けるが、咲夜達は地面にうつ伏せに倒れたままの状態のままである。
「皆に何したのよ風見幽香!」
「くすくす。安心しなさい。さっきまでギャーギャー五月蠅く騒いでいたからちょっと眠らせただけよ」
そう言われてもう一度咲夜達を見てみると、規則正しい呼吸をしていた。
「それで? 一体なんのためにこんな所まで来たのかしら? まさか無計画で来たわけじゃないでしょ」
「…ちょっと貴方に聞きたいことがあるのよ」
「あら、一体なにかしらね?」
また幽香はくすくすと小馬鹿にするように笑う。そんな幽香の態度に苛立ちを覚えるが、下手に刺激して無意味な争いになると咲夜達に流れ弾が被弾する可能性がある。それを避けるためにレミリアは下手に出ることにした。
「美鈴のことで一つ聞きたいことがあるのよ」
「めいりん?………あぁ、あの門番をしてる娘ね。あの娘ちゃんと花の世話してるかしら?」
「えぇ。美鈴は毎日欠かさずに花の世話をしてるわ。いや、今は“してた”が正しいわね」
「“してた”?」
「どういう訳か美鈴は違う仕事をすると言って門番を止めてしまったのよ。その後、皆で美鈴に会いに行くってことになったんだけど、美鈴が次にやりたい仕事ってのが分からなくて。だから皆で、美鈴がどんな仕事をしに行ったのか知っている人を探してたの。それで湖に居た妖精から貴方がそれを知っているかもと言っていたからここに来たのよ」
それを聞いた幽香は口元に指を当て、なにか考える仕草をする。レミリアが不思議そう見ていると、幽香はニヤリとした顔をレミリアに向ける。
「…ふ~ん。なるほど、そういうことね」
「? それで、貴方は何か美鈴から聞いていたりしないかしら」
「残念だけど、私も知らないわね」
「……そう」
「でもって、そろそろあの娘達を連れて帰ってくれないかしら? そろそろ夕食の準備をしなくちゃいけないし」
「わかったわ。迷惑掛けたわね」
「くすくす。別にいいわよ。それより…いや、何でもないわ」
「? それじゃ」
そしてレミリアは背中に咲夜とフラン。右腕にパチュリー、左腕に小悪魔を抱えると蛇行しながらふよふよと飛びあがった。いくら鬼の強さ持つ吸血鬼であってもそこはレミリアである。歯を食いしばって必死に飛んでいることからかなりキツいのが窺える。
そんな今にも落ちそうなレミリアを見ながら幽香はまたくすくすと笑う。
「幽香さーん! 終わりましたよー!」
「あら、ご苦労さまリグル」
レミリアの飛んで行った反対側からリグルが手を振りながらやって来た。
リグルの姿を確認すると、先程とは違った笑みを浮かべる幽香。
「機嫌良さそうですけど何かあったんですか?」
「ふふふ、ちょっとね。これから起こることを考えると可笑しくてね」
「? それって美鈴さんのことですか?」
「さぁね、ふふふ。ほら、そろそろ帰るわよリグル」
「あはは。分かりました!」
「ん? どうしたのよ笑ったりして?」
「いえ、冬になってから幽香さんどこか悲しそうな表情ばかりしてたので、やっぱり幽香さんは笑ってる方が素敵です」
「な、何言ってるのよリグル!?」
「そのままの意味ですよ。さて、今日の夕食はなんでしょうかね?」
「あ、コラ! 待ちなさいリグル!?」
日傘を閉じてブンブンと振り回しながら、幽香は走っていくリグルを追いかける。そんな光景を咲き残っている花達だけが微笑ましそうに見ていた。
「うー…ようやく着いたわ」
途中何度か落としそうになりながらも、レミリアは月が顔を出した頃にようやく紅魔館までたどり着くことが出来た。
「うぅ、ありがとうございましたお嬢様」
「あ、ありがとねお姉様」
「あいたた、ありがとねレミィ」
「あう、ありがとうございましたお嬢様」
「い、良いってことよこのくらい……」
頭を抑えながらも、眠りから覚めた咲夜達は門に背を預けて休んでいるレミリアに一言お礼を言う。
しかし、咲夜達の表情はどこかしょんぼりとしていた。
そんな咲夜達を見てレミリアは小さくため息をつく。
「…まぁ。また明日みんなで探しに行きましょう」
「お嬢様…」
「さ、今日はみんな疲れているはずよ! 夕食を食べたら明日に備えて早く寝るわよ!」
腰に手を当てながらそう高らかに言うレミリア。
咲夜達は一度顔を見合わせると、レミリアに向けて力強くこくりと頷かせる。
「えぇ、分かりましたわお嬢様。では、今日は身体が温まるようにおでんにしましょうか」
「おでんなら私も手伝うわよ咲夜」
「私も手伝います」
「フランもするー!」
「ふふ。じゃあ私も作るのを手伝うわ。ほら、早く行くわよ?」
そう言って夕食のおでんを作るためにレミリア達は厨房へと向かった。
「あ! みなさん、こんな時間までどこに行ってたんですかー?」
なので、厨房で鼻歌を歌いながらおでんを作っている美鈴が居たのは誰も予想していなかったことである。
厨房の入り口で咲夜達がポカーンと開けていると、にこにこと笑いながら美鈴が駆け寄ってきた。
「め、めいりん…?」
「いや~、みなさん遅いので今から探しに行こうかと思ってたんですよ」
「あれどうして…?」
「でも丁度いいタイミングでしたよ。おでんも今出来上がりましたので」
「なな、なんで…?」
「では温かい内に食べちゃましょう。あ、すいませんがお皿運ぶの手伝ってください咲夜さん」
『なんでここに居るのーーーーー!!!?』
当然と言えば当然の質問が紅魔館中に響き渡る。
その当の本人の美鈴はというと、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている始末である。
「え、ここに居ちゃまずかったですか? そりゃあ、咲夜さんと比べたら味は落ちますけど」
「大丈夫よ! 美鈴の手料理が美味しいことは私が保障してるから!」
「落ち着きなさい咲夜!?」
「というか、美鈴は今日一日どこに行ってたの!?」
「どこにって、寺子屋にですけど」
美鈴が言うには、以前からやりたかったという仕事は寺子屋の教師だった。そんな教師に興味を持っている時に、寺子屋で教師を務めている上白沢慧音が「一日だけ体験教師をしてみるか?」という誘いを持ってきたという。美鈴はそんな魅力的な誘いをすぐさま承諾し、その日の内にレミリアからお暇をもらったという。
「じゃあ、以前からやってみたかった仕事って?」
「はい。私一度で良いから先生ってやってみたかったんですよ!」
はにかみながらそう言う美鈴に咲夜とフランは釘付けになるが、もう一つ重要なことを聞く。
「でも美鈴、お嬢様からお暇もらってたじゃない!?」
「そうですけど?」
「めいりん、門番を辞めてやりたかった仕事をするんでしょ!?」
「……ん?」
涙目で美鈴に詰め寄る2人に対し、美鈴は本当に知らないという態度を取る。
そしてはっと何かに気が付いたように目を見開き、冷や汗を額に浮かべながらレミリアとパチュリーと子悪魔を見る。
「あの、お嬢様にパチュリー様にこあちゃん?」
「う、うん?」
「えっと、何かしら美鈴?」
「な、何でしょうか美鈴さん?」
何事に対しても“タイミング”というのは重要である。
「一つ確認したいんですが―――」
タイミング一つで良い方向へ進むか、悪い方向へ進むかが決まったりする。
「“お暇をもらう”って―――」
なので、このタイミングで美鈴が言ったこの言葉は、
「“休暇を貰う”って意味じゃないんですか?」
一番言ってはいけない破滅の言葉だった。
「んで、一体なにしたんだお前?」
「あははは…」
今日も今日とて紅魔館にやってきた魔理沙。しかし、今日は珍しく図書館から本を借りることなく美鈴と談笑をしていた。その美鈴はというと、ギプスで固定した右腕と左足と頭が包帯でぐるぐる巻きにされているのがとても痛々しいが、ルナティック状態(小悪魔も含む)になった皆にやられてこの程度なのだからまだ軽症であろう。
「言葉の意味はちゃんと理解したうえで使いましょうね魔理沙さん」
「ん? どうしたんだ美鈴?」
「あと、言うにしてもタイミングを気を付けなければいけませんからね魔理沙さん」
「おーい? 大丈夫かめいりーん?」
「だから魔理沙さんも気を付けましょうね!」
「あ、ああ。気を付けるよ」
充血した目で見られ、がしりと左手で力強く肩を握られた魔理沙は、とにかく今日はこのままおとなしく帰ろうと強く思ったのだった。
「そう言えば、美鈴さんってどこへ行ったんでしたっけ?」
食堂で延々とお嬢様コールをしていた咲夜達の声が、小悪魔の一言でピタリと止まった。それと同時に、いつの間にか胴上げまでしていた皆の動きも止まった。当然、胴上げをされていたレミリアはそのまま堅い床に頭から落ちた。「うー! うー!」と悶絶しているレミリアを他所に、咲夜達は「すっかり忘れていた」とか「美鈴のやってみたかったことって何?」とか話し合っていた。哀れみりあ。
そして話し合いの結果、朝一番に美鈴の捜索活動が行なわれることになった(もちろん、レミリアの許可無し)。そうと決まれば咲夜達の行動は早かった。夕食そっちのけで、明日のためにとそれぞれの自室へ戻って行った。
また、皆が居なくなっても誰か気が付いてくれるだろうと暫く悶絶していたが、誰一人として戻って来ない寂しさに、急いで自室に戻って枕を涙で濡らしたが、翌日、誰もレミリアを起こさないで、しかもレミリア抜きで出発しようとしている光景を見て、レミリアの何かが崩壊したのは別の話である。
何かが崩壊したレミリアを沈めるのに、思いのほか時間が掛かってしまい、結局出発したのはお腹が我儘を言いだす昼頃であった。
「それで美鈴はどこに行ったのかしらね?」
ばたんきゅ~状態のレミリアを引きずりながらパチュリーは言う。
問題はそこであった。いくら自分達から探しに行こうとしても、どこに行ったのか分からない以上、見当のつかない状態である。
早くも大きな壁の出現に一同は考え込むが、その壁を壊してくれたのは意外にもフランだった。
フラン曰く、霧の湖によくいるチルノとその友達の大妖精が知っているかもしれないとのこと。たしかに、美鈴は門番という職業柄、人との関わりは内部の者より遥かに多い。そして、美鈴によく遊んでもらっていたチルノや大妖精は、もしかしたら美鈴にこの話を聞いていてどこに行ったのか知っているかもしれない。
一同はすぐさま霧の湖に向かった。ちなみに、レミリアは湖に着くまでの間、ずっと引きずられっぱなしだったのは別の話である。
深い霧に覆われている霧の湖のほとり。妖精や妖怪が多く集まる場所の一つである。しかし、そんな場所であるが、基本的に妖精達の遊んでる声や弾幕ごっこなどの微笑ましい(?)光景があり、危険なのか危険じゃないのか分からない場所でもある。まぁ、一般人ならすぐにピチューンするかもしれないので危険な場所に変わりないと思うが。
「なかなか見つからないわね、チルノと大妖精」
さっきから流れ弾を当たり前のように避けながら湖の周りを歩いている咲夜達。いつもならすぐにでも見つかる筈なのに、今日に限ってなかなか見つからない。
手分けして探そうかと咲夜が提案しようと思っていると―――
「ねぇ、もしかしたらアレじゃないですか?」
小悪魔が少し先にある木の上を指差した。
一同がそこを見てみると、チルノと大妖精が手を繋ぎながら何やら楽しそうに話し合っている姿があった。
「おーい、チルノに大ちゃん!」
「ん?」
「はい?」
木の根元まで行き、会話を遮るのは悪いと思いながらも二人に聞こえるようにフランは呼び掛ける。呼び掛けに気付いた二人は「なんだろう?」という顔をしながらゆっくりと木から下りてきた。
「どうしたのフラン?」
「何かあったんですか? 皆さんお揃いで」
「ちょっと美鈴について聞きたいことがあるんだけど」
「美鈴がどうかしたの?」
フランは、美鈴が門番を辞めたことや門番以外に何かやりたいとチルノ達に言っていなかったかを聞いた。
「……という訳なの。だから何か美鈴から聞いてない?」
「ううん。そんな話全然聞いてないよ」
「すみませんが、私も美鈴さんからそんな話は聞いていません」
だが、チルノも大妖精も美鈴の行き先については知らなかったようだ。何か有力な手掛かりを期待していた一同は落胆の表情を浮かべる。
「あ、でも。あの人なら知ってるかもしれませんね」
しかし、大妖精から発せられたその言葉を聞くと「そこんとこkwsk!」と言いながら物凄いスピードで大妖精に詰め寄る。
「え、えっとですね、風見幽香さんってご存知ですよね?」
風見幽香。四季のフラワーマスターであり幻想郷で最強クラスに入る花を操る妖怪である。外の世界では「ゆうかりん」や「アルティメットサディスティッククリーチャー」などの愛称で知られている。しかし、最近ではリグル・ナイトバグという蟲の妖怪に夢中であり、すっかり丸くなってしまっているという噂もちらほらある。(情報元、文々。新聞より)
なお、文々。新聞の発行者である射命丸文は、先月何者かの襲撃に遭い全治3ヶ月の怪我を負ったそうである。そして今現在、彼女は犬走椛の手厚い看病(主に性的な意味)に毎日苦しんでいたりする。
「美鈴さん、よく花壇の花の世話について相談してもらっているって言ってましたので、もしかしたら幽香さんなら何か知ってるんじゃないでしょうか?」
「なるほどね。あまりあそこに行くのは乗り気になれないけど、行ってみる価値はあるわね」
「ありがとね大ちゃん!」
「それじゃあ、私達は“太陽の畑”へ行きましょう」
そう言って咲夜達は太陽の畑に向かって飛んでいった。
しかし、レミリアだけはその場から動こうとはしなかった。
「どうしたのレミリア?」
「あの、皆さんもう行っちゃいましたけど?」
「貴方達2人にちょっと聞きたいことがあるのよ」
真面目な表情でレミリアはチルノと大妖精の前に立つ。
チルノと違い、普段あまり見ないレミリアを前にして緊張しているのか、大妖精は表情を強張らせている。
「ねぇ、貴方達はなんでずっと手ぇ繋いでるのかしら?」
至極、真面目な顔でそんなことを聞いてきたレミリア。
たしかにチルノと大妖精の手元を見てみると、ガッチリという感じで2人は手を握り合っている。
レミリアに指摘されて、どういう訳か、大妖精は顔を赤くしている。それに対してチルノは「ようやく気が付いたね!」と瞳をキラキラさせている。
「ふふん! 実はね、あたいと大ちゃんは今“でーと”っていうやつをやってるんだよ!」
「ち、チルノちゃん!? なに言ってるの!?」
「え? でも大ちゃん『でーとみたいでうれしい』て言ってたじゃん」
「そ、それはそうだけど…」
「大ちゃんはあたいとでーとするの、いやだった?」
「そ、そんなことないよ! 私だってチルノちゃんとデートできて嬉しいよ!」
「よかったー! 大ちゃん大好き!」
「は、はう~……」
イチャイチャ、ラブラブ、イチャイチャ、ラブラブ
「…ごちそうさま」
聞くんじゃなかった、とレミリアは今更ながら後悔する。そして、こんなことになると分かっていたから咲夜達がツッコまなかったんだとも理解した。
レミリアは口から大量の砂糖を吐きながら力無くぱたぱたと羽を動かして飛び上がった。
いつもなら向日葵の花だけでなく数多くの花が咲き誇っている幽香の太陽の畑。しかし、冬が本格的になり始めているこの時期に咲いてる花はとても少なく、どことなく哀愁が漂う雰囲気を醸し出している。
そんな雰囲気の中をレミリアが飛んでいると、姿は確認できていないが遠くから咲夜達ともう一人、別人の声が聞こえてきた。
スピードを上げて声のする方へ急ぐと、咲夜達が植物の根っこに身体を縛られて動けない状態だった。その前に日傘を差した女性が悠々と立っている。
「私の妹と親友と従者に何してるのかしら、風見幽香?」
「あらあら、吸血鬼のお嬢様じゃない」
日傘をくるくると回しながら、くすくすとどこか小馬鹿にしたように笑う幽香。そんな幽香に対してレミリアは表情一つ変えずに幽香を見る。
「風見幽香。まず皆を解放してくれないかしら?」
「それは難しいわね。この娘達ったら勝手に私の花畑に入ってきて花達を踏み荒らしたのよ? とっ捕まえて少し痛い目にあってもらうのは当然だと思うけど」
「…咲夜達が貴方の花畑に勝手に入ったことは謝るわ。ごめんなさい」
「くすくす。いいわ、お嬢様に免じてとりあえずは解放してあげるわ」
そう言ってパチン!と幽香が指を鳴らすとシュルシュルと咲夜達を解放し、根っこは地面に戻って行った。
「皆ッ! 大丈夫!」
レミリアが皆の元に駆け寄って声を掛けるが、咲夜達は地面にうつ伏せに倒れたままの状態のままである。
「皆に何したのよ風見幽香!」
「くすくす。安心しなさい。さっきまでギャーギャー五月蠅く騒いでいたからちょっと眠らせただけよ」
そう言われてもう一度咲夜達を見てみると、規則正しい呼吸をしていた。
「それで? 一体なんのためにこんな所まで来たのかしら? まさか無計画で来たわけじゃないでしょ」
「…ちょっと貴方に聞きたいことがあるのよ」
「あら、一体なにかしらね?」
また幽香はくすくすと小馬鹿にするように笑う。そんな幽香の態度に苛立ちを覚えるが、下手に刺激して無意味な争いになると咲夜達に流れ弾が被弾する可能性がある。それを避けるためにレミリアは下手に出ることにした。
「美鈴のことで一つ聞きたいことがあるのよ」
「めいりん?………あぁ、あの門番をしてる娘ね。あの娘ちゃんと花の世話してるかしら?」
「えぇ。美鈴は毎日欠かさずに花の世話をしてるわ。いや、今は“してた”が正しいわね」
「“してた”?」
「どういう訳か美鈴は違う仕事をすると言って門番を止めてしまったのよ。その後、皆で美鈴に会いに行くってことになったんだけど、美鈴が次にやりたい仕事ってのが分からなくて。だから皆で、美鈴がどんな仕事をしに行ったのか知っている人を探してたの。それで湖に居た妖精から貴方がそれを知っているかもと言っていたからここに来たのよ」
それを聞いた幽香は口元に指を当て、なにか考える仕草をする。レミリアが不思議そう見ていると、幽香はニヤリとした顔をレミリアに向ける。
「…ふ~ん。なるほど、そういうことね」
「? それで、貴方は何か美鈴から聞いていたりしないかしら」
「残念だけど、私も知らないわね」
「……そう」
「でもって、そろそろあの娘達を連れて帰ってくれないかしら? そろそろ夕食の準備をしなくちゃいけないし」
「わかったわ。迷惑掛けたわね」
「くすくす。別にいいわよ。それより…いや、何でもないわ」
「? それじゃ」
そしてレミリアは背中に咲夜とフラン。右腕にパチュリー、左腕に小悪魔を抱えると蛇行しながらふよふよと飛びあがった。いくら鬼の強さ持つ吸血鬼であってもそこはレミリアである。歯を食いしばって必死に飛んでいることからかなりキツいのが窺える。
そんな今にも落ちそうなレミリアを見ながら幽香はまたくすくすと笑う。
「幽香さーん! 終わりましたよー!」
「あら、ご苦労さまリグル」
レミリアの飛んで行った反対側からリグルが手を振りながらやって来た。
リグルの姿を確認すると、先程とは違った笑みを浮かべる幽香。
「機嫌良さそうですけど何かあったんですか?」
「ふふふ、ちょっとね。これから起こることを考えると可笑しくてね」
「? それって美鈴さんのことですか?」
「さぁね、ふふふ。ほら、そろそろ帰るわよリグル」
「あはは。分かりました!」
「ん? どうしたのよ笑ったりして?」
「いえ、冬になってから幽香さんどこか悲しそうな表情ばかりしてたので、やっぱり幽香さんは笑ってる方が素敵です」
「な、何言ってるのよリグル!?」
「そのままの意味ですよ。さて、今日の夕食はなんでしょうかね?」
「あ、コラ! 待ちなさいリグル!?」
日傘を閉じてブンブンと振り回しながら、幽香は走っていくリグルを追いかける。そんな光景を咲き残っている花達だけが微笑ましそうに見ていた。
「うー…ようやく着いたわ」
途中何度か落としそうになりながらも、レミリアは月が顔を出した頃にようやく紅魔館までたどり着くことが出来た。
「うぅ、ありがとうございましたお嬢様」
「あ、ありがとねお姉様」
「あいたた、ありがとねレミィ」
「あう、ありがとうございましたお嬢様」
「い、良いってことよこのくらい……」
頭を抑えながらも、眠りから覚めた咲夜達は門に背を預けて休んでいるレミリアに一言お礼を言う。
しかし、咲夜達の表情はどこかしょんぼりとしていた。
そんな咲夜達を見てレミリアは小さくため息をつく。
「…まぁ。また明日みんなで探しに行きましょう」
「お嬢様…」
「さ、今日はみんな疲れているはずよ! 夕食を食べたら明日に備えて早く寝るわよ!」
腰に手を当てながらそう高らかに言うレミリア。
咲夜達は一度顔を見合わせると、レミリアに向けて力強くこくりと頷かせる。
「えぇ、分かりましたわお嬢様。では、今日は身体が温まるようにおでんにしましょうか」
「おでんなら私も手伝うわよ咲夜」
「私も手伝います」
「フランもするー!」
「ふふ。じゃあ私も作るのを手伝うわ。ほら、早く行くわよ?」
そう言って夕食のおでんを作るためにレミリア達は厨房へと向かった。
「あ! みなさん、こんな時間までどこに行ってたんですかー?」
なので、厨房で鼻歌を歌いながらおでんを作っている美鈴が居たのは誰も予想していなかったことである。
厨房の入り口で咲夜達がポカーンと開けていると、にこにこと笑いながら美鈴が駆け寄ってきた。
「め、めいりん…?」
「いや~、みなさん遅いので今から探しに行こうかと思ってたんですよ」
「あれどうして…?」
「でも丁度いいタイミングでしたよ。おでんも今出来上がりましたので」
「なな、なんで…?」
「では温かい内に食べちゃましょう。あ、すいませんがお皿運ぶの手伝ってください咲夜さん」
『なんでここに居るのーーーーー!!!?』
当然と言えば当然の質問が紅魔館中に響き渡る。
その当の本人の美鈴はというと、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている始末である。
「え、ここに居ちゃまずかったですか? そりゃあ、咲夜さんと比べたら味は落ちますけど」
「大丈夫よ! 美鈴の手料理が美味しいことは私が保障してるから!」
「落ち着きなさい咲夜!?」
「というか、美鈴は今日一日どこに行ってたの!?」
「どこにって、寺子屋にですけど」
美鈴が言うには、以前からやりたかったという仕事は寺子屋の教師だった。そんな教師に興味を持っている時に、寺子屋で教師を務めている上白沢慧音が「一日だけ体験教師をしてみるか?」という誘いを持ってきたという。美鈴はそんな魅力的な誘いをすぐさま承諾し、その日の内にレミリアからお暇をもらったという。
「じゃあ、以前からやってみたかった仕事って?」
「はい。私一度で良いから先生ってやってみたかったんですよ!」
はにかみながらそう言う美鈴に咲夜とフランは釘付けになるが、もう一つ重要なことを聞く。
「でも美鈴、お嬢様からお暇もらってたじゃない!?」
「そうですけど?」
「めいりん、門番を辞めてやりたかった仕事をするんでしょ!?」
「……ん?」
涙目で美鈴に詰め寄る2人に対し、美鈴は本当に知らないという態度を取る。
そしてはっと何かに気が付いたように目を見開き、冷や汗を額に浮かべながらレミリアとパチュリーと子悪魔を見る。
「あの、お嬢様にパチュリー様にこあちゃん?」
「う、うん?」
「えっと、何かしら美鈴?」
「な、何でしょうか美鈴さん?」
何事に対しても“タイミング”というのは重要である。
「一つ確認したいんですが―――」
タイミング一つで良い方向へ進むか、悪い方向へ進むかが決まったりする。
「“お暇をもらう”って―――」
なので、このタイミングで美鈴が言ったこの言葉は、
「“休暇を貰う”って意味じゃないんですか?」
一番言ってはいけない破滅の言葉だった。
「んで、一体なにしたんだお前?」
「あははは…」
今日も今日とて紅魔館にやってきた魔理沙。しかし、今日は珍しく図書館から本を借りることなく美鈴と談笑をしていた。その美鈴はというと、ギプスで固定した右腕と左足と頭が包帯でぐるぐる巻きにされているのがとても痛々しいが、ルナティック状態(小悪魔も含む)になった皆にやられてこの程度なのだからまだ軽症であろう。
「言葉の意味はちゃんと理解したうえで使いましょうね魔理沙さん」
「ん? どうしたんだ美鈴?」
「あと、言うにしてもタイミングを気を付けなければいけませんからね魔理沙さん」
「おーい? 大丈夫かめいりーん?」
「だから魔理沙さんも気を付けましょうね!」
「あ、ああ。気を付けるよ」
充血した目で見られ、がしりと左手で力強く肩を握られた魔理沙は、とにかく今日はこのままおとなしく帰ろうと強く思ったのだった。
小悪魔
何かツッコミ所が多くてとても面白かったですww
美鈴は門番なんて辞めて里の教師になった方が幸せになれそうだ
まぁそうかも知れないが、それまでに凄く迷惑(?)をかけたんだから±0ってことでいいんじゃなイカ?
結局なにがいいたいかと言うととてもおもろしろかったです!!
もっと美鈴が愛されてる作品を待ってます!!