作品集76に投稿した「鳥と手の時間と想い」の続き?となっております。
夜、博麗神社では宴会が行われていた。
いつもなら私にとってそれは食費が浮く、という大喜びな事なのだが今日は違った。
「ねえねえ二人はいつ付き合い始めたの!?」
周りに集る人妖がうざい。
「離れろ!!うるさい!!この酔っ払いどもめ!!」
腕を振りくっつく輩を引き剥がそうとするが離れない。
今日は無駄にしつこく、それこそ永遠に取れる気がしない。
それならば、いっそ開き直ってしまった方が楽だろうと思い一気に酒を飲む。
―……ああ、もう。
なんともいえないやりきれない気持ちでそうなった元凶をにらむ。
その本人は一升瓶を片手でそのまま飲んでおり、その横には呆れ顔のアリスが居た。
そうだ。
それもこれも全てあそこで酔っている魔理沙のせいだ。
少し前の朝方。私と咲夜は恋仲になった。
それに至るまでの経緯もいろいろあったのだが、思い出すだけで赤面してしまう。
しかも、その言動は全てとある三人に聞かれていたのだ。
不覚、とすごく落ち込んだことを覚えている。でも、それ以上に嬉しかったからまぁいいやと思っていた。
なのに。
「なぁ霊夢。愛しの咲夜の傍にいなくていいのか?」
騒いでいたのが一度完全に不気味なほどに静まる。爆弾は少し時間がたってから爆発するんだよね。
「何を―――」
「結局あの後どこまでいったんだ?」
ドンッ、と大きな音がたちかなりの振動が神社の床をゆらした。
人妖問わず、眼が怪しく光っている。いい酒のつまみを見つけたといった笑みだ。
―あ、これやばいかも。
自慢の直感が働いたのか、背筋に冷たい汗が一粒流れた。
「へぇ…霊夢、咲夜が好きだったのか!」
「メイドと巫女…おもしろい組み合わせですね」
「これは明日の一面になりますね」
最後の一言マジで勘弁してください。
「なら、結婚するのか?」
「どっちが婿になるのかな?これ?」
「スーツ似合いそうな咲夜じゃない?」
どこまで話を広げるつもりだこんにゃろう。
てか魔理沙、そこで爆笑してるんじゃない。
早苗とアリスも、無理に笑うのを堪える位だったらいっそ笑い飛ばして頂戴よ。
「というか、咲夜さんはどこにいるんですか?」
まだまともな質問。と、思ったのだが訊ねてきたのは顔も髪も赤い美鈴だった。
顔も、だ。
つまりこいつは完全な酔っ払いだということになる。
この場で酔っ払いが求めることは何だ?
それは当然。場の流れにのること。私をからかう事。
「……………」
もはや何を言っても盛り上がるので無言を貫く。
「れいむさーん?私は多分横の部屋に居ると思うんですけどー」
お前気で咲夜の場所分かってるだろ。分かっていってるだろう。
怒りとやるせない気持ちで拳が震える。
「こっちの部屋ー?」
「あ、たぶんそこです、アリスさん。」
アリスも。そんな満面の笑みをこんな所で見るとは思わなかったわ。
「それー!」
あんたも結構酔ってるのね。と心底呆れている間に扉が開く。
まあ、そこには当然布団で横たわって寝ている咲夜がいるわけで。
「事後ー?」
「違うわ!!」
いきなり何を言い出すんだこいつは。
そういえば酔っ払いはそういうの大好きだったなぁ、覚えておこう。
「はいはい。咲夜は熱で寝込んでいるからさっさと元の部屋に戻った、戻った」
「霊夢ってば、どくせんよく強いー?」
「よし、そこの。いますぐ溶かしてやるからそこに座りなさい」
「ちょっ、チルノちゃん!?」
大妖精が焦りながらチルノを引っ張っていく。
どこで覚えたの、そんな言葉?
あたいったらさいきょーだから何でも知ってるの!
一度頭だけを溶かして永琳に持っていって解剖してもらおうかな。としみじみと思う。
「でも、その心配はなさそうですよ」
ほら。と早苗が笑いながら咲夜を指差す。
「…ん……」
どうやら騒ぎで起こしてしまったようだ。ゆっくりと体を起こしていく。
「……なにこれ?」
まぁそう思うだろう。
起きたら目の前にたくさんの妖怪と人間がいる。
しかも体はまだ少し重たく、それに加えて低血圧特有のだるさがあったりもする。
これで不思議に思わないほうが不思議だ。
「これは…その…なんというか…」
私も私で言いにくいことだからまだ説明してない。
顔を赤くしながら言いよどんでいる霊夢もなんか可愛いなぁ、なんて咲夜は悠長に思っていたりもした。
「あなたたち二人の事をお祝いしていたのよ」
「あ、お嬢様」
人ごみ(?)の中から黒い羽を持った吸血鬼が咲夜の前に現れる。
このレミリアもまた酔っているのか、ほんのりと頬が朱に染まっていた。
「そのままでいいわ。立たなくて結構。というか立ったら足をへし折る」
うん。完全に酔ってた。何を言い出すんだこのお嬢様。てか回りも爆笑する所じゃないと思うなぁ。
「咲夜、あなたに1週間の休みを言い渡すわ。この間、寝泊りは神社でしなさい」
・・・・・・・はあ?
「お嬢様、今なんとおっしゃいましたか?」
「レミリア、あんた今なんていった?」
頭の中が疑問符で埋め尽くされ、それが脳の周りをぐるぐると回る。
「一週間、ここで霊夢と一緒に過ごしなさい。これは命令よ」
疑問符が一瞬にして感嘆符に変わった。ああ、素晴らしきかな脳内世界。
「でも妖精メイドは働かないので…」
「1週間ぐらいなんとかさせるわ。そこのにもね」
くいっ、と指を刺した先にはなんとも気の抜けた顔で笑う門番がいた。
「らいじょーぶですよ!いっしゅーかんぐらいなら、たぶん!!」
「多分が心配なのよ…」
「こういうこと。宿泊先を神社にした意味は、紅魔館に居たら咲夜は無理やりにでも働くからよ」
うっ…、と言葉を詰まらせる咲夜。仕事中毒には少しつらいのだろうか。
「というわけで霊夢。よろしくねー」
ものすごい良い笑顔で去っていくレミリア。
私は何が何だかわからない、一種の錯乱状態。おかげであの吸血鬼を捕まえることも忘れていた。
-わぁー、さくらがきれいだー
って、死ぬじゃん。今の冥界じゃん。白玉楼があったよ。
かなりの間ぼーっ、としていたようで周りには咲夜しかおらず、他の奴らは全員宴会騒ぎに戻っていた。
「……霊夢」
「……何?」
「…また頭痛くなってきた」
「それは熱で?それとも心労でかしら?」
「両方よ」
あのお嬢様のわがままにつきあうのも毎度毎回ご苦労なことだ。
これも深い信頼あっての絶対な忠誠だから、か。
「はぁ、情けないわ…。完全には程遠いわね」
「…別に完全じゃなくてもいいんじゃない。少なくとも、私の前ではね」
「あら、それはどういうことかしら?」
ぼそぼそ、と霊夢が呟くが咲夜には全く聞こえなかった。
「ごめん。聞こえないわ。もう一回だけお願いできるかしら?」
霊夢の肩がビクッと跳ねるが、咲夜の瞳を見て嘘ではないことを知り、声を絞り出す。
「だから、私の前では素のあんたが、いいっ、ていうか………」
霊夢が耳まで赤くなり、咲夜がきょとんとした目になる。
「そんなに素直に甘えるのね。驚いたわ」
「なっ!あ、甘えてなんか!!」
反論する間もなくぎゅっと抱きしめられる。
「…時止めたでしょ。馬鹿じゃないの?熱あるのに」
「こうやって霊夢を抱きしめられるなら、馬鹿でもいいかもね」
ゆっくりと手が動き、頭を撫でられる。とても心地よくて、温かくて、優しい手つきだった。
無意識に体の力が抜けてゆき、やがて咲夜の体に身を寄せるように収まった。
「なんというか、猫みたいね。今の霊夢」
「それでもいいかも。こんな風に撫でてくれるなら」
より一層咲夜のほうに身を近づける。お互いの体温が服越しだがかすかに伝わって安心する。
「咲夜、あんた結構熱いんだけど」
「あら、ばれた?能力使ったら、ね」
「…ほんとに馬鹿よねぇ。待ってなさい、タオル持ってくるから」
立ち上がろうとするが、一向に抱擁は解けない。どうやら離すつもりはないようだ。
「ちょっと咲夜?聞いてるの?」
ごろん、とそのまま布団の上に転がされ、そのまま向かい合いながら寝転ぶ形になった。
「タオルよりも霊夢の方がいいわ。こうしてるだけで、安心するから」
再び咲夜が私をより近く抱きしめる。
「私は冷たくないわよ」
「大丈夫。体は冷えなくても、心はあったかいわ」
なんだその理屈。私も酒飲んだから体温は高いんだけども。というか、熱で思考回路が回ってないのか?
「…好きにしなさい。あんたが寝るまで居てあげるわ」
「できれば起きたときにも居て欲しいのだけれどね」
「贅沢言うな」
「少しぐらいいいじゃない」
少し静まった後、どことなく可笑しくなって来て、私達は笑った
たったそれだけの会話が心底可笑しくて。楽しくて。嬉しくて。幸せで。
今になって、私は咲夜が本当に大好きなんだと自覚する。
「ははっ―。ねぇ、咲夜」
「ふふ…、何?霊夢」
「愛してる。大好き」
なんというか、自覚したからもう一度言っておきたかったのだ。
「…私もよ。愛してる」
それに答えてくれたのも嬉しくて、私はまた咲夜に寄り添う。
咲夜も私をもっともっと、密着するぐらいにまで抱き寄せてくれた。
体温が温かく包み、鼓動が子守唄のように聞こえる。
自然に私の意識が闇に落ちるのも遅くは無かった。
「……ん」
一人、咲夜の腕の中で目が覚める。結局寝てしまったようだ。
隣の部屋を流し目で見るが、明かりはなく、寝息とうめき声が微かに聞こえた。
たぶん今は明け方だろう。なんとなく。
一つ欠伸をしてから、咲夜の額に触れる。熱はなく、平常の体温に戻っていた。
少し様子を見に行こうかな、と思い腕から抜け出そうとする。
腕は、全く動かず、逆に私をもっと強く抱きしめた。
―あぁ、もう。こんなことされたら動きたくなくなるじゃない。
霊夢は動くのを諦め、抱き返した。
愛しい者から逃れられることなどできず、霊夢の意識はまたゆっくりと落ちていった。
甘い甘い咲霊でした!
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