「四葉のクローバーに、お祓い棒。カエンタケまで勢ぞろい」
ここ最近は、やけに寒いらしい。
そう魔理沙に聞いたから、ここ数日は引き籠った生活をしている。
寒いと分かって外に出る馬鹿じゃない。都会派だもの。
「まさに…ワンダーランドね」
それを良い事にか、ちょこちょこ人妖が来るようになった。
しかし、長居はしない。
ちょっと顔を出して、ちゃちゃっと帰る。それなら、来ない方が寂しくなくていいのに。
そうして、必ずこう言って帰る。
『ちょっと預かっててくれませんか? ちゃんと取りにきますので』
最初にそれを言ったのは、普通のより少し大きめな妖精。
遊んでる最中に見つけたのだろうか、綺麗な四葉のクローバーを持っていた。
ただ、見つけたのはいいけれど、遊ぶのには少し邪魔。
そこで見つけた、いい感じに都会派な私の家。
頼られた事が嬉しくて、つい、言ってしまった。
『えぇ、いいわよ。気にせず遊んでらっしゃい』
そうして、再び遊びに行った彼女。
大した頼みじゃないから、負担になることは無かった。
しかし、これで終わらないから困っている。
『珍しいきのこ見つけたんだ。ちょっと預かっといてくれよ。な?』
『お祓い棒に陰陽玉。ちょっと置かせてもらえる? 神社から人里まで、妖怪退治の度に持っていくの面倒なのよ』
私の都会派な優しさを、あの妖精が広めたに違いない。
その優しさを、素直に感心してくれる様な人達ばかりなら良かったけど。
あいにく、そんな綺麗な知り合いはいない。
人の優しさにつけこむ、そんな奴ばっかりだ。
『よぉ、アリス。悪いんだが、またきのこ採りすぎちゃってな。私の家までは遠いし…』
『…今まで、どれだけの数のきのこ、預かってると思ってるの?』
『おいおい、断る気か? 初対面の妖精の頼みは聞き入れるのに、親友、いや、心の友な私の頼みは聞けないのか?』
『限度があるって言ってるの』
不満気な様子を顕著に出してみても、引く気は一切無いこの態度。
そうして。今現在、家の棚には統一性の欠けている物に溢れている。
比率で言うと、人形:きのこ:その他=1:5:17。
…私は人形遣い。
「…生臭い」
預かってるきのこを引き取りに来ないのを見ると、さほど重要な物ではないに違いない。
採ってみたはいいものの、別にいらなかった。
でも、折角採ったんだし、捨てるのは勿体ない。
そうだ、アリスのとこにでも置いとけばいいだろ。物置代わりに。
…みたいな感じなのだろう。
「強硬手段ね。仕方ないわ」
一番被害を出しているのは、その他に属する妖精達だ。
黙ってるのをいいことに、少々私を舐めすぎてたみたいね。
都会派魔法使いの本気、見せてやる。
「マーガトロイド預かり所…何だこれ」
「見ての通りよ。マーガトロイドである私が、預かる所」
本気を出した今の私は、ボランティア精神など持ち合わせていない。
優しさにつけこむ奴には、優しさを見せなかったらいい。
そうして作ったのが、このマーガトロイド預かり所。
「一品預かるのと引き換えに、千円。支払って頂きます。…って、ぼったくりじゃないか、それじゃ」
「そう思うのなら、利用しない事ね」
「営業努力が感じられないぜ」
五分で作り上げた、マーガトロイド預かり所ポスターを見て不満をこぼす魔理沙。
そもそも、こんなの利用する側にとって、大したメリットは無い。
だからこその、クレームの来そうなこんなルール。
営業なんて、するつもりじゃないんだから。
「払わなかったら、どうなるんだ? 処分してくれるなら好都合だぜ」
「今回の規定設定につき、一度ご返却させて頂きます」
「…断った場合は?」
「お客様がお預けになられたきのこの数だけ、こちらから様々な妖怪の死体を差し上げます。計175体」
「何でそんなに持ってんだよ…」
もちろん、175体分の死体なんて持ち合わせていない。
でも、ここは魔法の森。鬱蒼と生い茂る木々に、常に薄暗い世界。
探せば、妖怪の死体とかなんて、いくらでも転がっている筈。
…そんなのを探し求めるのは、どうにも都会派じゃないけど。
「ささ、お客様。こちらが、お預けになられたきのこ達でございます」
「うわ、くっさ…どうやって持ち帰ればいいんだよ…」
「そんなの知りません。さっさと持ち帰ってください」
「くそぅ…何かぬるぬるする…うわぁ…」
何より、魔理沙にとって死体よりかはきのこの方がマシに違いない。
それは、誰にとっても同じこと。
だから、死体集めの心配はあって無いようなもの。
「またのご利用を、お待ちしてません。これに懲りたら、二度と使わないことね」
「分かってるよ! 二度と頼るか!」
「あ、そのきのこ達、そこら辺に捨てちゃあダメよ。捨てたら夜中、人形達にあんたのベッドの周りへ並べとかせるから」
少し厳しいことをしたようだけど、所詮は自業自得。
魔理沙のことだから、きっと霊夢やそこらに愚痴を言うに違いない。
そうしてこの噂が広がっていき、私の恐ろしさを知らしめられればしめたもの。
都会派な私は、何だってやってのける。
「あの…その、ごめんなさい。私、お金持ってなくて…」
「…」
「でも、どうしても返してほしいんです! チルノちゃんに見せたくて、その…」
しばらくして、最初にこの預かり所を利用した妖精がやって来た。
あれから一週間以上経って、すっかり忘れてるもんだと思ってたのに。
余程大事な、四葉のクローバーなのだろうか。
「あの…ダメですか?」
「別に、構わないわよ」
「本当!? ありがとうございます!」
心底、本当に嬉しそうに答える彼女。
この四葉のクローバー、ルール上は新たな規定設定につき、タダで返すことが出来る。
でも、少しは痛い目に合ってもらわないと。
好都合なことに、彼女はお金が無いと返してもらえないと勘違いしてるみたいだし。
「でも、貴方。先立つものは持ってないのよね?」
「…あの、何でもしますから、その…」
…どうにも、彼女に死体を押し付けるのは気が引ける。
かと言って、ここで彼女だけ優遇したら、また他の妖精に舐められる。
あの人形遣いは、所詮口だけなのだと。
「あの、私、料理でも洗濯でも、頑張りますから!」
「…」
「お風呂だってご一緒しますから!」
「…」
「お望みなら、添い寝だって…」
そんな趣味は無い。
何か、何か代わりにしてもらうことはないだろうか。
無償で返すわけにはいかないから。
…そうだ。
「博麗神社。場所、分かるわよね?」
「あ、はい。分かりますけど…」
「これとこれ。霊夢に返してきて。それでチャラにしようじゃない」
「…ありがとうございます!」
お祓い棒と陰陽玉を彼女に押し付ける。
確かに、飛んでいけば博霊神社なんてそう遠くない。
大した罰には見えない。でも。
「待ちなさい。返す時、霊夢にこう言うことが条件」
「?」
「『アリスさんの家ががら空きだったから、面白半分に荒らしてたんです。すると、いかにも使えなさそうな巫女セットがあるんじゃないですか! でも、ちょっとした好奇心で、
私が使ってみたんですよ。使えなさそうな巫女セット。するとどうですか! サッパリ使えません。やっぱり貧乏くさい巫女セットは、貧乏くさい巫女しか扱えないんですねぇ』って」
「…え?」
「長かったかしら? あ、一字一句そのままじゃなくていいわよ。嫌らしさが伝わればそれで」
せっかくだし、霊夢に手を下してもらうことにした。
この妖精、見た感じ真面目そうだし。
涙目になりながらも、律儀に喧嘩を売ってきてくれることだろう。ふふん。
「…行ってきます。四葉のクローバー、準備しててくださいね」
「えぇ。生きて帰ってくるのよ」
「…はい」
彼女の健闘を祈って、敬礼。
「アーリースさーんっ! これ、ちょっと預かっててくださいよ!」
「何よこの実…くさいし、馬鹿でかいし。いい加減に…」
「あ、明日霊夢さんに会うんですよ」
「謹んでお預かり致します」
あの後、彼女は確かに私の言う通りに言ったらしい。
しかし、今にも退治されそうになったその時、彼女はこう呟いた。
『ゴメンね、チルノちゃん。四葉のクローバー見せられなくて…』
先程までの、やけに挑発的な口調とは打って変わってこの様子。
勘の鋭い霊夢のこと、かつ機嫌が良かったのだろうか。
攻撃の手を止め、事情を聞きだした。
そうして、正直に話した妖精に対して一言二言。
『陰湿ね。最近引き籠ってると思ったら、性根まで腐ったみたいじゃない。』
『今度何か言われたら私に相談しなさい。今のアリスに立ち向かう事は、世のため私のためなんだから』
この霊夢の言葉を、妖精は仲間達に広めてしまった。
噂はどんどん拡大する。
巫女の名を出せば、あの人形遣いは何でも言うことをきくと。
「おぅ、アリス! 悪いが、また採り過ぎちゃったんだ、きのこ。繁殖期かね?」
「…そうね」
「ってわけだから、後頼むぜ!」
今日も元気に、マーガトロイド預かり所は運営中。
今日も明るく、常にボランティア精神まっしぐら。
有り余るきのこ。そこら中に転がる謎の植物、生物、花畑。
隅っこに収まる人形達。
「…まだまだ」
私の家をこんなにした犯人は、皆霊夢の力を頼っている。
なら、次にすることは、霊夢を味方につけることだ。
彼女を味方につけるには、手っ取り早いいい方法がある。
「…微妙ね。でも、食べれないことは無さそうだし」
胃袋を制するものは、霊夢を制す。
松茸クッキーを手に、いざ、博霊神社へ。
都会派な私の逆襲は、一度や二度じゃ終わらない。
貴方の書くアリスは本当に都会派で……www
最高でした、ご馳走様!
次回も自分のペースで頑張って下さい!
しかし預かり所って面白い発想ですねぇ。アリスの良い性格が見れそうな題材だ。
アリスは実に都会派だなぁw
本気は出さずに、半分趣味でやってそうな感じがする。