霊夢はコタツに潜り込み、ぬくぬくとだらけていた。
冬場にはよく見られる風景であり、最近の日常と言っても良い。
外も雪が振り続けているし、雪かきは雪がやんでからにしよう。
そうやって、あとで苦労することになるのだがそんなことは今はささいなことだ。
ふわぁ、と霊夢は大きく欠伸をするとちゃぶ台に顔を横たえる。
暖まれば自然と眠くなる。昼食を食べた後ということもあった。
このまま昼寝するのも悪くない。
そう思った矢先、雨戸がけたたましい音をたてて吹っ飛んだ。
「……で、何の用?」
霊夢は雨戸と共に側に転がってきた文に訊ねる。
口調は変わらないものの激しい怒りが胸のうちにあることは誰が見ても明らかだった。
「ははは……」
文は乾いた笑いで返すことしか出来ない。
とりあえず、彼女を刺激しないように言葉を選びつつ応える。
「いやー、そのですね……こう、誰でもイラつく瞬間ってありますよね」
「そうね。私も今殺意を覚えたわ」
「わ、分かっていただけて幸いです。その、新聞の原稿がなかなかうまくいかなかったんですよ」
「それで?」
「それで……物にあたってしまうことってあるじゃないですか」
「この怒りは天狗にぶつければいいのかしら」
「それはご勘弁を……。まあ、それでついインク瓶を投げてしまったわけです」
「ほう」
「それが何故か窓ガラスに当たってしまって……」
「なるほど。その八つ当たりにウチの雨戸を壊したってわけね。祈りは済んだ?」
万力のような力で文を吊り上げる霊夢。
表情は笑っていたが目は全く笑っていない。養鶏場の鶏をみるような目だった。
明日にはフライドチキンになって店先に並ぶのねって言うような。
「ち、違います! それでなんだか自分が意味のないことをしてるような気がして……無性に悲しくなって気がついたら霊夢さんの所に……」
「文……?」
文は悲しそうに目を伏せる。弱々しい彼女の姿は普段から想像できない。
どうやら演技ではなく本当につらかったようだ。
「霊夢さんなら、冷えた心を温めてくれるって……そう思ったんです……」
「そうだったの……わかったわ」
その一言で文の沈んでいた表情は輝きを取り戻す。
「霊夢さ」
「要はあんたの自業自得のせいで私はこんな目に合ってるのね!」
「あいたたたた! や、やめてください! 頭が割れます!」
悪魔将軍もかくやという握力で頭を握りつぶそうとする霊夢に彼女は叫ぶことしか出来なかった。
この霊夢、今はセンチメンタルなことよりも午後の平穏な時間を壊されたことのほうが重要だった。
「うるさい! このままたたき割ってやるわ!」
「ちょ、洒落になってませんよ!」
「痛いのは初めだけよ!」
「それは別のシュチュエーションで言ってほs痛い痛い!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ続けること数分間。
そんなことよりも雨戸を直すことのほうが先だと気がついたころには二人の体と部屋はすっかりと冷え切っていた。
◇
「はあ? 泊めてくれって……何言ってるのよ」
コタツに肩まで潜りこんだ霊夢は馬鹿らしいとばかりに言う。
「窓の修理が終わるのは明日なんですよ。一晩でいいんです」
同じようにコタツに潜り込んだ文は必死に嘆願する。
「他にもあてはあるでしょうに。河童とか早苗のとことか」
「そうですけど……」
「ここじゃなくてもいいじゃない。拘る理由でもあるの?」
「いや、その……」
途端に煮え切らない態度を取る文。視線をあちこちに動かし、時々霊夢をみる。
はっきりしない態度に霊夢はイラつきを隠さずに言う。
「はっきり言いなさいよ。じゃないとコタツから追い出すわよ」
「それはやめて下さい!」
言うが早く袖口から退魔札を取り出す霊夢を文は慌てて制止する。
お札は別に痛くない……はずだが寒気が通り過ぎたこの部屋でコタツから追い出されるのは遠慮したかった。
「あー……その、霊夢さんがいるから……っていうのはどうです?」
文は羞恥心から顔を俯かせたまま搾り出すように言葉を紡ぐ。
霊夢はなんでもないように、
「ふぅん」
と一言返し、ミカンに手を伸ばす。
なにか期待してたわけではないが、もう少し可愛らしい反応があってもいいのではないか。
一人で恥ずかしいことを言った自分が馬鹿みたいではないか。
文は小さく溜息をつくと、霊夢に習ってミカンに手を伸ばす。
ちらり、と彼女を見れば変わらない表情のまま黙々とミカンを口に運んでいた。
「って霊夢さん。それ皮ですよ」
「…………皮のほうが栄養があるのよ」
「リンゴじゃないんですから……」
霊夢はくぅっ、と一言唸ると皮と実を一緒くたに口に放りこむと、無理矢理に飲み込む。
そして、何事もなかったかのように二つの目のミカンに手を伸ばす。
「なによ?」
「いえ、なんでもありません」
「……なんかムカつくわ、その表情」
頬が緩んでしまうのは仕方がない。ここまで意地っ張りだとは思わなかった。
存外に可愛らしいところもあるではないか。
「ふふふ……」
「くっ……まあ、それで。どうするのよ」
「どう、とは」
「泊まっていくの、いかないの」
ミカンを口に運び続けたまま口早に霊夢は言う。
表情は変わらないままだが、黒髪からわずかに見える耳は赤く染まっていた。
「もちろん泊めさせていただきます」
「そう、晩はなにか食べたいものある?」
「霊夢さんがいいです」
文はにこやかな笑顔で言う。
霊夢もにこやかな笑顔で返し、再び頭を掴み上げる。
「今夜は鳥鍋にしようかしら」
「本気だったけど冗談です、冗談にしてください」
「ふんっ」
霊夢は手を離すとそのまま文の隣に座る。
コタツの一辺は狭く、必然と二人の足は絡むようにぶつかる。
「あの、何をしてなさるので」
「ここに座りたい気分なのよ」
「えっとそれは」
「口答えしない。寒いんでしょう」
そっぽを向いたまま霊夢は応える。
自分を心配してくれているのだろうか彼女は。
視線を逸らしたままの彼女に訊ねてみたかったが、きっと返ってくる答えは決まっている。
『そんなわけないでしょう』
その癖、目を合わせないで言うに違いない。
照れくさいなら素直に言ってしまえばいいのに。
だけど、そんな彼女がとても愛おしい。口では否定しても、やはり彼女はやさしい人間だ。
「……それじゃあ私もこうしたい気分です」
文は霊夢の後ろに回ると、腕を回して抱きしめる。
頬に柔らかい髪があたってくすぐったいが、心地良くもある。
軽く髪を梳くように撫でると体を震わせ、その度に女性らしさを意識させる匂いが鼻孔に届く。
「こ、こら。なにするのよ」
そういうものの、霊夢は抵抗する様子もなく大人しくじっとしている。
とは言っても、羞恥はぬぐいきれないようで首まで真っ赤にして顔を俯かせていた。
「そういう気分なんですよ」
「……コタツに入らないと寒いでしょう」
「いいえ」
文は愛おしそうに彼女を強く抱きしめる。
「あったかいですよ」
心も身体もね。
耳元で囁くと、霊夢は小さな声で
「当たり前じゃない」
恥ずかしそうに、嬉しそうに応えた。
冬場にはよく見られる風景であり、最近の日常と言っても良い。
外も雪が振り続けているし、雪かきは雪がやんでからにしよう。
そうやって、あとで苦労することになるのだがそんなことは今はささいなことだ。
ふわぁ、と霊夢は大きく欠伸をするとちゃぶ台に顔を横たえる。
暖まれば自然と眠くなる。昼食を食べた後ということもあった。
このまま昼寝するのも悪くない。
そう思った矢先、雨戸がけたたましい音をたてて吹っ飛んだ。
「……で、何の用?」
霊夢は雨戸と共に側に転がってきた文に訊ねる。
口調は変わらないものの激しい怒りが胸のうちにあることは誰が見ても明らかだった。
「ははは……」
文は乾いた笑いで返すことしか出来ない。
とりあえず、彼女を刺激しないように言葉を選びつつ応える。
「いやー、そのですね……こう、誰でもイラつく瞬間ってありますよね」
「そうね。私も今殺意を覚えたわ」
「わ、分かっていただけて幸いです。その、新聞の原稿がなかなかうまくいかなかったんですよ」
「それで?」
「それで……物にあたってしまうことってあるじゃないですか」
「この怒りは天狗にぶつければいいのかしら」
「それはご勘弁を……。まあ、それでついインク瓶を投げてしまったわけです」
「ほう」
「それが何故か窓ガラスに当たってしまって……」
「なるほど。その八つ当たりにウチの雨戸を壊したってわけね。祈りは済んだ?」
万力のような力で文を吊り上げる霊夢。
表情は笑っていたが目は全く笑っていない。養鶏場の鶏をみるような目だった。
明日にはフライドチキンになって店先に並ぶのねって言うような。
「ち、違います! それでなんだか自分が意味のないことをしてるような気がして……無性に悲しくなって気がついたら霊夢さんの所に……」
「文……?」
文は悲しそうに目を伏せる。弱々しい彼女の姿は普段から想像できない。
どうやら演技ではなく本当につらかったようだ。
「霊夢さんなら、冷えた心を温めてくれるって……そう思ったんです……」
「そうだったの……わかったわ」
その一言で文の沈んでいた表情は輝きを取り戻す。
「霊夢さ」
「要はあんたの自業自得のせいで私はこんな目に合ってるのね!」
「あいたたたた! や、やめてください! 頭が割れます!」
悪魔将軍もかくやという握力で頭を握りつぶそうとする霊夢に彼女は叫ぶことしか出来なかった。
この霊夢、今はセンチメンタルなことよりも午後の平穏な時間を壊されたことのほうが重要だった。
「うるさい! このままたたき割ってやるわ!」
「ちょ、洒落になってませんよ!」
「痛いのは初めだけよ!」
「それは別のシュチュエーションで言ってほs痛い痛い!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ続けること数分間。
そんなことよりも雨戸を直すことのほうが先だと気がついたころには二人の体と部屋はすっかりと冷え切っていた。
◇
「はあ? 泊めてくれって……何言ってるのよ」
コタツに肩まで潜りこんだ霊夢は馬鹿らしいとばかりに言う。
「窓の修理が終わるのは明日なんですよ。一晩でいいんです」
同じようにコタツに潜り込んだ文は必死に嘆願する。
「他にもあてはあるでしょうに。河童とか早苗のとことか」
「そうですけど……」
「ここじゃなくてもいいじゃない。拘る理由でもあるの?」
「いや、その……」
途端に煮え切らない態度を取る文。視線をあちこちに動かし、時々霊夢をみる。
はっきりしない態度に霊夢はイラつきを隠さずに言う。
「はっきり言いなさいよ。じゃないとコタツから追い出すわよ」
「それはやめて下さい!」
言うが早く袖口から退魔札を取り出す霊夢を文は慌てて制止する。
お札は別に痛くない……はずだが寒気が通り過ぎたこの部屋でコタツから追い出されるのは遠慮したかった。
「あー……その、霊夢さんがいるから……っていうのはどうです?」
文は羞恥心から顔を俯かせたまま搾り出すように言葉を紡ぐ。
霊夢はなんでもないように、
「ふぅん」
と一言返し、ミカンに手を伸ばす。
なにか期待してたわけではないが、もう少し可愛らしい反応があってもいいのではないか。
一人で恥ずかしいことを言った自分が馬鹿みたいではないか。
文は小さく溜息をつくと、霊夢に習ってミカンに手を伸ばす。
ちらり、と彼女を見れば変わらない表情のまま黙々とミカンを口に運んでいた。
「って霊夢さん。それ皮ですよ」
「…………皮のほうが栄養があるのよ」
「リンゴじゃないんですから……」
霊夢はくぅっ、と一言唸ると皮と実を一緒くたに口に放りこむと、無理矢理に飲み込む。
そして、何事もなかったかのように二つの目のミカンに手を伸ばす。
「なによ?」
「いえ、なんでもありません」
「……なんかムカつくわ、その表情」
頬が緩んでしまうのは仕方がない。ここまで意地っ張りだとは思わなかった。
存外に可愛らしいところもあるではないか。
「ふふふ……」
「くっ……まあ、それで。どうするのよ」
「どう、とは」
「泊まっていくの、いかないの」
ミカンを口に運び続けたまま口早に霊夢は言う。
表情は変わらないままだが、黒髪からわずかに見える耳は赤く染まっていた。
「もちろん泊めさせていただきます」
「そう、晩はなにか食べたいものある?」
「霊夢さんがいいです」
文はにこやかな笑顔で言う。
霊夢もにこやかな笑顔で返し、再び頭を掴み上げる。
「今夜は鳥鍋にしようかしら」
「本気だったけど冗談です、冗談にしてください」
「ふんっ」
霊夢は手を離すとそのまま文の隣に座る。
コタツの一辺は狭く、必然と二人の足は絡むようにぶつかる。
「あの、何をしてなさるので」
「ここに座りたい気分なのよ」
「えっとそれは」
「口答えしない。寒いんでしょう」
そっぽを向いたまま霊夢は応える。
自分を心配してくれているのだろうか彼女は。
視線を逸らしたままの彼女に訊ねてみたかったが、きっと返ってくる答えは決まっている。
『そんなわけないでしょう』
その癖、目を合わせないで言うに違いない。
照れくさいなら素直に言ってしまえばいいのに。
だけど、そんな彼女がとても愛おしい。口では否定しても、やはり彼女はやさしい人間だ。
「……それじゃあ私もこうしたい気分です」
文は霊夢の後ろに回ると、腕を回して抱きしめる。
頬に柔らかい髪があたってくすぐったいが、心地良くもある。
軽く髪を梳くように撫でると体を震わせ、その度に女性らしさを意識させる匂いが鼻孔に届く。
「こ、こら。なにするのよ」
そういうものの、霊夢は抵抗する様子もなく大人しくじっとしている。
とは言っても、羞恥はぬぐいきれないようで首まで真っ赤にして顔を俯かせていた。
「そういう気分なんですよ」
「……コタツに入らないと寒いでしょう」
「いいえ」
文は愛おしそうに彼女を強く抱きしめる。
「あったかいですよ」
心も身体もね。
耳元で囁くと、霊夢は小さな声で
「当たり前じゃない」
恥ずかしそうに、嬉しそうに応えた。
2828させてもらいました
もっと見たいよぉぉお!
朝っぱらから2828をありがとうございます。
電車の中というのに2828が止まりませんでした。
大変ニヨニヨさせて頂きましたw
それいじょうにあやれいむいいですね。
暖かい作品ですね。感謝。