Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

私が起こした惨劇

2010/11/22 02:36:04
最終更新
サイズ
6.74KB
ページ数
1

分類タグ

作品集65の「朝、起きたら、皆死んでいた」の後日談です。読んでない人は、この作品を読んだ後に前作を読んでもいいし、前作を読んだ後にこの作品を読んでもいいです。






室内は酒の匂いで充たされていた――。

「嘘……」

地底の旧都、その中にある一軒の呑み屋で、私、水橋パルスィは一人立ち尽くしていた。
昨夜は珍しく気が乗って、宴会に顔を出したのだが、途中からの記憶が無い。
それだけなら、ただ酔っ払って醜態を曝したか、または酔いつぶれただけなのだが、今回は訳が違う。
「なんで……みんな倒れてるの?」
呑み屋にいる全員が意識を失っていた。酔いつぶれているわけではないのは一目瞭然。いびきはおろか、誰も身じろぎ一つもないのだ。
それに気付いた私は、一番近くに倒れているヤマメの手首に指をあて、脈をとろうと試みた。
が――。
「ひっ!……死んでる!?」
悲しいことに、ヤマメの白い手首からは脈拍なんてものは感じられず、代わりに冷たい死体の体温が指に伝わってきただけだった。
「ヤマメ!ヤマメ!!冗談は止めなさい!!いつも言ってるじゃない!からかわないでって!今なら怒らないであげるから!」
パルスィはヤマメの肩に手をかけ、ぶんぶんと揺する。
そして、視界の端に別のものを見つけ、そちらに駆け寄る。
「勇儀!あんたは酔いつぶれるような奴じゃないでしょ!?ヤマメが大変なの!いや、ヤマメだけじゃないんだけど……早くしないとみんな手遅れに……勇儀?」
信じたくなかった。信じられなかった。今必死に話しかけている対象は鬼の四天王の一人だ。酒に酔いつぶれることなど有り得ない酒呑童子。力では誰にも負けない力の勇儀。
それがなぜ。
「……なに死んでるのよ。あなたまで……!!」
勇儀はまさに眠るように死んでいた。綺麗な死に顔だった。いい夢でも見ているかのように。
パルスィはこれが如何に絶望的な状況かを悟った。
地底最強と言っても過言ではない鬼が死んでいるのだ。理由はわからないが、この呑み屋で倒れている妖怪達の生存率は、かなり低いだろう。
「誰かっ!誰か生きてる奴は!意識のある妖怪はいないの!?」
叫ばずにはいられなかった。頭に響いていた酒は、ここにきて一気に抜けた。
昨日とは違う朝。今までで一位二位を争う程に最悪な日。
「お願い!誰か返事して!!」
広い店内、それを埋め尽くさんとする死体の中、一人叫び続ける。頭の中には古い記憶が思い出される。この騒動の原因かもしれない過去にあった惨劇。
「お願い!誰かぁ……!!」
二度と繰り返すまいと誓って橋の守り神になることを決意したはずだった。
「私を……」
能力の暴走による大量殺戮。
「私を独りにしないで……」
パルスィは独り膝をついた。涙で顔はぐしゃぐしゃになっている。手を地面につき、顔を伏せてむせび泣いた。
自分はまたやってしまったのだと。酒の勢いで、能力のタガが外れてしまったのだろうと。泣き声に後悔と自己嫌悪と、失ってしまった者達への嫉妬という名の愛情を乗せて――。

「パルスィ……?」

どれだけそうしていただろうか。涙も枯れ果てたころ声が聞こえた。この声は……
「さとり!?」
「わわっ!違うよ?こいしだよ!」
凄い勢いで顔を上げたパルスィに、声の主、こいしは驚いて倒れかかる。
「こいしっ!こいしなのよね?生きてるのよね?」
「生きてないと返事できないよ」
まくし立てるパルスィに、まずは落ち着いてと促す。
一呼吸




「で?これはどうなってこうなったの?」
「わからない。けど、予想はつくわ」

「ふーん」

「それだけ?」

「それだけのことだよ」

死体を通りに並べる。こいしの提案だ。下に茣蓙を敷き、埋葬の準備をしている。
作業をしながら、こいしはズバズバと聞いてくる。
宴会参加者がなぜ死んでるのか。宴会に出席していなかった勇儀がなぜここにいるのか。昨日のどこまで覚えているか。パルスィはどう考えているか――。
パルスィはわかる範囲で応えるが、聞いてきたこいしが返すのはそっけない返事ばかり。

「こいしは悲しくないの?」
言ってしまってからハッとした。
自分でやっておきながら何を言っているんだ。悲しくないわけ無いだろう。何が「悲しくないの?」だ。私まで被害者面してどうする。私は加害者だ。どうしようもないほどに。
救いようの無いほどに。
「悲しくなんて無いよ」
鈴のように澄んだ声が聞こえた。
「私は悲しくないよ。パルスィがいるもん」
「やめて!!」
私は堪えられなかった。
旧都にはこいしと仲のいい鬼も大勢いたでしょう。
饅頭屋の店主から団子を奢ってもらったと言っていただろう。
お空が飲み屋で痴漢に遭ったときに、みんなで協力して捕まえたと自慢してたじゃないか。
ヤマメやキスメともよく遊んでいたし、さとりとの姉妹仲も最近良くなってきたらしいじゃない。
私はそれら全てを妬んでいた。
そして今、この状況だ。この有様だ。
悲惨で酷くて狂気じみてる。
それが私、この水橋パルスィが起こした惨劇。
それを何?悲しくないですって?私がいるから?偽善でも言っちゃいけないことがあるでしょう。
「さとりはあなたの姉でしょう!殺した私が言っていいことじゃないけど、どうして悲しくないなんて言えるのよ!さとりだけじゃない。みんな、こいしの友達だったんでしょう!?
居なくなっていいわけないじゃない……かなし……くない……わけ、ないじゃ……ない……」
泣いてしまう。枯れたはずの涙が再び頬を濡らす。泣く権利なんて無い。でも私は……
「パルスィは悲しいんだよね」
悲しい。
どうしようもなく悲しい。
「やっぱりパルスィが生きててよかった。私は悲しむことが出来ないから」
閉じた第三の眼に手をやり、こいしは言った。
「私はパルスィがいるから悲しめるの。パルスィが悲しいと、私まで悲しい気になってくるの。おかしいよね。私の閉じた心は感情を生まないのに。パルスィの悲しみがうつったのかな?」
そうだ、こいしは心閉ざしている。しかし、私は知っている。
「いいえ、こいし。それはあなたの感情よ。今のあなたは心を閉ざしたときのあなたじゃない。妖怪だって成長していく。あなたが橋まで来るたびに見せていた笑顔、毎日違っていたのを私は知っているもの。あなたはいろんな人に出会い、閉ざした心の中に感情の芽を育てていった……」
それが羨ましかった。妬ましかった。だから気づけたのだ。こいしだけでは無い。私は橋を通った人には、私には無いものがたくさんあった。私には出来ないことがたくさんあった。
「あなたも悲しいのよ。悲しんでいいのよ!!私を恨んでくれてもいい。お願いだから。さとり達を悼む気持ちをもってあげて」
「……やだよ」
「え?」
こいしはぶるぶる震えている。
「やだよこんな奴ら悼むの!そんで、それ以上にパルスィを恨むなんてもっとできないよ!」
「こいし?」
おかしい。こいしは嫌悪感を露わにして叫んでいる。なんだ、やっぱり感情はあるんじゃないか。いや、それにしてもいきなりどうしたんだろう。
「実は私、みんなが死んでいくとこ、見ちゃったんだよ」
「こいし!?あなた……」
悲惨だったろう。みんなが醜く嫉妬し、暴れまわる様は。その中でこの子は一人、堪えていたんだろう。
「こいし、違うの。彼女達が狂ったのはさっき説明した通り私の……」
「パルスィはなにも悪くなんてないの!」
はい?
「ぜーんぶお姉ちゃん達が悪いの。パルスィにアルコール度数の高いお酒飲ませて反応を楽しもうとしたお姉ちゃん達が!」
そういえば、記憶の中のさとりが、お酌をしてくれていた。しかし、結局は私の能力暴走のきっかけになっただけだろう。
しかし、こいしは関係ないとばかりに作業を再開した。
「さっきもいったけど、パルスィは悪くなんて無いの!さっさとこいつらを灼熱地獄へ蹴り落としてやろう!」
「ちょっ……埋葬は!?」
「あ、お姉ちゃんが遺言でなんか言ってたよ。灰は地上に撒いてくださいって。」
「じゃ、じゃあそれで……」
本当にどうしたんだろう。こいしのテンションがやけに高くなった気がする。
「これからは二人っきりでいられるね!パルスィ!」
「え…えぇ?」
このとき、私は自分のことでいっぱいいっぱいで最後までこいしに聞くことは無かった。

「あなたなら、暴走するさとり達を止められたんじゃない?」と。
変な続編ですね。
前作にはタグの「さとりが死ぬ話」からすぐに検索できると思います。
誤字脱字がありましたら報告してください。
アジサイ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
まさかの続編www
これからはこいしとパルスィのしあわせ生活ですね。
しかし、この話空気が若干重い
2.奇声を発する程度の能力削除
あー思い出したwあれかww
二人でも乗り越えて行けるよ
3.oblivion削除
え? シリアス、あれ? えっ
あー萌死だったか

えっ
なにそれこわい