※注意!
この作品は80%が作者の妄想、20%は願望で出来ています。つまりはオリジナル設定です。
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別に良いよと言う方だけご覧になってください。
警告はしました。中傷とかは無しでお願いします。
赤く染まった妖怪の山がもうすっかり秋だと感じさせる神無月の終わり頃、僕は店の裏にある井戸で顔を洗っていた。秋は冬へと移行する時期である為に井戸の水も夏のそれよりはるかに冷たい。それで顔を洗えば目もスッキリとするだろう。
今日は随分と早くに目が覚めた。冬程では無いがそれでも寒い風を肌で感じ、昇り始めた太陽を見てそう思う。風が濡れた顔を撫で、通常より冷たい感覚を残し去ってゆく。
寒いのは苦手だ。思い、店へと早足で戻る。
「……ふぅ、外よりは幾分かマシとはいえ……矢張り寒いな」
自然とそんな言葉が出た。事実、香霖堂の店内は寒い。だから毎年外界の道具であるストーブを使っているのだが……
「対価が無ければ動かない……か」
そう。ストーブを動かすための燃料は紫に対価を払い貰っているのだ。それが無ければ、今冬は朱鷺子と二人で凍える事になるだろう。そんな事は死んでも御免だ。……尤も、それが原因で死にそうではあるが。
仕方ない。折角朝早くに目が覚めたのだ、無縁仏の供養のついでに対価を仕入れに行くとしよう。幸い、時間だけはたっぷりとある。
だが、此処で一つ問題が出てくる。
「しかしそうなると朱鷺子をどうするかだな……」
そう、僕が無縁塚に出かけている間、朱鷺子をどうするかなんだが……
「普通に考えれば、慧音に任せるんだがなぁ……」
今までは仕入れの時はそうしてきたが、今日に限ってそれは出来ないのだ。
何故なら昨夜は満月。慧音がハクタクの姿になる日だ。恐らく歴史書の編集で疲れ果て、昼ぐらいまで眠りこける事だろう。邪魔をしては悪い。
「だが店に一人残しておくというのもなぁ……」
朱鷺子は魔理沙と違って大人しいし、何より僕が道具の何たるかを教え込んでいる。商品を壊す様な事はしないだろう。
だが、矢張り魔理沙と違い朱鷺子は料理が出来ない。僕が仕入れから戻るのを夕刻として……朝と昼をどうするかが問題となる。食材は備蓄があるから、朱鷺子が料理を作れるなら何の問題も無いのだが……現実はそうもいかない。
「……よし」
考えた末の脳内会議で出た結論を実効すべく、僕はお勝手へと向かった。
***
「みゅうー……寒い」
朝、やたらと窓の外から流れ込む空気の寒さに思わず目が覚めた。
「んー……くぁ……」
大きく伸びをすると、少し変な声が出る。おかーさんと一緒。
「むみゅう……お腹空いた……朝ごはん」
一階から漂う美味しそうなお味噌汁の匂いに、ふらふらしながらも階段を下りる。私の部屋は屋根裏を改造して造ったから、上り下りする階段は部屋が屋根裏だった時の位置にある。そしてそこは勝手場の横。
つまり私は部屋から出て階段を下ると、先ず勝手場を通る事になる。
「……ぅん?」
だから、自然と見つけた。
「何これ?」
それは唯一言、『朱鷺子へ』と書かれた一通の手紙。おとーさんの字だけど……何だろ?
「何々……?」
『朱鷺子へ
今日は無縁仏を供養するついでに、仕入れに行ってくる。
だから店に帰るまでの間、留守番を頼む。
朝と昼は作っておいたから、ちゃんと食べなさい。』
こう書いてあった。
「……私も連れてってよ、おとーさんの馬鹿」
もう子供じゃないんだからぁ……まぁ、コーヒーはお砂糖もミルクも沢山入れないと飲めないし、お酒の美味しさなんてまだ分かんないし、水煙草も嫌いだけど……
「みゅ?」
そんな事を考えながら書置きをひらひらさせてると、紙がばらけた。続きがあるみたい。
『それから、母さんの所には行かない事。
昨日は満月だったから、きっと疲れて眠っているからね。
邪魔をしてはいけないよ。』
「あー……そっか、おとーさんも大変そうだったしなぁ」
毎月満月の夜、おとーさんとおかーさんは歴史書を作ってる。幻想郷にとって大事な事らしいけど……私には良く分かんないや。
『お客さんが来たら、いい機会だから接客の練習をしなさい。
分からない事を言われたら、店長不在だと言えばいい。後日また来てくれるだろう。』
「ん、了解」
一度やってみたかったんだよなー、店番。
『客じゃない常連が来たら、その時も僕が居ないって言えばいい。その後は任せよう。
霊夢と魔理沙が来たら、その時は……自分の身の安全確保を最優先に考えて行動しなさい。』
「うん、分かった。私頑張るね……」
普通、「そこまで言うか?」ってなるような文面だけど、紅白と白黒が相手だと冗談に聞こえないから困る。
『じゃあ、今日一日店を頼むよ。
夕方には帰るから。
霖之助』
「……みゅ」
読み終わり、書置きを纏めて適当な所に置いておく。
「取り敢えず、朝ごはん食べよ……」
呟いて、朝ごはんを食べにかかる。
朝ごはんは白米とお味噌汁、それと川魚の塩焼き。
「頂きまーす……」
まだ眠い目を擦りつつ、私はおとーさんの作ってくれた朝ごはんを口に運んだ。
***
「ごちそーさま……」
やっぱりおとーさんのご飯、美味しいなぁ……おかーさんのも好きだけど、おとーさんの料理は凝ってるからおかーさんとは違った美味しさがあるんだよなぁ……
「さて……」
ご飯は食べた。食器も水に浸けた。本当なら書庫に篭りたいけど、それだと紅白とか黒白とかお客さんが来た時対応できないから駄目。
どうしよっかなって考えてたら、店の扉がお客さんを知らせてくれた。
私の初店番だ!
「はーい」
店の方に居るであろうお客さんに向けて返事をして、早足で店の方に向かう。
「あら、店主さんじゃないのね」
店に居たのは、確か紅魔館って所のメイド長さんの……
「咲夜さん?」
「あら、名前覚えてくれてたの?」
おとーさんの接客態度が他のお客さんと全くと言っていい程違うから覚えてる。敬語のおとーさん見た時は初め何事だと思っちゃったし。
「えーっと……おとーさんに何か用事ですか?」
最初に店主さんじゃないって言ってたから、多分そうなんだと思うけど。
「えぇ、まぁ。御嬢様が変わった茶菓子が食べたいと言ってたから……」
「みゅ、茶菓子?」
「そう、お茶菓子よ」
お茶菓子……変わった奴かぁ……それくらいなら、私にも出来るかな?
……よーし、私だっておとーさんの娘だ。商売のやり方ぐらいおとーさん見て覚えてる! 絶対参考にはしないけど!
「わかった。ちょっと待っててー」
「えぇ」
言って、店の奥に小走りで戻る。確か此処に……
「あった」
この前買ったお煎餅。私の感覚なら普通だけど、紅魔館は洋菓子とかだろうしこれなら珍しい筈。
そう思って手に取ると、一つおかしい事があった。
「むみゅ? 軽い……」
おかしい。この前まで沢山入ってたのに。おとーさんはそんな一気に食べないし……?
「どーいう事……?」
試しに箱を開ける。
「……みゅ?」
箱の中にはお煎餅のカスと、一枚の和紙。
「何コレ……?」
和紙に手を伸ばす。
「え!?」
和紙に触れる直前、和紙が消えた。な、何!?
「遅いと思ったら……」
「ふぇっ!!?」
突然後ろから声が聞こえた。振り返ると、そこには咲夜さんが。そして手元にはさっきの和紙。
「魔理沙の字みたいだけど……何かしらね?『美味かったぜ』って」
「白黒の字?」
「えぇ」
まさか……
「白黒めぇ……お煎餅勝手に食べたなぁ!?」
「そうね。じゃあこれは白黒鼠の領収書かしらね?」
「お金貰ってないのにそれはおかしいと思うけど……」
「まぁ、そんな感じで良いのよ」
そう言うものなのかな……?
「で、そのお煎餅は?」
言って、咲夜さんはお煎餅の入ってた箱を持ち上げる。
「みゅ、それは……」
「あら、中々良い物じゃない」
「え!?」
どういう事!? あれにはカスしか入ってない。
紅魔館の御嬢様は小食だって聞いたけど、小食すぎでしょ!?
「じゃあ、これ頂けるかしら?」
そう言って、咲夜さんは私の目の高さまで箱を持ってくる。
「……え?」
箱の中には、美味しそうなお煎餅が入ってる。な、何で?
「お幾ら?」
「あ、えっと……」
その後、お煎餅ならこれくらいかなって思う値段を言うと、咲夜さんは少し多めの金額を置いて行った。
お釣りを返そうとしたら、『お小遣い』って言って帰っちゃった……これ、どうしよう?
「ま、おとーさんに言って渡せばいっか」
こうして、私の初めての接客はまぁまぁな感じに終わった。
***
「みゅ……暇」
咲夜さんが帰ってからお客さんは来ず、何時の間にかお昼になっていた。
「お腹すいた……」
腹が減っては戦はできぬ。それは商売も同じ。
思い、おとーさんが作ってくれてあるご飯を食べに奥へと向かった。
「お昼ごはんは何かなー?」
お昼ごはんは、朝のお味噌汁と白米、おかずはほうれん草のお浸しと鮭の塩焼き。
「頂きまーす」
ちゃんと手を合わせて挨拶をする。おとーさんは『大切な事』だって言ってた。実際そうだよね。だって命を頂くんだもん。
「む、美味ひい……」
やっぱり美味しいなぁ……魚とか冷めても美味しいもんなぁ……どうやって調理してるんだろう……?
そんな事を考えながら料理を食べてると、お店の扉がお客さんを知らせてくれた。
「んむ、お客さん……」
お客さんは神様。おとーさんの教えに習い、食事もそこそこにお店の方に向かう。
今度は誰かな?
「おーい、香霖ー」
……うん。まぁ何となく分かってたよ。コイツが来るって事は。
「お? 何だお前だけか?」
「何しに来たのよ……白黒」
香霖堂の赤字の主な原因、白黒!
「んー? まぁ秋になったからな、ほれ」
言って、白黒は抱えてた帽子を差し出す。
「……茸?」
帽子の中には、溢れんばかりの大量の茸。
「すっかり秋になったからな。食うだろ?」
「……まぁ」
……でも、偶にこうやって茸とかくれるから助かってる所もあるし、それにおとーさんは白黒に甘いから、そんなに悪い奴じゃないのかもしれない……のかな?
「秋は茸が美味いぜー? 香り松茸、カキシメジだ」
「カキシメジって毒茸……」
「細かい事は気にするな。毒抜きすれば食えるぜ」
「……本当?」
「おう。それにもし死んでも心配するな。失われた娘のポジションは私が埋めてやるからな。慧音が母親ってのが気に食わないけどな」
「絶ッッッ対食べない!」
むぅー! やっぱり悪い奴だ!
「ハハハ、似たような事言った時霊夢も食べずに捨ててたな。……さて、食うだろ?台所借りるぜ」
「え?」
勝手に言い放ち、白黒は私の手から帽子を取り勝手場に向かった。
「………………」
……まぁ、そんなに珍しい事でも無いんだよなぁ……朝おとーさんの代わりにごはん作ってたりするし。
「ま、いっか」
茸の調理方法とか分かんないしね。確かおとーさんも茸の事は白黒が一番詳しいとか言ってた気がする。
「おーい、この食いかけの飯はどーすんだ?」
「にゅ、今食べちゃうから」
「そうか。じゃー私は茸焼いとくからな」
「ん」
返し、私は食べかけのお昼ごはんを処理しにかかった。
***
「……ふぅ」
白黒も帰って暫く経ち日も傾く頃、私は家でおとーさんを待っていた。
「あの白黒めぇ……」
思い出すだけで腹が立つ。妖念坊って何よ。幻覚作用って何よ。軽いから大丈夫とかどういう根拠があって言ってんのよ!?
話を聞いた直後に放り出した。茸食べれて満足だったみたいだし、別に罰は当たんないだろう。
「にしても遅いなぁ……」
そう、おとーさんの手紙には『夕方には帰る』って書いてあった。もう帰ってきてもおかしくない時間。なのにおとーさんは帰ってこない。何かあったのかな?
「みゅー……」
勘定台に顎を乗せてうにゅうにゅして待ってみる。意外と楽。
「……にゅ」
顔を横に向ければ色々な物が目に入る。
ぱーそなるこんぴゅーた、携帯電話、でじたるかめら、それに霧雨の剣。
「よくこんなに集めたよなー……」
集めても使い方が分からない上に、需要は皆無。よく商売が続くなと我が父ながら感心する。
そんな事を考えながら暫く商品を見ていると、扉の鈴が私の知る限り今日三度目の働きをした。
「にゅ?」
おとーさんかな? そう思って顔を上げる。
「ん……朱鷺子だけか? 霖之助はいないのか?」
そこにいたのは。
「お……おかーさん!?」
おとーさんと何時までも新婚みたいにらぶらぶな慧音おかーさん。
「な、何だ? 驚かれるような事をしたか?」
「え、だって、今日は疲れて寝てると思ってたから……」
「ん? あぁ、まぁ昨日は満月だったしな……確かに疲れてはいるが、大した事は無いぞ?」
「ふーん、そっか」
おとーさんめ、話を大きくしたな!?
「そうだ、父さんは居るか?」
「にゅ……今居ないよ?」
「居ない?……あぁ、仕入れか?」
「うん」
「父さんが居なかったのなら……ご飯はどうしたんだ?」
「作ってくれてた」
「そうか」
「うん」
そう答えると、おかーさんは外を見ながら「むぅ……」って唸り、続けた。
「しかし、仕入れならもう帰っていてもおかしくはないと思うが?」
「うん。私もそー思う」
「……まぁ大方仕入れに時間が掛かっているか、無縁仏が多いんだろう。夜には帰ってくるだろうから、待っていればいいさ」
「ん~……そっか。そうだよね」
「あぁ。……さて、朱鷺子」
「にゅ?」
「霖之助が帰ってくるまでに、ご飯を食べてしまおう。この分だと相当遅くなると思うからな」
「うん!」
やったやった! おかーさんの料理だ!
「さ、食材は何があったかな……」
「白黒が持ってきた茸があるけど……幻覚見る奴とかあるから駄目」
「フム、なら今ある物で何とかしてみるか。朱鷺子、手伝ってくれるか?」
「任せて!」
「よし、やるぞ!」
「おー!」
おかーさんの料理が食べられるという予想外の出来事に、嬉しくなった。これはきっと今日一日いい子にしてたご褒美なんだ!
そう思い、おかーさんと勝手場に向かった。
***
「わーい、おかーさんのご飯!」
「ほら、松茸の炊き込み御飯と吸い物、おかずは鮎の塩焼きだ」
「鮎?」
「あぁ、今日持ってきたんだ。皆で食べようと思ってな」
「じゃあおとーさんの分も残しとかなきゃね!」
「心配するな、別に取ってある」
「分かった! じゃあ……」
「あぁ」
「「頂きます!」」
「美味しいか朱鷺子?」
「美味しい!」
「手伝いとは言え、自分で作るとまた違った美味しさがあるだろう?」
「うん!」
「そうかそうか。一杯食べるんだぞ?」
「分かった!」
「ハハハ……」
………………
…………
……
***
「ご馳走様」
「ごちそーさま!」
やっぱりおかーさんの料理も美味しいなぁ……何時か絶対越えてやるんだから!
「さて、御飯も食べたし、お風呂に入ろうか」
「お風呂?」
「あぁ。今から湯を張るから少し時間が掛かるがな」
「入る!」
「よし、じゃあ浴槽を洗ってきてくれ。私は食器を洗ってるからな」
「はーい!」
返し、お風呂に駆け足で向かう。早く洗わないといけないからだ。
何故早く洗わないといけないかと言うと、理由は単純。
広いからだ。
「んしょ……」
お風呂場に着き、靴下を脱ぎ袖を捲くる。
「やるか……!」
呟き、扉を開ける。
「にゅ……やっぱり広い」
何度見てもそう思う。おかーさん家のお風呂が二つぐらい入るんじゃないかな?
「ま、そんな事考えてても始まんないしね」
言って、浴槽を磨きにかかる。
お風呂はおとーさんが何時も掃除してるから綺麗だけど、それでもやっぱり一日放っとくと汚れてる。
「汚れめ、覚悟しろ! 私が擦って綺麗にしてやる!」
私対汚れ連合軍の戦争が始まった。
「うりゃあー!」
まぁ、外界の掃除道具で一発な訳だけど。凄いねこのたわし。
外界の技術に感心しながら、私は汚れを浄化していった。
***
「おかーさん! 洗ったよー!」
「そうか、じゃあお湯を張っておいてくれ。私ももうすぐ終わる」
「分かったー!」
~~~
「張ったよー!」
「よし、じゃあ入るか」
「お風呂ー!」
「コラコラ、滑って転ぶぞ?」
「はーい……」
◆お風呂タイム(音声のみでお楽しみ下さい)◆
「おかーさん……」
「ん? あぁ、朱鷺子もそのうち、な?」
「む、だからって触らないでよ」
「ハハハ……だが洗う時にどの道触るだろう? なら今触っても一緒だよ」
「にゅ、何か違う気がする……ってひゃあっ!? な、撫で回さないでよぉっ!」
「洗う時にもこうやって触るんだ。一緒だろう?」
「にゅ~……うりゃっ!」
「ひゃっ!? と、朱鷺子?」
「洗う時に触るでしょ? だから一緒!」
「わ、私は自分で洗えるか、らぁ……っ!」
「孝行したい時に親は居ないんだから、今のうちに娘の好意は受け取っとくべきだよ!」
「そ、それとこれとは……」
「うりうり~」
「や、やめ……も、流すぞっ!」
「ちぇ~……はーい」
「ほら」
「ん……ぷはぁ」
◆お風呂タイム終了◆
「おとーさん遅いね」
お風呂から上がって、身体を拭いている時に思った。おとーさんはまだ帰っていない。
……あんまり考えたくないけど、まさか……死んだ? 襲われにくいからって油断して……って可能性も十分ありえる。
ヤバイ。もしそうだとすると、おとーさんとの最後の会話が寝る前に話してた『きーぼーどの文字に隠された日本神話との繋がりから見る、ぱそこんの式神としての機能の全貌』になる!
「おとーさん……帰って来るよね?」
「父さんなら大丈夫だ。あれで自分の身ぐらいは守れる」
「……うん」
そうだ。おとーさんは強いんだ。
何時も弱そうにしてるけど、あの妖怪の賢者に平気で文句を言えるんだから。普通の半妖にそこまでの事は出来る筈が無いんだから。
「そうだよね……おとーさん強いもんね!」
「あぁ、そういう事だ。さ、早く着替えないと湯冷めするぞ?」
「ん」
言われ、寝巻きに着替える。
「んしょ……んしょ……んしょ……」
「んっ……と」
寝巻きに着替えると、おかーさんが言った。
「さて、父さんは遅いだろうし、先に寝ちゃおうか」
「ん……」
その提案には賛成。……本当はおとーさんを出迎えて、「おかえり」って言いたかったけど……ごめんねおとーさん。睡魔には勝てないや。
寝室に移動して、おかーさんと布団を敷いていく。
「さて、寝るか」
「うん……おやすみ……」
今日は疲れたぁ……
店番して……白黒の相手して……お小遣い貰って……
明日は何しようかなぁ……
本読んで……考察纏めて……お煎餅食べて……お茶飲んで……それから……
……ぐぅ
***
「眠ったか……」
すぅすぅと規則正しい寝息を立てる朱鷺子を見て呟く。
「さて、私も寝てしまうか……何だかんだでまだ疲れてるしな……」
ゆっくりと眠れそうだな。そんな事を考えながら枕に頭を乗せようとした時、視界の隅にある物が映った。
「ん?」
気になり、身体を起こす。
「何だ?」
そこにあったのは、数枚の紙の束。一番上には『朱鷺子へ』の文字が月明かりでぼんやりと見える。
「ま、まさか……」
こ、恋文!?
「まさか……な」
呟きながら、紙を手に取る。
「何々……?」
……結論から言うと、恋文では無かった。
そこに書かれていたのは、私の夫霖之助が朱鷺子に書いた書置き。文面から見るに、朝書かれたものだろう。
「あいつは……」
手紙の一部……私に関して書かれていた部分を見て呟く。
「疲れているからって……お前も同じだろうに……」
だというのに、あいつは一人無縁塚に供養という名の仕入れに向かったのだ。
その事には、一切触れずに。
「朱鷺子にしては考察が早いと思ったよ」
だが、これを見て合点がいった。大方、冬に使うストーブの燃料の為の対価を探しに行ったんだろう。
朱鷺子は霖之助に似て、寒がりだからなぁ……
「霖之助……」
私は……幸せ者だな。
「お前の様ないい夫が居て……本当に、幸せだ」
呟き、手紙を元の場所に戻しておく。
今日は、いい夢が見れそうだ。
そんな事を考えながら、私は床に就いた。
***
「……ふぅ。やっと着いた」
……思った以上に集めすぎてしまったな。帰ってくるのが夜になってしまった。……朱鷺子には悪い事をしたな。今度里で菓子か何か買ってやらなくては。
「しかし……」
しかしその代わりと言っては何だが、今回は珍しい物が多かった。
かの豪傑が長坂の戦いで赤子を抱き敵陣を無人の野を行く如く駆け抜けた際に使用した武器『青紅剣』……咲夜の力でも出来なかった、時の逆行を可能にするという『タイムふろしき』……そして、魔を払う聖なる道具『毘沙門天の宝塔』……どれも里に出回れば妖怪と人間のバランスを崩しかねない恐ろしい品だ。
非売品にしたい所だが、これは対価として拾ってきた物だからそうもいかないのが現状だ。……一つだけ明らかな収入が見込める道具があるが……引取りに来るまで待つとしようか。
「さて……」
盗まれてはいけない物だけを店の中に持ち込み、他の物は明日片付けよう。
風呂は明日の朝入ればいいか。思い、着替える為に奥へと向かった。
「んん~……しかし今日は疲れ……た……」
寝巻きに着替え寝室に行くと、予想だにしない光景が待ち受けていた。
「ぅん……」
「すぅ……すぅ……」
「慧音……」
何故慧音が此処に居るのだろうか。今日は来ないだろうと踏んでいたんだが……
「……ハァ」
暫く考えていたが、慧音の幸せそうな寝顔を見るとどうでも良くなった。
と同時に、出迎えてもらえなかった事に少し寂しさを感じている自分が居るのに気付き、自然と笑みが零れた。
「誰かに出迎えて欲しい、なんて思う様になるとはね……」
呟きながら、ずれていた布団を二人に掛けなおしてやる。
「ただいま……慧音、朱鷺子」
言い、慧音の隣りに横になる。
少しすると疲れが一気に全身を襲い、次に睡魔が襲ってきた。
「んん……」
「くぅ……くぅ……」
「すぅ……すぅ……」
隣りに目を向ければ、愛しい家族。
「……フフッ」
「くぅ……くぅ……」
「すぅ……すぅ……」
何でも無い日常が、幸せだと感じる時間。
それを噛み締めながら、僕は床に就いた。
紙
朱鷺子可愛いよ朱鷺子!!うにゅうにゅ可愛いよ!!
とても和みました。
分かります。
そしてこの感じはまさしく唯さんクオリティ!
眼福でした。
咲夜さんに惚れそう。
お風呂?えぇ、頭の羽と髪の話ですよね。知ってました。決して変な事考えて無いですからね!
>>奇声を発する程度の能力 様
朱鷺子可愛いですよね!うにゅうにゅとかもう最高です!
そしてそれを感じ和んでいただけて嬉しいです!
>>幻想 様
はい、香霖堂本編の出来事を拝借しましたw
わわわ、そういう事言われると、何か照れますね……///
>>3 様
霖「代わる……それは等価交換という事かな?
生憎だが、僕の立ち居地は非売品だよ。そして何物も対価としては成り得ない。
例え八咫鏡や八尺瓊勾玉であろうともね」
>>拡散ポンプ 様
ほのぼのしてるって、何気ないけど幸せだと思うんです。
少しでもそれを感じていただけて嬉しいです。
咲夜さんに惚れちゃって下さい!
>>5 様
ほのぼのしてるっていいですよね!
お風呂で頭の洗いっこっていいと思うんです。背中も勿論の事。
読んでくれた全ての方に感謝!